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第十六章
菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)-10
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漁港の停舶所から搭乗したイルメールの有する船舶は、操縦席のある上部と旅客室のある下部に分けられた構造で、数人の宿泊も可能な中型クルージング船となっており、クアンタとリンナ、アルハットの三人は旅客室へと通され、大きなソファに腰かける。
そしてイルメールとカルファス、ヤエの三人が操縦室へと向かうと、片腕を失い操縦が出来ないイルメールに代わり、カルファスが魔導動力機にスイッチを入れ、疑似貯蔵庫に溜められていたマナが動力機を稼働させる。
瞬間、船全体が一瞬だけガクンと揺れる様に動いたが、後に僅かな振動で揺れながらも、船舶は安定している事を確認した。
「船動かすの久々だなぁ」
「カルファス、オレの船だぜ? 壊すなよ?」
「壊したら直してあげるから大丈夫大丈夫」
「オメェの操縦はオレより荒っぽいからな……」
イルメールが軽やかにカルファスと会話をしながら海図を開いて、ヤエが近隣海図の端に描かれた、岩場の多い地帯を示す。
「ここ――岩場が集中している場所があるだろう?」
「移動距離としちゃ、一時間とちょい位か」
「百十二米寸でしょ? なら三十分で行けるよぉ!!」
「だから荒っぽい運転すンなよッ!?」
「さぁさぁ、出発だ出発。カルファス、事故っても良いが大破はさせるなよ?」
「いやだからオレの船なンだッてばッ!!」
了解、と舌なめずりをしたカルファスが、その操縦桿に触れながら、脚部のフットペダルを踏み込み、スクリューの回転を行わせる。駆動音と共にゆっくりと前進を始めた船だったが、一瞬の間に強く揺れ始め、急速に海面を走り出した。
「いやっほ――ッ!! 揺れにご注意くださーいっ!!」
「揺らしてから言うンじャねェよバカっ!!」
窓から見える景色が猛スピードで遠ざかっていく姿を端目に、ヤエは何食わぬ顔で操縦室から旅客室へと降りる。
そこには先ほどの揺れでシェイクされたのか、ソファの上に寝転がるクアンタと、クアンタの胸に顔から飛び込んでいるリンナ、床に倒れてリンナに胸を鷲掴みされて顔を真っ赤にしているアルハットの姿が。
「おーい、無事か?」
「……り、リンナのえっち……ッ!!」
「ち、違うよアルハット!? わざとじゃないよ!? アルハットが倒れそうだったから何とか支えようとしただけだもんあわよくばポロリなんて考えてないよ!?」
「お師匠。直に胸元で喋られると、こう、何か違和感が」
「ごめんねクアンタ、すぐ退くよっ!」
と言いつつその場から顔を退かすのに十秒ほど時間を必要としていたリンナが、若干はにかんだ表情で、顔を赤くしてプイとリンナから目を逸らしつつ、ソファへ腰かけ直したアルハットにペコリと頭を下げる。
「ごめんねアルハット。ホントにわざとじゃないの……えへ、えへへ」
「そんなニヤついた顔で謝られても、信じないわ……っ」
リンナの頬を軽くパシンと叩いて、それでチャラとしたアルハット。クアンタが身体を起こすと、対面にどっしりと腰かけて煙草を咥えるヤエと、アルハットへ問う。
「この船の動力も、魔導機なのか?」
「ええ、魔導動力機ね。この船の場合はマナを燃料として駆動させる仕組みよ。詳細は長くなるから説明しないけれど」
「陸地移動は馬車で、船はエンジン駆動……か。相変わらずチグハグだな」
以前、アメリア領へと初めて訪れた際にもクアンタが感じた事だが、このゴルサという星……というよりレアルタ皇国の技術レベルは非常に高く、地球技術にも匹敵し得る部分もあるというのに、一部技術や民衆へと渡るべき技術が、数段階ダウングレードされたモノであったりする。
