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第十九章
戦う理由-09
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アメリアも、彼の言葉が全て嘘だと言っているわけではない。
彼がイルメールへ向けて放った言葉は全て真実であるのだろうと感じたし、サーニスが皇族用の刀を持つ事を良しとしている事も、真実ではあるだろう。
「主が人類の選別や粛正をする気が無いとすれば、疑問が湧いて出る。主は実際にその為に動き、災いもそれに従い行動しておるように見える。否、それだけではない、主がマリルリンデと共に行動する事も疑問となるわけじゃな」
アメリアはマリルリンデとの邂逅自体は少ない。シドニアとリンナの母・ルワンと収容施設で相対し、ルワンの語りを共に聞いた事位だ。
しかしその時にも、アメリアは彼に対して疑問があった。
「じゃが確かに、マリルリンデもそうじゃ。奴はあまりにも『人間の悪性を嫌っておる』と感じたが、しかし『シドニアのような人類選別』については、あくまでルワンにどうしたいかを問う為に提示したように思えたわ」
そしてルワンがマリルリンデの誘いであった『子供たちが幸せに暮らせる世界』として提示した人類選別を拒否すると、その時は簡単に諦めた。
ガルラやルワンを歴史の闇に葬った皇族や人類を恨んではいても――人類を嫌っているようには、どうにも見えなかったのだ。
「のうガルラよ。主は、そしてマリルリンデは、何を目的に行動しておる? マリルリンデはあの時簡単に諦めおった人類選別を今さら再び持ち出し、こうして吾輩ら皇族を誘うような『真似事』をしておる。その真意を知りたいと考えるのは自然な事じゃろ?」
「……人様の嘘を見抜くのが、そんなに楽しいんですかい? アメリア様は」
言葉通り、気分がよろしくないと言わんばかりに、怒りを僅かだが込めた言葉が、アメリアをより恐怖させる。
だが、アメリアは言葉を決して途絶えさせぬ。
「嘘を見抜く事自体に好き嫌いは無い。むしろ、その嘘や隠し事の内容が問題じゃ。他者を陥れる為の嘘や隠し事程、人類の最も醜悪な部分と言っても良い」
「その嘘や隠し事を繰り返してきた皇族が、何を偉そうに」
「おや、その言葉は紛れもない主の言葉じゃ。嘘も隠し事も含まぬ、心地良ささえ感じる程のぉ」
「アンタはそうやってヒトの嘘や隠し事を見抜いて、曝け出させて、楽しんでいるんじゃないかと聞いているんだ」
「何度吾輩に阿呆と言わせる気じゃ。吾輩にそんな趣味は無いし、主の嘘や隠し事をどうこう言うつもりなどないわ。ただ主の隠し方、嘘のつき方が下手じゃと言うとるんじゃ。――人間は嘘や隠し事をせねば、生きていけん生命じゃからのぉ。その有無自体を咎める気など毛頭ないわ」
アメリアはこれまでの人生で、嘘と隠し事が常に隣り合わせの世界に自分を置いてきた。
しかしその中で、彼女は常に「良い嘘と隠し事」を続けてきたつもりだ。
「嘘と隠し事は違う。そして良い嘘と隠し事、悪い嘘と隠し事も違う。どちらも使い方次第で、国や人を簡単に動かせてしまうものじゃ。故に吾輩は、良い嘘と隠し事を好む者を好き、悪い嘘や隠し事を好む輩を咎めて来たつもりじゃ」
故にアメリアはこれまでの人生で、真偽を視る目を鍛え続けた。
嘘と隠し事の真意を知り得なければ、その嘘や隠し事の先にある意味を理解できない。
「――さて、主のついた嘘や隠し事について、良し悪しを確認させて貰う為に、もう一度問うぞガルラよ。主は果たして何を目的に、マリルリンデや災いと共に行動をするのか」
「……一つ、関係ないですが、いいですかい?」
「存分に言葉を発するがよい。それが吾輩にとって良い判断材料となり得るでの」
「……アンタ、よっぽどオレの知る神々より質が悪ぃぞ?」
「じゃろうな! 吾輩が何より嫌いなのは、神や神を騙るような輩じゃ。少なくともそうした輩に口で負ける事は無いよう、鍛えておったと言っても過言ではない!」
アメリアは宗教や神という存在が嫌いだ。
