魔法少女の異世界刀匠生活

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第十一章

カルファス・ヴ・リ・レアルタ-08

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 研究棟の三階から身を投げるカルファスが、重力に従い地面へと落ちていく。しかし着地の寸前、再び腕輪に触れた右手を地面へと向ける。

  両足、というより全身を包むように暴風が彼女の落下をせき止めていく。完全に彼女の身体を制するわけではなく、ただ落ちる勢いを和らげるだけのものだが、それで十分だった。

 と、そこで校庭に数人、生徒たちの姿が見えた。恐らく今日の授業が無くて自習に来た生徒たちだろうと分かると、カルファスは腕輪に口を近づけ、声を発する。


『はーいっ! そこの校庭にいる生徒たち、ちょっと校舎に避難ヨロシクお願いねーッ! これから理事長のカルファスと、外部の魔術師と模擬戦するから、危険だよぉーっ』


 発せられた声を腕輪に入力され、そこから拡声器として出力されていく。

  校庭に居た数人の生徒たちは、それが自分たちに対してだと理解すると、声が発せられたカルファスを確認。

 カルファスは校庭のど真ん中にある噴水広場まで駆けると、追いかけてくる餓鬼へと向き直る。


「あの、理事長。あの子は一体」

「あー、道場破りって奴でいいのかなぁ。魔術師なんだけど、大魔術も使役出来ちゃうから気を付けなさい。校舎までひとまず避難よろしくねー」


 声をかけてきた生徒の一人に適当な言い訳をした後、避難していく姿を確認したカルファスと、そんな彼女へと近づきながら、苛立ちを隠そうともしない顔の餓鬼が、声を発する。


「舐めた真似しやがって……っ」

「餓鬼ちゃん、口悪いよぉ? 私もナマイキで可愛い子は好きだけど、でも今の餓鬼ちゃんはあんまり可愛くないっていうかなぁ」

「うっせぇっ! アタシは水が嫌いなんだよっ! だから水がねぇアンタの部屋の方が良かったのにっ!」

「あー、何かさっきもそんな事言ってたねェ……いい事聞いちゃった」


 ねぇ、と口を開きながら、カルファスが腕輪に今一度、二本指を触れさせる。


「餓鬼ちゃんはさ、龍って何か知ってる?」

「龍ぅ? ……伝承とかにある、デッカイ空飛ぶトカゲの事じゃねぇの?」

「そうそう。人とかがいなかった頃の星には、そうした存在がいっぱいいたんだとか聞くけど、実際にはそんなバケモノ居たら恐怖でしかないよね?」

「ハッ、アタシなんかはそんな奴もぶっ殺せる自信あるねっ」

「そっかー。でも多分なんだけど、龍って存在は多分いなかったんだよね」


 龍。それは古い伝承などに遺されている、人類へかつて猛威を振るったとされる伝説の種であるが、餓鬼の言う通り、空飛ぶトカゲであったと言われている。


「その龍が出たって時の記録調べるとさぁ、大体の場合が大洪水か大火災を起こしてるんだよねぇ」

「何が言いたいの?」

「津波とか、大火災を龍に見立てて、それを人伝に伝えていった人がいるって事。『それはまるで空飛ぶトカゲのような姿だった』、っていう話を曲解して『空飛ぶトカゲが出た』って流布してた奴がいるんじゃないかって説だよぉ。伝承にはよくある事なんだよねぇ」

「だから、それがな」


 今まで腕輪に触れていた、二本指を勢いよく横薙ぎに振るった、次の瞬間だった。

  カルファスの背後にある噴水広場に貯められていた水が、その形をまさに、巨大な龍の形へと変化させ、天高く舞い上がった。

  吹き散らされる水滴、ミスト、それに目もくれる事無く、餓鬼はパクパクと口を開けながら、今空へとその身を表した、水の龍を見据えた。


「な……何よ、コレ……っ」

「私が適当に形作った水龍様。私ね、貴女の天敵と言っていいかもしれない。水って超大好き。調べると水って面白いんだよねぇ。

  その昔、水っていうのは鏡にも利用されていたって聞くし、そもそも水っていうのは神様の一種として崇められていた時代もあったくらいなんだ。それこそ、水害とかを起こさないように、水神様の怒りを買わないように、人々は水を崇め、怒りを鎮めていたんだから。

