魔法少女の異世界刀匠生活

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第十七章

神霊-10

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 男――ブレイドは、全ての髪の毛を逆立てて後頭部で結い上げている頭を掻きながら、気恥ずかしそうに頭を下げたが、サーニスとワネットは、既に戦闘態勢にいつでも入る事が出来るようにしている。

  そんな彼等の殺気を受けつつ――ブレイドは、気にする事無くルワンへと近づく。


「オレはルワンの旧友でしてね。訃報を風の噂で聞きまして、最後の別れだけでもと思った次第でございますよ」

「……そうだったか。旧友と最後に会えるとならば、母も喜ぼう。是非、会ってあげて欲しい」

「ありがとうございます」


 一歩、二歩と進んでいくブレイドという男。

  しかし彼の背を見据えて、サーニスとワネットの二者は警戒を強めた。

  彼の背は、あまりに隙が無さ過ぎるのだ。

  圧倒的なまでの存在感と、腰に携える刀。

  それ以外には戦闘態勢を整えているわけでも無いのに、サーニスとワネットはもし戦闘になった場合、どう斬りかかれば良いのか、それを理解できずにいる。

  そんな二者の警戒など知った事では無いと言わんばかりに、ブレイドはルワンの安らかな姿を見て、一筋涙を流した後――その既に固く、しかし綺麗な頬を、指で撫でた。


「……よほど嬉しい死に際だったんだろう。心地いい虚力だ」

「今、何か言ったかい?」

「いえ、大した事じゃないですわ……ただ、最後はどうだったのか、と思いまして」

「詳細は言えない。が、決して嘆きはしていなかった」

「ならルワンは、最後にご子息であるシドニア様と会えて、幸せだったんでしょうな」

「君は私と母の事を?」

「知ってますよ。……ルワンにもう一人、娘がいる事も……その娘が、そこの従者さんの携えるなまくら刀を打ったことも」


 なまくら刀。

  そうブレイドが口にした瞬間、場の空気が凍った。

  アメリアは青筋を立て、サーニスは今まさに鈍刀と言われた【キソ】の柄を握った。

  だが、ここは心安らかに亡くなった母の前だと、シドニアが周りを窘める様に、腕を軽く広げる。


「失礼、訂正して貰えないかな」

「訂正とは、何をでしょうかね?」

「私の従者が携える刀を鈍だと言ったことについてだ。……貴方がどうした立場なのかは分からないが、彼の持つ刀は、刀匠・リンナによって精魂を込められた、まさしく名刀だよ」

「申し訳ないんですが、その刀を名刀とは言えませんよ。ですんで、訂正は出来ないって事ですわ」

「おい貴様、それ以上口を開くな。ここは亡きルワン様の眠る場所だ。……自分にこの刀を抜かせるなよ?」


 サーニスは友人として認めているリンナを、そして自分の携える【キソ】という刀を侮辱され、我慢の限界が近づいている。

  まるでブレイドを挑発するかのように鯉口を切り、鳴らしたが、しかしその事に気付いている筈のブレイドは尚も、自分の刀を抜く為に手を伸ばす事もしない。


「抜いても構いませんぜ? そんな鈍じゃ、人っ子一人満足に殺せねェ。亡きルワンの前でも失礼ではないでしょう。……むしろ、彼女へ最後に魅せる演舞用位にしか役立ちません」

「……申し訳ありません! シドニア様、アメリア様ッ!」

「っ、待てサーニス!」


 シドニアの静止を聞く事なく「御免」と言葉を発しながら、サーニスが地面を蹴った。

  瞬間、シドニアにも視認できぬ程の速度でルワンの眠る寝台の奥、ブレイドが立つ背後へと回ったサーニスが、居合の構えを取り、引き抜き、振るい、その無礼な男の首を刎ねようとする。

  が、男は携える刀を鞘から出す事なく左手で持ち上げ、鞘でサーニスが振り切った刃を防ぐと、そのまま鞘を乱雑に放棄し、引き抜いた刀の棟を、弾かれた【キソ】の刃に向けて叩きつけた。

