魔法少女の異世界刀匠生活

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第十一章

カルファス・ヴ・リ・レアルタ-06

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 カルファス・ファルム魔術学院。

  カルファス領首都・ファルムに設立された魔術学校で、一般教育の他に専門的な魔術技能の向上を図るためにカルファスが私財を投じて設立した教育機関である。

  生徒数は五百二十六人となり、その講師には理事長であるカルファスや、カルファスが試験して認めた五人の魔術師が担い、教える形となっている。

 カルファスはこの日、教壇に立ち、その手に持つ教鞭で黒板を打ち付けて、生徒の視線を集めながら声を張り上げていた。


「魔術の使役には、体内に存在する魔術回路、及びマナの貯蔵庫が必要になりますねぇ。この回路は遺伝によって継承される事が本来の常ではありますけど~、最近では擬似回路を体内に埋め込み、遺伝子情報に書き加える事により、魔術研鑽の浅い、所謂【新家】と呼ばれる魔術師の家系も多くなりました。

 では、皆さんの中で、三代以上続いた魔術師の家系であるという方は手を挙げて下さ~い」


 カルファスの言葉に、手を挙げる者はいない。そうであるだろうとカルファス自身も理解しているが、しかし確認せねばならぬ事であった。


「結構。魔術師はそのほとんどが、五百年以上前から受け継がれてきた魔術回路と、その家に伝わる独自魔術の使役によって地位を会得してきた者が多いわねぇ。

 故に、その独自魔術を他所に知られぬように、基本的には一子相伝の技術として自らの子へ伝え、教育し、残していくと言う事が必要であるのです。そんな家の子が、私の設立した、この魔術学院に入学する必要はありません。

 で、あるのに何故――貴方達生徒はこのカルファス・ファルム魔術学院に入学しているのか。

 それは恐らく、現段階では個々の家系で受け継ぐような技術が無い、もしくは発達されていない、もしくは両親が他界して自らに伝える師が存在しないからこそ、こうして私や、私が認めた講師陣の方々から教育を受けたいと志願された子が多い事でしょう」


 と、そこで手を挙げた一人の生徒がいた。

 ロベルト・ミルスという十五歳。まだ入学して間もない、垢抜けない子供っぽさを有する少年。少々目付きと素行が悪い子であると言う事はカルファスも知っている。


「質問、いいでしょうか」

「ええ、ロベルトくん。どうぞ」

「魔術回路……いえ、独自魔術を持ち得る、いわゆる名家と呼ばれる歴史を積み重ねてきた家系に、私たちの様な新興の魔術家系が敵わぬという風潮がありますが、これにどうしても納得が出来ません。

 魔術の基本は【強化】・【変化】・【操作】という三つの基礎であり、この三つを応用した上で、投じるマナの量を調整する事によって、時に神秘と言える程の大魔術を使役できるモノである筈です。そこに歴史というのは必ずしも重要では無いと考えますが」

「面白い質問をありがとう、ロベルトくん」


 ロベルトは少々勝気な所があり、先代の両親が擬似魔術回路を遺伝子情報に書き加えた事により遺伝した、質の低い魔術回路持ち、というコンプレックスがある。

  カルファスとしてもそのコンプレックスを払う、もしくは認めてあげたい事はやまやまであるが、しかし首を横に振らなければならない。


「例えば貴方は、魔術的な補助を無しに百五十量(96kg)の重しを持ち上げる事が出来るかしら?」

「それは、不可能です。ですが魔術による身体強化を施せば」

「例えばなので、そこは気にしなくて結構よ。

 ……うん、私も出来ません。けど、少しだけ魔術師からは逸れたお話をしましょう。

  例えばイルメール領には、皇国軍の家系でラルク家という名家が存在します。この家系は代々優秀な皇国軍人を輩出し、その家系に生まれたほとんどの男児が屈強な肉体を持ち得、先代を超える逸材に育っております」


 一体何の話だと、ロベルト以外の生徒たちも顔を合わせ首を傾げる様子は面白かったが、しかし若い子ほど解答や結論を急ぎたがるものだと理解しているカルファスは、黒板にチョークで【品種改良】と書き込んだ。


「遺伝子改良と言っても良いかもしれませんねぇ。言ってしまえば『優秀な遺伝子を持つ者達をツガイにし、生まれた子供に優秀性を残していく』というものです。

 ラルク家はこの傾向が非常に強く、生まれた子供には自由恋愛が禁じられます。次世代に残すべき必要な遺伝子を持つ者を調べ上げ、組み合わせ、あてがい、子を産ませ、生まれた子供に幼い頃から適した教育を行い、更に……という改良を、世代単位で続けていく」


