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第十七章
神霊-05
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全員が、呆然とヤエの言葉を聞いていた。
今まさに蹴り飛ばされるという敵対行動を行われたクアンタでさえ、彼女が何を言っているのかを理解していなかったのだ。
……彼女を除いて。
『……へぇ。アンタを倒せッてか。そりゃいい。アンタとはもう一度やりたかッたンだ』
「以前はシドニアとの二対一で、お前たちを適当にあしらってやったにも関わらず、今度は倒せる気でいると?」
『以前はアンタの事を把握していなかったしな――それに、勝ち負けじャねェ。オレはただ、アンタと殺りたいだけだ』
「そうか、ならば私も片腕のお前に合わせた上で、それなりの本気を出してやろう」
互いに、右手を構えた上で距離を一歩一歩詰めていく、ヤエとイルメール。
彼女達はニヤリと笑みを浮かべたまま、互いの拳が届く範囲で足を止めた。
その時。
イルメールとヤエの間から突如、突風の様な風圧を感じて、リンナとアルハットは眼前に腕を出し、視界を遮ってしまう。
さらにその突風から一秒程経過してから、幾多もの破裂音が二者の間から鳴り響き、視界を遮らなかったカルファスとクアンタは、目を細めた。
『クアンタちゃん。今、イル姉さまとヤエさん、あの一瞬でどれだけ打ち込んだ? 十二発までは見えたんだけど、それ以上は』
『片手のイルメールが右腕で二十一撃打ち込んだ。が、神さまが二十三撃を同じく右腕で打ち込み、イルメールの二十一撃を全て弾き返した後、二撃を胸部に打ち込んだ』
あまりに早い拳の動きに、音すらも置き去りにしたのだ。
ヤエもイルメールもニッと口角を釣り上げ、腰を落とした上で右腕を構える。
そこから先は、リンナやアルハットでも視認する事が出来る速度だったが、なにせそれぞれ放つ一撃一撃が、イルメールにとっては致命傷となり得る攻撃である。どうしても動きは鈍重になりかねないが、それでも尚、リンナやアルハットには避け切れるとは断言できぬ程の速さ。
『な、何……!? イルメールって、あんな強かったの……!?』
『ええ。人類最強は、伊達じゃないわ。……でも、そのイル姉さまを本気にさせた上で尚、ヤエさんは更に上を行ってる』
その攻撃をステップしつつ回避するイルメールとヤエは、次第に拳だけでは足りないと言わんばかりに両足を用いた連撃の応酬に突入した。
ジャブを二度連続してイルメールへと向けて放ち、彼女の逃げた方向を認識しつつ、その逃げ場を無くすように放つ回し蹴り。
だがイルメールはジャブを避けつつも回し蹴りが来ることは想定しているので、右腕で蹴りの軌道を変えて避け、仕返しと言わんばかりに右足を下段から振り上げ、ヤエの顎を軽く掠めさせ、振り下ろす事で脳天を殴打しようと思考。
だが顎を掠めさせても少し姿勢をよろけさせただけで済ませたヤエは、踵落としによる重たい打撃を喰らってたまるかと、彼女の右脚部を右手で掴んだ後に彼女の左足も払い、百キロは超える彼女の身体を背負い投げ、顔面から地面へ叩きつけようとする。
地面へ顔面が落ちる寸前、右腕を地面に付けたイルメール。二の腕で衝撃を受け流しつつ、先ほど払われた左足でヤエの首を殴打した瞬間、彼女がイルメールの右足を離したので、両足でヤエの首を挟み、ヤエの身体に昇る要領で身体を起こし、そのまま腰を捻る。
イルメールの体重と、首を絞められても身体をぐらつかせないヤエに、舌打ちをしながらイルメールが体重を後ろに乗せ、ヤエの首を両足で挟んだまま、片腕で地面に手を付き、逆立ち。
そして勢いを保ったままヤエを投げ飛ばしてやろうとしていたようだが――
「舐めるなよ小娘」
『ッ』
ヤエは首を挟んでいるイルメールの足を掴んだままにする事で投げられる事を回避するばかりか、背中から地面に落ちそうな寸前で両足を地面へ先に付け、衝撃を殺した瞬間にイルメールの恥部を右腕で殴打。
