魔法少女の異世界刀匠生活

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第十七章

神霊-03

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『これは……?』

「姫巫女の亡骸だよ。お前ら皇族が七十六年前に聖堂教会を解体し、抵抗する事なく捕らえられた姫巫女達に、虐殺と凌辱の限りを尽くした後、この海域に死体を投棄したんだ。

 ――神はそれに大層悲しんでね。姫巫女達には心安らかな眠りに就いて欲しくて、天然の鍾乳洞であるこの場所まで亡骸を持ってきた、というわけさ」

『その神ッてのは、アンタの事か?』

「いいや、私は違うよ。――それより」


 イルメールの問いに首を振ったヤエが今、地面を蹴って姫巫女達の亡骸を飛び越し、鍾乳洞の奥へと着地した。

  ついてこい、という意味ではない。

  彼女がしたのは、避難である。

  
  カラカラカラ、と。

  白骨が音を鳴らしながら、動き始めた。

  最初は自分の関節部を理解していないかのようにグラグラと身体を揺らしていたが、しかしやがて自身の身体をしっかりと認識したのか、立ち上がり、その欠けた骨で錆びた長太刀の柄を掴んで――ギロリと、その頭蓋骨に本来ある筈の無い眼光を灯らせる。


『な……何、コレ……っ!』

『……まさか、コレって』

「気付いたかカルファス。……そうだ、姫巫女達は強大な虚力を有するが故に、死した後も亡骸に虚力が残り続けた。

 残り続けた虚力は源の泉に近いこの場所で、高純度のマナを当てられ続けた結果として混ぜ合わさり、既に肉も無く、個々人の意志も無い死体になり果てた体すら動かす程の力となった。

  まぁ簡単に言えば……皇族に対する怨念が虚力として残り続け、その虚力が高純度のマナによって肥大化した結果、亡骸を動かすまでに至った、というわけさ」


 立ち上がった亡骸は二十人弱。

  その姿を見据えてクアンタは――何時になく青い表情で、後ずさった。


『く、クアンタ?』

『……なにか、わからないが……身体が、震える』


 ヤエの言う通り、全ての亡骸から放出される虚力と高純度のマナの集合体が、それらを動かしているという事実は認識した。

  だが、クアンタが震える理由は、その虚力に当てられたからではない。

  そもそも死して二度と動かぬ筈の有機生命体、それも肉が腐り落ちている筈であるにも関わらず、強力な意思を持ち、立ち上がり、こちらを敵と認識しているという事実が、言いようの無い感覚となってクアンタの背筋辺りを撫でている。


『……つまり、幽霊怖い、みたいな?』

『幽霊……そ、そうか……アレが、幽霊か……こ、怖い……のか……? 私は……』


 斬心の魔法少女として強力な力を持ち得るクアンタが怯えるそれら――姫巫女の怨霊達が、今一斉に錆びた長太刀を構えながら、前進を開始した。

  ガシャンガシャンと骨と地面の接触音を鳴らしながら迫ってくる光景に、思わずクアンタは『ひっ』と、普段漏らす事のない声をあげてしまう。


(……こんな時になんだけど、ちょっと可愛いかも)


 何にせよ、ただでやられるわけにはいかない。

  リンナはヤエから渡されていたマジカリング・デバイスのボタンを押し込み、放たれる〈Devicer・ON〉という機械音声に合わせ、声を上げる。


『変……身ッ!!』

〈HENSHIN〉


 リンナの周囲を襲う暴風と共に、彼女の身体が変貌を遂げる。

  黒へと色を付けた髪は長く伸び、長丈で一つにまとめられて、今襲い掛かろうと駆け出してくる亡骸たちと同じく、緋袴と白衣をまとい、草履を履いた彼女が長太刀・【滅鬼】を抜き放つと、クアンタを守る様に立つ。

 振り込まれる錆びた刃を、それぞれ避けていく皇族の面々。

  イルメールは右手の掌底で、錆び付きながらも鈍器としては優秀な刃を受け流しつつ、その腹部に膝蹴りを叩き込むが、しかし一度倒れ込んでもすぐに立ち上がり、また太刀を掴んで襲い掛かってくる。

 アルハットは先ほど海底トンネルを通った際に体力を使い果たしているカルファスを守る様に、彼女の手を引いて刃から逃れていくも、しかし数が多い。


『っ、! この亡骸たち、私たち皇族を狙ってる!』

『まぁ……そうだろうねぇ……もしヤエさんの言ってる事が本当なら、恨みは全部皇族の私たちを殺す事で晴らさないと……!』


 と、そんな中、一体の亡骸が疾く動いた。

  上段からカルファスとアルハットの繋ぐ手を斬るように振り込まれた滅鬼の刃に、思わず手を離してしまったアルハットが視線をそちらへやると、続けて身を僅かに屈ませながら、肩部をアルハットの腹部へと叩きつける。


『ぐぅ……ッ』

『アルちゃんっ!』


 本当に白骨死体か、と疑いたくなる程の威力で突き飛ばされたアルハットが地面に転がりながら、しかし姿勢を整えて地面を滑りつつ、何とか流される事無く持ってくる事の出来た腰部のポーチから試験管を取り出し、コルクを抜き放つと地面へ水銀を落とした。


『行け――ッ!』


 指を鳴らすと同時に発せられる青白い光が水銀を包むと、それは意思を持っているかのようにグニャリと鞭のようにしなやかな挙動で、亡骸へと延びていくが、しかしそれの動きは速かった。

