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第十七章
神霊-02
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岩の大きさから予想はついたが、海底トンネル内は横並びで十人ほどが通れる程の広い通りとなっており、気を付けて流されればぶつかる事は無いかもしれない。
押し流される体は海水の抵抗によって動かす事も難しい――かと思われたが、魔術外装となる水着が抵抗を僅かに消しているのか、一応動かす事は出来る。
だが問題は、魔術外装処理がなされている水着を装着していなければ体ごと潰されそうな濁流の中で姿勢の制御をしろ、という事自体が難しい。
『全員トンネル壁に当たらないようにだけ注意しろ! 岩は』
『ふんっ!』
猛スピードで流されていく一同、その先頭を任されていたイルメールが、動きも抑制され、また流されることによって上手く動く事が出来ぬ状態である筈なのに、短く放つジャブで、小さな岩をどんどんと破壊していく。
『――岩や海底ゴミはあの通り、イルメールが破壊するか、軌道を変える! 他の面々はトンネル壁や隆起した岩場にぶつからないようにだけ気を付けあばばばば』
『神さまがぶつかってどうする』
『いや前見てなかったうごごごご痛い痛い痛い、神さまだから死なないけど痛みはあるぞ!?』
何度も壁や隆起した岩場に身体をぶつけて血だらけになりながらも平然としているヤエだが、既に彼女は壁にぶつかった衝撃や海水の流れによってピンボールのようにガンガンガンガンと弾かれている。
ああなってはならない、とリンナは何とか流れの速い状態で身体を動かし、壁などにぶつかりそうになっても、クアンタが手を引いてくれる。
『やっぱ陸上の短縮魔術全然作用しないっ! 水中用の短縮設定も作るべきだねっ!』
アルハットの手を引きながら、自身の前面に斥力場でも作り出しているかのように、壁や岩などの障害物を全て弾いていくカルファス。アルハットは、海水の流れで錬成道具が流されて行かないようにしている事に必死で、既に口を開いていない。
『――っ、クアンタ! こっち来れるか!?』
『了解。アルハット、カルファス、お師匠を』
流れに乗る様に泳ぎ、アルハットとカルファスの二人にリンナの身体を任せる。
そのまま流れに乗ってイルメールに隣接すると、先の道にかなり大きな、故に流れに乗るスピードが遅い、巨大な岩が。
破壊して細かな粒にすれば、各々の装着している魔術外装処理がなされた水着でやり過ごせるが、直接当たればタダでは済まない。
『片腕のオレじゃ壊しきれねぇ!』
『なるほど、なら私が先に放つ』
元々水着であるからこそ、開かれた胸元からクアンタのマジカリング・デバイスを排出する。海水に流されぬように取り出したデバイスのボタンを押し、短く『変身』と言葉にすると光が放たれ、クアンタは斬心の魔法少女へと変身を果たした。
『いっせぇの――せぇっ!!』
『――っ!』
イルメールと呼吸を合わせるように、突き出した拳。
クアンタの拳が先に岩へと衝突し、岩に衝撃を加えると、続けざまにイルメールが叩き込んだ一撃により、粉々に砕け散っていく。
小さな粒が銃弾の様に、クアンタやイルメールへ襲い掛かるが、その程度ならば問題は無いとして受け流す。
『片腕じゃ、やっぱ勝手は違うな……っ!』
岩場を蹴りつけて流される体の軌道を変えるイルメールと、彼女の右手に引かれながら身体を動かし、殴打で岩を砕いていくクアンタ。
二者のコンビネーションに見惚れている余裕もない程、カルファスとアルハットは先の道を見据える。
『ヤエさん、後どれくらい!?』
『トンネルはこの後下方へ下がった後に上方へと向かう! 時間としてはこの速度で十分程度!』
『平衡感覚ズレてるから方向分からないんだけど、コレってレアルタ皇国内地方面じゃない!?』
『ああ、到着地点はカルファス領地底だぞ!』
『ウソマジで!?』
リンナの身体を抱えながら、今イルメールとクアンタが落とし損ねた大きめの岩を、真空状態にした空気を纏わせた拳で叩き壊すカルファス。
既に数分ほど流されているが、クアンタもイルメールも、休むことなく拳を振り続けている。