  ――まぁ早い話さ、餓鬼ちゃんは水神様の怒りを買ったんだよ、きっと」

「意味わかんな――ごぼぼおぼッ」


 襲い掛かる、水の龍によって身体を流され、地面と水圧によって転がされながら、身体を近くにあった木に叩きつけられる、餓鬼の幼い身体。

  感情を有する名有りの災いに、いわゆる死に直結するダメージを与える方法は、虚力による攻撃しかない。故にそうした衝撃で死ぬ事は無いのだが、しかし痛みというのはあるし、身体があれば衝撃によって殴打され、変形もする。

  特に、高圧の水によって身体を打ち付けた上、地面に転がされ、水圧が維持されたまま木にぶつけられた等、ただの人間であれば死んでいてもおかしくないほどの衝撃であったが、身体をバキバキに折って、手や足などは本来曲がらない方向に曲がっていると言うのに生きている。

 涙を流しながら、体中の穴という穴から侵入した水を吹き出し、今呼吸を求めるかのように、口から水の塊を輩出した。


「龍召喚の術、って所かな。今思いついたんだけどさぁ、どうかな痛かった?」

「ごぶっ、ごほ、ほッ」


 口から入ってきた水を吐き出し、嗚咽に苦しむ餓鬼へと近づくカルファス。

  それも、無防備に近付くのではなく、先ほど餓鬼を圧死させるほどの威力を見せつけた水圧の龍を自身の背後に控えさせたまま、近付くのだ。

  殺されることは無い。ないが――しかし、そうした彼女の姿に、恐怖を覚える事は、不思議ではない。


「ねぇ痛かったかな? 痛かったのならどういう風に痛かったか教えて欲しいな。どこが痛い? 打ち付けた背中かな? それとも一度に水を大量に飲み込んだせいで、口とか喉とか肺とか胃とかかなぁ? 腹部に思い切り水圧叩きつけた形だったからお腹も痛いよねぇ? 研究っていうのはどんな些細な事も見逃さずに残す必要があるんだぁ。だからちゃんと教えてくれないとお姉さん困っちゃう。

 ううん。分かった。いいよ何も言わなくていい。ただその代わり貴女の身体を隅々まで検証させてほしいなぁ。名有りの災いって死なないんでしょ? なら腕の一本引きちぎっても問題無いよね? ね?

 そうしたら生えてくるのかなぁ、それともそのままなのかなぁ? それとも虚力を摂取したら、摂取した分だけ生えるのかなぁ?


 お姉さんね、今すっごく、君の事調べたいのォ――ッッ!!」


 目が笑っていないのだ。口元は笑っているのに、その眼球だけが、餓鬼の姿を捉えたまま離れず、ただ真っすぐに見据える、その目だけが笑っていない。

  それが酷く怖くて、瞳からあふれる涙を堪えながら、急いで両足の再生を行いつつ身体を翻し、逃げようとする。

  だが、そんな事は許されないと言わんばかりに、餓鬼の小さな身体を包む水龍。

 ごぼ、ごぼぼと息を求めるように足掻くも、その水圧故に身体を満足に動かす事も出来ず、何とか動かせる足と手を泳がせるだけ。

  そうした挙動さえも、カルファスの知的好奇心を刺激するだけである。


「災いって息するの!? 理由は!? どうして!? 虚力さえあれば生きていけるんじゃないの!? それとも食事的な意味合いで虚力が必要なだけで肉体構成的には人間と一緒なのかな!? なら生殖行為による繁殖も出来るの!? それが出来る個体が母体って言われるのかな!? ねぇ、ねぇ教えて、ねぇ!

 あ、ごめんね! 今喋れないよね! 分かった、研究室に戻って出してあげるけどその前に電気ショックを与えて脳波信号とかもちゃんと観察しなきゃいけないよね――ッ!!」


 発狂するカルファスが、水龍の上に乗りながら、先ほど落ちてきた、研究棟三階の自室にまで飛んでいく。

  その姿を見た生徒たちは茫然としていたが――しかし、授業をする講師陣は、カルファスの姿を見て「まぁカルファス様だし」と揃えて口にした。
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