魔法少女の異世界刀匠生活

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第十一章

カルファス・ヴ・リ・レアルタ-10

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「でもそれ故に、姉さまへ災いの襲撃があった場合も情報隠蔽が非常にしやすいわ。なんて言っても、相手がどんなとんでもない事を仕出かしてきても『アレは魔術師で、使った技は魔術です』って言い訳が出来るから」


 そしてどんな魔術を使役したか、それをどのように処理したか、それは魔術師同士の果たし合い故に秘匿されるべきだという風潮が、勝手に出来上がってくれる。これ以上無い程に、災いの情報を隠蔽しやすい環境にある事は間違いない。


「でもそんなカルファス様が作った学校なんて、そりゃあもうガンガンバリバリ殺し合いしまくってんじゃないんですか?」

「通常の学校と同じで十八歳未満っていう年齢制限があるわ。師に恵まれていない新興魔術家系の子達を優先して入学させているし、そもそも名家の子達なんか独自魔術の秘匿を目的に入って来ないし。

 だから魔術師の活動拠点としては安全な方よ。……強いて言えば、何度かカルファス姉さまと私、シドニア兄さまの三人で会談している最中、乱入してきた魔術師がサーニスさんに斬られたりしてた事もあったわ。正直心臓に悪いから止めて欲しいのだけれど」

「サーニスは魔術師にも勝てるのですか」

「むしろ魔術師と皇国軍人になると、優位性はゴルタナを所有している皇国軍人の方が大きいわね。ゴルタナは魔術的な攻撃にも対応できる防御兵装だから、ゴルタナを展開してしまえば、生半可な攻撃程度ならかき消せるもの」


 そして今辿り着いた先――カルファス・ファルム魔術学院の研究棟三階、カルファスの自室には、その新型ゴルタナが存在し、今はその整備をしている事だろうと言う。

  校門の前で馬車が停止。アルハットがリンナとクアンタに進行を確認する。


「まずは魔術学院の視察という体で理事長室へ進むわ。生徒から手を振られたりしたら、リンナは笑顔で手を振り返してね」

「あのー……アタシなんかに手を振る奴いないと思うんですけど?」

「いえ、私に振ってるのよ。一応私、皇族よ? リンナ、忘れてないわよね……?」

「あ、そっかっ」

「……クアンタは毅然と私とリンナの護衛役を演じてくれればいいわ。事実そうだし」

「了解しました」

「そしてリンナとカルファス姉さまの会談を行い、その後第四世代型及び4.5世代型のテストを行うから、クアンタはそれまでに体調を整えて頂戴」


 では行くわよ、と言いつつ、今御者が開いた扉から率先してクアンタが降り、アルハットの手を取って彼女を降ろし、続いてリンナの手も引いた。

  降りた三人を見据えながら、通りに居る制服を着こんだ子供が、アルハットへと手を振っている。

  王服を着込んでスッと姿勢正しく歩き出すアルハットは、自身へと手を振る者たちへ微笑みながらも手を振り返し、リンナも彼女の隣で苦笑いをしながら、手を振った。


「アルハット様、毅然としててカッコいいよねぇ」

「皇族だし美人だし、錬金術師として大成してるってんだろ? オレ達庶民とはやっぱ違うよなぁ」

「隣にいる女の子って、来賓予定になってた広報に載ってる刀匠の人だよね? 私たちと同い年位なのに、凄いなぁ、偉い人って事なんだよね」

「護衛っぽい人凄いカッコいいんですけどっ!? 女性なのに王子様チックな雰囲気マジ好みッ!!」


 随分と俗っぽい言葉が聞こえるが、しかしクアンタはそうした者たちに目配せをしながら、子供達を観察する。

  子供達はあくまで下校中といった様子で、歓迎をする予定になかったように思えるが、本当に会談予定が組まれているのだろうかという疑問があったのだ。


「アルハット様」

「生徒たちは早めに下校するようにされているだけです。気にしないで」


 僅かに足を早め、周りには聞こえないように声をかけると、クアンタの問いが分かっていたかのように視線を寄越す事なく返事をしたアルハット。

  事実校庭を進んでいくと、その研究棟の出入り口では職員と思しき者達が横並びに立ち、今一同が深々と礼をした。


「アルハット様、ようこそお出で下さいました」

「楽にしてください。カルファス姉さまは理事長室かしら」

「はい、現在はどうやら手が離せぬご様子で、お声かけさせて頂いたのですが……」


 脂汗を流す職員がそう言うと、アルハットは笑顔で「わかりました」と応答し、研究棟の中へと入っていく。

 階段を昇り、三階へと至る。広々とした廊下には扉が一つしかなく、アルハット曰く「カルファス姉さま専用の研究室として、丸まるこの階を使っているの」と説明してくれた。

  コンコンと扉をノックする。


『あー、アルハットちゃん達?』

「ええ。入ってもよろしいでしょうか、カルファス姉さま」

『良いけど他に誰もいない? アルハットちゃんとリンナちゃん、クアンタちゃんの三人だけー?』

「はい、そうですよ。他の職員様方はいらっしゃいません」

『じゃあいいよーっ』


 許しを得たので、アルハットがドアノブに手をかける。

  瞬間、赤外線の様な光線が一瞬だけアルハットの手を横切って、クアンタはそれを(生体認証機能か)と目測。恐らく許可なく侵入する者がいれば、何かしらの迎撃が行われるようにされているのだろうと予測した。


