120 / 285
第十二章
進化-05
しおりを挟む
自分の破壊した扉を、元々あった場所へと投げ飛ばす。
投げ飛ばされた扉に向け、アルハットが指を鳴らすと、バチ――と青白い火花が点り、扉と扉のあった空間とを繋ぎ合わせ、その歪んだ形をも戻した後、元の姿へと再生させた。
「お見事。流石私よりも優秀な錬金術師だ」
「ヤエさんは、この空間に関してご存じだったんですか?」
「ご存じないから来たんだよ。クアンタの情報は逐一私の所に入ってくるはずなのに、お前ら四人ともの反応含めて観測できなくなったんだぞ? 大慌てでここまで来たんだ」
恐らくだが、ヤエの持つ神霊としての能力は、こうしたあらゆる事象から固定されている空間等には及ばない為、そうした識別がいきなり出来なくなった為、様子を見に来たという所だろう。
「神様でも慌てる事あるのねぇ」
「なにせクアンタが死んでしまったりすると、全宇宙の危機だからな。そりゃあ慌てもする」
「全宇宙の危機――それを止める事が、クアンタにやらせたい事なのですか?」
「失言だ、忘れろ」
咥えていた煙草に火を付け、煙を吐き出すヤエの口調は僅かに低い。怒っている――というより、事態を把握できていない現状が好ましいと思えないのだろう。
何にせよ、長く固定空間に留まる理由は薄い。テストは中止せざるを得ず、リンナがクアンタを背負いながら部屋を出て、皇居に戻るとアルハット先導のまま、クアンタとリンナの部屋にと割り当てていた客間へ案内する。
案内する間、そしてクアンタをベッドに寝かせるまでの工程で、アルハットとカルファスが開発した第四世代型ゴルタナと、4.5世代型デバイスの事を説明し、その4.5世代型デバイスのテストに際し、クアンタが体調を崩した事を説明した所で、ヤエは4.5世代型デバイスを手に取って、目を伏せた。
「――なるほど、アルハットとカルファスは、私の残したマジカリング・デバイスについての情報を基に、対名有りの戦力増強を図るべく第四世代型ゴルタナへマジカリング・デバイスのシステムを一部流用した改良型を開発、4.5世代型デバイスとしたのだな」
「ええ、そうよ。そして、私たちは虚力についてのデータを集める為にも、検査ツールを搭載させると同時に、第四世代型ゴルタナよりも性能をアップできるように改良をしたつもりだった」
「そうか。それが原因だな」
アルハットの言葉に頷きつつ、手に持っていた4.5世代型ゴルタナの頭頂部にあるスイッチを押したヤエは、ガクリと身体を揺らしつつも「こりゃ、相当の虚力消費が来るな」と平静のまま呟いた。
「原因? 虚力消費? ヤエさん、クアンタちゃんがこうなっちゃった要因、何か分かっているの?」
「……クアンタに渡したマジカリング・デバイスは、言ってしまえば試作量産型なんだ。
その辺にいる小娘でも問題無く扱えるようにしたシステムでもあるし、クアンタのように特異な者が使う場合は、その特異性に合わせて形態を変化させる自動識別機能も搭載されている。
より簡単に言えば、錬金術師が用いて変身すれば、錬成に必要な演算をマジカリング・デバイスが並列処理を行ってくれるようになるし、魔術師が用いて変身すれば、マナの消費量を抑えてくれるようにもなる。
そしてクアンタが変身すれば、その戦闘時に使う虚力量を減らす事が出来る他、虚力増幅装置としての機能も果たしている」
虚力増幅装置。
そうした言葉を口にしたヤエに、アルハットとカルファスは目を合わせた。
「つまり私たちが流用したマジカリング・デバイスのシステムは、その虚力増幅装置についての部分、という事?」
「でもそれなら、むしろクアンタちゃんの虚力量が増えてないとおかしくないかしら? 何で減っちゃったの?」
「虚力増幅装置と簡単に言うがな、コレは『虚力を一定数消費する事によって、消費した数に応じた増幅を果たす』という仕組みだ。
例題としては、一の虚力を消費すれば、二の虚力に増幅して戻ってくる、と言った形だな。クアンタのマジカリング・デバイスは、変身者の虚力量に応じて消費と増幅の虚力量を自動的に変動させる。