そうした技術がある筈であるのに、その技術を実用化しないだけなのか、それとも実用化出来ない事情があるのか、その辺りは気になる所である。
「まぁ、そう言う世界だからな。あまり気にするとハゲるぞクアンタ」
「そういう世界? どういう意味だ神さま」
「忘れろ……とは言わんが、今は気にするな。どうせ私も答えられん」
「じゃあ神さまは、なんで思わせぶりな事いっぱい言うの?」
「すみませんねリンナさん。その辺もあまり詳しくは言えないんですよ。……ま、クアンタとアルハットは察してると思うがな」
既に気付いている事だ。
ヤエは自身の持つ能力故に、一部情報伝達に制限が科されているが、どうやらその制限に関する判定はある程度甘くされているようで、言葉の節々に情報を織り交ぜて喋る事により推察・仮説を立てさせる余地を残しているのだ。
――そして、その仮説が正しいかどうか、それを答える事は、今までの傾向からして出来るようだ。
「神さま、コレは仮説だが、『はい』か『いいえ』かで答えてくれるか?」
「分かった。『基本いいえと答えて』やる」
「このゴルサという星は、地球と何か関係があるのか?」
「『答えられない』な」
「そうか、では次の仮説だが……私がいる星は本当に、塩基系第二惑星ゴルサなのか?」
「……『答えられない』な」
ヤエは仮説に対して『基本いいえと答えてやる』と言ったが、実際には二つの仮説に『答えられない』と返した。
リンナは首を傾げながら理解していないと言った様子だったが、アルハットとクアンタは、顎に手を当てて、思考を回す。
(神さまはこれまでの傾向から、仮説が正しかった場合、それが正しい事を解答できると思われる)
(そして今回はクアンタの出した仮説に、正しいという解答がされなかった)
(そして、完全に仮説が誤りであった場合は『いいえ』と答えるべき所を、彼女は『答えられない』という返答にした)
(つまり……間違ってはいるけれど、着眼点は正しい、という事なのかしら?)
クアンタの仮説は自身が飛ばされた星が『塩基系第二惑星ゴルサ』ではなく『地球と関連した別の星』ではないか、というものである。
だがそれでは塩基系第二惑星ゴルサに派遣されていた筈のマリルリンデがこの星に居る事がおかしくなるので、この仮説が誤りであるという事自体に問題はない。
問題はそもそも『答えられない』という返答である。
(ルワンという姫巫女の変身に際し、発せられた『変身』という日本語の音声入力。
お師匠の知る『指切りげんまん』という日本のまじない。
そして何より……『この星の生命体も、生命体が生存可能な環境も含め、地球とほぼ同一である事自体』がそもそもおかしな事なんだ。
この星は必ず、地球と密接な関係がある筈だ)
紫外線量、酸素量、生存している種は共通し、さらには名や動力源がマナという点が異なるだけで、地球とほとんど同じ進化を遂げている技術や資源。
クアンタの中にある情報として、フォーリナーはこれまで多くの有機生命体を観測しているが、しかし異なる星である筈なのにほとんど同一と言っても良い進化を遂げている種はいない。
それはそもそも、存在する星の座標が少しでも異なれば有機生命体の在り方が、そして進化の仕方が根本から異なってくる事に繋がる筈だからだ。
「……もしかして、この星は」
クアンタが思考し、言葉にして放とうとした瞬間の事だった。
船がガゴンとイヤな音を鳴らしながら宙へ舞った。と思った次の瞬間には海面へ着水、船全体に水しぶきを浴びさせると、客室に海水が侵入し、クアンタたちの全身を濡らした。
「た……煙草が全部湿気った……ッ!!」