恥部は身体を幾ら鍛えても、実際の痛み以上に痛覚が襲う。故にイルメールも思わずヤエの首を挟んでいた両足に込める力を緩めてしまい、そこで二者が動きを止める。
「どうした? 私は神さまの中じゃ弱い方だぞ? そんなんじゃ私の弟子にも勝てん。人類最強と言え、まだまだ人だな」
『、チッ!』
「それに今はイルメールよりちょい強い位の設定で戦ってやってるんだ。それこそ他の面々も一緒に戦わないと、イルメールがただボコボコにされる試練になってしまうぞ?」
『ならマジカリング・デバイスを返せ、神さま』
「アレは元々私がお前に与えたものだからな。つまり、私が使っても問題は無いと言うワケだ。……私も一度、変身をしてみたかったんだ」
今まで懐に入れていたクアンタのマジカリング・デバイスを取り出したヤエは、側面のボタンを強く押し込んだ。
〈Devicer・ON〉
機械音声が奏でられ、全員がヤエへと注目を果たす。
マジカリング・デバイスは、使用者の能力を強化する為に用いられる。つまり、今まさにイルメールと戦い、彼女をあしらったヤエが使用した場合、どんな強敵になり得るかも分からない。
『みんな、ヤエさんを変身させちゃダメッ!』
カルファスの声に合わせて、全員が身体を動かそうとしたが、時すでに遅し。
「もう遅い――変身」
〈HENSHIN〉
音声入力と共に画面をタップしたヤエの全身を包む光が、一瞬にしてスーツ姿の彼女を、彩った。
その赤を基本色とした胸元の出るデザイン、フリルを多く施されているスカートと、少し大人の女性が着るには違和感のある姿になるかと思われたが、彼女の肉体も若返るかのように縮み、姿を十代半ばの少女程に変化させる。
光が散り、魔法少女形態へ変身を遂げたヤエは、ニヤリと笑いながら、皆を委縮させる為か、強く地面を踏みつけようと足を上げ、下ろした――
瞬間、すってん、と転んだ。
「あでっ」
綺麗に頭を打ち付け、全員が先ほどまでとは違う意味で呆然としている。ヤエ当人もおでこを押さえながら顔を赤くして、言い訳を連ねていく。
「その……コレは……アレだ、油断してるんだぞ私は。あと足元が海水で濡れてるのがダメなんだ、うん」
フフン、と真っ赤な顔を誤魔化すように不敵っぽい笑みを浮かべたヤエ。声も僅かに高くなり、少女らしさが増している彼女が、ポキポキと拳を鳴らそうとしながらも鳴らせず、しかしイルメールへと向けて駆け出す。
そのスピードも僅かに、というか普通に遅く、イルメールは笑みと、目からハイライトを消しつつ、構える事も出来ないまま、立ち尽くしている。
「食らえ、魔法少女パーンチ!!」
そうしていると、イルメールの胸部に強く、拳が叩きつけられた。
どれくらい強くかと言われると、リンナよりも五歳ほど歳が低い少女の細腕が構えも何も知らず、ただポスッと拳を突きつけている位強い拳だった。
端的に言えば、今の魔法少女・ヤエは、超弱い。
「どうだ私の全力魔法少女パンチは。イルメールが止まって見えたぞ?」
止まっていたのである。
「ふふん。あまりに強すぎる一撃に言葉も出ないか。私としても大人げなさ過ぎたなぁ。やっぱ私みたいな強い神さまの女が変身しちゃダメ」
『ふん』
「はぶっ」
だからこそイルメールも、全力から十分の一程度力を抜いたビンタで、ヤエの頬を叩いた。
「いたっ、いたいっ!! メチャクチャ痛いっ!! な、なんで!? もしかしてイルメールってクソ強い!? 変身した私でも敵わない!?」
半泣きになりながらあまりの痛さに岩肌を転がるヤエ。転がった先に姫巫女の骨がお尻に刺さったらしく「痛ったぁああああいっ!!」と泣き叫びながら、内股になりつつピョンピョン跳ぶ姿は、リンナからは少し、可愛い少女のように見えた。
「アレ……? おかしい、どうして……? 私弱くなってない……?」
『弱くなってるどころじャねェ位にな』
「マジかぁ……うわ、神性も超薄くなってるし、コレひょっとしたら不死性も消えてない……? Aのヤツ、人間用に調整し過ぎて私らが使う事想定してなかったな? あ、まぁ当たり前か……そもそも私らが使う理由ないし……」
『へぇ~。良い事聞いたぁ~』
『ええ。いい事聞きましたね姉さま方』
ニコリと笑いながら。
カルファスとアルハットがいつの間にか近付いていて、ヤエはお尻を押さえつつ、彼女達を見上げた。
「あ……あのぉ……へ、変身を解除させてくだ」
『だぁ~め~』
魔法少女・ヤエの身体に、一瞬の内に巻き付けられた、水銀によって形作られた縄。
歳幾ばくも無い少女を縛るにあたって力加減は迷ったが、ヤエであれば問題は無いだろうと少々きつめに結び、地面にちょこんと座らせる。
『さて。これで勝利という事で良いのかしら?』
「み、認めん! 私は認めんぞっ! コレはクアンタのマジカリング・デバイスが悪いんだからなっ! 私は負けてな」
『イル姉さまやっちゃってーっ!』
『おう、次は首吹っ飛ばすレベルで叩けばいいなっ!』
「私の負けです許してください今の状態だとマジで死ぬんですていうかここ酸素薄くて死ぬし水銀の毒素でも死ぬぅっ!!」
ボロボロと涙を流しながらイルメールがブンブンとビンタの素振りをしている光景を見据えて命乞いをするヤエ。クアンタとリンナは何だか可哀想になってきたのでイルメールとカルファスを下げて、アルハットに水銀の縄を解いてあげてくれと頼む。
「ほっ、本当に……調子乗って、すみませんでした……っ」
『で、なんで神さまはアタシらにいきなり喧嘩吹っかけて来たの?』
「その……源の泉は、本来……ぐすっ、神霊が管理してるんです……その力を使えば、星の一つや二つ、簡単に滅ぼせるから……ぅぇっ」
『泣き止んで変身解除し、私にマジカリング・デバイスを返せ』
「うん……、もういらないこんな不良品……」
変身を解除して、元々のヤエへと姿を変え、クアンタはマジカリング・デバイスを返される。
「……ふぅ。さてどこまで話したかな?」
『あ、キリッとしてるけど私の網膜から得た映像は全部親機が管理してるから情けない所全部保管してるよ?』
「後生ですので消去お願いしますカルファス様……ッ!」
変身解除した事で威厳を取り戻そうとしたのか、大人っぽい顔付きをして会話に戻そうとしたヤエだったが、どうやら当分はこのネタで弄られる事になりそうである。
今まさに蹴り飛ばされるという敵対行動を行われたクアンタでさえ、彼女が何を言っているのかを理解していなかったのだ。
……彼女を除いて。
『……へぇ。アンタを倒せッてか。そりゃいい。アンタとはもう一度やりたかッたンだ』
「以前はシドニアとの二対一で、お前たちを適当にあしらってやったにも関わらず、今度は倒せる気でいると?」
『以前はアンタの事を把握していなかったしな――それに、勝ち負けじャねェ。オレはただ、アンタと殺りたいだけだ』
「そうか、ならば私も片腕のお前に合わせた上で、それなりの本気を出してやろう」
互いに、右手を構えた上で距離を一歩一歩詰めていく、ヤエとイルメール。
彼女達はニヤリと笑みを浮かべたまま、互いの拳が届く範囲で足を止めた。
その時。
イルメールとヤエの間から突如、突風の様な風圧を感じて、リンナとアルハットは眼前に腕を出し、視界を遮ってしまう。
さらにその突風から一秒程経過してから、幾多もの破裂音が二者の間から鳴り響き、視界を遮らなかったカルファスとクアンタは、目を細めた。
『クアンタちゃん。今、イル姉さまとヤエさん、あの一瞬でどれだけ打ち込んだ? 十二発までは見えたんだけど、それ以上は』
『片手のイルメールが右腕で二十一撃打ち込んだ。が、神さまが二十三撃を同じく右腕で打ち込み、イルメールの二十一撃を全て弾き返した後、二撃を胸部に打ち込んだ』
あまりに早い拳の動きに、音すらも置き去りにしたのだ。
ヤエもイルメールもニッと口角を釣り上げ、腰を落とした上で右腕を構える。
そこから先は、リンナやアルハットでも視認する事が出来る速度だったが、なにせそれぞれ放つ一撃一撃が、イルメールにとっては致命傷となり得る攻撃である。どうしても動きは鈍重になりかねないが、それでも尚、リンナやアルハットには避け切れるとは断言できぬ程の速さ。
『な、何……!? イルメールって、あんな強かったの……!?』
『ええ。人類最強は、伊達じゃないわ。……でも、そのイル姉さまを本気にさせた上で尚、ヤエさんは更に上を行ってる』
その攻撃をステップしつつ回避するイルメールとヤエは、次第に拳だけでは足りないと言わんばかりに両足を用いた連撃の応酬に突入した。
ジャブを二度連続してイルメールへと向けて放ち、彼女の逃げた方向を認識しつつ、その逃げ場を無くすように放つ回し蹴り。
だがイルメールはジャブを避けつつも回し蹴りが来ることは想定しているので、右腕で蹴りの軌道を変えて避け、仕返しと言わんばかりに右足を下段から振り上げ、ヤエの顎を軽く掠めさせ、振り下ろす事で脳天を殴打しようと思考。
だが顎を掠めさせても少し姿勢をよろけさせただけで済ませたヤエは、踵落としによる重たい打撃を喰らってたまるかと、彼女の右脚部を右手で掴んだ後に彼女の左足も払い、百キロは超える彼女の身体を背負い投げ、顔面から地面へ叩きつけようとする。
地面へ顔面が落ちる寸前、右腕を地面に付けたイルメール。二の腕で衝撃を受け流しつつ、先ほど払われた左足でヤエの首を殴打した瞬間、彼女がイルメールの右足を離したので、両足でヤエの首を挟み、ヤエの身体に昇る要領で身体を起こし、そのまま腰を捻る。
イルメールの体重と、首を絞められても身体をぐらつかせないヤエに、舌打ちをしながらイルメールが体重を後ろに乗せ、ヤエの首を両足で挟んだまま、片腕で地面に手を付き、逆立ち。
そして勢いを保ったままヤエを投げ飛ばしてやろうとしていたようだが――
「舐めるなよ小娘」
『ッ』
ヤエは首を挟んでいるイルメールの足を掴んだままにする事で投げられる事を回避するばかりか、背中から地面に落ちそうな寸前で両足を地面へ先に付け、衝撃を殺した瞬間にイルメールの恥部を右腕で殴打。
恥部は身体を幾ら鍛えても、実際の痛み以上に痛覚が襲う。故にイルメールも思わずヤエの首を挟んでいた両足に込める力を緩めてしまい、そこで二者が動きを止める。
「どうした? 私は神さまの中じゃ弱い方だぞ? そんなんじゃ私の弟子にも勝てん。人類最強と言え、まだまだ人だな」
『、チッ!』
「それに今はイルメールよりちょい強い位の設定で戦ってやってるんだ。それこそ他の面々も一緒に戦わないと、イルメールがただボコボコにされる試練になってしまうぞ?」
『ならマジカリング・デバイスを返せ、神さま』
「アレは元々私がお前に与えたものだからな。つまり、私が使っても問題は無いと言うワケだ。……私も一度、変身をしてみたかったんだ」
今まで懐に入れていたクアンタのマジカリング・デバイスを取り出したヤエは、側面のボタンを強く押し込んだ。
〈Devicer・ON〉
機械音声が奏でられ、全員がヤエへと注目を果たす。
マジカリング・デバイスは、使用者の能力を強化する為に用いられる。つまり、今まさにイルメールと戦い、彼女をあしらったヤエが使用した場合、どんな強敵になり得るかも分からない。
『みんな、ヤエさんを変身させちゃダメッ!』
カルファスの声に合わせて、全員が身体を動かそうとしたが、時すでに遅し。
「もう遅い――変身」
〈HENSHIN〉
音声入力と共に画面をタップしたヤエの全身を包む光が、一瞬にしてスーツ姿の彼女を、彩った。
その赤を基本色とした胸元の出るデザイン、フリルを多く施されているスカートと、少し大人の女性が着るには違和感のある姿になるかと思われたが、彼女の肉体も若返るかのように縮み、姿を十代半ばの少女程に変化させる。
光が散り、魔法少女形態へ変身を遂げたヤエは、ニヤリと笑いながら、皆を委縮させる為か、強く地面を踏みつけようと足を上げ、下ろした――
瞬間、すってん、と転んだ。
「あでっ」
綺麗に頭を打ち付け、全員が先ほどまでとは違う意味で呆然としている。ヤエ当人もおでこを押さえながら顔を赤くして、言い訳を連ねていく。
「その……コレは……アレだ、油断してるんだぞ私は。あと足元が海水で濡れてるのがダメなんだ、うん」
フフン、と真っ赤な顔を誤魔化すように不敵っぽい笑みを浮かべたヤエ。声も僅かに高くなり、少女らしさが増している彼女が、ポキポキと拳を鳴らそうとしながらも鳴らせず、しかしイルメールへと向けて駆け出す。
そのスピードも僅かに、というか普通に遅く、イルメールは笑みと、目からハイライトを消しつつ、構える事も出来ないまま、立ち尽くしている。
「食らえ、魔法少女パーンチ!!」
そうしていると、イルメールの胸部に強く、拳が叩きつけられた。
どれくらい強くかと言われると、リンナよりも五歳ほど歳が低い少女の細腕が構えも何も知らず、ただポスッと拳を突きつけている位強い拳だった。
端的に言えば、今の魔法少女・ヤエは、超弱い。
「どうだ私の全力魔法少女パンチは。イルメールが止まって見えたぞ?」
止まっていたのである。
「ふふん。あまりに強すぎる一撃に言葉も出ないか。私としても大人げなさ過ぎたなぁ。やっぱ私みたいな強い神さまの女が変身しちゃダメ」
『ふん』
「はぶっ」
だからこそイルメールも、全力から十分の一程度力を抜いたビンタで、ヤエの頬を叩いた。
「いたっ、いたいっ!! メチャクチャ痛いっ!! な、なんで!? もしかしてイルメールってクソ強い!? 変身した私でも敵わない!?」
半泣きになりながらあまりの痛さに岩肌を転がるヤエ。転がった先に姫巫女の骨がお尻に刺さったらしく「痛ったぁああああいっ!!」と泣き叫びながら、内股になりつつピョンピョン跳ぶ姿は、リンナからは少し、可愛い少女のように見えた。
「アレ……? おかしい、どうして……? 私弱くなってない……?」
『弱くなってるどころじャねェ位にな』
「マジかぁ……うわ、神性も超薄くなってるし、コレひょっとしたら不死性も消えてない……? Aのヤツ、人間用に調整し過ぎて私らが使う事想定してなかったな? あ、まぁ当たり前か……そもそも私らが使う理由ないし……」
『へぇ~。良い事聞いたぁ~』
『ええ。いい事聞きましたね姉さま方』
ニコリと笑いながら。
カルファスとアルハットがいつの間にか近付いていて、ヤエはお尻を押さえつつ、彼女達を見上げた。
「あ……あのぉ……へ、変身を解除させてくだ」
『だぁ~め~』
魔法少女・ヤエの身体に、一瞬の内に巻き付けられた、水銀によって形作られた縄。
歳幾ばくも無い少女を縛るにあたって力加減は迷ったが、ヤエであれば問題は無いだろうと少々きつめに結び、地面にちょこんと座らせる。
『さて。これで勝利という事で良いのかしら?』
「み、認めん! 私は認めんぞっ! コレはクアンタのマジカリング・デバイスが悪いんだからなっ! 私は負けてな」
『イル姉さまやっちゃってーっ!』
『おう、次は首吹っ飛ばすレベルで叩けばいいなっ!』
「私の負けです許してください今の状態だとマジで死ぬんですていうかここ酸素薄くて死ぬし水銀の毒素でも死ぬぅっ!!」
ボロボロと涙を流しながらイルメールがブンブンとビンタの素振りをしている光景を見据えて命乞いをするヤエ。クアンタとリンナは何だか可哀想になってきたのでイルメールとカルファスを下げて、アルハットに水銀の縄を解いてあげてくれと頼む。
「ほっ、本当に……調子乗って、すみませんでした……っ」
『で、なんで神さまはアタシらにいきなり喧嘩吹っかけて来たの?』
「その……源の泉は、本来……ぐすっ、神霊が管理してるんです……その力を使えば、星の一つや二つ、簡単に滅ぼせるから……ぅぇっ」
『泣き止んで変身解除し、私にマジカリング・デバイスを返せ』
「うん……、もういらないこんな不良品……」
変身を解除して、元々のヤエへと姿を変え、クアンタはマジカリング・デバイスを返される。
「……ふぅ。さてどこまで話したかな?」
『あ、キリッとしてるけど私の網膜から得た映像は全部親機が管理してるから情けない所全部保管してるよ?』
「後生ですので消去お願いしますカルファス様……ッ!」
変身解除した事で威厳を取り戻そうとしたのか、大人っぽい顔付きをして会話に戻そうとしたヤエだったが、どうやら当分はこのネタで弄られる事になりそうである。
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