 そうする事により、皇国軍人に必要な遺伝子を強化していく事が、ラルク家の宿命とされており、現在も続けられているという。


「魔術回路も同様よぉ。例えば貴方達の肉体にある魔術回路は、入学時に全て調査され、そして私たち講師陣の情報網にそれぞれの特徴がある程度記載されてるけど――この中で、私が知る限りの大魔術を使役できそうな子は、一握りも居ません。ゼロです。魔術回路が貧弱すぎます。

 これではそうした大魔術を使役しようとしても、魔術回路が焼き切れて、二度と魔術が使役出来ない身体になってしまいます」


 それを回避する、もしくは次世代こそそうした魔術の使役が出来るようにする方法は、魔術回路の拡張・改良を施す作業や、所謂日々の研鑽と合わせたり、優秀な魔術回路を持ち得る者との遺伝子配合――つまり子供を遺す事であり、名家の魔術師はそうした子孫を残し続けて行った結果、大魔術を使役出来る程の優秀な魔術回路を有しているのだと、カルファスは言い切った。


「魔術回路は確かに日々の研鑽によって、多少は改良や改修が可能です。けれど、劇的な変化は望めません。貴方達が研鑽を積み、その上で秘術を体現する大魔術を使役できるような者に育つ可能性はほとんどと言い切っていい程、有り得ない事でしょう」


 残酷な事だけれど、と先に注意をしつつ、けれどこれから話す言葉も、こうして勉学に励もうとする子供たちを傷つける可能性があるという事だけは変わらない。


「貴方達がこれから長い学院生活で学ぶのは、華々しい神秘を再現する大魔術ではなく、あくまでロベルトくんが言ったような基礎と、それに合わせた応用、そして投じるマナの量を調整すると言った、貴方達を嘲笑う名家の人たちが、五百年前に通った研鑽の道。

 貴方達はそうした大魔術の使役に耐えきれる身体を有していない。有していないから使わせない、当たり前の事よね?

  でも、そうした日々の研鑽によって改良や改修を施して進化した魔術回路を次世代に遺し、その子供がまた改良や改修を重ねて進化し、また次世代が、と続けていれば、何時かはそうした大魔術や、各々の魔術回路に適切な独自魔術を生み出し、さらにそれを改良していく事も出来るの」

「……先生は、私たちが大成できぬと言いたいのでしょうか?」


 諦めきれぬ、と言わんばかりに反論……というより悪足掻きを口にするロベルトに、カルファスは決して首を縦にも、横にも振らなかった。

  ただ微笑み、問うだけである。


「ロベルトくん、君の言う大成って、何かなぁ?」

「それは」


 自分の胸に手を当て、探る様に口を開けるロベルトだが、しかしそこから先の言葉は出ない。

  当たり前だ。漠然と、ただ『魔術師として大成する』という願望しか持たぬ者に、その先を想像する未来などない。


「例えば私なんかは、新しい魔術を生みだしたり、新型魔導機の開発だったり、貴方達のような将来を考える、次世代を担う子供たちを育てる事が、人生における大成と考えてるわねぇ。

 でも、例えば新しい魔術を生み出すなんて大成は、貴方達でも可能よ。なにせ『貧弱な魔術回路でも可能なマナの量や、効率的な魔術使役を行って出来る新魔術』を生み出せば良いのだもの」

「そんな、簡単に言われても」

「事実簡単だからね~。例えば『足を動かさずに移動する魔導機』なんて公表されていないでしょ? でもこれ位なら、擬似貯蔵庫を搭載できる板を一枚用意して、その板からマナを放出し、操作の魔術を使役すればそれで完成よ。……魔導機なんか使わずに魔術で肉体を操作しちゃえばいいから、魔術師は誰もやらないけどね~」


 そして、その程度の使役が可能な擬似貯蔵庫や擬似回路の精製などは、どれだけ貧弱な魔術回路しか持ち得ていない者でも勉強すれば可能だ、とカルファスは言う。


「この魔術学院では、色んな分野の魔術に関して、見分を広めていく教育が主となります。それを貴方達が生かせるどうかは、あくまで貴方達次第。

 私たちは、貴方達の『どう大成したいか』を見定め、それに役立つ知識を与える事が使命だと考えてるわ」


 大魔術など、人生を生きていく上で、使えなくても構わないものだ。ただ自分たちの目標に適した魔術を学んでいけば、それはやがて力になるし、力を後世に残し、いつの日か同じ悩みを抱く者たちを救うかもしれない。


「――若者たち、夢を持ち、その夢を叶える事が出来るように努力しなさい。

 もし君達に無理でも、君達の子供が、孫が、ひ孫が、いつかそうした夢を叶えられるように、研鑽を重ねなさい。

  そうした目標や努力を見失った者に、成長や進化はあり得ないのだから」
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