魔法少女の異世界刀匠生活

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第八章

アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-01

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 シドニア・ヴ・レ・レアルタの有する皇居と隣接する形で存在する領会議事堂、その会議室を用いた五人の皇族、及び各領土における被害確認会議は、重々しい雰囲気の中で始まったと言っても過言ではない。


「カルファス領では確認されている限り、三人の皇国軍人の死亡が確認されるわねぇ~。……アウドラ・ファートゥム、ルート・フェリストン、エディル・トーマルの三名。

 どれも、イル姉さまが直接訓練した人材ばっか……明らかに、狙われてる。三人とも男性という事もあって、災いが虚力目当てで襲ったとは今の状況では考えにくいけど……例の名有りの犯行という線は捨てきれないわねぇ」


 その中で一番最初に発言したのが、カルファス領の現状を確認したカルファス・ヴ・リ・レアルタ。

  彼女は頭を抱えながらチラリと、姉のイルメール・ヴ・ラ・レアルタを見据えるが、彼女は押し黙って目を瞑り、ただ腕を組んで黙っている。


「イルメール領では目立った被害は発生しとらんの。災いの発生件数が月間比較において三割増と、現行の配備状況に影響を及ぼす可能性は勿論あるが、その辺は今後の調整次第、と言った所じゃな。何か意見はあるか、イルメール」

「今はねェ。そのまま続けろ」


 そんなイルメールの代わりに、情報を事前取得していたアメリアがイルメール領の状況を伝えるも、しかし話を振られたイルメール自身がコレである、とため息をついたアメリアは、続けて報告をするサーニスに視線をやる。


「シドニア領においては被害数の増加は確認されておりませんが、自分やクアンタが五災刃と呼ばれる敵と接触しております」

「サーニスが相対した名有りは【斬鬼】、クアンタが相対した災いは【暗鬼】というそうだな」


 確認の為、言葉にして問うシドニアへ、サーニスは「ハッ」と頭を下げながら肯定する。


「そしてクアンタいわく、暗鬼は短期記憶を欠落・忘却させる能力を持っている可能性がある、との事です」

「……なるほど、もしかしたらその暗鬼とやらは、先日のちゃぶ台会議中にも影響を及ぼしていた可能性があるな」


 秩序を司る神霊と同化した神を名乗る菊谷ヤエ(B)も、本来話さねばならない筈の五災刃にまつわる話を、最後の最後まで話す事が無かった。

  またシドニアもマリルリンデが魔術や錬金術を使役していたという簡単な情報を、一時とは言え忘れていた。あの時は疲れているのだろうか、程度で考えていたが、しかし「暗鬼という災いの能力によって忘却していた」とすれば辻褄は合う。


「アメリア領は今の所、特に問題なしじゃ。まぁ強いて言うならば、元々我がアメリア領自体に被害件数が集中しておる故、その件数が維持してしまっている、が正しい答えじゃがな」


 困ったものじゃ、と息を吐いて、最後にアルハットへ。


「こちらは、災いの被害によるものかは断定できませんが、アルハット領における貧困街……スラム街と呼ばれる一部地域が、謎の発火現象によって全焼、被害数は三百六十人以上とみられております。災いの発生件数推移としては、これまでと変わりないとの事で報告を受けております」


 何にせよ、これで五つの領土における事件が多発している、という事でもある。


  被害件数は少ないが災いの数が増加しているイルメール領。

  災いによる被害かは断定できないが、皇国軍の先鋭三人が殺される事件が発生したカルファス領。

  元々技術実験保護地域における災いの被害件数が一番多いアメリア領。

  サーニスとクアンタが五災刃の内、二人と遭遇しているシドニア領。

  謎の大規模火災事件によって数多の死者が出てしまったアルハット領。


  こうした中急務であるのは、現在対応が可能な名無しの災いに対する対処案ではない。


「ではサーニス、クアンタ不在の為、斬鬼と呼ばれる名有りの災いと相対した君の見解を聞かせて頂きたい」

「ハッ」


 シドニアの進行に頷きつつ、サーニスはしかしそこで押し黙る。

  何を話せばいいかと考えている彼に、イルメールが「印象言えばいいんだよ」と急かし、サーニスも「そうですね」と言葉を置きつつ、率直な感想を述べる。


「例の黒い災い……名無しに比べると、戦闘時における判断能力が非常に高いと感じました。

 勿論名無しも本能からか自分の攻撃を避けたり、攻撃を繰り出したりする事はありますが、そうした本能任せではなく、敵の動きをよく観察した上での判断、と言った様子でしたね」

