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第十九章
戦う理由-10
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「やはりのぉ。ずっと怪しいと思うとった。そもそも主が本当に吾輩らを粛正対象から外しておるのなら、吾輩らの動向だけを確認しつつ、それこそ粛々と人類選別を進めれば良いだけじゃったろう。何せ、意味がないのじゃ。吾輩らにちょっかいをかけ、吾輩らに主らを警戒させる理由がのぉ」
「……アンタは、それを確かめる為に、オレの口を黙らせ、オレを怒らせたのか……!?」
「応ともよ。確かに吾輩ら皇族を味方に引き入れる事が出来れば、今後の人類選別に際し、有利となる事は間違いない。じゃが人類の八割淘汰となれば、レアルタ皇国全土にも被害は及ぶ。そう簡単に吾輩らが味方に出来るとは考えもせんはずじゃ」
ならば何故、彼が皇族を仲間に引き入れる事が出来ぬか思考をするのか。
それはここまで思考を巡らせる事が出来れば、アメリアにとってはそう難しい話でもない。
「主は先代までの皇族にはやはりというか、いい印象を持っとらん。むしろ目の前にいれば殺したいと願っておる程じゃろうな。それは嘘ではなかろうて」
それは彼の、これまで語ってきた言葉で、態度で、容易に想像ができる。
「先ほどイルメールに語った、こ奴だけは選別に含めるか否かを検討すべきというのも事実じゃろう。喧嘩っ早い……というより、もう争う事に全霊を注いでおる女じゃ。そう考えるのも無理はない」
自分に仇成すモノを殺す、と言えば過激だが、イルメールの考え方が一番これに近しく、また過去の皇族はあらゆる火種を圧政によって鎮静化してきた。勿論イルメールはそこまで野蛮でこそないが、しかし【理性ある戦闘狂】と【理性無き圧政者】の違いを明確に見極める事が出来る者がどれだけいるだろう。
「先ほど吾輩がまくしたてた言葉を聞いて、主がとっておった表情や態度を見る限り、主の望みは必要以上の殺戮、必要以上の淘汰ではない。もし人類の選別をするとしても、主が人類を統治するという『理に適った方法』にも、主は嫌悪感を示した。淘汰を果たした後の世界についてを、貴様は深く思考しておらんという事に他ならんじゃろう」
「……理に適った方法……?」
「言うたろう。人の信仰は心が弱まっとる時に定まりやすい。故に残り二割となった人類にとって、本物の神である主が人類を導いていくというのは、支配欲があるか否かは別としても合理的じゃ。それを『理に適った方法』だと考えんという事は、主にそもそも人類選別をするつもりが毛頭ないという事であろう」
ガルラはどうやら『そうした怒りを引き出す事でガルラの真意を測る』事がアメリアの目的だと思っていたようだが、それでは足りない。アメリアは『怒りを引き出すと同時に真偽の多角的検証要素を集めていた』わけだ。
アメリアが言葉を絶えさずに語った事で、ガルラの態度は流れるように早く切り替わる。態度を隠す事など思考する事が出来ぬ程に。
であればそうした態度による真偽を見極め、さらに深く情報を探る事等、アメリアにとっては赤子の手を捻る事よりも、容易い。
「リンナの為にある世界、という言葉に随分反応しておった所から察するに、主の狙いはソレ、もしくは近しい願いで決まりじゃろうな。流石に詳細までは読めんが、しかし概要程度の推察ならば、これまで出た情報で可能じゃ」
ガルラはマリルリンデや災いと共に、人類選別を推し進めている。
皇族、クアンタやリンナという敵である者達も引き入れようとしていた。
だがこれまでの流れを見ている限り、皇族達やリンナ達を本気で仲間に引き入れる事が出来ると考えているわけではないだろうし……どうにもアメリアには「皇族達やリンナ達を試している」としか思えない。
「主の目的は――リンナを守る事の出来る世界を構築する事じゃ。それも、ただ人々からリンナを守れる世にするだけではない」
「……おい、ホントに口を閉じろ」
「最優先は、吾輩ら皇族がリンナを守る為に動く事。その為には災いという脅威がリンナに迫る必要がある。マリルリンデと五災刃が人類の脅威となる事で、そうした脅威を――ッ」
今、イルメールが抱き寄せていたアメリアの身体を含めて地面に転がった。
どこかから飛来した一本の短剣が、アメリアの頬を横切ったのだ。
