魔法少女の異世界刀匠生活

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第十一章

カルファス・ヴ・リ・レアルタ-07

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 授業を終え、教室を出てため息を溢す。本来カルファスは、現在開発中の第四世代型ゴルタナ、及び4.5世代型ゴルタナ……というより、戦闘システムにする予定の物を整備する必要があるにも関わらず、急遽担当講師の一人が別の研究に出なければならないとかで、代替指導を行わねばならなくなったのだ。

  本当に、基礎的な心構えを説いただけで終わってしまったが、しかし必要な事であったから語った。

  しかしまだ十代半ば程度の子供にしっかりと伝えられていただろうか、普段の私の様に独りよがりな言葉の羅列になっていなかっただろうか、等と考えながら廊下を進んで外へ一度出て、研究棟へと辿り着く。

  カルファス・ファルム魔術学院は、広大な土地に建築された二棟それぞれ形の異なる建物が印象強い。中庭にある噴水広場を中心に整備された芝生とレンガによって補強された道があり、そこから二分する形で研究棟と教育棟が分けられている。

  カルファスが自室として使用できる理事長室兼研究室は、研究棟の三階に存在し、その階は全て自分の研究室に割り当てられている。これは理事長が使用する故の広さなどではなく、単純に『狭いと危険性が高くなる研究を多くしているから安全性確保の為』だ。

 研究室は、その全面を銀色の反射材と呼ばれる魔力強化防御壁によって形作られている。

  この反射材は魔術もそうだが、あらゆるあらゆる物理法則による攻撃を無力化する性質が存在し、その技術はゴルタナにも転用されている。(マナの消費量が多くなるため、あくまでゴルタナに転用されているのは物理法則による攻撃の無力化ではなく緩和に限定されているが)

  
  そんな彼女のデスクに腰かけながら、金庫の一つに指を触れた。それは彼女の指紋を登録した、魔術的な保護が成された一種の結界であり、彼女の指が触れる事によりロックを解除し、その全機能が解除される仕組みとなっている。なお彼女以外の者が触れた場合は爆発する仕組みらしいが、試された事は一度も無い。

  中から取り出すのは、二つの物品。そのどちらも外観としては殆ど同じだが、塗装が異なる。

  第四世代型ゴルタナには、黒の塗装を施し。

  4.5世代型デバイスには、白の塗装を施していて、その両方とも、まだ起動は一度も行われていない。

 危険性の観点から、こうした新型装備の試験は皇族ではなく、皇族の選定した試験員が行わなければならない事になっていて、そうした手続きというか、一種の儀式という点においては、カルファスが面倒と感じている部分でもある。


「……で、何の用かな?」

『気付いてたんだ』

「この部屋、熱感知とか赤外線センサーとか色々あってね。ただ姿を隠してるだけじゃバレバレだよ」

『なーんだ。せっかく水の無い所に来れたって言うのにさぁ』


 カルファスの言葉に返答があり、その返答を放つ者は、出入口の扉付近で、何か影の様な物を結集させるかのように最初は朧気であったが、やがてしっかりと形作った後、一人の少女としての姿を現した。

 両側頭部で朱色の髪の毛を結った、白のコートを着込んだ少女だった。年齢は十代前半程度に見える風貌であったが、しかしその姿を消す方法や、そうした出現方法などを鑑みるに、普通の人間では無いと考えられる。

 また、その出現方法には覚えがないわけではない。霊子程小さくはないが、量子程の大きさにまで分離した自身の身体を結合させる、それは霊子移動にも似通った性質であり、カルファスは少女に気付かれぬよう、ペロリと舌なめずりを行った。


「貴女、災い――それも名有りの子って事で良いのかなぁ」

「そーよ。名前は餓鬼、よろしくねカルファス」


 ニヒヒ、と無邪気に笑う姿は、本当に子供のようであるが、しかしそうした姿とて、カルファスを騙す為の策略か何かかもしれない。


「最近はどの領土にも音沙汰なかったのに、急に現れるなんてどうしたの?」

「べっつにー? 他の奴らは襲撃準備してんだけどさぁ、何か他の奴と足並みそろえてーってするの飽きちゃって。だから次の標的にしてるアンタを、アタシがサッサと始末しちゃおっかなぁ、みたいな?