「テメェの腕が落ちただけってワケじゃねェんだな?」

「勿論自分自身、イルメール様に稽古をつけて頂いていた頃よりは腕が落ちたと実感はしておりますが、名無しの災いとの違いを見違える程、鈍ってはいないと自負しております」

「サーニスの技量は、ヘンシンしたクアンタと同程度であろうと見込んでいる。安心してください姉上」


 サーニスを庇うわけではないが、彼の技量を保証するシドニア。イルメールもサーニスの技量は知っているので、それ以上は突っかかる事なく、彼の発言を聞く。


「後は、名無しの災いが有さなかった武器を使用しました。東洋のリュナスより伝わったとされる斬馬刀ですが――アレは恐らく、元々斬鬼の武器という訳ではなく、何者より強奪した者と思案します」

「サーニスさん、何故そう思ったのか、教えてもらえますか?」


 問うのはアルハットだ。彼女はこれまで出た発言を全て霊子端末に保存していて、あとで見返す予定なのだろうと考えられる。


「ハッ、斬鬼との会話にて『我は刃を奪う者であり、使う者ではない』と発言していた事が主な理由です。後は斬馬刀の使い方ですが、その長さを生かした槍や刀としての使い方を兼ね備えたリーチ戦術が本来の戦闘方式となりますが、奴は斬馬刀を愚直に私へ振るうだけで、その特性を活かしきれていなかった、というのが率直な感想です」

「けどけど、さっきサーちゃんは『戦闘時における判断能力が非常に高い』って言ってたじゃない? その辺矛盾しないかなぁ?」

「単に使い慣れていない、というだけです。私も使い慣れていない武装をいきなり使った所で、個々の特性を活かせるとは言えません。

 恐らくあの男、どこからか斬馬刀を奪い、その直後に自分を狙ったものと考えられます。事実、自分のレイピアを貰い受けるとの発言もありましたし、一度はレイピアを放棄する事となりました」


 だが問題はその後であると、サーニスは続ける。


「肉弾戦に持ち込み、常人であれば気絶までしているだろう状況にまで追い込み、さらに捕らえる事を失念していた自分が、レイピアを頭部に刺し込んでも尚、奴は起き上がり、自分へと襲い掛かりました。間一髪の所をクアンタに救われた形となってしまった事が、自分としても不覚であります」

「サーニスは二度目のちゃぶ台会議に参加しておらんからの。頭にレイピア刺し込んで生きておると思う方が異常じゃわ」

「姉上がサーニスを庇うとは珍しい」

「実力を認めとるだけじゃ。吾輩は確かにサーニスが嫌いじゃが、それは実力に関する事で嫌うわけではない」

「んまぁ、オレもサーニスの腕を疑うわけじゃねェ。普通に殺したと勘違い出来る位にゃ、しっかりと刺し込んだっつー事だろ?

 ――ならやっぱ、あの神サマが言ってたとーり、リンナの刀が必要っつー事か」

「そこでじゃ」


 パン、と手を叩いた瞬間、会議室の扉が開かれた。

  アメリアに仕える黒子たちが、その腕に多くの刀を抱えた上で、机の上に置き、一歩下がる。


「ここに、シドニアがミルガス美術商より卸した、リンナの刀を用意した。元々シドニアの指揮する皇国軍で試験運用する予定だった物じゃが、ひとまずイルメールとシドニア、サーニスは予備の武装として常に一本は所有するがよい」
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