丁度新しい煙草を咥えようとボックスの蓋を開けていた時に海水が思い切りかかったから、全ての煙草が海水を浴びて湿気てしまい、箱ごとグシャリと潰しながら悔しがるヤエ。
『揺れにご注意くださーいっ!!』
『だから遅ェし揺れ所じゃねェし浅瀬を利用した海面ジャンプとか全員を殺す気かカルファスッ!!』
どうやらカルファスがとんでもない事を仕出かしたようだが、しかし船は問題無く現在も航行を続けているところから、大きな問題は無いと言う事だろう。
だが普段メチャクチャな事をしている筈のイルメールがツッコみをする状況という事は、それなりにカルファスが暴走しているという事に他ならず、何だか真面目な話をしているのがバカらしくなってきたようだ。
「クアンタ。正直その話題は、今後の災い対策には、そして『リンナさんを守る』という点に関しては、ほとんど役立たん。だから今ここで気にする事じゃ無い、とだけは言っておこう」
「――その言葉に嘘は無いな?」
「ああ。……まぁ私の与り知らん所で関わってきたら、それは私のせいじゃないとだけ弁解はするけど」
「不穏な言葉を残さないでヤエさん……」
さて、と言わんばかりに手を合わせ、ヤエが立ち上がる。
「カルファスが飛ばしまくった『おかげ』なのか『せい』なのか、目的の場所に着くぞ」
スクリューの回転を逆にして、制動を行う船全体の動きが感じられた。
このままゆっくり停船をするのだろうと考えたリンナとアルハットだったが――『ガゴンッ』と思い切り岩場にぶつかったようで、船全体が船尾の方から浮いた結果、再び三者が客室内を転がった。
なお、ヤエは床とソファに足と尻が張り付いているかの如く、平然とソファに腰かけたままであったが「うぷっ、酔う……」と言ってる所から衝撃などは感じているらしい。
「あ……っ」
「んっ」
「ぶふぇっ」
床に転がる筈だったリンナの顔面に、柔らかいモノが当たった。そして両手には、何か布のような質感のものが二つ、握られている
顔に当たっている感触は、アルハットかクアンタの乳房だとすぐに判断したリンナだが、どっちの乳房なのかを判断できなかった。
(あれ、おかしいな。顔に当たってる右のおっぱいはクアンタだと思うけど、左のおっぱいはアルハットのおっぱいだ。
しかもこの感触からして、水着越しじゃない……さらに私は、右手にも左手にも、何か布状のモノを持ってる……って事はつまりぃっ!!)
ちなみにこの時に巡らせた思考は僅か0.005秒。
慌てて身体を起き上がらせ、自分の手に持っているモノと、床に倒れるアルハットとクアンタの姿を確認する。
それは、衝撃によって転げ回った時、リンナを慌てて庇おうとしたアルハットと、衝撃の計算を行いつつリンナとアルハットを庇おうとしたクアンタの動きが合わさった結果、引き起こされた事態なのだろう。
クアンタとアルハットは顔と顔を近づけ、もう少しで唇同士が触れ合う距離にまで接近し、二人の胸部に実った膨らみは重なり、潰れ合っている。
ほとんど、抱き合っていると言っても良い。
そしてクアンタとアルハットの両名が衝撃から守ろうとしていた結果、二人の重なり合う乳房の間に顔を突っ込んでしまったリンナは――恐らくその寸前、倒れ込んだ手が、クアンタとアルハットの水着を乱雑に掴んで、引っ張ってしまったのだろう。
魔術外装処理が行われている水着だが、しかし水着自体が乱雑に掴まれ、引っ張られたりした際、装着者に水着が食い込んで締め付けてしまう事が無いよう、自動で紐が解ける設定にでもなっていたと思われる。
リンナの手には、紐が解けた状況で、アルハットとクアンタのビキニがリンナの手に残ったのだ。
「……うん、なんていうか、おっぱい同士が重なり合ってるって乙な物だね。あと、滴る海水が光沢になってて、めちゃくちゃ良い……」
「……り……っ、リンナの、えっちぃいいっ!!」
