魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
83 / 285
第八章

アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-09

しおりを挟む
 リンナがそこで思い出したように「親父も似たようなこと言ってたなぁ」と呟いた。


「確か、アルハット領は錬金術を使った製造業を生業にしてて、その製造品目を他国に売って利益を得る……みたいな事聞いた気がする」

「リンナのお父様は、そうした商業に関する事は教えてくれていたようだね」

「『ちったぁ商売のイロハも覚えとけ』って事で、読み書きとそういう勉強はちょっとだけ。つっても子供の時に学んだだけなので、思い出せるか思い出せないか程度ですけど」

「しかしその通りだよ。アルハット領とシドニア領、そしてカルファス領は三領土連合という経済同盟を結んでいる」


  シドニア領・アルハット領・カルファス領における経済同盟は、相互協力における役割を果たしていると言う。

  シドニア領が農作物等の食品及び食品加工物を生産し、自国及びアルハット領とカルファス領への輸出。

  アルハット領とカルファス領は工業製品などの生産を行い、シドニア領へと輸出を果たす。

  シドニア領にも勿論自領土における製造業などもあるが、殆どが飲食料品製造業、及び繊維工業などが主流で、工業製品や化学工業などのものはアルハット領における十八番となっているという。


「例えばリンナ刀工鍛冶場以外の鍛冶場……つまりバスタードソードや鎧などの製造所は多くがアルハット領に存在する。シドニア領にも無いわけではないが、数としては少ないし、あくまで民間へ流す分が多い。例のヴァルブ・フォン・リエルティックが優秀なのは、アルハット領に存在する鍛冶場と繋がりがあり、武器の流通を適正に行っているからだね」

「懐かしい名だな」


 ヴァルブ・フォン・リエルティック。

  シドニア領におけるリエルティック商会を切り盛りする男で、商会は武器の流通を生業としている。

  クアンタとリンナが初めて会った日にトラブルを起こした人物で――この世界において、クアンタを初めて魔法少女に変身させた人物と言ってもいい。

  彼曰く、リエルティック商会はアルハット領で生産された剣や鎧、そしてゴルタナなどの特殊な武装なども含めて買い取り、それらを管理・流通させる事により、富を得てきたと言っても過言ではないのだと言う。


「リエルティック商会の強みは、その長らく培ってきた販路にある。アルハット領で製造された剣や鎧などの武装を安価かつ大量に仕入れ、各領土の皇国軍や警兵組織へと流す為に必要な販路が全て整っているからね、リエルティック商会以外が入る余地はほとんどない、独占状態だ。

 強いて言えば新規販路の獲得が苦手であるというのは間違いなく、以前君たちにはそこで迷惑をおかけしたが」

「アイツ、今どうしてるんすか?」

「しっかり仕事をしているよ。心を入れ替えたかのように、愚直に真面目にね。奴の手腕に関しては私も買っている。今後の刀量産に際しては、リエルティック商会経由で買い取らせて頂く事になるだろう」

「えーっと、それはなんでです? アタシなんかは今日のみたいに、皇国軍とで直接売買が成立した方がいいんじゃないかなぁ、なんて考えちゃうんですけど」

「早期に刀が欲しい今回は緊急的措置としてああしたが、出来るだけこうした売買には仲介を立て、なるべく民間に金を多く流したいんだ。政府が金を多く抱えていても無駄だからね。経済を回して税収を上げ、得た税を民間へ還元し……という流れにした方が、最終的に国力増強・税収増加に繋がる」


 その点はアメリア領やイルメール領よりも手間だがな、と苦笑したシドニアに、リンナが首を傾げた。


「アメリア領やイルメール領は、工業事業社は全て領営企業だからね。売買などに他の仲介事業が入る余地も無いから、そうした手間を省ける、という事だよ」

「あ、あーなるほど。独裁政治、ですもんね」

「まぁそこは社会主義と言ってあげようじゃないか」

「気になったのだが」


 クアンタがそこで口を挟むと、シドニアは「何だい」と問うた。彼女の質問を予想していなかったのだろう。


「そのヴァルブが以前、ゴルタナはアルハットとカルファスによる共同開発という事を聞いたが、実際はどうなんだ?」

「ヴァルブの言葉通りだよ。まず基本的な外装及び展開システムをアルハットが作り上げ、それに魔術的な補助を行えるようにした魔術式身体補助システム、それがゴルタナだ。

 例えば私のゴルタナは特注品だが、サーニスや他皇国軍人が用いる第三世代型、ヴァルブの私兵が用いていた第二世代型、さらには試験運用に用いられていた第一世代型があり、第一世代型は【アン・ゴルタナ】と呼ばれ、一部建設業等で身体補助を目的に使用する事もある」

「ゴルタナの量産体制は整っているのか?」

「その辺りはカルファス領とアルハット領における製造ラインがあるよ。災い対策に今後警兵組織も含めゴルタナは必要不可欠だからね、ヴァルブの仕事はまた増える、というワケさ」

「アイツが儲かるって事でもあるんすよね」

「奴は多くの従業員を抱えているし、リエルティック商会の子会社にはアルハット領やカルファス領に食料品や食料加工品の流通を行う、リエルティック食品商会もあるからね、いい意味で、奴が儲かるというのは好ましい」


 リンナとしては父・ガルラが打った遺作の刀を奪われそうになった因縁の相手でもあるので、彼の会社が儲かると言うのは少々複雑な気持ちもあるのであろう。


「それよりクアンタには幾つかお願いしたい事がある」

「私にお願い? なんだろうか」

「リンナの代わりに、リンナ刀工鍛冶場における財務を習って欲しい。今後の刀増産に際して財源確保というのは必要だからね。今日の流れを見る限り、リンナはそうした財務等に向いていないと思っていたから」

「ア、アタシだって簡単な足し引きは出来ますし、利益計算は出来ますよっ」

「利益計算が出来ても利益を多く生む事を想定しない経営者は早期に潰れるよ。その辺りはクアンタに任せる事だ。……勿論、クアンタが良いのであれば、だが」


 以前、リンナがシドニアへ言った『クアンタがやりたいと言った事をやらせてあげてください』という言葉に習うかのように、シドニアがクアンタへ願い出て、そして彼女も頷く。


「勿論だ。お師匠は私が支えていくと決めているからな。……今日の様子を見て思ったが、お師匠は財務がどうのではなく、まず商売が下手だ」

「な、何だとこのーっ! クアンタ弟子のくせにナマイキだぞーっ!!」


 顔を赤くしてクアンタの胸をポカポカと殴るリンナに、クアンタは全く狼狽える事無く、ただ少しだけ、口角を上げた気がしたが。

  シドニアはその姿を勘違いであろうと断じ、目の前の資料に意識を向ける。


  ――アルハットが提出した、第四世代型【ゴルタナ】についての資料を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ
ファンタジー
 偉大なる魔女の守護者、それが騎士。  大勢の若者たちがその英雄譚に魅了され、その道へと歩み始めていた。  だけど俺、志季春護は騎士を目指しながらも他とは少し違かった。  大勢を護るために戦うのではなく、残された二人の家族を護るために剣を振るう。  妹の夏実と姉の冬華。二人を護るために春護は努力を続けていた。  だけど……二人とも失ってしまった。  死の淵を彷徨った俺は一人の少女と出会い、怪しげな彼女と契約を交わしたんだ。  契約によって得た新たな力を使い俺は進む。騎士の相棒である水花と共に。  好意的だけど底の知れないナニカの助力を受け、少年は強さを求める。  家族の仇を取るために、魔族を討滅するために。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...