存在するだけならばいい、ただ人間へ言葉を語るだけならば無視をするだけだが、神の名の下で好き勝手に人を動かすような存在であれば、それらに唾を吐き捨て足蹴にしてきたと言っても良い。
「そもそも主や菊谷ヤエのように、思考回路と個人の意思が介在し、特定の思惑を人間へ押し付けるような者共を、どうして神と崇める事が出来ようか」
ガルラが冷や汗を流し、一歩僅かに足を下げた。
故にアメリアは、一歩前に足を進め、ついでにもう一歩、踏み込んだ。
「もう一度言うぞ? そもそも人間は嘘や隠し事をしなければ生きていけん存在じゃ。もしそうした嘘や隠し事をせずに全てを曝け出し、その上で全てを愛せる様な、果てしない阿呆がいるとしたら――そんな阿呆こそが、吾輩にとっての神と言ってもよい」
白熱するアメリアの圧に、ガルラの後退する足は止まらない。一歩、また一歩と足を下げ続け、アメリアは彼が下げた足の分、よりもう一歩と進んでいく事で、今アメリアを守るサーニスに隣接した。
「主や菊谷ヤエも、人間を超えた存在として神を名乗っとるかもしれん。実際にそうした、神と名付けるしかない位にあるやもしれん。しかし吾輩にとっては『ヒトよりも優れた部分があるだけの人間』にしか見えんわ。何せ、主も菊谷ヤエも、嘘と隠し事で自分を塗り固めておるのじゃから!」
それ以上は前に歩を進ませない。しかしガルラに対するけん制としては、それまでで十分である。
既に、アメリアに言葉一つ発する事のリスクを、伝える事が出来ている。
「じゃが吾輩は、嘘も隠し事も肯定する。故に貴様と菊谷ヤエの存在も肯定できる。――その嘘と隠し事が、悪しきもので無ければ、じゃがの」
神かヒトかではない。
良きか、悪きか。
アメリアにとっての判断材料は、それ以上でもそれ以下でもないのだ、と。
堂々と言い切った彼女の言葉に口を結んだガルラだが、しかしアメリアは「では続けよう」と得意げに、彼のした誘いについてを再開した。
「ガルラよ、主が本当の目的として抱いてはおるが、他者に隠す事はなんじゃ?」
ガルラは答えない。
これまでの会話で、アメリアはガルラの言葉や挙動、目の動き、手や足の些細な動きだけで、自分の発言が嘘か真か、見抜いてきた。
その精度がどれだけ高いか、それはガルラ自身が良く分かっている。
「だんまりかえ、寂しいのぉ。じゃが無理やり聞き出すのも、個人的趣向として悪くはない」
アメリアとしてもこうなる事は予想済みだ。むしろ、一度だんまりと口を閉ざして貰った方が、後々口を開いて貰った時の言葉は実に判断がしやすいものだ。
「そうじゃのぉ……人類の選別ではなく、主は人類の滅亡を目指しとる、というのはどうじゃ? 説得力があるのではないかえ?」
ガルラは口を開かない。だがその眼力は僅かに強まり、今にもアメリアへ斬りかかってきそうだ。
「何せ主やマリルリンデは姫巫女達を守ってきたにも関わらず、ルワンも亡き今、残るはリンナしかおらん。そうした人類の愚かしさ故、八割と言わず全員を殺してやりたいと願うのも、神たる貴様が思考する事かもしれんのぉ」
アメリアの喉元に突き付けられる、幻想の刃がどんどんと近付いてくる気がする。彼女は首筋に僅かな汗を流しつつ、しかし彼へそうした弱い一面を見せる事無く、言葉を途絶えさせない。
「それとも下らない支配欲故かのぉ? 人類の八割を粛正し、残る二割の人間を導いていくと、それこそ神の名を騙り、支配する。何事も人の心が弱くなるのは貧困故。八割も人類が粛清されてしまえば、残る二割はそうした魅惑に勝てんかもしれん」
実に浅ましい事じゃなぁ、と推測で語った彼を小ばかにするかのように、アメリアは言葉と横暴な態度を止めはしない。
ガルラの右腕、その筋肉が僅かに引き締まった。腕に力を込めた故であり、アメリアは仕上げと言わんばかりに、彼へ指を付きつける。
「もしこの支配欲故という仮説が正しければ、主が真っ先に殺したいのは吾輩ではないかえ? 吾輩ならば、そうした残る二割の人類を率いる事が出来る。貴様なんぞに人類の先導をさせて堪るものか!」
イルメールとサーニスが、同時に前へと出ようとする。
だがアメリアは横並びに立ったサーニスを手で牽制すると、そのまま一歩前へ出て、今本物の切先が首――それも、喉元に突き立てられ、肌を斬り、僅かに血を流させた。
