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第十八章
刀匠-02
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ヤエの言葉を聞いて、リンナは頭痛でもしてきたのか、額に手をやり、首を垂れる。
「ねぇ、マリルリンデって、ホントに悪い奴なの……?」
「レアルタ皇国に敵対する者という点や、災い達を率い、出している被害をマリルリンデの罪とするならば、マリルリンデは悪という事になりますね」
「でも、今までの話を聞いてる限りだとさ、マリルリンデのやってる事って、復讐としか思えないじゃん」
マリルリンデの事は、リンナも、ここにいる全員も、断片的な事しか知らない。
だが彼を、悪と断言する事など、リンナには出来なかった。
彼がクアンタと同じくこの星へと降り立ったフォーリナーであり、かつては虐殺や凌辱によって追われる身になった姫巫女達を守る為に戦い、二十年前には、リンナやシドニアの母であるルワンや、リンナの義父であるガルラと共に、この星を守る為に災いと戦った。
――である筈なのに、これまでの皇族は彼ら、彼女らの功績を、戦いの記録を、抹消した。
事実、伝承等という当たり障りのない記録だけを残されて――この場にいる面々は、ヤエから情報を与えられなければ、何も知らぬ状態で戦わねばならなかった。
「マリルリンデは母ちゃんや、親父の友達だったんでしょ? 友達がしてきた事を、自分がしてきた事を蔑ろにされて……怒んない奴なんていない」
「リンナさんは、マリルリンデがしようとしている事は復讐であり、そしてその復讐には、正当性があると?」
「……分かんないよ。もう、頭ごっちゃごちゃして、分けわかんねぇよ……っ」
リンナは如何せん、他人の願いや想いを共感しようとする心が強すぎる。
それは一種の優しさではあるが――彼女の脆く、弱い心を一瞬で打ち砕く要因にもなりかねない。
「リンナ。貴女のそうした所は、とても魅力的よ。……でも、まずは善悪や、他人の利己・利他的な考え等に共感をするのではなく、事実を知りましょう」
誰も言葉を発せぬ中で、リンナの友人であるアルハットだけが、リンナの隣に腰かけて、彼女の頭を撫でる。
「ヤエさんの言う通り、物事は仮説や推論によって決められるべきではないもの。……貴女が共感によって得た相手への理解は、真の理解ではないかもしれないの。だから、まずは事実をしっかり把握するのよ」
ね、と優し気に声をかけるアルハットの声に、リンナは少し落ち着くと言わんばかりに、頷き、彼女の肩に頭を乗せた。
クアンタはアルハットへ視線をやり、小さく頭を下げる。
……クアンタには、アルハットの様に気を使った言葉のかけ方が、分からなかったのだ。
「続けよう。……なんにせよ、ガルラとマリルリンデは約八十年前から二十年前の災い大量発生事件までの間、姫巫女達を守り続けた」
そしてガルラは、シドニア領首都・ミルガスに自身の工房を設置し、このゴルサという星に刀の文化や技術を遺す為、刀匠として、人間として生活を営んでいったのだと、ヤエは語る。
「そんな時だ。……十五年前、生まれたばかりのリンナさんが、ガルラ鍛冶場の家宅前に捨てられていたんだ」
リンナを捨てた人物は皆、口にしないが分かっている。
リンナとシドニアの母・ルワンだ。
「そこが少し疑問だったのだが」
口を挟んだのは、シドニアだ。アメリアも、彼の言葉に頷いた。
「母さんがリンナを育てられない理由は分かる。戦いを終え、皇帝の妃に戻るべき彼女は、皇族側に属さねばならなかったからな」
そうした、皇帝の妃としての立場故、ルワンが別の男と繋がり出来た子供を、実の子として育てる事が出来なかった、というのは想像に難くない。
「だが何故母さんは、リンナの父である筈のミクニ・バーンシュタインという男に、リンナを任せなかったのだろうか?」
「あまり気分のいい話ではないぞ?」
ヤエが一応忠告として放った言葉に、しかし誰もならばいいと言う事は無かった。どんな些細な事であっても、事実を知りたいとする皇族達の意見であり、ヤエもそれを尊重した。
「ルワンにとって、ミクニ・バーンシュタインという男は信用が出来なかったんだよ。奴は非常に利己的な男だったし、自分の娘であるリンナさんをどう育てるか分かったものじゃなかった。だから、信用に足る男……ガルラに任せようとしたんだ」
