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第八章
アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-07
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以前からアルハットは、地球における教育方法や方針などに深い関心を寄せていた事もある。何か思う所でもあるだろうかと考えるクアンタだったが、そこでシドニアが口を挟んだ。
「教育というのは必要な人材が、必要な場合に学べば良いだけだ。例えばリンナはごく普通の生活を歩む際に簡単な読み書き以上の数学知識や歴史研究が必要と思うかな?」
「いえ、必要ないと思いますけど……」
「そうだろう。そして我々皇族もまた、刀に関する歴史や知識を知る事はあっても、一つ一つの製造過程を細かく知る必要は無い。興味があればまた別だが、必ずしも覚える必要などは無い。
――アルハット、君が現状の教育統制政策に不満を持っているとは知っているが、しかしそれイチイチ口に出し、私の領民であるリンナやクアンタに語る必要などは無いだろう」
「……はい。失礼しました、シドニア兄さま」
「以後気を付けなさい」
僅かに俯き、王服のスラックスをキュッと握り締めたアルハット。
そうした空気の中、シドニアの皇居に到着した馬車から、シドニア、リンナ、クアンタの順に降り、アルハットがペコリと頭を下げる。
「では、私は先に霊子移動でアルハット領へ戻ります」
「そうだな。では我々を迎え入れる準備と、例の火災事件に関して集められる情報を集めて欲しい」
「かしこまりました――では」
霊子端末を操作し、アルハットが霊子移動を開始。数秒と経たずに消え去った彼女の姿を見届けた後、シドニアは皇居の扉を開ける前に一つの注文を、リンナとクアンタへ。
「流石に皇居内では敬語と敬称を頼みたい」
「あ、分かりました。えっと、シドニア様ですね」
「かしこまりましたシドニア様」
「……リンナはともかく、クアンタに敬語と敬称を言われると、やはり違和感はあるな」
ククと笑いながら皇居の扉を開け放つシドニア。
扉を開けた瞬間に、ズラリと列を成した十数人の給仕が並び立ち、頭を下げながら一斉に「お帰りなさいませ、シドニア様」と言葉を投げる。
「サーニスは現在私の命でアメリア領へ向かった事は理解しているな。そして私もアルハット領へ向かわねばならない事も」
扉の近くにいた一人の女性の給仕にそう言葉をかけると、女性は「存じ上げております」と頷き、シドニアはリンナとクアンタを手で示した。
「彼女たちもアルハット領へ連れていく。公的な会談となる故、着衣もそれなりの物を」
「かしこまりました」
メイドがリンナとクアンタに近づき、その丈の長いスカートを持ち上げながら軽いお辞儀をし、ふわりとした優し気な笑顔を浮かべる。
「ようこそお越し下さいました。わたくし、シドニア様の召使をさせて頂いております、ワネットと申します」
ワネットと名乗る女性は、白を基本色にした装飾の少ない給仕服を着込んだ、リンナとそう変わらなさそうな年の娘であろうとクアンタは目測した。
栗色の髪の毛を後頭部で団子状にまとめ、白い頭巾の様なもので覆っている彼女は、女性としての母性に溢れているような気がして、リンナは一瞬だけ彼女に見惚れていたように思う。
「あ、リンナです。リンナ刀工鍛冶場で、刀匠やってますっ」
「刀匠・リンナ弟子、クアンタです」
「リンナ様、クアンタ様、ご丁寧にありがとうございます。ではどうぞ、ご案内致します」
微笑みをそのままに、持ち上げたスカートを下ろしながら手を廊下へと向け、率先して歩き出して道案内をするワネットについていく二者。
シドニアはその間、執事や他のメイドに声をかけ、今後の予定などを一つ一つ確認しているようだったが、途中から姿が見えなくなった。
「あの、ワネット……さん?」
「はい、何でございましょう」
律義に足を止めて、ニコリと笑みを浮かべるワネットだったが、リンナの「歩きながらで大丈夫です」という言葉に「失礼致しました」と歩を進める。
「これからアタシたちが着るの、どんな服なんでしょう。アタシ、あんまりめかし込むのは好きじゃなくて……」
「然様でございましたか。では幾つか種類をご用意させて頂きますので、その中からお選び頂ければと思います。ご安心くださいませ」
「良かった……クアンタはベッピンさんだし、洒落たもんが似合うと思うけど、アタシなんかが洒落込んでも映えないというか」
