魔法少女の異世界刀匠生活

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第八章

アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-08

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 しかし服に頓着の無いクアンタにとっては、数ある衣服の中から一着を選べというのはなかなかに面倒で、適当に一着を取る。

 赤……というよりは薄い薔薇色を基本色としたスーツとワンピースを組み合わせたような衣装で、トップスの部分だけを見れば王服のように見えなくもないが、それと繋がるスカート部分ひざ丈までを覆うヒラヒラとした造りとなっている。

  一応、クアンタが地球で与えられた知識の中に、似た衣服の情報として【ミリタリーゴシック】という種類はあるが、果たしてこの名称が正しいかどうかは分からない。


「ワネット、私はこれでいい」

「かしこまりました。寸法は……ええ、大丈夫でそうですね。ではこちらへどうぞ」


 さり気なくクアンタの手を取り、誘導するワネットに連れられて、試着室ともいえるカーテンの中へ。


「ではお召し物をお預かりしてもよろしいでしょうか」

「いや、展開を解除する」


 光の放出と共に魔法少女としての姿を解除したクアンタ。

  それにより彼女は下着すらまとわぬ裸体となり、ワネットは「あら」と口を覆い、僅かに顔を赤めた。


「なるほど、ゴルタナのような兵装……と仰っておりましたものね。失礼いたしました。下着をお持ちいたしますので少々お待ちいただいてよろしいでしょうか」

「構わない」

「失礼します」


 とは言っても、彼女の言葉通り、少々待つ程度で済んだ。

  ワネットが見繕った黒一色の下着を一つ一つ丁寧にクアンタへまとわせ、続けてクアンタの選んだ衣服も着せていく。


「腰回りなどきつくありませんでしょうか」

「問題無い」


 腰を細く見せる為の為か、確かに腰回りは締め付けられるような感覚はあるが、しかし痛くはないし、キツイとも感じないクアンタが飄々と返すと、ワネットも頷きながら、最後に皺を伸ばして終了となった。


「如何でしょうか」

「問題無い」


 鏡に映る自分の姿は適当に確認し、どちらかというと動きやすさを優先した彼女は、その場で軽くステップを踏み、動きを抑制されないかを確認。

  一応彼女がその衣服を選んだ理由が『スカート丈が長すぎず、動きを抑制しないと考えたから』であり、実際にその目算は正しかった。

 試着室から出たクアンタを見て、リンナは「すっげーカッコいいっ」とはしゃいで、クアンタを近くで見据えた後、今後は遠目から観察するようにする。


「いいなぁクアンタ。身長高いし体つきも良いから、そういうカッコいいのスラーっと着こなせて。アタシが多分そういうの着てもあんま似合わないと思うんだよね」

「私にはこうした着衣に関して、あまり理解が無い故に分からない」

「アタシも全然わかんないんだよねぇ……あの、ワネットさん、スカートしかないんすか?」

「畏まった場に相応しい、女性用の衣服となると、そうなってしまいます。男性用で見繕う事も可能ではありますが、公的の場では失礼と取られてしまう事もございますので」

「そっかぁ……」


 悩みながら周りを見渡し、しかしそうした事にこれまで頓着した事の無かった彼女にとっても、クアンタと変わらずにどれが良いかもわからず、しかし彼女ほどに「何でもいい」というわけにもいかなかったリンナは、ワネットへ頭を下げる。


「じゃあせめて、似合わないのは避けたいんで、選んでもらっていいですか?」

「かしこまりました。ご希望はありますでしょうか?」

「んっと……派手な色はあんま好きじゃないんで、白とか黒みたいなのがいいです」

「そうですね……リンナ様は髪色が銀ですので、反する色合いの黒が似合うかと思われます。となると……これ等はいかがでしょうか?」


 一つ一つ、丁寧に物色していくワネットが手に取った衣服は、黒一色のパーティドレスとでも言うべきか。

  華やかな装飾という装飾は無いが、しかしシンプル故の美しさがあり、リンナは「こ、これですか……」と顔を赤くしながらムムムと悩むように唸る。


「リンナ様はあまり、そうした着飾りというのが好ましく思われていないようでしたので、単純なものの方が宜しいかと思いまして、選ばせて頂きましたが、お好みではありませんでしたでしょうか?」

「あ、いえ。綺麗だなーと思います。……じゃ、じゃあちょっと着てみます……」

「では、どうぞこちらに」


 先ほどクアンタが着替えた試着室に入る、リンナとワネット。

  待つことになったクアンタは、適当に一本の黒いベルトを見つけ、それを腰に巻く事で刀を結び、差し込んだ所で――カーテンが開かれる。


「……ど、どう? クアンタ。変じゃない?」


 ドレスは、元々リンナの希望通り、黒一色のシンプルなものであったが、しかしトップスは首元と肩に細い紐を通す形故、肩や胸元が出るデザイン。

  クアンタのひざ丈程しか覆わぬスカートと異なり、丈は足元までを覆い、彼女が足を動かす度にヒラリと揺らめく姿は、可憐にも見える。

  ――そんな彼女の姿を見た瞬間、クアンタはコクコクと、強く首を縦に動かし、何度も頷いた。


「良い。お師匠、似合ってる」

「そ、そう? アタシはなんか、アタシなんかがこんな良いモン着ていいのかなぁ、と思わんでもなくて……アレよ、服に着せられてるって奴?」

「そんな事は無い。綺麗だ」


 素直に褒めちぎるクアンタに、唇を僅かに噛みながら、けれどそれが嫌だと思えぬリンナが、真っ赤になる顔を逸らしながら「じゃ、じゃあコレで良い……」と納得し、着替えは終了となる。


「お二人ともお似合いですよ」


 フフ、と笑みを最後まで崩さなかったワネットによって最後褒め言葉が出た後、三人は衣服室から出て、シドニアの待つエントランスまで戻り、彼へその姿を見せる。


「二人とも、似合っているじゃないか」

「あ、あのシドニア様、早く行きましょ? アタシ、この格好恥ずかしいというか」

「恥ずかしがる事は無い。クアンタも似合っているよ」

「恐縮です。では参りましょう」


 リンナは恥ずかしがりながら、クアンタは飄々とシドニアへ出発を促し、彼もその言葉に頷く。


「ではこれよりアルハット領へ出る。皆、留守を頼む」

『いってらっしゃいませ、シドニア様』


 皇居へ来た時と同じく、頭を下げながら列を成して頭を下げる給仕達に見送られながら、馬車に乗り込んだ三人は、そのままアルハット領に向けて出発していく。


「シドニア様」

「敬語と敬称は、今の所無しで構わないよ。何かな?」


 馬車内で、資料を流し読みするシドニアがクアンタの呼びかけに応じ、視線を僅かに向ける。資料は読み続けるが、しかし応対は可能だという事だ。


「アルハット領は、どのような場所なんだ?」

「まぁ、基本はシドニア領と変わらないよ。強いて言えばシドニア領が基本的に農業や林業等の第一次産業と、製造業や建設業等の第二次産業を主要産業としているが、アルハット領の場合は第二次産業のみに注力した産業体系となっている位か」
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