「さっきから聴いてりゃ……人が黙ってるのを良い事に、ペラペラペラペラと見当違いな事をほざきまくりやがる……っ」
「――ふふ」
だがどうにも、本物の刃は少し冷たくて、夜風と共に少しだけ心地が良かった。そうした変な感慨によって笑みを引き出させたが、ガルラはそれが小ばかにされたと感じたのか、激高をより強めた。
「何を笑ってやがる……!?」
「否、幻想の刃よりも、本物の刃の方が怖くない……と思うてな」
それに、と。
アメリアは、ガルラが自分の喉元に向けている刃を左手で軽く握り、その掌を僅かに刃で斬る。
血が溢れ、ガルラもサーニスも、イルメールでさえも、アメリアがなにをやっているかを理解していないし、動けない。
今下手に刃を動かせば、ガルラの遺作という名刀程の切れ味であるなら、簡単にその指を切り落とせてしまう。
「主はリンナに気に食わんモノを力で圧制する事の愚かしさを叱ったそうじゃな。しかし、主もそうした力を、怒りを制御出来てるとは言い難い。――実に似ておる。本当に貴様の子ではないのかと疑いたくなるが、そこは事実なんじゃろう」
「……黙れ。指を切り落とすぞ?」
「構わん。そうなれば主は怒りによって我を忘れる愚か者であると理解できる故な。それならばそれで、吾輩にとっても他の皇族にとっても都合が良い。――指の一本や五本、くれてやるわ」
「脅しじゃねェ! 今すぐ手を離して口を閉じてろ! じゃねェと……!」
今にも、刃を強く引き、アメリアの手を切り裂いてしまいそうな気配を感じ、イルメールとサーニスが対処法を検討する一瞬。
――その一瞬で、アメリアは勝負を仕掛けた。
「のうガルラ。主が本当に果たしたい願いや理想は――リンナの為にある世界ではないのかぇ?」
目を見開き、口を僅かに開け、閉じ、しかしまた開けと繰り返すガルラ。
そうした彼の態度を見据え、アメリアは目と目を合わせた上で彼の真意を理解し、刃を握っていた手を離すと、サーニスが今彼女の身体をガルラから離す為にガルラの腹部を強く蹴り飛ばし、イルメールがアメリアの身体を抱き寄せ、守った。
ガルラは地面を転がりながらも姿勢を正した。大きく距離は開け、更にその表情は蹴られた痛みとアメリアに突きつけられた言葉によって、未だに動揺がうかがえる。
彼がイルメールへ向けて放った言葉は全て真実であるのだろうと感じたし、サーニスが皇族用の刀を持つ事を良しとしている事も、真実ではあるだろう。
「主が人類の選別や粛正をする気が無いとすれば、疑問が湧いて出る。主は実際にその為に動き、災いもそれに従い行動しておるように見える。否、それだけではない、主がマリルリンデと共に行動する事も疑問となるわけじゃな」
アメリアはマリルリンデとの邂逅自体は少ない。シドニアとリンナの母・ルワンと収容施設で相対し、ルワンの語りを共に聞いた事位だ。
しかしその時にも、アメリアは彼に対して疑問があった。
「じゃが確かに、マリルリンデもそうじゃ。奴はあまりにも『人間の悪性を嫌っておる』と感じたが、しかし『シドニアのような人類選別』については、あくまでルワンにどうしたいかを問う為に提示したように思えたわ」
そしてルワンがマリルリンデの誘いであった『子供たちが幸せに暮らせる世界』として提示した人類選別を拒否すると、その時は簡単に諦めた。
ガルラやルワンを歴史の闇に葬った皇族や人類を恨んではいても――人類を嫌っているようには、どうにも見えなかったのだ。
「のうガルラよ。主は、そしてマリルリンデは、何を目的に行動しておる? マリルリンデはあの時簡単に諦めおった人類選別を今さら再び持ち出し、こうして吾輩ら皇族を誘うような『真似事』をしておる。その真意を知りたいと考えるのは自然な事じゃろ?」
「……人様の嘘を見抜くのが、そんなに楽しいんですかい? アメリア様は」
言葉通り、気分がよろしくないと言わんばかりに、怒りを僅かだが込めた言葉が、アメリアをより恐怖させる。
だが、アメリアは言葉を決して途絶えさせぬ。
「嘘を見抜く事自体に好き嫌いは無い。むしろ、その嘘や隠し事の内容が問題じゃ。他者を陥れる為の嘘や隠し事程、人類の最も醜悪な部分と言っても良い」