リンナが俯きながらそう言うと、ワネットは僅かに首を傾げながら「失礼かもしれませんが」と前置きし、反論を口にする。
「わたくし個人としては、リンナ様も非常に可愛らしい方だとお見受け致しました」
「お師匠、私もそう思う」
「う……ん、まぁ、そう言われるのも、悪い気はしないんだけど……アタシ、自分の事を女だと思ってないので……」
「以前からお師匠は自分の事を女と認識していないと言うが、何故それほどまでに【女】という括りに自分を入れたがらない?」
「……昔、アタシが跡継ぎたいって親父に言ったら『刀匠なんつーのは女がなるもんじゃねェ』って言われてから、女なんてなるもんじゃねェな、と思ってね」
苦笑し「昔の話よ」と誤魔化すリンナが、ワネットについていきながら「それよりワネットさんっ」と話を逸らし始めた。
「ワネットさんは、アタシとそう変わらない年に見えますけど、何歳なんすか?」
「今年で二十二歳となります。お恥ずかしながら、そう見えないと周りに言われてしまいますが……」
「じゃあアタシより七歳も上なんだ! 意外だなぁ」
「つまりお師匠は十五歳なのか」
「アレ? 言ってなかったっけ?」
キョトンと首を傾げるリンナに、クアンタはこれまでの記憶を思い返しながらも「初耳だ」と述べる。
「そういえばシドニア様も二十二歳でしたよね」
「はい。そしてわたくしと同じく、シドニア様に仕えておりますサーニスも同年齢でございます」
「ワネットさんはシドニア様に仕えて長いんですか?」
「そうですね……十歳の頃からシドニア様のお近くにおりますので、長いと言えば長いかと思われますが、給仕長のトグサ等は先代シドニア様から長らく仕えていると伺った事がありますので、わたくしなどはまだまだ若輩でございます」
と、そうした会話の最中に、ワネットが扉の前で足を止め、中へ誘導する。
部屋は衣装室と呼ぶべきなのだろうか、ラックにかけられた大量の衣服がズラリと並べられており、リンナは部屋を見た瞬間から目を輝かせ「すっげーっ」と素直にはしゃいでいた。
「こちらに女性用の衣服をご用意させて頂いておりますので、どうぞお手に取って頂きご覧いただければと思います。……クアンタ様は現在のお召し物でも煌びやかで可愛らしいと思われますが」
「否、私も衣服を貸して頂きたい。実はこの格好、ゴルタナのような兵装なんだ」
「クアンタ、クアンタ! アンタにはコレが似合いそう!」
「落ち着けお師匠。私も自分なりに見繕うから、お師匠は自分の着替えを探すといい」
「教育というのは必要な人材が、必要な場合に学べば良いだけだ。例えばリンナはごく普通の生活を歩む際に簡単な読み書き以上の数学知識や歴史研究が必要と思うかな?」
「いえ、必要ないと思いますけど……」
「そうだろう。そして我々皇族もまた、刀に関する歴史や知識を知る事はあっても、一つ一つの製造過程を細かく知る必要は無い。興味があればまた別だが、必ずしも覚える必要などは無い。
――アルハット、君が現状の教育統制政策に不満を持っているとは知っているが、しかしそれイチイチ口に出し、私の領民であるリンナやクアンタに語る必要などは無いだろう」
「……はい。失礼しました、シドニア兄さま」
「以後気を付けなさい」
僅かに俯き、王服のスラックスをキュッと握り締めたアルハット。
そうした空気の中、シドニアの皇居に到着した馬車から、シドニア、リンナ、クアンタの順に降り、アルハットがペコリと頭を下げる。
「では、私は先に霊子移動でアルハット領へ戻ります」
「そうだな。では我々を迎え入れる準備と、例の火災事件に関して集められる情報を集めて欲しい」
「かしこまりました――では」
霊子端末を操作し、アルハットが霊子移動を開始。数秒と経たずに消え去った彼女の姿を見届けた後、シドニアは皇居の扉を開ける前に一つの注文を、リンナとクアンタへ。
「流石に皇居内では敬語と敬称を頼みたい」
「あ、分かりました。えっと、シドニア様ですね」
「かしこまりましたシドニア様」
「……リンナはともかく、クアンタに敬語と敬称を言われると、やはり違和感はあるな」
ククと笑いながら皇居の扉を開け放つシドニア。
扉を開けた瞬間に、ズラリと列を成した十数人の給仕が並び立ち、頭を下げながら一斉に「お帰りなさいませ、シドニア様」と言葉を投げる。
「サーニスは現在私の命でアメリア領へ向かった事は理解しているな。そして私もアルハット領へ向かわねばならない事も」
扉の近くにいた一人の女性の給仕にそう言葉をかけると、女性は「存じ上げております」と頷き、シドニアはリンナとクアンタを手で示した。
