魔法少女の異世界刀匠生活

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第十九章

戦う理由-08

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 シドニア領からアメリア領へ抜ける道には色濃い緑の広がるラフェエルタ高原が存在する。

  ラフェエルタ高原はシドニア領における農作地帯となっており、夜も更けると人通りはほとんど無いと言っても良い。

  アメリアとイルメールを乗せて走る馬車。サーニスは馬の手綱を右手で握りながら左手で照明魔動機を道へ向けていた。しばらく道なり、ある程度調教された馬であるからして、人や物の気配があればゆっくりと減速するようになっている。

 出発したての頃はアメリアとイルメールによる喧騒が聞こえてきたにも関わらず、今は随分と静かであると感じた。

 中の様子を確認できる小窓を見据えると、アメリアの頭部に顔を乗せ、目をつむって「くかぁ……」といびきをかくイルメールが。顔を乗せられているアメリアは、額に青筋を浮かべている。


「こ奴、マジで嫌いじゃ……っ」


 苛立ちを口にしたアメリアの言葉はサーニスにも聞こえた。彼は苦笑を浮かべつつ、身体に走る痛みを堪えながら、前を向く。


(自分も本気だったとはいえ、全力のクアンタとの果し合いは、少々無謀だったか)


 現状、第三世代型ゴルタナを有するサーニスと、エクステンデッド・フォームへと変身したクアンタの実力は、互角と言っても良い。

  魔法少女としてのパワーに優れるクアンタと、剣士としての技能に優れたサーニスでは、互いに相性が悪いという点も大きい。

  だがクアンタは虚力の伴う攻撃を受けなければ、流体金属としての肉体は幾らでも再生が可能となる反面、サーニスにはそうした技能は無い。

  もしワネットやカルファスが身近にいれば治癒魔術による肉体の自然治癒速度を底上げする事も出来たのだろうが、現在はそうもいかなかった。

  イルメールはそうしたサーニスの調子を見抜いた上で、アメリアとの馬車に同乗する事を選んだのだろう。もしサーニスが今動けなくなってもイルメールさえいればアメリアの護衛という点においては最良であるから。


  ――そう、今のように。


  サーニスが、馬車の進行方向に立つ一人の男を見据え、手綱を強く引き、馬の脚を止めさせた。

  そしてアメリアを枕にして眠っていたイルメールもカッ、と目を見開いた後、腰に備えていたゴウカと荷台にあるクアンタからサーニスへと返却されたリュウオウを掴みつつ、アメリアの姿勢を下げさせる。


「な、何事じゃ!?」

「サーニス!」


 不意に頭をイルメールによって圧され、姿勢を下げさせられたアメリアが疑問を言葉にするが、イルメールは聞いてもいないと言わんばかりにサーニスへと声をかけ、彼も頷いた。

  馬の顔を撫でながら、馬車より降りたサーニス。彼は馬車の窓からイルメールが投げたリュウオウを掴むと鞘を引き抜き、刃の切っ先を馬車の進行ルートに佇んでいる男へと向けた。


「……ガルラだな?」

「アンタとは二度目ですな、従者さん」

「自分の名はサーニスだ。覚えておけ」


 男――ガルラは、サーニスの構えた刀を見据えた後、ニッと笑みを浮かべながら、少しずつ彼へと近付いていく。


「その刀、流通屋にあった皇族用じゃないですかい。アァ、そりゃアンタにお似合いだよ」

「貴様はこの刀を折れんと?」

「折れねェな。いや、折ろうと思えば折れるが、そこは職人の性ってヤツでね。良いモンは良い。悪いモンは悪いで、良いモンを後世に残しておきてェモンなのさ」


 損な性分だがね、と笑うガルラに、サーニスはしかし刃を向け続けながら、問う。


「ならば何の用だ?」

「用は二つでさぁ。一つは、そちらにいらっしゃるイルメール様の刀、あれは鈍だ。折らにゃならねェ」


 馬車でアメリアを守る為に待機するイルメールへチラリと視線を向けたガルラに、イルメールも視線を向けたままだ。

  今のガルラが放つ、神霊特有なのか異様な気配を感じてしまっているイルメールは、随分と彼を警戒している。

  サーニスがクアンタとの戦いで本調子でない今、彼が別にマリルリンデや災いを使役した場合、不利はどうしても覆しにくい故に、一番対処法の定まっていないガルラが天敵となる。


「もう一つは?」

「シドニア様方から聴いていらっしゃるでしょう? ……オレの同士にならねェか、という勧誘を、お三方にしようと思ったンですわ」


 ガルラは腰に携えている刀に手こそ添えているが、抜く気配はない。

  だがその刀がどうにも見覚えがある気がして――サーニスは、目を細めた後に、右手で握っていた刀を左手で持ち替えて逆手持ちにすると同時にガルラの首を落とす為、振り込んだ。

  先日、アメリア領営病院での攻撃と同様に首を狙った事には勿論理由がある。

  ガルラへ同じように対処をさせる為であり、読み通りガルラは鞘ごと刀を持ち上げるとサーニスの振るった刃を受け止め、そのまま刃を抜き放った後に、二、三振り程の斬り合いを、一秒にも満たぬ時間で行い、距離を取る。