急いで身体を起こし、揺れる乳房を左手で隠しながら、アルハットは海水か涙か分からぬ雫を溢しつつ、リンナの頬を思い切り叩いた。……なおクアンタも、流石にリンナを庇う気にはなれなかったようだ。
「あれはお師匠が悪い」
「わざとじゃないのに……でもアタシ、神さまの事をホントの神さまって信じるね」
「え、今まで信じてなかったんですかリンナさん」
何にせよ、目的地には到着したようだった。
そしてイルメールとカルファス、ヤエの三人が操縦室へと向かうと、片腕を失い操縦が出来ないイルメールに代わり、カルファスが魔導動力機にスイッチを入れ、疑似貯蔵庫に溜められていたマナが動力機を稼働させる。
瞬間、船全体が一瞬だけガクンと揺れる様に動いたが、後に僅かな振動で揺れながらも、船舶は安定している事を確認した。
「船動かすの久々だなぁ」
「カルファス、オレの船だぜ? 壊すなよ?」
「壊したら直してあげるから大丈夫大丈夫」
「オメェの操縦はオレより荒っぽいからな……」
イルメールが軽やかにカルファスと会話をしながら海図を開いて、ヤエが近隣海図の端に描かれた、岩場の多い地帯を示す。
「ここ――岩場が集中している場所があるだろう?」
「移動距離としちゃ、一時間とちょい位か」
「百十二米寸でしょ? なら三十分で行けるよぉ!!」
「だから荒っぽい運転すンなよッ!?」
「さぁさぁ、出発だ出発。カルファス、事故っても良いが大破はさせるなよ?」
「いやだからオレの船なンだッてばッ!!」
了解、と舌なめずりをしたカルファスが、その操縦桿に触れながら、脚部のフットペダルを踏み込み、スクリューの回転を行わせる。駆動音と共にゆっくりと前進を始めた船だったが、一瞬の間に強く揺れ始め、急速に海面を走り出した。
「いやっほ――ッ!! 揺れにご注意くださーいっ!!」
「揺らしてから言うンじャねェよバカっ!!」
窓から見える景色が猛スピードで遠ざかっていく姿を端目に、ヤエは何食わぬ顔で操縦室から旅客室へと降りる。
そこには先ほどの揺れでシェイクされたのか、ソファの上に寝転がるクアンタと、クアンタの胸に顔から飛び込んでいるリンナ、床に倒れてリンナに胸を鷲掴みされて顔を真っ赤にしているアルハットの姿が。
「おーい、無事か?」
「……り、リンナのえっち……ッ!!」
「ち、違うよアルハット!? わざとじゃないよ!? アルハットが倒れそうだったから何とか支えようとしただけだもんあわよくばポロリなんて考えてないよ!?」
「お師匠。直に胸元で喋られると、こう、何か違和感が」
「ごめんねクアンタ、すぐ退くよっ!」
と言いつつその場から顔を退かすのに十秒ほど時間を必要としていたリンナが、若干はにかんだ表情で、顔を赤くしてプイとリンナから目を逸らしつつ、ソファへ腰かけ直したアルハットにペコリと頭を下げる。
「ごめんねアルハット。ホントにわざとじゃないの……えへ、えへへ」
「そんなニヤついた顔で謝られても、信じないわ……っ」
リンナの頬を軽くパシンと叩いて、それでチャラとしたアルハット。クアンタが身体を起こすと、対面にどっしりと腰かけて煙草を咥えるヤエと、アルハットへ問う。
「この船の動力も、魔導機なのか?」
「ええ、魔導動力機ね。この船の場合はマナを燃料として駆動させる仕組みよ。詳細は長くなるから説明しないけれど」
「陸地移動は馬車で、船はエンジン駆動……か。相変わらずチグハグだな」
以前、アメリア領へと初めて訪れた際にもクアンタが感じた事だが、このゴルサという星……というよりレアルタ皇国の技術レベルは非常に高く、地球技術にも匹敵し得る部分もあるというのに、一部技術や民衆へと渡るべき技術が、数段階ダウングレードされたモノであったりする。
そうした技術がある筈であるのに、その技術を実用化しないだけなのか、それとも実用化出来ない事情があるのか、その辺りは気になる所である。
