魔法少女の異世界刀匠生活

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第十九章

戦う理由-01

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 その時、シドニア領に存在するレアルタ皇国国立美術館の客数は少なかったと言っても良い。

  仕事の人間が多い平日、それも昼時を過ぎて夕方に差し掛かり、そろそろ閉館間際という時間でもあったからこそ人が少ない時、二人の男女が来館。

  一通り展示を見終えた後に、リンナ刀工鍛冶場より寄贈された、既に故人となっている刀匠・ガルラが遺した遺作へと目をやった。

  厳重に管理され、最も人目に入る中央に展示された刀は、刀立てによってその刃を見せつけている。男女はその鏡面とも言える美しき刃と、刃文を眺めた。


「凄いね。でも何で、あんな波が出るんだろ」


 男と手を繋いだ女が尋ねると、男は物知ると言わんばかりに得意げな表情で語っていく。


「刀ってのは芸術品だからな。ああいう波一つとっても意識して入れられていくんだよ」


 刀匠の意向が最も籠められる部分さ、と語る男の言葉に、女は「へー」と関心にも、無関心にも思える相槌で返したが――


「ちぃとばかし、彼女さんへ得意げに語るにゃ足りねぇよ、坊主」


 そこで、二人の傍に紺の着物を着込み、帯刀した初老の男性が近付いた。


「刀の刃文は、土置きと呼ばれる作業によって作り出される。焼き入れという工程へ入る前に土と呼ばれるモンを刀に塗っていくンだが、その土を薄く塗った部分は焼き入れの後に硬くなり、厚く塗られた部分が柔らかくなる。その硬軟入り交ぜた結果として刃文が出来上がる」

「へぇ。刀って鉄を打つだけじゃないんだぁ」

「基本的に土置きってーのは刀匠の……というより流派や時代の癖が強く出る部分で、そこが刀を見るポイントとして重要だ。例えばこの刀においては湾れ刃のたればと呼ばれる、ゆったりとした波のように見える刃文が特徴だぁな」


 そして現在、唯一の刀匠として残るリンナ刀工鍛冶場の刀匠・リンナが打つ刀はほとんどが【重花丁子じゅうかちょうじ】と呼ばれる、花弁が重なり合っているようにも、一見して乱れているようにも思える刃文が多い。

  どちらが良い、というものではなく、刀匠の心を映し出す鏡として出るポイントなのだと、初老の男は語っていく。


「オジサン詳しいですねェー。刀マニアぁ?」

「おい、もう行こうぜ」

「えー、もうちょい聞いていこうよぉ。刀に詳しい人なんて滅多にいないしぃ」


 刀の技術や伝承が潰えて久しい今日、美術館であるにも関わらず刀に関する知識を備えている者はいない。だからこそ女性はそうした知識を聞くのも面白いとしたが、男は女性に良い格好を出来ずに不満げだ。


「安心しろ坊主。オレァそろそろ帰る」

「ああ、そうかよ」

「おう。――この刀だけ貰ってくがな」


 突如、男女の身体が重くなった。

  何かが圧し掛かっているような感覚と共に、男女はべたりと地面へ突っ伏し、今まさに警備の人間も、彼らと同様に地へ伏せた。

  何が起こっているのか、それを理解するよりも前に、初老の男は強く拳を振り抜いて、刀匠・ガルラの遺作として展示されていた刀の、強化されたゲレスの箱を、殴りつけた。

  ピシリと入る亀裂、そこから伝うように走るヒビ。

  男はマズいと、重たい体を何とか動かしながら急いで彼女の身体へ覆い被さった。

  亀裂とヒビから、弾けるようにしてゲレスが砕かれた。細やかなゲレスの粒が男の身体全体、警備の人間に降り注ぐが、しかし小粒故に怪我は少ない。少々肌を切る程度だ。


  鳴らされる警報、しかし既に初老の男は刀を同じ箱の中で展示されていた鞘へと差し、自身の腰に巻いた刀差しに携えた。


「坊主、オメェは見込みがある。彼女さんをそうしてずっと守ってけ」


 咄嗟に彼女の身体を傷つけまいと動けた男の事を褒めた初老の男性。

  彼はニッと不敵な笑みを浮かべると、薄暗い美術館の、闇へと消えていくのだった。


  
  **
  
  
  アルハット・ヴ・ロ・レアルタが招集した結果、シドニア領首都・ミルガスに存在するシドニア領皇居へと集結していた皇族達。

  カルファス・ヴ・リ・レアルタは、姉であるイルメール・ヴ・ラ・レアルタの左腕に取り付けた特性の義腕に触れながら、その使用感を尋ねる。


「どうかなイル姉さま。日常生活には問題ない?」

「日常はな。ただ、やっぱ着けてる、ッつー印象は覆せねェわ」


 義腕はイルメールの肌と完全に同化していて、繋ぎ目すらも常人では認識し得ない。軽く振り回すイルメールの動きにもついていくし、彼女の筋肉量に合わせた人工筋肉も搭載している。


「自然に神経系と繋がる形だからねぇ。手早く無理矢理繋げると神経を傷つけちゃう可能性もあるから、自然結合を待とうねぇ」

「……正直オメェにしてはまともな義腕でビックリしてるんだがな」

「ふふん! 何せ主な開発者はアルちゃんだからね!」

「オメェの功績じャねェのかよ……」


 だが何にせよ、レアルタ皇国という国において最強である彼女が戦える状況というのは好ましい。

  特にアルハット、カルファス、アメリアの三人は、災いとの戦いで必要になる刀の扱いに長ける者ではない。だからこそ、イルメールとシドニア、ワネットとサーニスの四人が重要だ。