だが、お前たちによって作られたデバイスは、その消費虚力量が一定の、しかも異常な数値に設定されてしまっている。つまりクアンタは、自身が持ち得る虚力量以上を要求されてしまったから虚力をほとんど吸い取られてしまい、さらには消費要求量を満たせなかったから変身も出来なかった――というわけだ」
元々、クアンタやマリルリンデは【フォーリナー】という外宇宙生命体であり、このフォーリナーは虚力というエネルギーが生命維持に必要だ。
そして、ヤエいわく、クアンタやマリルリンデが人型の形を保てるのは、そうした虚力というエネルギーを用いて身体機能の維持を行っているからだという。
「じゃあその消費虚力量を減らす設定をすれば、対名有り用の装備になり得るかなぁ?」
「お前らの技術で出来ればな。――少なくとも数年はかかるだろうな、この様子だと」
そもそも虚力に関わるシステムを流用したつもりが、そうした数値設定が異常になってしまった事を鑑みると、アルハットとカルファスは、ヤエの遺したマジカリング・デバイスについての資料を完全に理解できていない事になる。それを理解できるようになるまで、年単位の時間が必要になる可能性がある、という事だ。
「……はぁ。私も神様だから虚力の量はかなり多いが、そんな私でも一回起動しようとしただけで、コレだ」
先ほど、4.5世代型デバイスを起動させたヤエが、客間に用意されていた椅子にどっしりと座り込んだ後、ガックリと項垂れた。その表情も若干青ざめ、体調は悪そうに見える。
「クアンタも言っていたそうだが、この4.5世代型デバイスは誰も使うな。自衛用には過ぎた長物だし、お前らが使う分にはゴルタナと刀で十分だ」
「……リンナの前で言うのは初めてですが、元々このデバイスは、リンナの自衛用に使わせるつもりでした。ゴルタナは警備防衛法の観点から、リンナに使わせることが出来ないから」
言うべきかと一瞬悩むような表情をしたアルハットの言葉に、リンナが「アタシが使う用?」と首を傾げた。
「ええ。クアンタが貴女を守るとは言っていたけれど、それでも自衛手段が多いに越したことはないもの」
「リンナさんの虚力量でも、状況によってはマズい可能性もある。大人しく警備防衛法の改正をオススメするよ」
リンナが使う為に、という言葉を聞いた瞬間、ヤエの表情が若干歪む。今度は本当に怒っているのかもしれないが、しかしそれ以上は何も言わず、彼女は近くの窓から身を投げた。
突然の投身に驚きながら目で追いかけるリンナだったが、いつの間にか彼女の姿は無くなっており、地球へと帰ったのであろうと結論付けると、ホッと息をついてクアンタの眠るベッドに椅子を近づけ、腰を下ろす。
「その、リンナちゃん。ごめんなさい」
「……カルファス様は、別にクアンタを殺したくてあのデバイス作ったわけじゃないんでしょ?」
小さく頷き、しかしカルファスの表情は、暗い。
安全性はある程度問題無いであろうと認識していたのに、その認識自体が誤りだったのだ。
そうした自身の至らなかった部分を、またリンナは怒ると思っていた。
怒られて当然だと理解していたから、カルファスは頭を下げたのだ。
「アタシも、正直またカルファス様にキレたくてしょうがないんですよ。『クアンタを危ない目に遭わせやがって』、って。
でも、クアンタは頭がいい子だから、そうした危険があるかもしれないって、分かってたと思う。理解してたと思う。理解してなかったら、それはクアンタに怒らなきゃいけない。
なのにカルファス様にキレるのは、ちょっとお門違いじゃないかな、なんて思うんだ」
勿論、そうした考えは頭の中で考えた理屈だ。
そんな理屈など知った事かと、感情に身を任せ、怒る事は容易い。
――けれどリンナは、決してそうした怒りに身を任せ、声を荒げる事はしない。
そうしてただ癇癪を起こして他人を怒鳴れるほど、リンナは他人を傷つける事に、慣れていないから。