「まぁ、そう言う世界だからな。あまり気にするとハゲるぞクアンタ」
「そういう世界? どういう意味だ神さま」
「忘れろ……とは言わんが、今は気にするな。どうせ私も答えられん」
「じゃあ神さまは、なんで思わせぶりな事いっぱい言うの?」
「すみませんねリンナさん。その辺もあまり詳しくは言えないんですよ。……ま、クアンタとアルハットは察してると思うがな」
既に気付いている事だ。
ヤエは自身の持つ能力故に、一部情報伝達に制限が科されているが、どうやらその制限に関する判定はある程度甘くされているようで、言葉の節々に情報を織り交ぜて喋る事により推察・仮説を立てさせる余地を残しているのだ。
――そして、その仮説が正しいかどうか、それを答える事は、今までの傾向からして出来るようだ。
「神さま、コレは仮説だが、『はい』か『いいえ』かで答えてくれるか?」
「分かった。『基本いいえと答えて』やる」
「このゴルサという星は、地球と何か関係があるのか?」
「『答えられない』な」
「そうか、では次の仮説だが……私がいる星は本当に、塩基系第二惑星ゴルサなのか?」
「……『答えられない』な」
ヤエは仮説に対して『基本いいえと答えてやる』と言ったが、実際には二つの仮説に『答えられない』と返した。
リンナは首を傾げながら理解していないと言った様子だったが、アルハットとクアンタは、顎に手を当てて、思考を回す。
(神さまはこれまでの傾向から、仮説が正しかった場合、それが正しい事を解答できると思われる)
(そして今回はクアンタの出した仮説に、正しいという解答がされなかった)
(そして、完全に仮説が誤りであった場合は『いいえ』と答えるべき所を、彼女は『答えられない』という返答にした)
(つまり……間違ってはいるけれど、着眼点は正しい、という事なのかしら?)
クアンタの仮説は自身が飛ばされた星が『塩基系第二惑星ゴルサ』ではなく『地球と関連した別の星』ではないか、というものである。
だがそれでは塩基系第二惑星ゴルサに派遣されていた筈のマリルリンデがこの星に居る事がおかしくなるので、この仮説が誤りであるという事自体に問題はない。
問題はそもそも『答えられない』という返答である。
(ルワンという姫巫女の変身に際し、発せられた『変身』という日本語の音声入力。
お師匠の知る『指切りげんまん』という日本のまじない。
そして何より……『この星の生命体も、生命体が生存可能な環境も含め、地球とほぼ同一である事自体』がそもそもおかしな事なんだ。
この星は必ず、地球と密接な関係がある筈だ)
紫外線量、酸素量、生存している種は共通し、さらには名や動力源がマナという点が異なるだけで、地球とほとんど同じ進化を遂げている技術や資源。
クアンタの中にある情報として、フォーリナーはこれまで多くの有機生命体を観測しているが、しかし異なる星である筈なのにほとんど同一と言っても良い進化を遂げている種はいない。
それはそもそも、存在する星の座標が少しでも異なれば有機生命体の在り方が、そして進化の仕方が根本から異なってくる事に繋がる筈だからだ。
「……もしかして、この星は」
クアンタが思考し、言葉にして放とうとした瞬間の事だった。
船がガゴンとイヤな音を鳴らしながら宙へ舞った。と思った次の瞬間には海面へ着水、船全体に水しぶきを浴びさせると、客室に海水が侵入し、クアンタたちの全身を濡らした。
「た……煙草が全部湿気った……ッ!!」
丁度新しい煙草を咥えようとボックスの蓋を開けていた時に海水が思い切りかかったから、全ての煙草が海水を浴びて湿気てしまい、箱ごとグシャリと潰しながら悔しがるヤエ。
『揺れにご注意くださーいっ!!』
『だから遅ェし揺れ所じゃねェし浅瀬を利用した海面ジャンプとか全員を殺す気かカルファスッ!!』
