魔法少女の異世界刀匠生活

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第十三章

災滅の魔法少女-10

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 ニッコリと笑みを崩さぬ彼女と、グッと顎を引いたマリルリンデ。

  振り込まれた一撃の掌底、マリルリンデはそれを寸での所で避け、彼女の鳩尾に向けて右手の拳を叩き込もうとしたが、それを左手で受け流されると、見事なまでに素早い動きで身を引き、左脚部を振り上げ、マリルリンデの頭部へと踵落としを見舞った。


「ガ、ッ……この……ッ!」


 顔面から床に落ちたが、しかし床に着いた手を起点にして高く飛び上がったマリルリンデは、十数メートル高くに設置されたシャンデリアに足を付けると、彼を追いかける様に飛んで皇居三階の廊下にある取っ手へ足を付けたワネットが足に力を込めて、マリルリンデへと跳びかかるように接近、またもどこかから取り出した二本ずつの短剣を指間に挟み、それを振り込んだが――。


「おや」

「、っ!」


 そこでマリルリンデがいつの間にか取り出していたのは、一本の刀。

  それが大振りで振り込まれた短剣を防ぐと振りきって、刃ごとワネットの身体を弾き飛ばした。


「災いの頭目ともあろう方が刀をお使いに?」

「オレも出したかぁ無かったよ……ッ!」


 ワネットは弾き飛ばされた身体を制御し壁に足を付けて衝撃を殺し、重力によって落ちるよりも前に、壁を蹴った。

  再びマリルリンデへと迫り、彼は振り込まれる計四本の剣撃を全て躱しつつ弾き飛ばすと、ワネットも短剣を放棄してシャンデリアの上に足を乗せ、右足を振り込んでシャンデリアと天井を繋ぐ鎖を、叩き切る。

  重力に従って落ちていくシャンデリアと、シャンデリアに足を乗せるワネットとマリルリンデの攻防。

  マリルリンデの振るう刃を全て躱しながら、打ち込まれようとするワネットの掌底、しかしそのどちらも相手を傷つける事無く、落下間近だったシャンデリアの上から飛び退いた二者。

  マリルリンデは正門扉前に、ワネットは皇居の奥へと滑った所で、二者はようやく足を止めた。


「――オイ、答えろ姉ちゃん。対魔師っつーのは【対魔術師】の、裏家業を担う連中だろ? なのに何でそんな奴が従者なんざやってんだって聞いてンだヨ」

「ですから、義弟がお世話になっているシドニア様にお仕えしているだけです。家名も戻して頂きましたし、対魔師としてのお仕事は九歳の頃に引退しております」


 両手を背後に回したワネットが、今再び指間へ剣を計八本取り出して、構えた。

  対魔師が魔術師を殺す際に扱う、神殺兵器と呼ばれる短剣で、マナを刃に流す事によってマナの流れを切り裂く効果があるとされ、対人間への殺傷武器としても勿論有効だ。


「それより、わたくしも一つ質問を。災いはリンナ様の作られた刀によって滅する事が出来ると伺っております。その頭目である貴方が、そうした武器を持ち得る訳をお伺いしたいのですが」

「コイツにゃ別に虚力が宿っちゃいねェからな。リンナが打った刀じャなくて、単純な刀だからヨォ」

「それにしては随分と綺麗な刃をしておりますね。さぞ名の通った刀匠によって打たれた刀と見受けられますが?」

「そりャそうだろォよ。……コイツはオレの、たった一人のトモダチ……ガルラが打った刀だ。ナマクラたぁ言わせねェよ」


 話し過ぎた、とでも言いたげな、複雑そうな表情を浮かべたマリルリンデは、今一度本を取り出し、本の中に刀をしまうようにして、その物を消した。

  すると指を本に這わせた彼が、ジジジと姿を薄れさせると、ワネットはギョッとその光景を目にし、初めて驚きの表情を浮かべる。


「霊子移動……!」

『資料を拝借したかったンだけどなァ。まぁ、ワネット・ブリティッシュ、その名は覚えておくゼ。……リンナに、ヨロシク』


 最後は慣れていなさそうな笑みを浮かべつつ、完全に姿を眩ましたマリルリンデを見届けた後、ワネットは深くため息をつき、しばし沈黙の沈黙を経て、ボソリと呟く。


「……ああ、シドニア様がお帰りになるまでに、お掃除しなきゃ」


 仕事を増やされた事に対する、マリルリンデへの恨みを込めて。


  **
  
  
  用意されていた薄着の寝間着に着替えたリンナが、一つだけ用意されたキングサイズベッドに腰かけ、少しだけ顔を赤めながら、面を上げる。


「……クアンタは、寝ないの?」

「肯定。私に睡眠は必要ない」


 用意されている椅子に腰かける事も、寝間着に着替える事もせず、クアンタは腰に備えた刀に手を添えつつ、ただ周囲を警戒するように、立ち尽くす。


「……ね、クアンタ。一緒に寝よ? 外はサーニスさんとか、黒子達が見張ってくれてるし、大丈夫だってば」

「否、そうした警戒も必要ではあるが、何より私の生命活動に睡眠が必要ではない」

「そういうんじゃなくて……その、アタシが、アンタと一緒に、寝たいから……なんだけど」


 近くにあった枕を引き寄せ、ギュッと胸で抱いたリンナは、言い慣れぬ言葉を言ったからかクアンタから視線を外しつつ、しかしチラチラと彼女の方を時々見据え、反応を窺っているように思える。