「アメリアちゃんはホント、賢い子だねェ……若干、ウゼェ位になァ」
「オメェが、マリルリンデか?」
「オォ。久しぶりだなイルメール。……つッても、オメェはオレの事を覚えてねェだろォが」
青々とした畑の中から姿を現したマリルリンデ。彼は神殺短剣を二本ほど掴みながら、それを今アメリアへ向けて振り込んだが、しかしイルメールが拳で殴り、弾く。
サーニスとイルメールは視線を合わせ、この場から後退する事も思考するが、しかしアメリアの口は止まらない。
「マリルリンデも来おったか、丁度良いわ。吾輩の口を閉ざさせようとする理由は分かっておる」
イルメールから離れ、ガルラとマリルリンデ双方の前へと足を動かしていく彼女に、皆の視線が集中する。
「主らが望む【リンナの為にある世界】は、この星の生命が進化を果たす為の土壌を――」
――だがアメリアは、ここで言葉を途絶えさせて堪るかと、この事実を付きつけなければ気が済まないと、叫ぼうとした、その瞬間だった。
サーニスやイルメールから距離をおいたアメリアが口を開くタイミングに合わせ、何かがイルメールの背後を横切ったのである。
「――ッ!!」
イルメールはゾワリとした感覚と共に、自分の身体を僅かに捻らせると、腰に携えていた脇差【ゴウカ】を括りつけていた紐を乱雑に切り、その場から退避。
ゴウカが地へ落ちようとした瞬間、その鞘ごと掴み、炎へと置換した者がそこに現れたのだ。
「――餓鬼ッ!!」
イルメールが餓鬼の姿を確認し、叫んだ瞬間、餓鬼はニヤリと笑いながらアメリアに向けて、イルメールの放棄したゴウカを置換した炎を投げた。
剛速球と言わんばかりの速さで駆け抜ける炎の球を、しかし寸での所で気付いたサーニスが、痛む体に鞭を打ちながら、身体で受け止める。
結果として彼の執事服が発火、サーニスは苦痛の表情を浮かべた。
「あ――ッぅうう、っ!!」
急ぎ、燃える執事服を乱雑に破りながら脱ぎ捨てたサーニス。だが現れた餓鬼、ガルラ、マリルリンデからアメリアを守らねばならないと、肌を焼く痛みを堪えつつ前を向いた瞬間――既に、餓鬼がサーニスの顔に手を付けようとしていた。
「ばいばぁい、サーニス」
そう口にして、サーニスの顔面に手を付け、彼ごと彼が身に着けている刀をも消滅させてしまおうと企む餓鬼へ。
――アメリアが、サーニスの身体を突き飛ばし、代わりに餓鬼の手に掴まれ、炎へと置換されてしまうのだった。
先ほどまで、アメリアがいた場所に、燃え盛る炎の渦。沈黙した、サーニスとイルメール。
二人は先ほどまで、声高らかに、そして意気揚々とガルラとマリルリンデを相手に頭脳戦を仕掛けていたアメリアの姿を探すが。
「……アメリア、様……?」
「……おい、餓鬼。オメェ……アメリアを、どこやった……?」
震える声で、問う二人の声に。
餓鬼も少々不完全燃焼と言わんばかりの声で、無邪気に返答をする。
「あ? 見てわかんない? サーニスの身代わりになって、炎になっちゃったよ」
地面から生えるようにして燃え盛る炎。畑に隣接した場所とは言え、燃え移るには少し風が足りない。
だからだろうか。餓鬼はその炎に触れると球体状に変化させ、それをイルメールへ投げつけた。
「ホラ――その炎が、アメリア。受け止めなよイルメール」
球体上にまとめられた炎はイルメールの腹部へと当たり、そこから彼女の纏うパンツや胸のマイクロビキニに燃え移った。
彼女の全身を燃やす炎。
イルメールはその炎によって焼かれる熱を何とも感じていなさそうに――だが、大きく見開かれた目に浮かぶ水分を、蒸発させていく。
そこで餓鬼は、先ほどゴウカを炎へと置換したつもりだったが――しかし刃の部分はリンナの虚力が込められている故に置換能力で消滅させる事が出来ず、鞘やハバキ、セッパといった部位だけが置換し、炎となり、地面に刀の刃部分だけが落ちていると気付いた。
強く踏みつけて、折る事で、少し気を紛らわせる。
「ありがとね、ボスとオッサン! アンタらのオカゲでチョー邪魔なアメリア、処分できたねっ」
「……餓鬼、オメェどうして」
マリルリンデが問う。ガルラも彼も、餓鬼の動向は把握していなかったのだ。
正確に言えば、ガルラは彼女に命令を下していた。彼女はシドニア領における警兵隊を中心に刀の排除、もしくは刀を持つ警兵隊員や皇国軍人ごとの始末を命じてあるはずで、この場所にいる筈がない。