 ――ま、後は元々アタシがアンタを殺す予定だったから、他の奴らに命殺られんのも癪っていうか、ね」


 少女――餓鬼が、近くにあった単指向性電波照射機に触れた瞬間の事だった。

  それが、一瞬の内に、炎に変わった。

  それも、その照射機が燃えたというわけではない。物質そのものを炎に変えたのだ。

  でなければ、紙ではなく軽量合金の塊である照射機の姿が一瞬の内に焼失する筈も無い。

  部屋内に設置された熱感知センサーが、高温を観測し、警報を鳴らし始めたので、カルファスは左手首に装着していた腕輪に指で軽く二度ほど触れ、遠隔でセンサーを解除、警報を止める。熱感知センサーも魔導機であり、貯蔵したマナの流れをせき止める入力を行い、電源を落としたのだ。


「ふぅん、あらゆる物を燃やす能力じゃなくて、物質そのものを炎に変換する能力……いや、違うね。物質や性質を置換する能力って所かな」

「ちかん……って何?」

「置き換えるって事。同一種の物に替えるならともかく異なる物質……というよりは性質のものに変えるって事。魔術なら一応大魔術の分類。マナの流動が感じられなかったから魔術じゃなくて個々の災いが持つ虚力による固有能力って奴なんだろうけど……虚力ってホントにとんでもないエネルギーだね。四世代継続した魔術師レベルの魔術回路でようやくそうした大魔術の使役が出来るって言うのにそれをいともたやすく行えちゃうんだもん。ね、もしよかったら研究に協力してくれない?」

「イヤだけど……アンタさ、よく話が通じないとか言われない?」

「メッチャ言われる! 餓鬼ちゃんはなんでだと思う?」

「人の話聞かねぇからじゃないか――なっ!」


 乱雑に、その手に持った炎を、まるでボールを投げるかのように投擲する餓鬼であったが、しかし左手首に装着された腕輪に触れた右手を前面に押し出し、その炎へと触れる様に伸ばす彼女に、餓鬼こそが驚きながら、炎の行方を視界に収めた。

  伸ばされた手より発せられた、何か風の集合体にも似た、透明の壁がそこにあったように見える。

  透明とは言え、空気を凝縮したからこそだろうか、僅かに空間が湾曲して見える壁が炎を塞き止め、かき消すと、そのまま壁も焼失していく。


「熱いなぁ。流石に熱まではせき止める事出来なかったか。王服って凄い重ね着するから、オッパイ周りが凄い蒸れるんだよねぇ……あ、ごめん。餓鬼ちゃんはオッパイ無いから分かんないか」

「ぜってぇぶっ殺すッ!!」


 声高らかに殺意を叫び、先ほどの電波照射機と同様の、レーザー照射機や赤外線通信機材等の物を乱雑に掴み、強引に炎へと置換した餓鬼が、それを投げ放ってくるものの、しかし当たらなければどうという事は無いと言わんばかりに駆け出し、投げ放たれた炎は壁へと衝突、しかし燃え移ったりなどはせず、ただ壁に当たって消失していくだけだ。


「っ、この学校って木造じゃねぇの!?」

「この部屋だけ特別だよぉー。この部屋の壁、例えば電波とかの不可視の物でもかき消す性質あるから、ただの炎なんて簡単にかき消えるよぉ、――っと!」


 今、眼前を横切った炎を何とか避けたカルファスが「しょうがないね」と口にしながら、今近くの窓を開け放ち、窓枠に足をかけた。


「逃げていいの? 災いのアタシが、人がいる外まで追っかけてくるって事だよ?」

「別にいいよ。適当に言い訳作るの、シドちゃんやアメちゃんだけじゃなくて私も得意なんだよ」
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