「失礼します」


 扉を開けて、部屋の内部を見据えたアルハット、リンナ、クアンタの三人は――部屋の中で行われていた状況に頭が追いつかず、口をアングリと開けて、呆然とした。


「あっ! 見てみてクアンタちゃんッ!!


 名有りの災い、一人捕まえたよっ!! 名前は餓鬼ちゃんだってっ!」


  ニッコリとした笑顔で出迎えてくれたカルファスは、その手に電流の奔る棒を、室内で一本の柱と化している水の集合体に向け、振り込んだ。


『――ッ、ゴボッ、ガガガガガ……ッ!』

「餓鬼ちゃん餓鬼ちゃん、餓鬼ちゃん達の狙ってるリンナちゃんが来たよ? 殺さなくていいの? あ、今抵抗できない? 抵抗できない理由は何かな、やっぱ電気効いてるのかなぁ?」


 水柱は床から天井に向けて伸びた、人ひとりを閉じ込めておける水槽状になっていて、中には一人の少女が閉じ込められていた。水中で空気を求める様に足掻く朱色の髪の毛をした少女が、今水中に走る電気ショックを受けて身体をビクビクと震わせ、目をギョロギョロと動かしながら、ショックによる喉の開閉によってか気泡を吐き出しながら、余計に藻掻く。

 何と言ってるのかも分からない。ただ分かるのは――その者が、ただ幼い少女にしか見えず、そんな彼女をカルファスが虐待しているようにしか見えぬという事実。


「な――何してるンすかカルファスさんッ!!」


 声を荒げ、彼女へと走りにくいヒールで駆け出すリンナ。彼女が電流の奔る棒に触れる寸前、クアンタが手を引いたから感電は免れたが、その時ばかりはカルファスも「危ないよぉ!」と警告した。


「ンな危ないモンを、女の子の溺れてる水に流したら、感電して死んじゃうじゃないっすかッ! 止めて下さいっ!」

「さっき言ったじゃない。この子は災いで、名有りだから、リンナちゃんの打った刀じゃなきゃ死なないの~。だから死なない事を良いことに、こうして色々研究してたの~」


 ニコニコとリンナへ返したカルファスの言葉に、リンナは呆然とするしか出来る事は無かった。

  この人は何を言っているんだと、この少女が災い? と言った様子で、カルファスと水柱の中で藻掻く少女の二人へ視線を泳がすしか出来ない。


「……カルファス姉さま、何があったか、詳しく窺う事は出来ますでしょうか?」

「うんいいよぉ。でもその前にもう一回くらい電気ショックを」

「やめてくださいっつってるでしょ――ッ!!」


 遂に、リンナの我慢が限界に達し、カルファスの胸を強く押して、その行動を止めた。

  カルファスが尻を付き、痛がっている間に、クアンタが電流を流していると思しき装置の電源を切り、電気の流れを止める。通電が収まっているかをクアンタが実際に触れ、問題がないと判断した後に、カルファスの手を取って立ち上がらせた。


「はぁ……っ、はぁ……っ」

「……リンナちゃん、怒ってる?」


 突き飛ばされた事に対して、少し怯えていると言わんばかりの表情で伺うカルファスだが、しかしリンナは反対に怒りを表情に内包しながら、彼女から目を逸らす。


「……クアンタ、帰ろう」

「お師匠」

「こんな非ィ人道的な事をする人の研究に、アンタが手を貸す事なんかないし、させたくない」

「お師匠、この少女はカルファス曰く災いという事なのだが」

「関係ない。災いだろうが敵だろうが何だろうが、ヒトの苦しんでる所を見て楽しむなんて、クズを超えたイカレ野郎のやる事だ。研究が目的だとしても、それは人としてやっちゃいけない事なんだよ……ッ」


 クアンタの手を引き、ツカツカと研究室の扉へと近づくリンナの勢いに呑まれ、クアンタは何も言う事は出来なかった。

  アルハットに目配せすると、彼女も苦い顔をしながらカルファスへ、言う。


「……少し予定を変更します。その子については、また」


 部屋を出ていくリンナとクアンタを追いかけるアルハットを見据えて。

  一人残されたカルファスは、その場でただ立ち尽くす事しかできなかった。


「……リンナちゃん、なんであんなに怒ったんだろ」
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