このままでは、目的地に到着するよりも前にイルメールの体力が尽きてしまう可能性も鑑みなければならない。
『――ヤエさんっ! 進行ルート、細かく分かる!?』
『直接脳にデータを送信していいならやるが』
『上等! 親機と子機を分けてる利点、見せてあげるっ!』
カルファスは左手首に装着されている、魔術支援デバイスを取り外すと、それを投棄。一度酸素ボンベと繋がるマウスピースを外し、自分の口で解放された左手首を強く噛んだ。
ゴリッ、と骨まで達する噛みつきが肌を伝わる感覚がしたが、カルファスは気にする事無く、ダクダクと流れる血を海水に浸し続ける。
『――この身を受け入れし母なる海、我が血を感じよ』
カルファスの口から溢れ出す言葉は、詠唱魔術と呼ばれる種類の魔術使役である。
普段は先ほどまで装着していた魔術支援デバイスに詠唱を登録する事により省略できる仕組みとなっているが、登録されている詠唱は全て地上、もしくは空中で使う事を想定した術式であるが故に、海中で使役する場合は、詠唱を口にしなければならない。
『我が血は宿業を宿し、宿業それ即ち剛を成す事也』
詠唱は思考するモノではなく、頭に浮かぶ文言を唱える事。時に支離滅裂な言葉となっていようが構わない。
その『詠唱を唱えている』という事実そのものが、マナを使役し、貯蔵庫から出て、魔術回路を循環する。
詠唱が長ければ長い程、マナはより純度を、力を高め、現実と虚構……つまり放たれる魔術の間にある齟齬を埋めるのだ。
『剛をこの手に。この手は全てを砕き、その果てに世界の容(カタチ)すら歪ませる――ッ!!』
イルメールがカルファスの狙いに気付いた。
クアンタの細い手首を乱雑に掴んで、彼女の動きを抑制すると、カルファスがリンナを抱えながら二者よりも前に身体を出した後――その左腕を思い切り、進行ルートに向けて、突き出した。
『【剛掌打破】――ッ!!』
左腕全体に纏われた斥力場が、突き出した腕の動きに合わせて、放出された。
猛スピードで流れる海水全体を巡る様に襲い掛かる斥力場。
進行ルート上は現在進行形でヤエから脳内に直接データを送信され、そのデータを頼りにカルファスは、斥力場を操作し、力場によってルート上にある障害物や障害となり得る岩場などを、破壊していく。
――今、全員に襲い掛かるは砕かれた岩の粒。
だが何度も言うように、細やかな粒程度であれば魔術外装によって無力化出来るし――これより先は、細やかな粒であろうと、カルファスの放つ力場の力によって、消滅させられていく。
『う――ォオオオオオッ!!』
マナの放出を完了したカルファスが、口の中にどれだけの海水が入り込もうと関係が無いと言わんばかりに叫んだ後、左腕を引いた。
斥力場が進行ルート上の障害を全て壊しきった、と言わんばかりに頷いた彼女に合わせ、ヤエが笑う。
『カルファス、お前凄いな。海水の流れを止めずに海水のルート進行上全ての障害だけを破壊する力場を放出するなんてな!』
『お……おかげでお腹の中海水でたっぷたぷだよ……っ』
『だが確かに【根源化の紛い物】であるお前でしか出来ない手段だ。私が送信したルートの位置情報を親機が解析し、子機のお前が親機の計算を基に魔術を放つなんてな!』
『アルちゃん、ゴメン、私ちょっと限界……リンナちゃん任せた』
『、了解しました!』
何にせよ、障害物や邪魔な岩場を全てカルファスが破壊したという事なら、この先はただ海水に身を任せ、壁などに身体をぶつけないように注意すれば良い。
ならば――と、クアンタとイルメールは激しい水の抵抗に逆らいつつ全員の背後に周り、流れに乗ってくる、質量が軽く流されやすい海底ゴミ等が皆を襲わないようにだけ注意する。
――そうして流され続けた先。
何やら、光が進行ルート上から差し込んでいるように見えた。
『出口だ! 全員衝撃に備えろ!』
ヤエの言葉に身体を丸めた全員。
彼女達は海水の流れに身を任せていると、身体が重力のある地上へと押し出され、転がった。
背中に感じる冷たい岩の質感、だが魔力外装が裂傷を防いでくれた結果、誰も怪我をする事無く、口や胃に溜まった海水を吐き出した。
「ごほ、ごほっ!」
特に、詠唱を唱えていた最中はずっと酸素ボンベを外していたカルファスは、辛そうに咳き込んだ。クアンタは彼女へと近づき、口から外されていた酸素ボンベのマウスピースを入れ込むと、ゆっくり肺に空気を入れ込むようにして、ようやく落ち着いたようだった。