「その嘘や隠し事を繰り返してきた皇族が、何を偉そうに」
「おや、その言葉は紛れもない主の言葉じゃ。嘘も隠し事も含まぬ、心地良ささえ感じる程のぉ」
「アンタはそうやってヒトの嘘や隠し事を見抜いて、曝け出させて、楽しんでいるんじゃないかと聞いているんだ」
「何度吾輩に阿呆と言わせる気じゃ。吾輩にそんな趣味は無いし、主の嘘や隠し事をどうこう言うつもりなどないわ。ただ主の隠し方、嘘のつき方が下手じゃと言うとるんじゃ。――人間は嘘や隠し事をせねば、生きていけん生命じゃからのぉ。その有無自体を咎める気など毛頭ないわ」
アメリアはこれまでの人生で、嘘と隠し事が常に隣り合わせの世界に自分を置いてきた。
しかしその中で、彼女は常に「良い嘘と隠し事」を続けてきたつもりだ。
「嘘と隠し事は違う。そして良い嘘と隠し事、悪い嘘と隠し事も違う。どちらも使い方次第で、国や人を簡単に動かせてしまうものじゃ。故に吾輩は、良い嘘と隠し事を好む者を好き、悪い嘘や隠し事を好む輩を咎めて来たつもりじゃ」
故にアメリアはこれまでの人生で、真偽を視る目を鍛え続けた。
嘘と隠し事の真意を知り得なければ、その嘘や隠し事の先にある意味を理解できない。
「――さて、主のついた嘘や隠し事について、良し悪しを確認させて貰う為に、もう一度問うぞガルラよ。主は果たして何を目的に、マリルリンデや災いと共に行動をするのか」
「……一つ、関係ないですが、いいですかい?」
「存分に言葉を発するがよい。それが吾輩にとって良い判断材料となり得るでの」
「……アンタ、よっぽどオレの知る神々より質が悪ぃぞ?」
「じゃろうな! 吾輩が何より嫌いなのは、神や神を騙るような輩じゃ。少なくともそうした輩に口で負ける事は無いよう、鍛えておったと言っても過言ではない!」
アメリアは宗教や神という存在が嫌いだ。
存在するだけならばいい、ただ人間へ言葉を語るだけならば無視をするだけだが、神の名の下で好き勝手に人を動かすような存在であれば、それらに唾を吐き捨て足蹴にしてきたと言っても良い。
「そもそも主や菊谷ヤエのように、思考回路と個人の意思が介在し、特定の思惑を人間へ押し付けるような者共を、どうして神と崇める事が出来ようか」
ガルラが冷や汗を流し、一歩僅かに足を下げた。
故にアメリアは、一歩前に足を進め、ついでにもう一歩、踏み込んだ。
「もう一度言うぞ? そもそも人間は嘘や隠し事をしなければ生きていけん存在じゃ。もしそうした嘘や隠し事をせずに全てを曝け出し、その上で全てを愛せる様な、果てしない阿呆がいるとしたら――そんな阿呆こそが、吾輩にとっての神と言ってもよい」
白熱するアメリアの圧に、ガルラの後退する足は止まらない。一歩、また一歩と足を下げ続け、アメリアは彼が下げた足の分、よりもう一歩と進んでいく事で、今アメリアを守るサーニスに隣接した。
「主や菊谷ヤエも、人間を超えた存在として神を名乗っとるかもしれん。実際にそうした、神と名付けるしかない位にあるやもしれん。しかし吾輩にとっては『ヒトよりも優れた部分があるだけの人間』にしか見えんわ。何せ、主も菊谷ヤエも、嘘と隠し事で自分を塗り固めておるのじゃから!」
それ以上は前に歩を進ませない。しかしガルラに対するけん制としては、それまでで十分である。
既に、アメリアに言葉一つ発する事のリスクを、伝える事が出来ている。
「じゃが吾輩は、嘘も隠し事も肯定する。故に貴様と菊谷ヤエの存在も肯定できる。――その嘘と隠し事が、悪しきもので無ければ、じゃがの」
神かヒトかではない。
良きか、悪きか。
アメリアにとっての判断材料は、それ以上でもそれ以下でもないのだ、と。
堂々と言い切った彼女の言葉に口を結んだガルラだが、しかしアメリアは「では続けよう」と得意げに、彼のした誘いについてを再開した。
「ガルラよ、主が本当の目的として抱いてはおるが、他者に隠す事はなんじゃ?」
ガルラは答えない。
これまでの会話で、アメリアはガルラの言葉や挙動、目の動き、手や足の些細な動きだけで、自分の発言が嘘か真か、見抜いてきた。
その精度がどれだけ高いか、それはガルラ自身が良く分かっている。