  芯鉄と被鉄が、合わせて砕かれるような鈍い音と共に、キソは真っ二つに、折れたのだ。


「従者さんよ、アンタの腕は良いモンだ。だからこそ、その刀じゃアンタを映えさせる事が出来てねェ」

「ば……バカな……ッ!」

「炭素量の配分が微妙なんだ。値段ケチって安めの玉鋼を使った事に合わせ、積み込みでの選別も甘いと見える。それに研ぎもな。アンタみてェに優秀な人間が使うべき刀じゃねェ。……何度も言うが、ソイツは鈍だ」


 それ以上、サーニスと争う気は無いと言わんばかりに、ブレイドは刃を鞘に納め、その上でペコリと、シドニアやアメリアに対し、頭を下げた。


「失礼をしましたな」

「……主、一体何者じゃ」


 立ち上がり、レイピアの柄を握ろうとしたサーニスに対し、首を振りながらアメリアは、男――ブレイドに問う。


「サーニスは決して、刀の腕で負けとったわけではあるまい」

「ええ。腕は正直、従者さんの方が一歩も十歩も先を行っておりますよ。オレァ、刃を振るう者じゃねェ」

「じゃが、吾輩はどうもさっきから、主に圧倒されて動けん。……足が震え、今にも首を斬られるのではないかと、恐々としとる」


 顔色は変えず、しかし彼女の足は言葉通り震え、まさに戦々恐々と言った様子で冷や汗を一滴、流した。

  シドニアには感じられなかったようだが――彼からは、皇族に対する恨みのような、そんな殺意が溢れ出ている。


「オレは、別に今の貴方たちをどうしようというつもりはねェンですわ」

「ならば――お前は何をしようというんだ。答えろ」


 安置所の扉を塞ぐように立ち、アメリアとシドニアを何時でも守れるように構えるワネットの背を、誰かが押し退け、入ってくる。

  それは、スーツ姿の女性――菊谷ヤエに他ならず、彼女の事を知る一同は、ヤエへと視線を向けた。


「よう、コスモスの同化体じャねェか。名前は忘れたが、久しいな。二百年ぶりくらいか?」

「この星が作られて以来だからな、それ位だろう。……質問に答えろ」


 ヤエは胸ポケットに入れていた煙草の一本を口に咥えて、今まさに指を鳴らし、火を灯そうとした。

  だが、そんな彼女が火を灯すよりも前に、ブレイドが動き、彼女の足元で刀を一閃……振るうと、フィルター部分を切り落とす。


「――仏さんの前だ。煙草は控えて貰おうか」

「海に濡れてもう数時間吸ってなかったんでな。それより二度も言わせるなよ、質問に答えろと言ったんだ――ッ!!」


 声を荒げたヤエが、誰の目にも留まらぬスピードで振るった脚部。

  それによってブレイドの顔面を殴打して、ルワンが横たわる簡易ベッドを横倒しにしただけでなく、外へと繋がる壁を破り、彼を病院の庭へと叩き出した。

  突然、病院の壁が破られて人が飛んでくる光景を目にした他の患者や、病院の人間が恐怖し、声を荒げて逃げ惑っていく中。

  ブレイドはケロリとした表情で壁の瓦礫を押しのけて立ち上がり、安置所の壁から庭へとやってくるヤエへ、言葉を発する。


「そらぁオレの台詞ってモンじゃねェかい? オメェの仕事はこの世界を引っ掻き回す事でも、仏さんの寝床を叩き壊す事でもねェだろ? オメェは何してる?」

「私は私の仕事を、私なりにしようとしているだけだ。そして私は答え、私の問いは三度目だ。これ以上のらりくらり躱そうとするのなら、年二回程ある神霊同士での殺し合いを一回、果たすというのもアリだが?」


 互いの目には既に敵しか映っていないと言わんばかりに、ブレイドもヤエも、戦闘態勢を整える。

  未だ安置所の中にいる者達――シドニアやアメリア、ワネットやサーニスが全員、何が起こっているのかを理解できていなかった。


  ――その時。


  一人の少女が安置所へと訪れ、簡易ベッドが横倒しになった事で、地に落ちたルワンの身体を抱き寄せながら、声を発した。



「……親……父……?」



 その声を聴いて。

  ヤエは苦々しい表情を浮かべて、その場から数歩横に退いた。

  少女に、その人物の姿を良く見せる為と言わんばかりに……裏方に徹する事を選んだかのように。


「なんで……な、なんで親父……生きて……ッ!!」


 既に死して硬直したルワンの身体をギュッと抱きしめながら、少女――リンナが、ブレイドに声をかける。

  否……ブレイドという名は、今の彼には適切ではないだろう。


  男は鼻を鳴らしながら一歩一歩リンナへと向けて歩き出し、ヤエは決してそれを咎める事無く、そして今安置所へと訪れたクアンタ以外は、リンナを庇う為に彼女の前に立つことも出来ぬ程、硬直を余儀なくされていた。