『みんな……酸素ボンベ、まだ、外さないでね……今いるここも……酸素濃度は低いから……』
カルファスの言葉に全員が頷きつつ、今全員がいる場所を見渡す。
見た所、天然に出来た鍾乳洞、ともいうべき開けた場所だろうか。
ボコボコとしている岩肌と、天井から僅かに水滴が落ちて、ポタリポタリと鳴る音だけが響いている。
通ってきたトンネルからは最初こそ噴水の如く海水を噴き出していたが、次第に勢いを弱めていき、やがて流れを途絶えさせた。
先ほど見えた光は――鍾乳洞全体に点在する、何やら光り輝く岩が光源だろうか。
だが岩自体は宝石のようになっているわけでもなく、何か特殊な力のようなもので輝いているようにも見える。
『ここが源の泉、なのか? それにしては、海水以外に見当たらないが』
呼吸をする必要がない故に二酸化炭素を吐き出す事が無いクアンタも、念のため首元の通信機を用いて皆へ声を送る。
だが反してヤエは通信機を乱雑に外すと、クアンタの魔法少女外装を僅かに開けさせて胸元に手を突っ込み、彼女の中へと入れ込んでいた、リンナのマジカリング・デバイスを取り出した。
「リンナさん」
『え』
「変身の準備を。――敵は近いです」
ヤエの言葉を受けただけでは、彼女が何を言っているのかが分からなかったが、そんなリンナの心情を察してか否か、彼女はリンナにマジカリング・デバイスを押し付け、さっさと先へと進んでいく。
『ま、待ってヤエさん。ここは本当に源の泉なの?』
「正確に言うとまだだ。この先にあるが――その前に、お前ら皇族の罪を祓う必要があるだろう」
先へ進んでいくヤエへとついていく面々。
鍾乳洞の先へと進んでいくと、岩肌が放つ光が段々と強くなっている事に気付く。
だが、それに見惚れている場合では無かった。
――進んだ先、その鍾乳洞の奥には、積み重ねられた何かがあった。
それは、緋袴と白衣をまとったまま朽ち果てたと思われる、人骨だ。
長らく人によって触れられていなかった人骨は、しかし風化して砕ける事も無く、ただ形を保ち、積み重ねられている。
その傍には――海水や海風によって既に錆び付いた長太刀が多く存在した。
全て、災滅の魔法少女であるリンナや、姫巫女・ルワンの持つ長太刀【滅鬼】と、同様のもの。
押し流される体は海水の抵抗によって動かす事も難しい――かと思われたが、魔術外装となる水着が抵抗を僅かに消しているのか、一応動かす事は出来る。
だが問題は、魔術外装処理がなされている水着を装着していなければ体ごと潰されそうな濁流の中で姿勢の制御をしろ、という事自体が難しい。
『全員トンネル壁に当たらないようにだけ注意しろ! 岩は』
『ふんっ!』
猛スピードで流されていく一同、その先頭を任されていたイルメールが、動きも抑制され、また流されることによって上手く動く事が出来ぬ状態である筈なのに、短く放つジャブで、小さな岩をどんどんと破壊していく。
『――岩や海底ゴミはあの通り、イルメールが破壊するか、軌道を変える! 他の面々はトンネル壁や隆起した岩場にぶつからないようにだけ気を付けあばばばば』
『神さまがぶつかってどうする』
『いや前見てなかったうごごごご痛い痛い痛い、神さまだから死なないけど痛みはあるぞ!?』
何度も壁や隆起した岩場に身体をぶつけて血だらけになりながらも平然としているヤエだが、既に彼女は壁にぶつかった衝撃や海水の流れによってピンボールのようにガンガンガンガンと弾かれている。
ああなってはならない、とリンナは何とか流れの速い状態で身体を動かし、壁などにぶつかりそうになっても、クアンタが手を引いてくれる。
『やっぱ陸上の短縮魔術全然作用しないっ! 水中用の短縮設定も作るべきだねっ!』
アルハットの手を引きながら、自身の前面に斥力場でも作り出しているかのように、壁や岩などの障害物を全て弾いていくカルファス。アルハットは、海水の流れで錬成道具が流されて行かないようにしている事に必死で、既に口を開いていない。
『――っ、クアンタ! こっち来れるか!?』
『了解。アルハット、カルファス、お師匠を』
流れに乗る様に泳ぎ、アルハットとカルファスの二人にリンナの身体を任せる。
