魔法少女の異世界刀匠生活

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第九章

頂に立つ者-01

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 アルハット・ヴ・ロ・レアルタには、三人の姉と一人の兄がいる。正確に言えば異母兄妹というべきで、全員が異なる母から生まれている。

  彼女たちの父、ヴィンセント・ヴ・レアルタは、生前五人の女と関係を持ち、その全員がそれぞれ五領土の統治者、もしくは統治者に近しい存在だった。


  イルメール・ヴ・ラ・レアルタは、実の母であり、先代のイルメール領主であったイルメール・マリレアを殺した。


「オレより弱ぇ女が母親で、統治者とか考えられねぇからな。あとイルメールって名前が二人いるのも気にくわねぇ」


 彼女はそう言って実の母を殺したが、しかしその行動は民衆に多く称えられた。

  元々民衆に対して高圧的かつ独裁的だったマリレアの政策には多くの民衆が反発しており、イルメールはそうしたタイミングを見計らい、実の母を殺したのだと聞いた。(後にその母殺しを唆した人物がアメリアであると聞いた時は「そうだろうな」と納得もした)

 
  カルファス・ヴ・リ・レアルタは、実の母であり、先代のカルファス領主であったカルファス・タミストを陥れ、更迭した。


「民衆に不満だけを与え、誰もが幸福で生きるという当たり前の世の中を作る為に努力をしない者を、私は母と認めません」


 タミストはマリレアと同じく独裁的ではあったが、表面的には民衆の顔を立てる方法での統治を行っていた。

  しかし、実際には多くの議員を買収し、民衆の税金をプールし経済を停滞させ、自分の肥やしにしていた事をカルファスに嗅ぎつけられたのだ。

  結果としてタミストは領主としての地位を失ったばかりか、イルメール領における肉体労働施設に無理矢理送り込まれ、数年前に自室で首を切って死んだという話を聞いたことがある。

  
  アメリア・ヴ・ル・レアルタは、政治委員であり実の母であるフェリナ・トルトーと、叔母である先代・アメリアの下で、幼名・ルーチカとして学んでいた。


「現場で揉まれる事、それは勉学で得る事の出来ない貴重な経験じゃろうて。――どのように動けば民衆が苦しむか、そして民衆を陥れる奴らを見抜く事が出来るか、それを母と叔母という存在よりに学べたでの。反面教師にできたわ」


  彼女が十二歳になる頃、それまで培ってきた経験と、そして秘密裏に収集していたフェリナ、先代・アメリア、さらには彼女たちに群がる腐敗議員の汚職を全て公開し、処刑し、自らがアメリアとなり、領地を率いた。

  独裁者と言われようが、自らの手足となり働いてくれる者たちへ、少しでも良い生活を歩ませるために、彼女はそうなった。

  
  そして、シドニア・ヴ・レ・レアルタ。

  彼は五年前……十七歳の誕生日と同時に、父を殺した。

  つまり、レアルタ皇国全土を束ねる皇帝陛下、ヴィンセント・ヴ・レアルタを。

  自らの誕生日、十一月十一日の誕生パーティ、多くの人間が出入りするパーティ会場で、彼は酒を飲む父の前に立ち、剣を抜き、怯える父の腹部へ突き刺し、殺した後、クロスで剣を拭いながら、叫んだのだ。


「父殺しと罵るが良い。しかし私は、このレアルタ皇国という偉大なる国を、より大きく発展させる為には、こうも無力で、無駄で、愚かしい父というなの阿呆を、放っておけぬと判断した」


 自らのパーティに参列した、多くの議員や関係者たちの前で、シドニアは自らが調べ上げた汚職の証拠などをばら撒き、アメリアへ剣を向けた。


「姉上。貴女もこうなる事を望んでいたのでしょう?」

「応ともよ。吾輩もあの父と名乗る愚図は嫌いであったよ。――ようやったぞ、父殺しの弟よ」


 後に彼は、自身の母・ルワンを除く、汚職に手を染めていた議員や皇族関係者を全員磔にし、パレードで晒上げた後、五人の姉弟を集め、宣言した。

「皇帝の血を継ぐ五人の中で、どの皇族が後継者足り得るか、それを争わねばなるまい」と。

 
  アルハットは、何故その中に自分が含まれているのか、分からなかった。

  まだ十五歳で、政策など右も左も分からぬ中、姉や兄はアルハットに同情した。


「オメェはまだ幼いっつーのに、難儀なこったな。……ま、姉ちゃんとして出来る事はやってやる。筋肉関係ならオレに任せとけ」とイルメールはカルファスの頭を撫で。

「アルちゃん、お姉ちゃんは何時でも助けてあげる。困った事があったら言って。……シドちゃんに気を付けて」とカルファスは、シドニアの事を警戒するように呼び掛けた。

「シドニアの奴も言うと思うが、お主は政治を学ぶのが遅すぎたのじゃ。――まぁ、そんな事を知らぬ方が可愛らしい妹じゃと思ったのは事実じゃがな」とアメリアは同情してくれた。


 そしてシドニアは、アルハットに手を伸ばして、言うのだ。


「アルハット。シドニア領の属領となりなさい。君に統治は早すぎるし、経験も無い。ならば兄である私がお前を導いてあげよう」と。


 そんな彼の手を握ろうとした時、姉であるカルファスが反論をした。


「シドちゃん、貴方はただ次期皇帝の座を狙っているだけじゃない。そんな争いの為にアルちゃんを傀儡にしようというのなら、私が黙っていないわ」

「姉上は勘違いなされております。確かに私は次期皇帝の座を狙っておりますが、それとは別に可愛い妹が実務経験も無しに混沌たる政治という世界に出なければならぬ状況を、兄として放置しておけません」

「ならその役割は私がする。シドちゃん、貴方は黙っていなさい。元々貴方のシドニア領土には鉱物資源が無いもの、それを今後安く輸入できるようにアルハット領の実権を握っておきたいだけでしょう?」

「姉上こそ、アルハットやアルハット領の持つ錬成技術が捨てがたいと認識しているからこそ、彼女の良き姉であろうとしているのでしょう? 自分の至れなかった頂きに立つ事の出来た自慢の妹などではなく、その技量があくまで欲しいだけだ」

「シドちゃん、私は貴方の様に、何事においても才能だけを見るような、下衆ではないつもりよ。勿論才能っていうのは大切だけど、そうした才能は、何よりも努力を積み重ね、その上で理解し得るものでしょう」

「下衆、とはね。私は貴女達のように才能に富んだものではない。どれだけ努力しても一握りの天才に敵わぬ辛さを、何時も比べられる苦しみを知っている。

 ――だからこそ最愛の妹であり、貴女達や私と比べられるアルハットの心労を少しでも減らそうとする私の事を、貴女は下衆と言うか?」


 何時も優しくしてくれている、カルファスとシドニアの喧嘩を、この時初めて目にしたアルハットにとって、その時初めて、自分が「血で血を洗う皇族の人間であるのだ」と自覚する事となる。


  だからこそ、実権は兄であるシドニア領へと譲り、しかしシドニア領の行き過ぎた統治が成されないように、カルファス領との同盟も結び、互いの顔を立てる様にした。


  ――そうした周りとの協和ばかりを考えているからこそ。

  ――アルハットは、自分という存在を卑下するのだと、自覚していない。
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