そして事実、リンナはガルラの下で真っすぐに、優秀な刀匠として育っていった。
確かに姫巫女としての経験や戦いの方法は知らずに育ったが――故に彼女は純粋な優しい少女に育ったのだろうと言う想像は難しくない。
「それより先……というより、ガルラがどうしてリンナさんを姫巫女としてでなく、刀匠として育てようとしたかは分からん。……ガルラについて知っている事は、これ位か」
思いの外、情報は増えていない。整理が出来たと言う点については好ましかったかもしれないが、簡単にまとめれば「ガルラが神霊と同化した元・人間である事」と「現状は敵対しているのかどうかも分かっていない」という整理が出来ただけで留まっている。
だがクアンタは、ここまでの話で一つの疑念が湧き出たが故に、問う。
「神さま、一ついいだろうか」
「どうしたクアンタ」
「お師匠が姫巫女の末裔である事や、刀匠・ガルラに拾われた子供である事を、神さまはお師匠当人には伝えようとしなかった。その理由は何故だ?」
リンナとヤエの初邂逅は、クアンタがこのゴルサという星に降り立って一日目、ヴァルブ・フォン・リエルティックとの騒動を終えてクアンタの正体をリンナに明かす時である。
しかし彼女はこの時、リンナに殴られた事以外は、特に彼女の話題を出さなかった。
さらに、その後はリンナが眠っている間に、五人の皇族を霊子移動で呼び出して集結させ、彼女は災いや五災刃、そしてマリルリンデの事を軽くだが語り、その時ヤエはリンナが眠っている事を確認しつつ、彼女が姫巫女の一人であり、彼女はガルラに拾われた捨て子だった事を明かした。
「簡単だ。そもそもリンナさんは対災いや、対マリルリンデという点においては、刀を生み出す為に必要な存在ではあったが、戦力という点では必要無かったからな」
「お師匠は刀匠として、ただ守られる立場である筈だったと」
「あぁ。そんなリンナさんが下手に自分の生まれや境遇を知ってしまえば、戦いたがるに決まってる。だから内緒にしてしまおうとしていた――という事だ」
「では神さまにとって、お師匠は必要なファクターでは無いと?」
その問いには、ヤエも口を塞いだ。
僅かに目を泳がせ、しかしアメリアが彼女の視線をジッと観察していた事から、下手に誤魔化すと嘘と思われる可能性も加味し、ため息をついて頷いた。
「今まさに言っただろう。対災い・対マリルリンデという点においては、刀匠としてのリンナさんが必要だっただけだ」
「では問うぞ菊谷ヤエ。――それ以外にはリンナが必要だというのかえ?」
ホラ来た、と言わんばかりにヤエがため息をつきつつ、アメリアへと顔を向ける。
「そもそもじゃ、クアンタがリンナの所へ来た事も、主の差し金ではないのか?」
「それは否定する」
「ほう、そうか。しかしあまりに出来過ぎとると思わんでもない。クアンタは現状、見事なまでに吾輩らにとっても必要な戦力となり得とる。……コレが主によっての差し金ではないかと思わんなら、それは思考停止しとる者の考え方じゃ」
アメリアはヤエを完全に信用していない。否、ヤエに対する信用というだけならば、恐らく皇族達は誰も、信用という信用をしていない。
リンナは誰の言葉とて構わず信用してしまう悪癖こそあるが、彼女を上手くコントロールできるクアンタや、アルハットが傍にいる故、制御は簡単だ。
だが、アメリアだけは違う。
ヤエの言葉を、完全に理解するまで思考を回しつつ、しかし彼女の言葉を一切信用していない。
信用せずに、彼女の語る言葉と事実が一致すれば、一致した部分を信用するだけの事。
つまり、情報に決して踊らされる事無く、地に足を付けて物事を見据える者。
――ヤエからすれば、一番動かしにくい存在である筈だ。
「クアンタにやらせたい事は話せない。そして、リンナさんが他に必要となるかどうかという問いもな」
「例の能力とやらのせいで、かの?」
「そうだ」
「既にその能力は、ガルラのせいで使い物にならんでおる。主が見えるという未来の観測も、今や最初に観測しておった未来とは異なる形になっておるのではないか? ――それとも、ガルラが関わってきたせいで、未来は既に見えんようになっとるかもしれんのぉ」
舌打ち、煙草を作り出した灰皿に押し付け、もう一本を吸い始める。誰から見ても、今の彼女は苛立っていた。