投げ飛ばされた扉に向け、アルハットが指を鳴らすと、バチ――と青白い火花が点り、扉と扉のあった空間とを繋ぎ合わせ、その歪んだ形をも戻した後、元の姿へと再生させた。
「お見事。流石私よりも優秀な錬金術師だ」
「ヤエさんは、この空間に関してご存じだったんですか?」
「ご存じないから来たんだよ。クアンタの情報は逐一私の所に入ってくるはずなのに、お前ら四人ともの反応含めて観測できなくなったんだぞ? 大慌てでここまで来たんだ」
恐らくだが、ヤエの持つ神霊としての能力は、こうしたあらゆる事象から固定されている空間等には及ばない為、そうした識別がいきなり出来なくなった為、様子を見に来たという所だろう。
「神様でも慌てる事あるのねぇ」
「なにせクアンタが死んでしまったりすると、全宇宙の危機だからな。そりゃあ慌てもする」
「全宇宙の危機――それを止める事が、クアンタにやらせたい事なのですか?」
「失言だ、忘れろ」
咥えていた煙草に火を付け、煙を吐き出すヤエの口調は僅かに低い。怒っている――というより、事態を把握できていない現状が好ましいと思えないのだろう。
何にせよ、長く固定空間に留まる理由は薄い。テストは中止せざるを得ず、リンナがクアンタを背負いながら部屋を出て、皇居に戻るとアルハット先導のまま、クアンタとリンナの部屋にと割り当てていた客間へ案内する。
案内する間、そしてクアンタをベッドに寝かせるまでの工程で、アルハットとカルファスが開発した第四世代型ゴルタナと、4.5世代型デバイスの事を説明し、その4.5世代型デバイスのテストに際し、クアンタが体調を崩した事を説明した所で、ヤエは4.5世代型デバイスを手に取って、目を伏せた。
「――なるほど、アルハットとカルファスは、私の残したマジカリング・デバイスについての情報を基に、対名有りの戦力増強を図るべく第四世代型ゴルタナへマジカリング・デバイスのシステムを一部流用した改良型を開発、4.5世代型デバイスとしたのだな」
「ええ、そうよ。そして、私たちは虚力についてのデータを集める為にも、検査ツールを搭載させると同時に、第四世代型ゴルタナよりも性能をアップできるように改良をしたつもりだった」
「そうか。それが原因だな」
アルハットの言葉に頷きつつ、手に持っていた4.5世代型ゴルタナの頭頂部にあるスイッチを押したヤエは、ガクリと身体を揺らしつつも「こりゃ、相当の虚力消費が来るな」と平静のまま呟いた。
「原因? 虚力消費? ヤエさん、クアンタちゃんがこうなっちゃった要因、何か分かっているの?」
「……クアンタに渡したマジカリング・デバイスは、言ってしまえば試作量産型なんだ。
その辺にいる小娘でも問題無く扱えるようにしたシステムでもあるし、クアンタのように特異な者が使う場合は、その特異性に合わせて形態を変化させる自動識別機能も搭載されている。
より簡単に言えば、錬金術師が用いて変身すれば、錬成に必要な演算をマジカリング・デバイスが並列処理を行ってくれるようになるし、魔術師が用いて変身すれば、マナの消費量を抑えてくれるようにもなる。
そしてクアンタが変身すれば、その戦闘時に使う虚力量を減らす事が出来る他、虚力増幅装置としての機能も果たしている」
虚力増幅装置。
そうした言葉を口にしたヤエに、アルハットとカルファスは目を合わせた。
「つまり私たちが流用したマジカリング・デバイスのシステムは、その虚力増幅装置についての部分、という事?」
「でもそれなら、むしろクアンタちゃんの虚力量が増えてないとおかしくないかしら? 何で減っちゃったの?」
「虚力増幅装置と簡単に言うがな、コレは『虚力を一定数消費する事によって、消費した数に応じた増幅を果たす』という仕組みだ。
例題としては、一の虚力を消費すれば、二の虚力に増幅して戻ってくる、と言った形だな。クアンタのマジカリング・デバイスは、変身者の虚力量に応じて消費と増幅の虚力量を自動的に変動させる。
