魔法少女の異世界刀匠生活

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第十七章

神霊-07

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 宝石を放り投げて掴んでと繰り返しながら、ヤエがアルハットの手を握り、彼女をリンナへと任せる。


『アルハット、大丈夫?』

『だ、大丈夫……ただちょっと、錬成回路だけじゃなくて、脳への酷使が……』


 苦笑しつつ、リンナが洞窟の壁にもたれて座り、アルハットはそんなリンナの膝に頭を乗せて、一応話は聞きたいと意識を閉ざさぬように気を付けつつ、目を閉じる。


「イルメールはまず、コイツを腕に当てておけ」


 まずはイルメールに、先ほどアルハットが精製した宝石を渡す。言われたとおりに傷口に巻き付けられたギブスに当てながら、首を傾げる。


『で、結局コイツは何なんだ?』

「製造方法は少し違うが、地球では【神秘の翡翠】と呼ばれている物質だ。難しい話は苦手だろうから簡単に言うと、半無尽蔵に高純度のマナを供給し続けてくれるミラクルアイテムで、ソイツがあれば再生魔術における効果を増幅してくれる筈だ」


 それに加えてイルメールが特出している、虚力による細胞活性効果も増幅すると言い、普段ゴルタナを用いずに敵と戦う事の多い彼女が所有するには丁度いいとしたヤエが、残るもう一個をクアンタに見せる。


「こっちはクアンタに、だ」

『私か』

「ああ。クアンタ、エクステンデッド・ブーストを取り出せ」


 クアンタの左手首から、浮き出る様に出現させられるデバイス……エクステンデッド・ブースト。

  その装着された腕輪型アタッチメントデバイスをヤエが取り外し、クアンタの指紋を登録してあるセンサー部分の近くに存在した窪みに、宝石――神秘の翡翠を挿入した。


「よし。クアンタ、エクステンデッド・フォームに変身しつつ、イルメールに向けて虚力を放出しろ」


『良いのか?』

「良いんだ」


 ヤエが「良いからやれ」と言わんばかりにエクステンデッド・ブーストを押し付けたので、クアンタもそれを受け取り装着した上で、マジカリング・デバイスを挿入し、アタッチメントを九十度回転させる。


〈Devicer-Extended・ON〉

『変身』

〈HENSHIN〉


 エクステンデッド・ブーストより放たれる眩い光に包まれるクアンタ。彼女が普段変身する、斬心の魔法少女としての外装に加えてリボン型スラスターモジュール等を追加させた、エクステンデッド・フォームへと変身を遂げると、そこで先日変身した時よりも、身体スペックが上昇している事に気が付く。


『コレは……神秘の翡翠とやらの効果か? 体が軽く、また先日変身した際よりも、三十パーセント程のスペック向上が確認できる』

「ああ。まぁ今は場所的な意味合いも大きいが、神秘の翡翠より放たれている高純度のマナを常時供給されている状態だから、高純度のマナと虚力が混ぜ合わさるようになって、それでスペックが向上しているという事さ」


 さらに神秘の翡翠をエクステンデッド・ブーストに埋め込む事により、クアンタの魔術回路に対する負荷を軽減させるようにもなっていると言う。

  相変わらず錬成回路と魔術回路を酷使出来てしまう為、依然としてむやみやたらに変身する事は避けるべきだが、酷使する状況――つまり激しい戦闘に陥らなければ、こうして少し虚力を放出する程度ならば問題はない、という事だ。


『では、イルメールに向けて虚力放出を行えばいいんだな?』

「ああ。先日愚母に向けて放出した量を、さらに薄めて良い」


 エクステンデッド・ブーストを装着している左腕でイルメールのギブスに触れながら、クアンタは虚力を体外に放出した。

  イルメールに襲い掛かる僅かな衝撃、だがイルメールとクアンタの髪の毛を僅かに揺らす程度の風を起こす程度で済んだ虚力放出を受けて――イルメールは驚いたように、愚母によって切り裂かれた腕の切断面に巻かれたギブスを凝視し、ブンブンと左腕を振り回した。


『スゲェッ! 痛くねぇぞ!』

「クアンタの虚力を体外に放出し、それをイルメールの傷口に当てる事で、クアンタの虚力と高純度のマナの混合物がイルメールの細胞内に入り込んで、愚母の固有能力を打ち消した、という訳だな。通常のクアンタが虚力を放出しただけではマナの純度が足りなかったが、今ならば完全に死滅させることは出来なくとも、僅かに残った程度ならば時間経過で自然消滅するだろう」


 流石に愚母の固有能力が何か、という事は口にしなかったヤエだったが、そこで二者の肩にポンと手を置いた後、源の泉に近づいた。


「さて……では少し、源の泉についてお話する事としよう。アルハット、寝ていないだろうな」

『大丈夫……少し、楽になってきたわ』


 リンナに頭を撫でられながら膝の上に頭を乗せて目を閉じるアルハットに、クアンタは若干頬を膨らませたが、しかし彼女はこれまでの流れで色々と功績を残した功労者であるが故にグッと堪える。