アメリアという不確定要素に、ヤエは自分の能力を語り過ぎたのだ。勿論ヤエの能力が何かを話さねば、彼女の出す情報を信用される事も無いからという理由こそあったが、それが却って面倒な事態を引き起こしている。
「あの、アメリア様。どういう事っすか?」
「菊谷ヤエの能力は【過去・現在・未来における観測能力】じゃ。そしてこの能力には、語れる所と語れん所があるようじゃ。そしてその境は恐らく……過去や現在について、吾輩らが知り得ている、または多少知り得ている事がある場合、それを語れるようになるようじゃな」
例えば、一番最初に彼女が【五災刃】や【災い】、【マリルリンデ】についてを語った時。
皇族達は伝承という点から災いという存在についての仮説を立てていき、少なからずリンナの刀が災い討滅に必要なファクターであるのではないかと認識した。
そして後にヤエは現れ、その仮説が真実であるのだと裏付ける説明を果たした。
だがマリルリンデについてはフォーリナーであるという情報以上を語らなかった。そもそも、マリルリンデがガルラやルワンという姫巫女とかつて親交があり、共に戦った事など、欠片も言葉にしなかった。
それは、皇族達がマリルリンデについてを、ただ「災いを率いるボス」程度にしか認識していなかった為だろう。つまり、それ以上を語れなかったのだ。
「じゃがそれ以上に、この菊谷ヤエの能力をかき乱す存在が、二人……否。三人、現れたワケじゃ。結果として、既にこ奴の能力はほとんど機能しておらん状態なのではないか、と吾輩は仮説を立てたワケじゃな」
「三人……? えっと、誰……ですか?」
「リンナ、ガルラ、そして――カルファスじゃな」
アメリアがカルファスに視線をやると、ヤエも僅かに視線をカルファスに向ける。だが、カルファスも今の言葉には驚きと言わんばかりに口を開け、困惑している。
「え、え、え~。アメちゃん、なんで~? どうして私がヤエさんの能力をかき乱すって~?」
「その反応でバレバレじゃぞカルファス……さっき『ガルラがチキューから来た』という話を聞いた反応で何となく察したわ。詳しくは分からんがのぉ、例の【根源化の紛い物】とやらのせいで、ヤエの持つ観測能力が狂っとるんじゃろうて」
言い当てられた。ヤエとカルファスはアメリアの他人を観察する能力がどれだけ優秀であるかを再確認するように、ため息をついた。
「ねぇ、マリルリンデって、ホントに悪い奴なの……?」
「レアルタ皇国に敵対する者という点や、災い達を率い、出している被害をマリルリンデの罪とするならば、マリルリンデは悪という事になりますね」
「でも、今までの話を聞いてる限りだとさ、マリルリンデのやってる事って、復讐としか思えないじゃん」
マリルリンデの事は、リンナも、ここにいる全員も、断片的な事しか知らない。
だが彼を、悪と断言する事など、リンナには出来なかった。
彼がクアンタと同じくこの星へと降り立ったフォーリナーであり、かつては虐殺や凌辱によって追われる身になった姫巫女達を守る為に戦い、二十年前には、リンナやシドニアの母であるルワンや、リンナの義父であるガルラと共に、この星を守る為に災いと戦った。
――である筈なのに、これまでの皇族は彼ら、彼女らの功績を、戦いの記録を、抹消した。
事実、伝承等という当たり障りのない記録だけを残されて――この場にいる面々は、ヤエから情報を与えられなければ、何も知らぬ状態で戦わねばならなかった。
「マリルリンデは母ちゃんや、親父の友達だったんでしょ? 友達がしてきた事を、自分がしてきた事を蔑ろにされて……怒んない奴なんていない」
「リンナさんは、マリルリンデがしようとしている事は復讐であり、そしてその復讐には、正当性があると?」
「……分かんないよ。もう、頭ごっちゃごちゃして、分けわかんねぇよ……っ」
リンナは如何せん、他人の願いや想いを共感しようとする心が強すぎる。
それは一種の優しさではあるが――彼女の脆く、弱い心を一瞬で打ち砕く要因にもなりかねない。
「リンナ。貴女のそうした所は、とても魅力的よ。……でも、まずは善悪や、他人の利己・利他的な考え等に共感をするのではなく、事実を知りましょう」
誰も言葉を発せぬ中で、リンナの友人であるアルハットだけが、リンナの隣に腰かけて、彼女の頭を撫でる。