「彼女たちもアルハット領へ連れていく。公的な会談となる故、着衣もそれなりの物を」
「かしこまりました」
メイドがリンナとクアンタに近づき、その丈の長いスカートを持ち上げながら軽いお辞儀をし、ふわりとした優し気な笑顔を浮かべる。
「ようこそお越し下さいました。わたくし、シドニア様の召使をさせて頂いております、ワネットと申します」
ワネットと名乗る女性は、白を基本色にした装飾の少ない給仕服を着込んだ、リンナとそう変わらなさそうな年の娘であろうとクアンタは目測した。
栗色の髪の毛を後頭部で団子状にまとめ、白い頭巾の様なもので覆っている彼女は、女性としての母性に溢れているような気がして、リンナは一瞬だけ彼女に見惚れていたように思う。
「あ、リンナです。リンナ刀工鍛冶場で、刀匠やってますっ」
「刀匠・リンナ弟子、クアンタです」
「リンナ様、クアンタ様、ご丁寧にありがとうございます。ではどうぞ、ご案内致します」
微笑みをそのままに、持ち上げたスカートを下ろしながら手を廊下へと向け、率先して歩き出して道案内をするワネットについていく二者。
シドニアはその間、執事や他のメイドに声をかけ、今後の予定などを一つ一つ確認しているようだったが、途中から姿が見えなくなった。
「あの、ワネット……さん?」
「はい、何でございましょう」
律義に足を止めて、ニコリと笑みを浮かべるワネットだったが、リンナの「歩きながらで大丈夫です」という言葉に「失礼致しました」と歩を進める。
「これからアタシたちが着るの、どんな服なんでしょう。アタシ、あんまりめかし込むのは好きじゃなくて……」
「然様でございましたか。では幾つか種類をご用意させて頂きますので、その中からお選び頂ければと思います。ご安心くださいませ」
「良かった……クアンタはベッピンさんだし、洒落たもんが似合うと思うけど、アタシなんかが洒落込んでも映えないというか」
リンナが俯きながらそう言うと、ワネットは僅かに首を傾げながら「失礼かもしれませんが」と前置きし、反論を口にする。
「わたくし個人としては、リンナ様も非常に可愛らしい方だとお見受け致しました」
「お師匠、私もそう思う」
「う……ん、まぁ、そう言われるのも、悪い気はしないんだけど……アタシ、自分の事を女だと思ってないので……」
「以前からお師匠は自分の事を女と認識していないと言うが、何故それほどまでに【女】という括りに自分を入れたがらない?」
「……昔、アタシが跡継ぎたいって親父に言ったら『刀匠なんつーのは女がなるもんじゃねェ』って言われてから、女なんてなるもんじゃねェな、と思ってね」
苦笑し「昔の話よ」と誤魔化すリンナが、ワネットについていきながら「それよりワネットさんっ」と話を逸らし始めた。
「ワネットさんは、アタシとそう変わらない年に見えますけど、何歳なんすか?」
「今年で二十二歳となります。お恥ずかしながら、そう見えないと周りに言われてしまいますが……」
「じゃあアタシより七歳も上なんだ! 意外だなぁ」
「つまりお師匠は十五歳なのか」
「アレ? 言ってなかったっけ?」
キョトンと首を傾げるリンナに、クアンタはこれまでの記憶を思い返しながらも「初耳だ」と述べる。
「そういえばシドニア様も二十二歳でしたよね」
「はい。そしてわたくしと同じく、シドニア様に仕えておりますサーニスも同年齢でございます」
「ワネットさんはシドニア様に仕えて長いんですか?」
「そうですね……十歳の頃からシドニア様のお近くにおりますので、長いと言えば長いかと思われますが、給仕長のトグサ等は先代シドニア様から長らく仕えていると伺った事がありますので、わたくしなどはまだまだ若輩でございます」
と、そうした会話の最中に、ワネットが扉の前で足を止め、中へ誘導する。
部屋は衣装室と呼ぶべきなのだろうか、ラックにかけられた大量の衣服がズラリと並べられており、リンナは部屋を見た瞬間から目を輝かせ「すっげーっ」と素直にはしゃいでいた。
「こちらに女性用の衣服をご用意させて頂いておりますので、どうぞお手に取って頂きご覧いただければと思います。……クアンタ様は現在のお召し物でも煌びやかで可愛らしいと思われますが」
「否、私も衣服を貸して頂きたい。実はこの格好、ゴルタナのような兵装なんだ」
「クアンタ、クアンタ! アンタにはコレが似合いそう!」
「落ち着けお師匠。私も自分なりに見繕うから、お師匠は自分の着替えを探すといい」
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