だが、お前たちによって作られたデバイスは、その消費虚力量が一定の、しかも異常な数値に設定されてしまっている。つまりクアンタは、自身が持ち得る虚力量以上を要求されてしまったから虚力をほとんど吸い取られてしまい、さらには消費要求量を満たせなかったから変身も出来なかった――というわけだ」
元々、クアンタやマリルリンデは【フォーリナー】という外宇宙生命体であり、このフォーリナーは虚力というエネルギーが生命維持に必要だ。
そして、ヤエいわく、クアンタやマリルリンデが人型の形を保てるのは、そうした虚力というエネルギーを用いて身体機能の維持を行っているからだという。
「じゃあその消費虚力量を減らす設定をすれば、対名有り用の装備になり得るかなぁ?」
「お前らの技術で出来ればな。――少なくとも数年はかかるだろうな、この様子だと」
そもそも虚力に関わるシステムを流用したつもりが、そうした数値設定が異常になってしまった事を鑑みると、アルハットとカルファスは、ヤエの遺したマジカリング・デバイスについての資料を完全に理解できていない事になる。それを理解できるようになるまで、年単位の時間が必要になる可能性がある、という事だ。
「……はぁ。私も神様だから虚力の量はかなり多いが、そんな私でも一回起動しようとしただけで、コレだ」
先ほど、4.5世代型デバイスを起動させたヤエが、客間に用意されていた椅子にどっしりと座り込んだ後、ガックリと項垂れた。その表情も若干青ざめ、体調は悪そうに見える。
「クアンタも言っていたそうだが、この4.5世代型デバイスは誰も使うな。自衛用には過ぎた長物だし、お前らが使う分にはゴルタナと刀で十分だ」
「……リンナの前で言うのは初めてですが、元々このデバイスは、リンナの自衛用に使わせるつもりでした。ゴルタナは警備防衛法の観点から、リンナに使わせることが出来ないから」
言うべきかと一瞬悩むような表情をしたアルハットの言葉に、リンナが「アタシが使う用?」と首を傾げた。
「ええ。クアンタが貴女を守るとは言っていたけれど、それでも自衛手段が多いに越したことはないもの」
「リンナさんの虚力量でも、状況によってはマズい可能性もある。大人しく警備防衛法の改正をオススメするよ」
リンナが使う為に、という言葉を聞いた瞬間、ヤエの表情が若干歪む。今度は本当に怒っているのかもしれないが、しかしそれ以上は何も言わず、彼女は近くの窓から身を投げた。
突然の投身に驚きながら目で追いかけるリンナだったが、いつの間にか彼女の姿は無くなっており、地球へと帰ったのであろうと結論付けると、ホッと息をついてクアンタの眠るベッドに椅子を近づけ、腰を下ろす。
「その、リンナちゃん。ごめんなさい」
「……カルファス様は、別にクアンタを殺したくてあのデバイス作ったわけじゃないんでしょ?」
小さく頷き、しかしカルファスの表情は、暗い。
安全性はある程度問題無いであろうと認識していたのに、その認識自体が誤りだったのだ。
そうした自身の至らなかった部分を、またリンナは怒ると思っていた。
怒られて当然だと理解していたから、カルファスは頭を下げたのだ。
「アタシも、正直またカルファス様にキレたくてしょうがないんですよ。『クアンタを危ない目に遭わせやがって』、って。
でも、クアンタは頭がいい子だから、そうした危険があるかもしれないって、分かってたと思う。理解してたと思う。理解してなかったら、それはクアンタに怒らなきゃいけない。
なのにカルファス様にキレるのは、ちょっとお門違いじゃないかな、なんて思うんだ」
勿論、そうした考えは頭の中で考えた理屈だ。
そんな理屈など知った事かと、感情に身を任せ、怒る事は容易い。
――けれどリンナは、決してそうした怒りに身を任せ、声を荒げる事はしない。
そうしてただ癇癪を起こして他人を怒鳴れるほど、リンナは他人を傷つける事に、慣れていないから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる