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第十七章
神霊-06
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『元々源の泉は神霊が管理していると言う話だ』
「そ、そうだったな……まぁ、ちょっと予定にない敗北の仕方をしたが、負けは負けだ。大人しく連れて行くし、そこで説明してやる」
先んじて、鍾乳洞の先へと進んでいくヤエと、彼女についていく面々。イルメールは僅かに不完全燃焼、と言った様子である。
『まずヤエさん、源の泉って、もう近い?』
「ああ。今、全員の身体が軽かったりするんじゃないか? 源の泉から放出されている純度の高いマナが貯蔵庫に入ってきて、溢れ出てる感覚でもしてると思うが」
ヤエの言う通り、今全員の足取りは非常に軽い。リンナは知らぬだろうが、彼女も生まれが所以かマナ貯蔵庫と魔術回路を有しているからこそ影響を受けている。
イルメールに至っては普段魔術回路等一切用いないが、そうした魔術師としての素養だけならばある為、この鍾乳洞に到着したあたりから左腕の痛みを感じなくなっているし、カルファスも散々海底トンネルで体力を使い果たしたのにも関わらず、亡骸との戦いという、イルメールとクアンタがそれなりに速く終わらせた戦いの間までで、体力を回復させることが出来た。
リンナもクアンタも、その体内に巡るマナの力を実感できてはいないが、軽やかな足取りにそれは現れているだろう。
「その状態ならばカルファスもアルハットも全力を以て私に対抗でき、それならば私と同等程度に戦えると踏んだんだよ」
『私のマジカリング・デバイスを奪う必要は無いだろう?』
「だって変身してみたかったしー、この状況で一番私が負ける可能性高いのは、お前がエクステンデッド・ブーストを使った場合だ。だから隙だらけの内にマジカリング・デバイスを奪っておきたかったんだよ」
エクステンデッド・ブーストは、虚力の効果をマナと合わせる事により増強・延長させる機能を持つが故に、純度の高いマナで充ちているこの空間では、クアンタの戦力が高まってしまう。
最初はそうした彼女と戦う事も想定していたらしいが、奪える機会があるからと奪ってしまったそうだ。
――あとはリンナがいるから口には出さないが、エクステンデッド・ブーストを用いると錬成回路と魔術回路の両方を酷使する関係上、あまり使わせたくなかったと言う考えはあったのだろうが。
『この泉を管理してる神霊ってのは、神さまの事なん?』
「いいえ、違いますよリンナさん。私は管理している神霊に頼まれて、一同をここに連れてくる事と、実力を図る事を頼まれましてね」
『この鍾乳洞内にも神霊がいるのか』
「ああ。奥にいる。私みたいに肉体があるわけじゃないから、見る事は出来ないがな――イルメール以外には」
と、そうして話していると、鍾乳洞を超えた先に、行き止まりが。
そこは、薄緑色の輝きを放つ泉だった。
無限に湧き出る天然の噴水。
泉から何か、力を可視化したかのような光が空を漂った後、天井に当たって、消えていく。
『す――すっごぉおおっ!! 何、何コレ、マジで力の泉じゃんッ!! もう私の貯蔵庫でも蓄えきれないマナがそこかしこに充ち満ちてるっ!! マナが可視化出来るレベルで濃厚過ぎて頭が沸騰しそうッ!!』
もう体裁を取り繕う事も止め、駆け出していくカルファスを、ヤエは咎める事無く泉へと近づいていく。
「どうだカルファス。お前のお眼鏡に適ったかな?」
『適うどころじゃないよ予想以上ッ!! ヤエさんさっき、星の一つ二つ簡単に破壊できる力って言ってたけど、そんな生易しいモノじゃないよ、銀河を一つ二つ簡単に破壊できる力だよこんなのっ!!』
ギラギラと目を輝かせて、泉の周囲を観察するカルファスが、ヤエの隣に立ち、手を取った。
『ねぇ、私たちこの泉を自由に使っていいの!? 確かにこれだけの力があれば、イル姉さまの腕にある傷を治すどころか腕を再生させる事だって無理じゃないっ!! ううん、災いを一気に殲滅できる兵器だってその気になれば簡単に作れ――』
『落ち着け』
ゴン、と。カルファスの頭部を思い切り殴りつけたイルメールと、頭を抑えながら涙を目に浮かべつつ『何で止めるのっ!?』と反論するカルファス。
『今オメェ、相当アブねー事考えてたからな。ちょっと頭冷やせ』
『冷やしてらんないよっ! こんな力の泉前にして、冷静でいられる魔術師なんかいないもんっ!』
「ホラ、こうなるからカルファスを連れてきたくなかったんだ」
ヤレヤレ、とため息をつくヤエとイルメール。
そんな面々を置いて、クアンタとリンナは、興味深そうに泉を観察するアルハットに同行している。
『コレは、確かに源から溢れ出た力の泉と、仮定しても良いわね』
『仮定しか出来ないんだ』
『ええ。源の存在証明が出来たわけではないしね。……でも、確かに神霊という強大な存在が守るべきよね。カルファス姉さまでさえああなのだから、狂人しかいない魔術師に泉の力が渡ってしまえば、それこそ世界が終わりかねない』
今のアルハットたちは、泉から十メートルは離れて観察している。それ以上先に進むことは危険であると、アルハットが止めている。
『どうやら泉は外界に出て気体になった瞬間からマナを放出するみたいね』
『そうなんだよアルちゃん! で、しかもその気体となったマナは移動距離によっても純度が異なってくるからこそ質も異なる! もしヤエさんの言う通りこの洞窟の上がカルファス領なら、カルファス領で魔術が栄えたのも理屈が通るッ!!』
ヤエの肩を掴んだカルファスは、既に冷静な思考など伴っていない。ただ力の泉をどう活用するか、この力の泉がどの様にして存在するのか等……そうした疑問点を湧き立たせ、解読する事にしか興味などないのだろう。
『ねぇヤエさん! 地球には源の泉が四つもあるんだよね!? てことは私たちが住むこの偽装されたゴルサにも四つの泉があるって事なんだよね!?』
と、そこでカルファスが口にした言葉に、ヤエは目を見開いたし、クアンタとアルハットも、視線をカルファスへと向けた。
『カルファス、今なんと言った?』
『ヤエさんが前に教えてくれたの地球の事とかこの星の事とかそう言うのを統合して考えると色々と疑問な点が湧き出――』
瞬間、素早いヤエの手刀が、カルファスの首筋を殴打して、彼女はそこで白目を剥きつつ、意識を閉ざした。
その身体を抱き留めたのはイルメールだった。彼女もまた、今のカルファスがどんな危険な考えを持つか、それを懸念し、どんな方法を以て気絶させるかを悩んでいた。
「……スマンなイルメール。私が手を出してしまった」
『構わねェさ。コイツかなり危ねェ状態だったしな。それに、アンタにとって不利益な事を言いそうになッたンだろ? ここまで協力してくれてるアンタに不義理な事をしたンなら、それはコイツが悪い』
「不利益、か。どうだろうな。別に知られても問題は無いと言えば無いんだが、お前たち全員を困惑させる要因になりかねない上に、災い対策に影響しない事だ。説明する意味が無いんだ。だからクアンタもアルハットも、いずれ説明出来る時が来るから、今は心中にその疑問をしまっていろ」
話が泉を前に狂ったカルファスによって逸れていた。故に、ヤエはカルファスをイルメールが背負った事を確認して、手を鳴らす。
「カルファスが気絶してしまった為、アルハットと私でイルメールの傷口から侵入した、愚母の固有能力を打ち消すか。気絶させてしまった手前、それ位は手伝おう」
『でも、どうすればいいのかしら。私は正直治療魔術には長けていないし、役に立てるとは……』
「いや、お前だからこそ必要なんだよ。――少し、見ていろ」
薄緑色の光を放つ泉。
その泉に近づくだけで力の余波を直接受ける筈であるのに、彼女は悠々と指を漬け、そして力を込める。
バチリ、と青白い光が泉全体に広がった。
やがてその光は消えていき、ヤエが漬けた指に付着した液体を、アルハットの持つ水銀用の試験管に入れ込んで、コルクで栓をして渡す。
「外気に触れないように処理を施してある。この液体を個体に錬成しろ」
『コレを個体に?』
「ああ。クアンタの分と、イルメールの分だ」
『ヤエさんならできるんじゃ』
「出来るか出来ないかで言えば、出来ない。悪いが私はお前ほど優秀な錬金術師じゃないからな」
ヤエの言葉に乗せられるわけではないが――アルハットは、渡された試験管に触れながら、意識を集中させ、源の泉より採取された水滴の成分を検出していく。
手に感じる事の出来る成分から、試験管に使われている材質と栓に使われているコルクの材質だけを除外し、脳内で整理を行っていくが、そこでアルハットは驚き、目を見開いた。
源の泉より採れたこの水分には、おおよそ人間が持つ遺伝子情報の数億倍に亘る遺伝子情報が書き込まれていて、思わず口元を押さえて嘔吐感に堪える。
『なに……コレ……ッ!!』
「……な? お前だからその位で済んでるが、私がそんなもの解析しようもんなら、速攻で錬成回路が処理落ちして破裂する。故に私の錬成回路を基にして作り上げたクアンタにも解析処理等させられん。カルファスも、コイツを個体にする方法を探せと言われたら、お前に丸投げしていただろうよ」
そのあまりにも膨大な遺伝子情報を全て破壊しないように処理し、液体である状態を個体に錬成する。
それは――理論上は可能だが処理能力が足りないと考えたアルハットは、来た通路を少しだけ戻り、その薄く光を放つ、壁より露出していた岩を殴って、崩し、その石と合わせる形で、錬成を開始した。
「――おぉ」
ヤエが「そんな方法を使うか」と言わんばかりに目を開き、錬成を行う青白い発光現象を見据える。
錬成にかける時間は、僅か十秒弱。
その程度の時間で精製を終えた彼女は、ぺたりと地面に足を付けながら、ヤエに精製し終えたモノを二つ、手渡す。
『はぁ……はぁ……コレで、どう……?』
「なるほど。液体そのものを個体にするには情報量が多すぎるから、液体を石で覆い、中を真空状態にする事で、宝石状に形成した……というワケか」
ヤエがアルハットより受け取ったのは、一センチ程度の小さく丸い宝石だ。宝石は薄緑色の綺麗な輝きを放ち、ヤエが軽く叩いてみても割れない所から、堅牢性は高いと思われる。
『す……少し……休憩させて……まぁ、この空間で少しだけ休めば、体力も回復する、だろうけど……』
「ああ。その間、少ししなければいけない世間話でもするよ――この泉を守っている、神霊についてとかな」
「そ、そうだったな……まぁ、ちょっと予定にない敗北の仕方をしたが、負けは負けだ。大人しく連れて行くし、そこで説明してやる」
先んじて、鍾乳洞の先へと進んでいくヤエと、彼女についていく面々。イルメールは僅かに不完全燃焼、と言った様子である。
『まずヤエさん、源の泉って、もう近い?』
「ああ。今、全員の身体が軽かったりするんじゃないか? 源の泉から放出されている純度の高いマナが貯蔵庫に入ってきて、溢れ出てる感覚でもしてると思うが」
ヤエの言う通り、今全員の足取りは非常に軽い。リンナは知らぬだろうが、彼女も生まれが所以かマナ貯蔵庫と魔術回路を有しているからこそ影響を受けている。
イルメールに至っては普段魔術回路等一切用いないが、そうした魔術師としての素養だけならばある為、この鍾乳洞に到着したあたりから左腕の痛みを感じなくなっているし、カルファスも散々海底トンネルで体力を使い果たしたのにも関わらず、亡骸との戦いという、イルメールとクアンタがそれなりに速く終わらせた戦いの間までで、体力を回復させることが出来た。
リンナもクアンタも、その体内に巡るマナの力を実感できてはいないが、軽やかな足取りにそれは現れているだろう。
「その状態ならばカルファスもアルハットも全力を以て私に対抗でき、それならば私と同等程度に戦えると踏んだんだよ」
『私のマジカリング・デバイスを奪う必要は無いだろう?』
「だって変身してみたかったしー、この状況で一番私が負ける可能性高いのは、お前がエクステンデッド・ブーストを使った場合だ。だから隙だらけの内にマジカリング・デバイスを奪っておきたかったんだよ」
エクステンデッド・ブーストは、虚力の効果をマナと合わせる事により増強・延長させる機能を持つが故に、純度の高いマナで充ちているこの空間では、クアンタの戦力が高まってしまう。
最初はそうした彼女と戦う事も想定していたらしいが、奪える機会があるからと奪ってしまったそうだ。
――あとはリンナがいるから口には出さないが、エクステンデッド・ブーストを用いると錬成回路と魔術回路の両方を酷使する関係上、あまり使わせたくなかったと言う考えはあったのだろうが。
『この泉を管理してる神霊ってのは、神さまの事なん?』
「いいえ、違いますよリンナさん。私は管理している神霊に頼まれて、一同をここに連れてくる事と、実力を図る事を頼まれましてね」
『この鍾乳洞内にも神霊がいるのか』
「ああ。奥にいる。私みたいに肉体があるわけじゃないから、見る事は出来ないがな――イルメール以外には」
と、そうして話していると、鍾乳洞を超えた先に、行き止まりが。
そこは、薄緑色の輝きを放つ泉だった。
無限に湧き出る天然の噴水。
泉から何か、力を可視化したかのような光が空を漂った後、天井に当たって、消えていく。
『す――すっごぉおおっ!! 何、何コレ、マジで力の泉じゃんッ!! もう私の貯蔵庫でも蓄えきれないマナがそこかしこに充ち満ちてるっ!! マナが可視化出来るレベルで濃厚過ぎて頭が沸騰しそうッ!!』
もう体裁を取り繕う事も止め、駆け出していくカルファスを、ヤエは咎める事無く泉へと近づいていく。
「どうだカルファス。お前のお眼鏡に適ったかな?」
『適うどころじゃないよ予想以上ッ!! ヤエさんさっき、星の一つ二つ簡単に破壊できる力って言ってたけど、そんな生易しいモノじゃないよ、銀河を一つ二つ簡単に破壊できる力だよこんなのっ!!』
ギラギラと目を輝かせて、泉の周囲を観察するカルファスが、ヤエの隣に立ち、手を取った。
『ねぇ、私たちこの泉を自由に使っていいの!? 確かにこれだけの力があれば、イル姉さまの腕にある傷を治すどころか腕を再生させる事だって無理じゃないっ!! ううん、災いを一気に殲滅できる兵器だってその気になれば簡単に作れ――』
『落ち着け』
ゴン、と。カルファスの頭部を思い切り殴りつけたイルメールと、頭を抑えながら涙を目に浮かべつつ『何で止めるのっ!?』と反論するカルファス。
『今オメェ、相当アブねー事考えてたからな。ちょっと頭冷やせ』
『冷やしてらんないよっ! こんな力の泉前にして、冷静でいられる魔術師なんかいないもんっ!』
「ホラ、こうなるからカルファスを連れてきたくなかったんだ」
ヤレヤレ、とため息をつくヤエとイルメール。
そんな面々を置いて、クアンタとリンナは、興味深そうに泉を観察するアルハットに同行している。
『コレは、確かに源から溢れ出た力の泉と、仮定しても良いわね』
『仮定しか出来ないんだ』
『ええ。源の存在証明が出来たわけではないしね。……でも、確かに神霊という強大な存在が守るべきよね。カルファス姉さまでさえああなのだから、狂人しかいない魔術師に泉の力が渡ってしまえば、それこそ世界が終わりかねない』
今のアルハットたちは、泉から十メートルは離れて観察している。それ以上先に進むことは危険であると、アルハットが止めている。
『どうやら泉は外界に出て気体になった瞬間からマナを放出するみたいね』
『そうなんだよアルちゃん! で、しかもその気体となったマナは移動距離によっても純度が異なってくるからこそ質も異なる! もしヤエさんの言う通りこの洞窟の上がカルファス領なら、カルファス領で魔術が栄えたのも理屈が通るッ!!』
ヤエの肩を掴んだカルファスは、既に冷静な思考など伴っていない。ただ力の泉をどう活用するか、この力の泉がどの様にして存在するのか等……そうした疑問点を湧き立たせ、解読する事にしか興味などないのだろう。
『ねぇヤエさん! 地球には源の泉が四つもあるんだよね!? てことは私たちが住むこの偽装されたゴルサにも四つの泉があるって事なんだよね!?』
と、そこでカルファスが口にした言葉に、ヤエは目を見開いたし、クアンタとアルハットも、視線をカルファスへと向けた。
『カルファス、今なんと言った?』
『ヤエさんが前に教えてくれたの地球の事とかこの星の事とかそう言うのを統合して考えると色々と疑問な点が湧き出――』
瞬間、素早いヤエの手刀が、カルファスの首筋を殴打して、彼女はそこで白目を剥きつつ、意識を閉ざした。
その身体を抱き留めたのはイルメールだった。彼女もまた、今のカルファスがどんな危険な考えを持つか、それを懸念し、どんな方法を以て気絶させるかを悩んでいた。
「……スマンなイルメール。私が手を出してしまった」
『構わねェさ。コイツかなり危ねェ状態だったしな。それに、アンタにとって不利益な事を言いそうになッたンだろ? ここまで協力してくれてるアンタに不義理な事をしたンなら、それはコイツが悪い』
「不利益、か。どうだろうな。別に知られても問題は無いと言えば無いんだが、お前たち全員を困惑させる要因になりかねない上に、災い対策に影響しない事だ。説明する意味が無いんだ。だからクアンタもアルハットも、いずれ説明出来る時が来るから、今は心中にその疑問をしまっていろ」
話が泉を前に狂ったカルファスによって逸れていた。故に、ヤエはカルファスをイルメールが背負った事を確認して、手を鳴らす。
「カルファスが気絶してしまった為、アルハットと私でイルメールの傷口から侵入した、愚母の固有能力を打ち消すか。気絶させてしまった手前、それ位は手伝おう」
『でも、どうすればいいのかしら。私は正直治療魔術には長けていないし、役に立てるとは……』
「いや、お前だからこそ必要なんだよ。――少し、見ていろ」
薄緑色の光を放つ泉。
その泉に近づくだけで力の余波を直接受ける筈であるのに、彼女は悠々と指を漬け、そして力を込める。
バチリ、と青白い光が泉全体に広がった。
やがてその光は消えていき、ヤエが漬けた指に付着した液体を、アルハットの持つ水銀用の試験管に入れ込んで、コルクで栓をして渡す。
「外気に触れないように処理を施してある。この液体を個体に錬成しろ」
『コレを個体に?』
「ああ。クアンタの分と、イルメールの分だ」
『ヤエさんならできるんじゃ』
「出来るか出来ないかで言えば、出来ない。悪いが私はお前ほど優秀な錬金術師じゃないからな」
ヤエの言葉に乗せられるわけではないが――アルハットは、渡された試験管に触れながら、意識を集中させ、源の泉より採取された水滴の成分を検出していく。
手に感じる事の出来る成分から、試験管に使われている材質と栓に使われているコルクの材質だけを除外し、脳内で整理を行っていくが、そこでアルハットは驚き、目を見開いた。
源の泉より採れたこの水分には、おおよそ人間が持つ遺伝子情報の数億倍に亘る遺伝子情報が書き込まれていて、思わず口元を押さえて嘔吐感に堪える。
『なに……コレ……ッ!!』
「……な? お前だからその位で済んでるが、私がそんなもの解析しようもんなら、速攻で錬成回路が処理落ちして破裂する。故に私の錬成回路を基にして作り上げたクアンタにも解析処理等させられん。カルファスも、コイツを個体にする方法を探せと言われたら、お前に丸投げしていただろうよ」
そのあまりにも膨大な遺伝子情報を全て破壊しないように処理し、液体である状態を個体に錬成する。
それは――理論上は可能だが処理能力が足りないと考えたアルハットは、来た通路を少しだけ戻り、その薄く光を放つ、壁より露出していた岩を殴って、崩し、その石と合わせる形で、錬成を開始した。
「――おぉ」
ヤエが「そんな方法を使うか」と言わんばかりに目を開き、錬成を行う青白い発光現象を見据える。
錬成にかける時間は、僅か十秒弱。
その程度の時間で精製を終えた彼女は、ぺたりと地面に足を付けながら、ヤエに精製し終えたモノを二つ、手渡す。
『はぁ……はぁ……コレで、どう……?』
「なるほど。液体そのものを個体にするには情報量が多すぎるから、液体を石で覆い、中を真空状態にする事で、宝石状に形成した……というワケか」
ヤエがアルハットより受け取ったのは、一センチ程度の小さく丸い宝石だ。宝石は薄緑色の綺麗な輝きを放ち、ヤエが軽く叩いてみても割れない所から、堅牢性は高いと思われる。
『す……少し……休憩させて……まぁ、この空間で少しだけ休めば、体力も回復する、だろうけど……』
「ああ。その間、少ししなければいけない世間話でもするよ――この泉を守っている、神霊についてとかな」
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