「だんまりかえ、寂しいのぉ。じゃが無理やり聞き出すのも、個人的趣向として悪くはない」
アメリアとしてもこうなる事は予想済みだ。むしろ、一度だんまりと口を閉ざして貰った方が、後々口を開いて貰った時の言葉は実に判断がしやすいものだ。
「そうじゃのぉ……人類の選別ではなく、主は人類の滅亡を目指しとる、というのはどうじゃ? 説得力があるのではないかえ?」
ガルラは口を開かない。だがその眼力は僅かに強まり、今にもアメリアへ斬りかかってきそうだ。
「何せ主やマリルリンデは姫巫女達を守ってきたにも関わらず、ルワンも亡き今、残るはリンナしかおらん。そうした人類の愚かしさ故、八割と言わず全員を殺してやりたいと願うのも、神たる貴様が思考する事かもしれんのぉ」
アメリアの喉元に突き付けられる、幻想の刃がどんどんと近付いてくる気がする。彼女は首筋に僅かな汗を流しつつ、しかし彼へそうした弱い一面を見せる事無く、言葉を途絶えさせない。
「それとも下らない支配欲故かのぉ? 人類の八割を粛正し、残る二割の人間を導いていくと、それこそ神の名を騙り、支配する。何事も人の心が弱くなるのは貧困故。八割も人類が粛清されてしまえば、残る二割はそうした魅惑に勝てんかもしれん」
実に浅ましい事じゃなぁ、と推測で語った彼を小ばかにするかのように、アメリアは言葉と横暴な態度を止めはしない。
ガルラの右腕、その筋肉が僅かに引き締まった。腕に力を込めた故であり、アメリアは仕上げと言わんばかりに、彼へ指を付きつける。
「もしこの支配欲故という仮説が正しければ、主が真っ先に殺したいのは吾輩ではないかえ? 吾輩ならば、そうした残る二割の人類を率いる事が出来る。貴様なんぞに人類の先導をさせて堪るものか!」
イルメールとサーニスが、同時に前へと出ようとする。
だがアメリアは横並びに立ったサーニスを手で牽制すると、そのまま一歩前へ出て、今本物の切先が首――それも、喉元に突き立てられ、肌を斬り、僅かに血を流させた。
「さっきから聴いてりゃ……人が黙ってるのを良い事に、ペラペラペラペラと見当違いな事をほざきまくりやがる……っ」
「――ふふ」
だがどうにも、本物の刃は少し冷たくて、夜風と共に少しだけ心地が良かった。そうした変な感慨によって笑みを引き出させたが、ガルラはそれが小ばかにされたと感じたのか、激高をより強めた。
「何を笑ってやがる……!?」
「否、幻想の刃よりも、本物の刃の方が怖くない……と思うてな」
それに、と。
アメリアは、ガルラが自分の喉元に向けている刃を左手で軽く握り、その掌を僅かに刃で斬る。
血が溢れ、ガルラもサーニスも、イルメールでさえも、アメリアがなにをやっているかを理解していないし、動けない。
今下手に刃を動かせば、ガルラの遺作という名刀程の切れ味であるなら、簡単にその指を切り落とせてしまう。
「主はリンナに気に食わんモノを力で圧制する事の愚かしさを叱ったそうじゃな。しかし、主もそうした力を、怒りを制御出来てるとは言い難い。――実に似ておる。本当に貴様の子ではないのかと疑いたくなるが、そこは事実なんじゃろう」
「……黙れ。指を切り落とすぞ?」
「構わん。そうなれば主は怒りによって我を忘れる愚か者であると理解できる故な。それならばそれで、吾輩にとっても他の皇族にとっても都合が良い。――指の一本や五本、くれてやるわ」
「脅しじゃねェ! 今すぐ手を離して口を閉じてろ! じゃねェと……!」
今にも、刃を強く引き、アメリアの手を切り裂いてしまいそうな気配を感じ、イルメールとサーニスが対処法を検討する一瞬。
――その一瞬で、アメリアは勝負を仕掛けた。
「のうガルラ。主が本当に果たしたい願いや理想は――リンナの為にある世界ではないのかぇ?」
目を見開き、口を僅かに開け、閉じ、しかしまた開けと繰り返すガルラ。
そうした彼の態度を見据え、アメリアは目と目を合わせた上で彼の真意を理解し、刃を握っていた手を離すと、サーニスが今彼女の身体をガルラから離す為にガルラの腹部を強く蹴り飛ばし、イルメールがアメリアの身体を抱き寄せ、守った。
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