そのまま流れに乗ってイルメールに隣接すると、先の道にかなり大きな、故に流れに乗るスピードが遅い、巨大な岩が。
破壊して細かな粒にすれば、各々の装着している魔術外装処理がなされた水着でやり過ごせるが、直接当たればタダでは済まない。
『片腕のオレじゃ壊しきれねぇ!』
『なるほど、なら私が先に放つ』
元々水着であるからこそ、開かれた胸元からクアンタのマジカリング・デバイスを排出する。海水に流されぬように取り出したデバイスのボタンを押し、短く『変身』と言葉にすると光が放たれ、クアンタは斬心の魔法少女へと変身を果たした。
『いっせぇの――せぇっ!!』
『――っ!』
イルメールと呼吸を合わせるように、突き出した拳。
クアンタの拳が先に岩へと衝突し、岩に衝撃を加えると、続けざまにイルメールが叩き込んだ一撃により、粉々に砕け散っていく。
小さな粒が銃弾の様に、クアンタやイルメールへ襲い掛かるが、その程度ならば問題は無いとして受け流す。
『片腕じゃ、やっぱ勝手は違うな……っ!』
岩場を蹴りつけて流される体の軌道を変えるイルメールと、彼女の右手に引かれながら身体を動かし、殴打で岩を砕いていくクアンタ。
二者のコンビネーションに見惚れている余裕もない程、カルファスとアルハットは先の道を見据える。
『ヤエさん、後どれくらい!?』
『トンネルはこの後下方へ下がった後に上方へと向かう! 時間としてはこの速度で十分程度!』
『平衡感覚ズレてるから方向分からないんだけど、コレってレアルタ皇国内地方面じゃない!?』
『ああ、到着地点はカルファス領地底だぞ!』
『ウソマジで!?』
リンナの身体を抱えながら、今イルメールとクアンタが落とし損ねた大きめの岩を、真空状態にした空気を纏わせた拳で叩き壊すカルファス。
既に数分ほど流されているが、クアンタもイルメールも、休むことなく拳を振り続けている。
このままでは、目的地に到着するよりも前にイルメールの体力が尽きてしまう可能性も鑑みなければならない。
『――ヤエさんっ! 進行ルート、細かく分かる!?』
『直接脳にデータを送信していいならやるが』
『上等! 親機と子機を分けてる利点、見せてあげるっ!』
カルファスは左手首に装着されている、魔術支援デバイスを取り外すと、それを投棄。一度酸素ボンベと繋がるマウスピースを外し、自分の口で解放された左手首を強く噛んだ。
ゴリッ、と骨まで達する噛みつきが肌を伝わる感覚がしたが、カルファスは気にする事無く、ダクダクと流れる血を海水に浸し続ける。
『――この身を受け入れし母なる海、我が血を感じよ』
カルファスの口から溢れ出す言葉は、詠唱魔術と呼ばれる種類の魔術使役である。
普段は先ほどまで装着していた魔術支援デバイスに詠唱を登録する事により省略できる仕組みとなっているが、登録されている詠唱は全て地上、もしくは空中で使う事を想定した術式であるが故に、海中で使役する場合は、詠唱を口にしなければならない。
『我が血は宿業を宿し、宿業それ即ち剛を成す事也』
詠唱は思考するモノではなく、頭に浮かぶ文言を唱える事。時に支離滅裂な言葉となっていようが構わない。
その『詠唱を唱えている』という事実そのものが、マナを使役し、貯蔵庫から出て、魔術回路を循環する。
詠唱が長ければ長い程、マナはより純度を、力を高め、現実と虚構……つまり放たれる魔術の間にある齟齬を埋めるのだ。
『剛をこの手に。この手は全てを砕き、その果てに世界の容(カタチ)すら歪ませる――ッ!!』
イルメールがカルファスの狙いに気付いた。
クアンタの細い手首を乱雑に掴んで、彼女の動きを抑制すると、カルファスがリンナを抱えながら二者よりも前に身体を出した後――その左腕を思い切り、進行ルートに向けて、突き出した。
『【剛掌打破】――ッ!!』
左腕全体に纏われた斥力場が、突き出した腕の動きに合わせて、放出された。
猛スピードで流れる海水全体を巡る様に襲い掛かる斥力場。
進行ルート上は現在進行形でヤエから脳内に直接データを送信され、そのデータを頼りにカルファスは、斥力場を操作し、力場によってルート上にある障害物や障害となり得る岩場などを、破壊していく。
――今、全員に襲い掛かるは砕かれた岩の粒。