「宜しい。カルファスが寝ている間にお話を済ます事が出来るのは僥倖だよ」

『コイツが寝たままで話進めて大丈夫なのか?』

「後でアルハットが伝えればいいし、そもそも気絶してる状況でも鼓膜のユニットは稼働しているだろうから、カルファスの親機には聞こえている筈だ」


 気絶させられたカルファスをおんぶしながら、イルメールが寝息を立てる彼女に視線をやる。イルメールの筋肉に充ちた背中だが寝心地は良いのか、随分とグッスリだ。


「この源の泉は、先ほどカルファスが言っていた事に少し繋がるが、この星に四つある泉の一つだ。その全てを、力を司る【パワー】という神霊が管理している」


 まずそもそも神霊という存在は、多くが信仰された概念が形作られた存在であり、例えば【パワー】も力を求める人間や動物の信仰が生み出した存在であると言う。

  故に概念の数だけ神霊も存在し、該当概念に対してなされる信仰の多さが直接神霊の強さに直結する為、例えば神霊としては、強欲を司る神霊【マモン】が群を抜いて最強扱いされていたらしい。

 中には神格化され、崇拝され、多くから信仰された結果として、人間や有機生命体が神霊へ格上げされた事例もあるという事だが、このゴルサという星では一度も無いのだと言う。


『先ほどイルメールと対峙していた神さまも、自分の事を弱い方だと言っていたが』

「私の場合は、元々人間体の私が戦闘に長けてない事に合わせて、同化している神霊が秩序を司る神霊【コスモス】だからな。パワーやマモン、後は私の弟子で怠惰を司る【ヴェルフェゴール】と同化したバカもいるが、コイツなんかよりは力が劣る」


 言ってしまうと、どの世界に住まう生命体であっても秩序を重んじる者は少なく、何時だって混沌を求める存在なのだと言う。しかし戦乱や諍いが長く続けば、力無い人々から多く信仰される概念もまた秩序である。

 秩序を信仰する者がいなくなる事は無いが、相対的に他の神々と違い、信仰による力は得にくいという事だ。

  反対に、怠惰を司る【ヴェルフェゴール】の場合は人間の感情そのものと直結する感情概念であるからこそ、多くの人間が無意識の内に信仰する。故に強力な力を引き出しやすいのだという。


「神霊は神霊同士による殺し合いか、信仰される概念の消滅以外で死ぬ事がない。だから例えば私なんかは、この世の全てが混沌で満たされ、秩序の無い世の中が訪れた時には消滅して死ぬって事さ」

『もしくは、その神霊同士で殺り合ってやられるか、ッて事な』

「そう。まぁ神霊同士で殺し合いに発展する事はそんなにないから安心だ。年に二回くらいだから」

『いや結構殺し合ってない!?』

「私は秩序を司る神霊と同化してるんで、他の神霊と関わる事が多いので仕方ないんですよリンナさん」

『それが源の泉と、何の関係があるのかしら』


 アルハットがようやく身体をゆっくりと起こして、リンナと隣り合って座る。泉による高純度のマナが供給される結果として、体力回復が速いのだ。


「これもさっき言ったが、神霊・パワーは源の泉を悪用されない為に管理している。だがその管理は、彼女が見定めた人間に管理権を譲渡する事も出来る」

『つまり……私達に泉の管理をさせる事も、パワーという神霊は考えている、という事なのかしら?』

「どうだか。その辺はパワーに直接聞けばいい。そこにいるからな」


 ヤエが指で示したのは、皆が源の泉へと向かってきた通路だ。

  だが、クアンタにも、リンナにも、アルハットにも、誰かがいるとは思えず、首を傾げたその時。

  イルメールだけが『あっ』と驚いたように声を上げ、カルファスをクアンタに預けた後、通路の方へと駆け出していく。


『アンタ、スッゲェ久しぶりだなッ!!』


 嬉々として、誰もいない場所に向けて駆け出していき、虚無に向けてハイタッチを行うイルメール。

  クアンタたちは呆然としながら、ヤエへと「何が起こっているのか」と言わんばかりに視線を送ると、彼女も頷く。


「イルメールには見えているんだよ。神霊が」

『神霊というのは通常、目に見えない存在であるのか?』

「ああ。そりゃあ概念が形となり、意思を有しただけの存在だからな。普通は見えない」

『では、何故イルメール姉さまにだけは見えるの?』

「イルメールは【神霊識別】と呼ばれる魔眼の持ち主なんだ。神霊識別は十億人に一人いるかどうかの比率で現れる先天性の魔眼で、私が知る限りでも、イルメールを含めて四人しかいない」


 楽しそうに笑い、誰かの頭を撫でる様な動作をするイルメールを見据えて、このままでは話にならないとしたヤエが、クアンタとアルハット、リンナの順で頭に触れていき、最後に指を、イルメールのいる方へと向けて、パチンと鳴らした。

  瞬間、何か細やかな光の粒にも似た輝きが、イルメールの周囲を覆うように浮かび上がり、今人の形を作り出した。


  ニッと笑みを浮かべる、リンナと同じ位の身長をした、小柄な少女に見えた。

  白銀の髪を足元にまで伸ばし、全体的に細い身体と幼げな顔立ち、何も身にまとう事無く生まれたままの姿で、無邪気にイルメールと話をする少女が――


「おいパワー。他の面々にも姿と声は認識できるようにしてやった。挨拶でもしろ」

〈え、ホントに!? よーしっ〉


 少女は、ヤエの言葉を受けて嬉しそうな表情で、その細く小さな足を動かしてクアンタたちの所へと駆け寄ると、ペコリと大きく頭を下げて、挨拶の言葉を放つ。


〈ボク、力を司る神霊【パワー】っ! 推定年齢四十六億歳のおばあちゃんだっ!!〉


 おばあちゃんと言うにはあまりにも可愛らしく、にへらと笑いながら元気に挨拶をした少女――

 神霊・パワーは、呆然とする全員に向けて〈仲良くしてくれっ〉とウインクをした。
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