「やはりその刀、レアルタ皇国国立美術館に寄贈されていた、貴様の遺作だな」

「オレが生きてるのに遺作っつーのも、変な感覚だけどな」

「少なくとも盗人と皇族の方々を合わせるわけにはいかん」

「否、その話に乗ろうではないか」


 イルメールに守られながら、堂々と姿を晒すアメリア。彼女はサーニスとイルメールが正面と背後を守る間に立ち、ガルラを睨みつける。


「先日お会いした時は、随分とオレにビビっていらっしゃったと思ったんですがな」

「今もブルッとるわ。吾輩の精神力が如何に強靭でもの、首筋に刃を突き立てられとる感覚を常時受け続けても平常で居られるほど、非人間ではないつもりじゃ」


 毅然とした態度に見えても、確かにアメリアの足は振るえ、それ以上ガルラへと近付く事は出来ないと主張している。心の平静を保てる距離が、今の十数メートル程離れた距離、という事なのだろう。

  それに加え、イルメールやサーニスの護衛があるという安心感はあるのかもしれない。

  彼女は恐怖の只中にあるが、恐怖を抑え込んで俯瞰した立場から状況を鑑みる余裕もある。


「じゃが恐れておっても状況は変わらん。貴様が交渉の席に立つと言う事であれば、吾輩も同じ席に座り、この命を賭けに出すだけの事よ」

「命を賭すとは、皇族の方にあってはならん暴挙ではないですかい?」

「阿呆か。クアンタやリンナという、本来吾輩らが守らねばならん娘っ子たちを戦わせるよりも、余程皇族らしい選択じゃろうが」


 そう答え、まさに眼力を強めたアメリアの事を好ましく思ったのか、ガルラはカカ、と笑いながら、先ほどサーニスと相対した際に抜いた刀を、鞘へと戻す。


「それで、どうですかな。オレやマリルリンデと共に、人類の選別にご協力を願えないですかね?」


 人類選別についてを語るには軽い口調で、ガルラがアメリアへ提案する言葉。だが彼女は首を横に振るのではなく、手を前に出し、その話は一旦置いておけとジェスチャーする。


「の前に、一つ聞かねばならんの。主やマリルリンデは、五災刃を従えておるように被害報告を見ても感じるのじゃが、これは事実と捉えても構わんかの?」

「……まぁ、五災刃の事を知っている状態でそう考えんわけないですわな。そしてオレ等としても、それに考えが及ばんような人間を相手にしているつもりもないですわ」

「ハイかイイエで答えるべきではないかの?」

「勿論『ハイ』ですよ。奴らも少なからず目標は人類だ。となりゃ、協力しない手も無いでしょうよ」


 苦笑し、僅かに目線が下に落ちた。そうした態度に違和感を覚えたアメリアは、顎に指を置きながら、唇を親指で拭う。

  アメリアはガルラの話を聞き出してこそいるが、その回答が事実かどうかの確認を目的としたものではない。

  彼女がガルラの言葉を引き出すのは、彼の言葉に嘘と真実がどれだけ交差しているかを確認するためだ。

  九割の真実に一割の嘘が混じっていた場合、その嘘を見抜く事は非常に難しい。

  だが『話に嘘が一割混じっている』という事実さえ分かれば、一割に該当する部分を探り当てる事など、アメリアにとっては容易い事だ。


「ならば次の問いじゃ。こうして交渉に来ると言う事は、吾輩ら五人の皇族が、そうした人類選別によって生を選ばれる価値がある人間と見込んでおる、と考えて良いのかえ?」

「強いて言えば、イルメール様は検討せざるを得ない所がありますね」


 自分の名を呼ばれ、イルメールはギロリとガルラを睨むが、しかし彼はその視線を流しつつ、イルメールが口を開くのを待つと言わんばかりに黙る。


「……オレか?」

「ええ。イルメール様は皇族という立場にありながら、他者との争いを好み過ぎている。攻撃的であり過ぎてるっつー事ですわな」

「テメェは争いを嫌うッてか」

「嫌いますよ。嫌った結果として、人類の選別なんぞを推し進めてんですからね」


 イルメールとの会話も、アメリアは聞き逃さぬように、そして言葉を口にするガルラの挙動も見逃すわけにはいくまいと、視線を向け続けているが、そこでガルラがアメリアへ視線を戻した。


「だが何にせよ、皇族の方々はそれぞれのやり方で頂点にいる。その技能を、知識を、後世に遺して行きたいと考える事は、おかしな事ですかな?」


 またも、苦笑。ガルラの態度を見据え、アメリアは一つの結論に辿り着いたようで、目を閉じてため息をつくと、その問いに返答をする。


「おかしいかどうかはともかく――いいかの?」

「何でしょうな」

「主、隠し事や嘘が苦手じゃろ。……少なくとも人類の粛清や淘汰など、考えておらん。隠し事に関しては菊谷ヤエの方が一枚上手じゃて」


 思わず、ガルラが言葉を失った。

  目と口を開いて、アメリアが何故そうした結論に辿り着いたか、それを理解できぬと言わんばかりに、彼女を凝視する。


「貴様は人類粛清や淘汰、そして選別を語る時、どうにも視線が下へ向く。それもただ下へ向くだけではない。下へ向いた後、左右どちらかへ僅かに揺らすのじゃ」

「……それが、オレにとっての嘘であると、どう説明するんです?」

「目は口ほどにモノを言う。ああ、確かにそれが嘘か真か等、証明は出来ん。出来んが、しかし吾輩はこの真偽眼を以て十二年もの年月を、政界という混沌で生き残ってきたのじゃ。見当違いだと言うても良い。その言葉ですらも嘘か真か、見極めてやることも悪くないでのぉ」
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