「ならばイルメールの復帰祝いを兼ねて――少し、どころかかなり悪い話をしても構わんかのぉ?」


 サーニスの淹れた紅茶を飲みながら、苛立ちを隠せないと言わんばかりのアメリアが口を開く。

 そんな彼女の心情を全て理解しているわけではないが、しかし全員が口を閉じた事を確認。アメリアは頷く。


「結構じゃ。サーニス」

「ハッ」


 一歩下がりながら主君を立てる形であったサーニスが名を呼ばれ、アメリアの指示を受ける形で、シドニア、アルハット、イルメール、カルファスの順で、書類を渡していく。


  そこには短く『アメリア領における刀保有者一覧及び刀損傷被害一覧』と書かれ、ズラリと名が連なっていた。


「リンナの所にガルラが現れおってから既に一週間経過しておる。――イルメール領も同様に、刀が配備された警兵隊員や皇国軍人が次々に闇討ちされ、中には死亡者も出ておる」

「ですが死亡者数は、被害全体から見ても一割以下、刀を破壊・消滅させられる比率が十割という所から鑑みると」

「刀匠・ガルラが、リンナの刀を排除する為に動き出した――という事か」


 シドニアが顎に手を当てながらそうまとめるが、しかしそれでは足りないと言わんばかりに、アメリアは首を横に振る。


「問題は、イルメール領においてはガルラによる被害が、むしろ少ない事じゃ」

「何?」

「勿論無いわけではないがの。しかし、人相書きを被害に遭った兵達へ回して尋ねた所、イルメール領における被害は、多くが斬鬼による被害じゃった。逆にアメリア領における被害は、ガルラによる被害が多かったわ」

「なるほど――私達の被害とは合わんが、こちらは餓鬼による被害、というわけか」


 シドニアが放った言葉の意味が分からずにいたアメリア。だが、その答えは彼の右斜め後ろに立っていたワネットが差し出した書類で、意味を理解した。


  ――シドニア領における火災発生報告、及び作戦行動中行方不明になった皇国軍人をまとめた書類である。


「つまりシドニア領は、餓鬼によって皇国軍人が始末されていると?」

「それだけじゃない。配備していた刀だけは火災被害現場に残っていたのだが、どの刀も全て破壊されていた」


 リンナの打つ刀には虚力が内包されている。故に彼女の打った刀は餓鬼による炎置換の能力が通用せず、現場に残ってしまうという現象故だろう。

  だがその刀が破壊されている事を鑑みると、扱う者を殺める事が目的ではなく、刀の排除を目的に行動していたが故に、兵を殺す事になったと思われる。


「つまりよォ。あのガルラッつーリンナの親父は、災いと手を組ンで、災いと一緒にリンナの刀をドンドン壊しまくッてるッつー事でいいのか?」

「リンナ刀工鍛冶場にマリルリンデを引き連れて現れた所から察するに、そういう事じゃろうな」


 マリルリンデの目的は現在、人類の淘汰・粛清の末に、選別された人類による進化の道を辿る事と聞いている。

 淘汰されて滅ぼされる八割と、残る二割による生存と、今後の進化。

  そしてその上で、ここにいる五人の皇族達は、選ばれた人類である――というのだが。


「五災刃の面々は、そうした人類の選別で満足するのでしょうか?」


 アルハットが問いかけると、全員がこれまで出会ってきた五災刃を思い返す。

  暗鬼は既にシドニアによって滅ぼされたが、しかし残る斬鬼、豪鬼、餓鬼、愚母という四体の災いがいる。


「豪鬼君は……もしかしたら色々考えてるかもしれないけどねぇ」


 豪鬼との戦闘や会話の経験が多いカルファスがそう口を滑らせるも、イルメールとサーニスも頷く。


「斬鬼もそうです。奴は殺害を楽しむ戦闘狂というよりは、果し合いにおける礼節を重んじる一面があります」

「まぁ、人類の八割減らすって計画自体には問題なさそうだが、人類滅亡はアイツも好かねェンじゃねェかな?」


 そしてアルハットは、そうした戦った事のある姉達やサーニスの言葉を受けつつ、自分も一度争った餓鬼の事を思い出す。


「餓鬼は、恐らく全人類の滅亡を望んでいます……いえ、私もあまり深く、話をしたワケではないので、直感になってしまいますが」

「まぁ、戦わないと分かんない事ってあるもんねー」


 アルハットの頭を撫でるカルファスがそう同意したが、アメリアには分からない感覚で、彼女はサーニスに僅かな目線を送ると、彼も頷いた。


「戦いとは相手との、言葉を交わさない語らいでもあります。下手に口を通さぬ分、相手の真意がより理解できることも」

「……吾輩には分からん世界、という事か」


 この中で唯一、戦いという手段を自らが行えぬアメリアの嘆きが、シドニアにも届く。

 だが彼女はこれまで、そうした戦いの中に自分がいる必要は無いと認識し続けて来た女性だ。

 今は彼女自身が戦えない事よりも、そうした戦いを経てしか分からぬ事もあるという事実を知り、そうした経験も必要であったのだろう事を、僅かながらに悔やんでいるのかもしれない。
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