だが何度も言うように、細やかな粒程度であれば魔術外装によって無力化出来るし――これより先は、細やかな粒であろうと、カルファスの放つ力場の力によって、消滅させられていく。
『う――ォオオオオオッ!!』
マナの放出を完了したカルファスが、口の中にどれだけの海水が入り込もうと関係が無いと言わんばかりに叫んだ後、左腕を引いた。
斥力場が進行ルート上の障害を全て壊しきった、と言わんばかりに頷いた彼女に合わせ、ヤエが笑う。
『カルファス、お前凄いな。海水の流れを止めずに海水のルート進行上全ての障害だけを破壊する力場を放出するなんてな!』
『お……おかげでお腹の中海水でたっぷたぷだよ……っ』
『だが確かに【根源化の紛い物】であるお前でしか出来ない手段だ。私が送信したルートの位置情報を親機が解析し、子機のお前が親機の計算を基に魔術を放つなんてな!』
『アルちゃん、ゴメン、私ちょっと限界……リンナちゃん任せた』
『、了解しました!』
何にせよ、障害物や邪魔な岩場を全てカルファスが破壊したという事なら、この先はただ海水に身を任せ、壁などに身体をぶつけないように注意すれば良い。
ならば――と、クアンタとイルメールは激しい水の抵抗に逆らいつつ全員の背後に周り、流れに乗ってくる、質量が軽く流されやすい海底ゴミ等が皆を襲わないようにだけ注意する。
――そうして流され続けた先。
何やら、光が進行ルート上から差し込んでいるように見えた。
『出口だ! 全員衝撃に備えろ!』
ヤエの言葉に身体を丸めた全員。
彼女達は海水の流れに身を任せていると、身体が重力のある地上へと押し出され、転がった。
背中に感じる冷たい岩の質感、だが魔力外装が裂傷を防いでくれた結果、誰も怪我をする事無く、口や胃に溜まった海水を吐き出した。
「ごほ、ごほっ!」
特に、詠唱を唱えていた最中はずっと酸素ボンベを外していたカルファスは、辛そうに咳き込んだ。クアンタは彼女へと近づき、口から外されていた酸素ボンベのマウスピースを入れ込むと、ゆっくり肺に空気を入れ込むようにして、ようやく落ち着いたようだった。
『みんな……酸素ボンベ、まだ、外さないでね……今いるここも……酸素濃度は低いから……』
カルファスの言葉に全員が頷きつつ、今全員がいる場所を見渡す。
見た所、天然に出来た鍾乳洞、ともいうべき開けた場所だろうか。
ボコボコとしている岩肌と、天井から僅かに水滴が落ちて、ポタリポタリと鳴る音だけが響いている。
通ってきたトンネルからは最初こそ噴水の如く海水を噴き出していたが、次第に勢いを弱めていき、やがて流れを途絶えさせた。
先ほど見えた光は――鍾乳洞全体に点在する、何やら光り輝く岩が光源だろうか。
だが岩自体は宝石のようになっているわけでもなく、何か特殊な力のようなもので輝いているようにも見える。
『ここが源の泉、なのか? それにしては、海水以外に見当たらないが』
呼吸をする必要がない故に二酸化炭素を吐き出す事が無いクアンタも、念のため首元の通信機を用いて皆へ声を送る。
だが反してヤエは通信機を乱雑に外すと、クアンタの魔法少女外装を僅かに開けさせて胸元に手を突っ込み、彼女の中へと入れ込んでいた、リンナのマジカリング・デバイスを取り出した。
「リンナさん」
『え』
「変身の準備を。――敵は近いです」
ヤエの言葉を受けただけでは、彼女が何を言っているのかが分からなかったが、そんなリンナの心情を察してか否か、彼女はリンナにマジカリング・デバイスを押し付け、さっさと先へと進んでいく。
『ま、待ってヤエさん。ここは本当に源の泉なの?』
「正確に言うとまだだ。この先にあるが――その前に、お前ら皇族の罪を祓う必要があるだろう」
先へ進んでいくヤエへとついていく面々。
鍾乳洞の先へと進んでいくと、岩肌が放つ光が段々と強くなっている事に気付く。
だが、それに見惚れている場合では無かった。
――進んだ先、その鍾乳洞の奥には、積み重ねられた何かがあった。
それは、緋袴と白衣をまとったまま朽ち果てたと思われる、人骨だ。
長らく人によって触れられていなかった人骨は、しかし風化して砕ける事も無く、ただ形を保ち、積み重ねられている。
その傍には――海水や海風によって既に錆び付いた長太刀が多く存在した。
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