どうやらカルファスがとんでもない事を仕出かしたようだが、しかし船は問題無く現在も航行を続けているところから、大きな問題は無いと言う事だろう。
だが普段メチャクチャな事をしている筈のイルメールがツッコみをする状況という事は、それなりにカルファスが暴走しているという事に他ならず、何だか真面目な話をしているのがバカらしくなってきたようだ。
「クアンタ。正直その話題は、今後の災い対策には、そして『リンナさんを守る』という点に関しては、ほとんど役立たん。だから今ここで気にする事じゃ無い、とだけは言っておこう」
「――その言葉に嘘は無いな?」
「ああ。……まぁ私の与り知らん所で関わってきたら、それは私のせいじゃないとだけ弁解はするけど」
「不穏な言葉を残さないでヤエさん……」
さて、と言わんばかりに手を合わせ、ヤエが立ち上がる。
「カルファスが飛ばしまくった『おかげ』なのか『せい』なのか、目的の場所に着くぞ」
スクリューの回転を逆にして、制動を行う船全体の動きが感じられた。
このままゆっくり停船をするのだろうと考えたリンナとアルハットだったが――『ガゴンッ』と思い切り岩場にぶつかったようで、船全体が船尾の方から浮いた結果、再び三者が客室内を転がった。
なお、ヤエは床とソファに足と尻が張り付いているかの如く、平然とソファに腰かけたままであったが「うぷっ、酔う……」と言ってる所から衝撃などは感じているらしい。
「あ……っ」
「んっ」
「ぶふぇっ」
床に転がる筈だったリンナの顔面に、柔らかいモノが当たった。そして両手には、何か布のような質感のものが二つ、握られている
顔に当たっている感触は、アルハットかクアンタの乳房だとすぐに判断したリンナだが、どっちの乳房なのかを判断できなかった。
(あれ、おかしいな。顔に当たってる右のおっぱいはクアンタだと思うけど、左のおっぱいはアルハットのおっぱいだ。
しかもこの感触からして、水着越しじゃない……さらに私は、右手にも左手にも、何か布状のモノを持ってる……って事はつまりぃっ!!)
ちなみにこの時に巡らせた思考は僅か0.005秒。
慌てて身体を起き上がらせ、自分の手に持っているモノと、床に倒れるアルハットとクアンタの姿を確認する。
それは、衝撃によって転げ回った時、リンナを慌てて庇おうとしたアルハットと、衝撃の計算を行いつつリンナとアルハットを庇おうとしたクアンタの動きが合わさった結果、引き起こされた事態なのだろう。
クアンタとアルハットは顔と顔を近づけ、もう少しで唇同士が触れ合う距離にまで接近し、二人の胸部に実った膨らみは重なり、潰れ合っている。
ほとんど、抱き合っていると言っても良い。
そしてクアンタとアルハットの両名が衝撃から守ろうとしていた結果、二人の重なり合う乳房の間に顔を突っ込んでしまったリンナは――恐らくその寸前、倒れ込んだ手が、クアンタとアルハットの水着を乱雑に掴んで、引っ張ってしまったのだろう。
魔術外装処理が行われている水着だが、しかし水着自体が乱雑に掴まれ、引っ張られたりした際、装着者に水着が食い込んで締め付けてしまう事が無いよう、自動で紐が解ける設定にでもなっていたと思われる。
リンナの手には、紐が解けた状況で、アルハットとクアンタのビキニがリンナの手に残ったのだ。
「……うん、なんていうか、おっぱい同士が重なり合ってるって乙な物だね。あと、滴る海水が光沢になってて、めちゃくちゃ良い……」
「……り……っ、リンナの、えっちぃいいっ!!」
急いで身体を起こし、揺れる乳房を左手で隠しながら、アルハットは海水か涙か分からぬ雫を溢しつつ、リンナの頬を思い切り叩いた。……なおクアンタも、流石にリンナを庇う気にはなれなかったようだ。
「あれはお師匠が悪い」
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