「それ以上、近付くな」


 打刀【カネツグ】を抜き、マジカリング・デバイスを構えるクアンタが、警告として放った声。

  その声と、彼女の姿を見据え――男は「そうか」とその場で足を止める。


「オメェさん、マリルリンデと同族か」

「……ああ。貴方は」

「なら、これ以上お前さんらに【ブレイド】なんて名乗るべきじゃねェってワケか。……この名を名乗るのは、四年ぶりくらいか」


 彼は、自分の名を、先ほどアメリアやシドニアに向けて言ったブレイドではない言葉を告げた。


「オレはガルラ――そこのバカ娘を一丁前いっちょまえ程度には育てた、刀匠だ」

「刀匠・ガルラは、既に死亡していると聞いている」

「アァ、死んだ事になってるよ。……だが、人間に殺されるオレじゃねぇ。



 オレは、刃を司る神霊【ブレイド】と同化して、不老不死の力を手にしている、元・人間だからな」



  誰もそれ以上、口を開く事が出来なかった。

  いつの間にか、クアンタの背後へ、リンナと彼女の抱くルワンの眼前と回っていたガルラ。

  だが、彼女の握っていた【カネツグ】の刃はハバキから折れて、ガルラの手に収まっていた。


「こんな刀、よそ様に使わせるたぁ……偉くなったもんだな、バカ娘」

「親父……ッ!」

「だがルワンの身体を起こしてやったのは良い判断だ。……オメェはやっぱ女だよ、リンナ」

「何言ってんだよ……意味わかんねぇよ……親父ィッ!!」

「リンナ、オレは――オメェをまだ刀匠として認めねェ。


 ――オメェの打った鈍は、全部オレが叩き折ってやる」


 落としたカネツグの刃がカラカラと音を鳴らした瞬間。

  ガルラは姿を消した。

  誰もが言葉を失う中。

  リンナは、ガルラに言われた言葉を頭の中で反芻させながら、自然と溢れ出る涙で――ルワンの顔を、濡らした。

  
  **
  
  
  リュート山脈に存在する自身のアジトからしばらく先へと、散歩と称して歩いていたマリルリンデは、周囲の木々から感じる殺気を読み、足を止めた。


「――聖堂教会かァ?」


 マリルリンデの声に合わせ、木々の影から続々と姿を現すのは、フリントロック式の銃を一丁ずつ構えた、白衣の男たちだった。

  その銃に込められた銃弾には姫巫女達が残した虚力が充填されている。

  それが彼の体を形成する虚力をかき消し、彼を殺せる手段であるという事に他ならない。


  ――彼らは、マリルリンデというフォーリナーの特性を、良く理解している。


「久しぶりだな、マリルリンデ。君を見つけるのには大変な苦労があった」


 そんな男たちに囲まれながら一人だけ目立つ、初老の男性が姿を現した。

  横に太いふくよかな身体と、その身にまとう白衣、黒色の髪の毛――東洋系の顔立ち。


「アァ、久しぶりだァな。……ミクニ・バーンシュタイン」

「フルネームを呼んでくれるのはもう君だけだよマリルリンデ。……だが僕は、そのフルネームが好きじゃあないと何度言えば分かる? 次に言う時は死を覚悟したまえ」

「相変わらず、自尊心の塊みてェなヤツだ。……だからルワンは、テメェの遺伝子以外に興味なかッたンだゼ?」


 ミクニ・バーンシュタイン。

  かつてレアルタ皇国の皇族により解体させられた聖堂教会の創設者である、バーンシュタイン家の末裔。


  ――そして、ルワンとかつて繋がり、リンナという子を彼女に生ませた張本人。
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