「ヤエさんの言う通り、物事は仮説や推論によって決められるべきではないもの。……貴女が共感によって得た相手への理解は、真の理解ではないかもしれないの。だから、まずは事実をしっかり把握するのよ」
ね、と優し気に声をかけるアルハットの声に、リンナは少し落ち着くと言わんばかりに、頷き、彼女の肩に頭を乗せた。
クアンタはアルハットへ視線をやり、小さく頭を下げる。
……クアンタには、アルハットの様に気を使った言葉のかけ方が、分からなかったのだ。
「続けよう。……なんにせよ、ガルラとマリルリンデは約八十年前から二十年前の災い大量発生事件までの間、姫巫女達を守り続けた」
そしてガルラは、シドニア領首都・ミルガスに自身の工房を設置し、このゴルサという星に刀の文化や技術を遺す為、刀匠として、人間として生活を営んでいったのだと、ヤエは語る。
「そんな時だ。……十五年前、生まれたばかりのリンナさんが、ガルラ鍛冶場の家宅前に捨てられていたんだ」
リンナを捨てた人物は皆、口にしないが分かっている。
リンナとシドニアの母・ルワンだ。
「そこが少し疑問だったのだが」
口を挟んだのは、シドニアだ。アメリアも、彼の言葉に頷いた。
「母さんがリンナを育てられない理由は分かる。戦いを終え、皇帝の妃に戻るべき彼女は、皇族側に属さねばならなかったからな」
そうした、皇帝の妃としての立場故、ルワンが別の男と繋がり出来た子供を、実の子として育てる事が出来なかった、というのは想像に難くない。
「だが何故母さんは、リンナの父である筈のミクニ・バーンシュタインという男に、リンナを任せなかったのだろうか?」
「あまり気分のいい話ではないぞ?」
ヤエが一応忠告として放った言葉に、しかし誰もならばいいと言う事は無かった。どんな些細な事であっても、事実を知りたいとする皇族達の意見であり、ヤエもそれを尊重した。
「ルワンにとって、ミクニ・バーンシュタインという男は信用が出来なかったんだよ。奴は非常に利己的な男だったし、自分の娘であるリンナさんをどう育てるか分かったものじゃなかった。だから、信用に足る男……ガルラに任せようとしたんだ」
そして事実、リンナはガルラの下で真っすぐに、優秀な刀匠として育っていった。
確かに姫巫女としての経験や戦いの方法は知らずに育ったが――故に彼女は純粋な優しい少女に育ったのだろうと言う想像は難しくない。
「それより先……というより、ガルラがどうしてリンナさんを姫巫女としてでなく、刀匠として育てようとしたかは分からん。……ガルラについて知っている事は、これ位か」
思いの外、情報は増えていない。整理が出来たと言う点については好ましかったかもしれないが、簡単にまとめれば「ガルラが神霊と同化した元・人間である事」と「現状は敵対しているのかどうかも分かっていない」という整理が出来ただけで留まっている。
だがクアンタは、ここまでの話で一つの疑念が湧き出たが故に、問う。
「神さま、一ついいだろうか」
「どうしたクアンタ」
「お師匠が姫巫女の末裔である事や、刀匠・ガルラに拾われた子供である事を、神さまはお師匠当人には伝えようとしなかった。その理由は何故だ?」
リンナとヤエの初邂逅は、クアンタがこのゴルサという星に降り立って一日目、ヴァルブ・フォン・リエルティックとの騒動を終えてクアンタの正体をリンナに明かす時である。
しかし彼女はこの時、リンナに殴られた事以外は、特に彼女の話題を出さなかった。
さらに、その後はリンナが眠っている間に、五人の皇族を霊子移動で呼び出して集結させ、彼女は災いや五災刃、そしてマリルリンデの事を軽くだが語り、その時ヤエはリンナが眠っている事を確認しつつ、彼女が姫巫女の一人であり、彼女はガルラに拾われた捨て子だった事を明かした。
「簡単だ。そもそもリンナさんは対災いや、対マリルリンデという点においては、刀を生み出す為に必要な存在ではあったが、戦力という点では必要無かったからな」
「お師匠は刀匠として、ただ守られる立場である筈だったと」
「あぁ。そんなリンナさんが下手に自分の生まれや境遇を知ってしまえば、戦いたがるに決まってる。だから内緒にしてしまおうとしていた――という事だ」
「では神さまにとって、お師匠は必要なファクターでは無いと?」
その問いには、ヤエも口を塞いだ。
僅かに目を泳がせ、しかしアメリアが彼女の視線をジッと観察していた事から、下手に誤魔化すと嘘と思われる可能性も加味し、ため息をついて頷いた。