「理解不能」

「……そ、そっか」

「しかし、了承」


 決して寝間着に着替える事は無いが、彼女はその場でヒールを脱いでベッドに乗り、二人が寝ても問題の無いベッドの半分を利用するように、真っすぐ仰向けに身体を横にした。

  目は開いているし、寝るというよりはこれから研究でもされるのを待っているモルモットにも見えなくはなかったが……しかし、そんなクアンタの姿を見て、リンナはクスリと笑いつつ、彼女の隣に横たわり、シーツをかぶせる。


「……ね、クアンタ」


 返事は無く、彼女はただ、リンナへと視線を向けるだけ。


「アンタの身体には今、虚力が無いんでしょ?」

「肯定」

「その虚力さ、アタシが今あげちゃ、駄目なの?」

「否定。そうした方法を取る事が現状、私の戦闘復帰に必要と考えるが、本日お師匠は4.5世代型……否、マジカリング・デバイスを用いて変身を行い、戦闘を行ったが故に、これ以上の虚力消費は危険と判断、後日体調などの状況を鑑みた上で虚力提供を要請する」

「そう、なんだ。……そっか、アタシ、やっぱり戦ったんだよね」


 彼女の言葉を、上手く理解できなかったように、クアンタはそこでようやく顔ごと彼女へ向き合った。

  クアンタの、端正で美しい顔立ちがすぐそこにあって、リンナは唇を噛みながら視線を逸らしたが……彼女が聞きたい事も分かっているから、そっと彼女の胸に顔を埋めて、顔を合わせないようにだけする。(他にも邪念が無いわけではないが)


「……アタシ、さ。実は戦いって、大嫌いなの」

「理由は」

「理由……理由ね、うん。単純な話でさ、アタシ、昔から親父に剣術習ってたんだけど……その時親父にさ、言われたからなんだ。

『戦いってのは、それが行われちまった時には、既に負けてんだぞ』……って」

「理解不能」

「まぁ、戦争とか、殺し合いの話だよ。どっちにも一つしかない命を、何かの理由があって殺し合わなきゃいけない時にさ、どっちも助かる方法とか、どっちも幸せになる方法とか、それを模索せずに戦うってのは、ただ思考停止でしかねぇ。

 でも、いくら考えたって戦わなきゃいけない状況だって、現実にはどれだけでもある。戦争だってそうやって起こるんだ。

  だから、戦争とか殺し合いってのは、どうあっても起こった時点で、勝者なんかない。ただ、生き残るか死ぬかの違いだけ。

 だから……アタシは、戦いが嫌い。イルメールみたいに、ただ戦いを求める奴も……あの、暗鬼みたいに、考える事が出来るのに、戦わない以外の道を、探そうともしない奴……とか」

「一部否定。災いは虚力の収集を行わなければ自己の生存を果たせぬ故、協議等に応じる事は無いと考えられる。故に、戦いは必要であり、お師匠が悩む必要は無い」

「分かってるし、アタシは、間違ってるなんて、思っちゃいない」


 ケド、と。リンナの言葉が続いた。


「あの時のアタシは、カルファス様を殺されたって……アンタが殺されそうって……そんな、頭ン中グッチャグチャになってさ、それで勢いにノって変身しちゃって……それでいて、戦いが終わったら、何かスッキリして……。

 ホントはアタシ、戦いが好きなんじゃないか、イルメールと同じように、そういうジャンキーなんじゃないか、って……不安で、不安で……っ」


  自分が怖かった。

  父の遺した言葉を、戦いという存在の恐ろしさを、自分自身理解している筈なのに、実際にそれを成した筈なのに、自分の心が罪悪感や後悔で塗り固められる事がない事自体に、恐怖した。

  自分がこんな繊細な女であったのか、とも思ってしまう。

  男でありたい、男になりたいと、そう願っていた自分自身の弱さを、垣間見た気がして……言葉が止まらなかった。


 ――しかし、そんなリンナの、小さな身体を。

 クアンタの、リンナより少し大きいだけの身体が、彼女を包むようにギュッ、と抱きしめた。


  その力は強くて、少しだけ痛いけれど――リンナはその痛みが、どこか心地良かった。


「否定する」

「……クアンタ?」

「気分の転換はストレス等によって出力された虚力の適切放出故であり、お師匠の精神的異常等による結果ではない。お師匠が気に病む必要は無く、また今回の戦いによって、少なからず私の命が救われた。故に、お師匠の意見は否定する」


 慰めてくれている、という事で良いのだろうか。

  元々の彼女であれば、こうした言葉の節々に含まれた彼女の感情を読み取る事が出来ていたリンナであったが、今の彼女は少しわかり辛い。


  ……それでも、リンナは何だか、ホッとした。


  クアンタが、リンナの悩みを否定してくれた事もそうであるけれど……クアンタの根本が、決して変わっていないのだと、そう理解できたから。


「……クアンタ」

「何か」

「アンタは、感情を今は、無くしちゃってるかもしれない」

「かもしれない、ではなく、無くしている、が正しい」

「でもさ、アンタはやっぱりアンタなんだ。それが、アタシ今、すごく嬉しい」

「理解不能」

「出来なくていいよ。しなくていい。アタシは、今のアンタでも、前のアンタでも、アンタの事……」


 そこで、少し気恥ずかしくなったリンナは……眠ったフリをして、言葉を閉ざした。

  クアンタはそれ以上、何も言う事は無く、恐らく今の彼女からして、眠っても居ないのだろうとは思う。


  ――けれど、それで良い。



(アタシは、クアンタが好き。弟子とか、弟子じゃないとか、感情があるとかないとか、関係なしに……クアンタが、好き)



 いつの間にか意識を閉ざしていたリンナの寝顔は、安らかであったし。


「……お師匠のストレス値、低下を確認」


 クアンタも、そんな彼女の頭をそっと撫でて。


  ――僅かに口角が吊り上がっていた自分自身の事を、自覚していなかった。
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