  長太刀の棟で水銀を弾き飛ばすと地面を蹴り、宙へ跳ぶと共に刃をアルハットへ向け、一閃。

  寸での所で水銀を戻し、刃を防ぐ事に成功したアルハットだったが、相対する者の技量に思わず息を呑む。


『これが姫巫女の力……!?』

「元々彼女たちは固有能力を持ち得る名有りの災い達と戦う為に研鑽を積んできた先鋭だったんだぞ。そりゃあ生半可の力ではないさ」


 今、三体の亡骸が同時に、複数の方向から刃を振るってきた。

  前面の攻撃に対応するために水銀を操作するアルハットだが、左右から来られる攻撃はどうにも対処は出来ない――と、錆びた刀による殴打を覚悟した、その時。


『ぜぁああッ!!』


 左方からの攻撃を放とうとする亡骸に対して体当たりを仕掛け、すれ違いざまに刃を振るい、もう一体の亡骸に対して攻撃を放つリンナによって窮地を救われ、アルハットは『リンナ!』と感謝代わりに名を呼ぶ。


『アンタら、昔の皇族に何されたか知らないけどさ、今の皇族やアタシ等は関係ないじゃん! 恨むのは筋違いでしょ!』

『リンナ、それは違ェよ』


 亡骸の刀を振るう腕を乱雑に掴みながら手首の骨を強引に握りつぶしたイルメールが、姿勢を崩した亡骸に蹴り付け、吹き飛ばしながら、別の亡骸に向けて殴りかかった。


『オレも昔の皇族が何したか、それを詳しくは知らねェ。でも、もしソイツ等が何か仕出かして、この骨共が死ぬ要因になッたなら、それは今のオレ達にも責任があるさ』


 逃げるカルファスを背中で守りながら、今四体の亡骸が襲い掛かってくる様子が視認できたイルメールは、強く地面を踏みつける様に、蹴る。

  瞬間、彼女の逞しい脚部が地面を踏んだ圧力が衝撃波となったように、一瞬動きを止めるばかりか、僅かに地面から浮いた亡骸達を、一斉に左脚部の回し蹴りで、文字通り一蹴。


『イィ機会だ、アルハットも覚えとけ。力がある奴にはそれ相応の責任ッつーのがある。オレ達皇族は、皇族だからこそ金も権力もある。そう言うのがあるから、アメリアやシドニアみてェに賢い子供も育てやすいし、オレみてェな身体作りをする環境もある』


 カルファスにチラリと視線をやり、振るわれる刃から逃げる程度の体力を取り戻しただろうと認識。その場から駆け出し、今リンナとアルハットが倒しあぐねている骸達に、鋭い右の拳を振り抜き、砕けさせた。


『人類皆平等……とかいう奴いるけどよ、オレはそう思わねェ。生まれた環境だとか身体の障害だとかで、どうしたッて弱いヤツ……弱者ッてのは生まれるモンだ。だからこそ強者は、強者なりに責任を持ち、自分の行動がヒトや世界を変える事も出来るンだッつーのを、自覚しなきャなンねェ。つまり、オレ等皇族の事だ』


 錆びた刀で斬り付けられても、イルメールはその胸筋と腹筋で弾き、動きが止まった所を、冷静に喉元や恥部を蹴り付ける事で戦闘不能にしていく。

  可能ならば頭蓋も踏み砕き、二度と立ち上がらぬよう、念入りに。


『もし、オレ等より前の皇族が色々やらかしてンなら、その結果をオレ等が受け止め、償い、次に繋げてかなきャなンねェ……それが、オレ達【力ある者】の責務だ』

「……と、言う割には……情け容赦なく亡骸をブッ壊していくなぁイルメール」

『ッたりメェだ。責任はあるけどオレ等が殺される必要はねェし、襲い掛かッてくるッつー事は「殺られる覚悟」も必要ッてコトだ。コイツ等にはオレ等皇族の命を狙う理由はある、ッてダケ』


 恐怖で震え、口を結び、目を伏せるクアンタの前に立ち、彼女の胸倉を掴んだイルメールが、彼女の身体を鍾乳洞の隅へと放り投げる。


『戦えねェなら邪魔だ。カルファスみてェに逃げてろ』

『す……既に、死んでいる者と……どう戦えと……?』

『あ? 頭いいお前がなに言ッてンだよ。コイツ等、骨ッて身体があるから襲い掛かッてくるわけだろ? なら、骨を粉々にまで砕いてやりャ勝てるだろ』

『イル姉さま……すっごい罰当たりな事言ってる……』

『殴って倒せる敵なら恐れる必要はねェッてダケだ。――クアンタ、リンナを守りてェンじャねェのか?』


 来いよ、と言わんばかりに右手の人差し指でクアンタを呼ぶイルメール。

  そしてクアンタも、まだ僅かな恐怖はありつつも、イルメールが言うように、骨という身体があるからこそ襲い掛かってくる敵の対処法と、リンナを守るという使命を想い――唇を結びながら、前へ足を出す。


『……行くぞ、イルメール』

『後でオメェがビビッてたッてサーニスとかシドニアに言い触らしてやるよ』

『……言い触らしてみろ。私がお前を殺す』

『ならビビってたって思われねェように行動で示せッ!!』

『……了解!』


 イルメールとクアンタが同時に、骸達へと向けて突撃した。

  クアンタは落ちていた錆び付いた長太刀を手に取り、敵の振るう一閃に刃を合わせながら、錆び付いた刃では意味が無いと知っているからこそ、その柄部分で頭蓋を殴打し、粉々に砕けさせる。

  イルメールは右腕を乱雑に振るい、頭蓋を掴むと別の骸へと叩きつけ、身体が転がった隙を見逃さないと言わんばかりに、脚部を振り下ろして頭蓋を潰す。


『ホラなクアンタ! 頭蓋ブッ潰せばもう起き上がって来ねェだろ!』

『そうだな』

『まだ怖ェか?』

『……若干。だが、対処法があるならば、それを成すだけだ』
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