「今まさに言っただろう。対災い・対マリルリンデという点においては、刀匠としてのリンナさんが必要だっただけだ」
「では問うぞ菊谷ヤエ。――それ以外にはリンナが必要だというのかえ?」
ホラ来た、と言わんばかりにヤエがため息をつきつつ、アメリアへと顔を向ける。
「そもそもじゃ、クアンタがリンナの所へ来た事も、主の差し金ではないのか?」
「それは否定する」
「ほう、そうか。しかしあまりに出来過ぎとると思わんでもない。クアンタは現状、見事なまでに吾輩らにとっても必要な戦力となり得とる。……コレが主によっての差し金ではないかと思わんなら、それは思考停止しとる者の考え方じゃ」
アメリアはヤエを完全に信用していない。否、ヤエに対する信用というだけならば、恐らく皇族達は誰も、信用という信用をしていない。
リンナは誰の言葉とて構わず信用してしまう悪癖こそあるが、彼女を上手くコントロールできるクアンタや、アルハットが傍にいる故、制御は簡単だ。
だが、アメリアだけは違う。
ヤエの言葉を、完全に理解するまで思考を回しつつ、しかし彼女の言葉を一切信用していない。
信用せずに、彼女の語る言葉と事実が一致すれば、一致した部分を信用するだけの事。
つまり、情報に決して踊らされる事無く、地に足を付けて物事を見据える者。
――ヤエからすれば、一番動かしにくい存在である筈だ。
「クアンタにやらせたい事は話せない。そして、リンナさんが他に必要となるかどうかという問いもな」
「例の能力とやらのせいで、かの?」
「そうだ」
「既にその能力は、ガルラのせいで使い物にならんでおる。主が見えるという未来の観測も、今や最初に観測しておった未来とは異なる形になっておるのではないか? ――それとも、ガルラが関わってきたせいで、未来は既に見えんようになっとるかもしれんのぉ」
舌打ち、煙草を作り出した灰皿に押し付け、もう一本を吸い始める。誰から見ても、今の彼女は苛立っていた。
アメリアという不確定要素に、ヤエは自分の能力を語り過ぎたのだ。勿論ヤエの能力が何かを話さねば、彼女の出す情報を信用される事も無いからという理由こそあったが、それが却って面倒な事態を引き起こしている。
「あの、アメリア様。どういう事っすか?」
「菊谷ヤエの能力は【過去・現在・未来における観測能力】じゃ。そしてこの能力には、語れる所と語れん所があるようじゃ。そしてその境は恐らく……過去や現在について、吾輩らが知り得ている、または多少知り得ている事がある場合、それを語れるようになるようじゃな」
例えば、一番最初に彼女が【五災刃】や【災い】、【マリルリンデ】についてを語った時。
皇族達は伝承という点から災いという存在についての仮説を立てていき、少なからずリンナの刀が災い討滅に必要なファクターであるのではないかと認識した。
そして後にヤエは現れ、その仮説が真実であるのだと裏付ける説明を果たした。
だがマリルリンデについてはフォーリナーであるという情報以上を語らなかった。そもそも、マリルリンデがガルラやルワンという姫巫女とかつて親交があり、共に戦った事など、欠片も言葉にしなかった。
それは、皇族達がマリルリンデについてを、ただ「災いを率いるボス」程度にしか認識していなかった為だろう。つまり、それ以上を語れなかったのだ。
「じゃがそれ以上に、この菊谷ヤエの能力をかき乱す存在が、二人……否。三人、現れたワケじゃ。結果として、既にこ奴の能力はほとんど機能しておらん状態なのではないか、と吾輩は仮説を立てたワケじゃな」
「三人……? えっと、誰……ですか?」
「リンナ、ガルラ、そして――カルファスじゃな」
アメリアがカルファスに視線をやると、ヤエも僅かに視線をカルファスに向ける。だが、カルファスも今の言葉には驚きと言わんばかりに口を開け、困惑している。
「え、え、え~。アメちゃん、なんで~? どうして私がヤエさんの能力をかき乱すって~?」
「その反応でバレバレじゃぞカルファス……さっき『ガルラがチキューから来た』という話を聞いた反応で何となく察したわ。詳しくは分からんがのぉ、例の【根源化の紛い物】とやらのせいで、ヤエの持つ観測能力が狂っとるんじゃろうて」
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