「愚母ママからさぁ、ボスとオッサンが動いているって情報貰って、監視を命じられたの。んで、いい感じにイルメールとサーニスがバラけてくれたから、両方とも始末しようとしたってワケ」
そうした際の殺気をイルメールに感じ取られた結果として彼女の排除には失敗、だが彼女の脇差は消滅させることが出来た。
次いでサーニスに関しては、怪我でもしていたのか動きが僅かに遅く、隙を生み出す事が出来たので彼ごと皇族用の刀を始末しようとしていた所を、アメリアに邪魔をされた形である。
だがアメリアの排除が可能ならば優先するべきはアメリアの方だろうと判断、そのまま炎へと置換させた――という流れだ。
「後はサーニスか、サーニスの刀さえ炎にしちゃえば万事解決っつー事だよねぇ?」
嬉々として自分の立てた手柄を褒めて欲しいように言葉にする餓鬼。
だが、反してマリルリンデとガルラは、笑顔を無くすと同時に、構えた。
「おい、餓鬼ちゃん……今は何も考えず、ただ逃げろ。今すぐだ……ッ!」
「? 何言ってんのオッサン」
「言うとォりにしろ餓鬼ッ!! 死にてェのか――ッ!?」
とても普通の状態じゃないマリルリンデとガルラが何を言っているのかイマイチ理解できず、首を傾げながら振り返り、サーニスとイルメールの様子を見据えようとした瞬間。
――イルメールの顔が、目の前にあった。
餓鬼がギョッと驚きながら、イルメールに向けてその手を伸ばそうとするが、しかしその前に餓鬼の頭と顎を同時にイルメールの両腕が捻り、首を引き千切った。
彼女の移動も、彼女が餓鬼の首を引き千切る時も、あまりに一瞬の出来事過ぎて、ガルラもマリルリンデも反応など出来る筈もない。
だが、餓鬼は刀によって首を斬られたわけではなく、あくまでイルメールの圧倒的な暴力によって首を引き千切られただけだ。
刀を持つサーニスに一瞬で隣接したマリルリンデとガルラが、その手に掴む刀を振りこみ、まずは急ぎサーニスを無力化しようとする。
が、寸前にサーニスはレイピアとリュウオウの柄を握って抜き、二者の振るった刃を受け流すと、イルメールによって引き千切られて空中へと投げられた餓鬼の頭にレイピアを投げつけ、突き刺し、頭部は影が拡散する様に消えていった。
「オイ、サーニス。そこの邪魔な二人、任せた。……餓鬼に、刀じゃなきゃ死ねねェ事を、後悔させてやるからよ」
首を引き千切られた餓鬼は今、頭部を無くした身体を地面へと仰向けに倒れさせ、沈黙している。
だが刀で斬られたわけではない故に、まだ彼女を助ける事が出来ると判断したガルラとマリルリンデが彼女の身体を回収しようとするが。
餓鬼と二者の間に立ち、懐からゴルタナを取り出したサーニスが、瞳に涙を浮かべながら、小さく呟いた。
「イルメール様の、邪魔をするな。……ゴルタナ、起動」
「……アンタは、それを確かめる為に、オレの口を黙らせ、オレを怒らせたのか……!?」
「応ともよ。確かに吾輩ら皇族を味方に引き入れる事が出来れば、今後の人類選別に際し、有利となる事は間違いない。じゃが人類の八割淘汰となれば、レアルタ皇国全土にも被害は及ぶ。そう簡単に吾輩らが味方に出来るとは考えもせんはずじゃ」
ならば何故、彼が皇族を仲間に引き入れる事が出来ぬか思考をするのか。
それはここまで思考を巡らせる事が出来れば、アメリアにとってはそう難しい話でもない。
「主は先代までの皇族にはやはりというか、いい印象を持っとらん。むしろ目の前にいれば殺したいと願っておる程じゃろうな。それは嘘ではなかろうて」
それは彼の、これまで語ってきた言葉で、態度で、容易に想像ができる。
「先ほどイルメールに語った、こ奴だけは選別に含めるか否かを検討すべきというのも事実じゃろう。喧嘩っ早い……というより、もう争う事に全霊を注いでおる女じゃ。そう考えるのも無理はない」
自分に仇成すモノを殺す、と言えば過激だが、イルメールの考え方が一番これに近しく、また過去の皇族はあらゆる火種を圧政によって鎮静化してきた。勿論イルメールはそこまで野蛮でこそないが、しかし【理性ある戦闘狂】と【理性無き圧政者】の違いを明確に見極める事が出来る者がどれだけいるだろう。
「先ほど吾輩がまくしたてた言葉を聞いて、主がとっておった表情や態度を見る限り、主の望みは必要以上の殺戮、必要以上の淘汰ではない。もし人類の選別をするとしても、主が人類を統治するという『理に適った方法』にも、主は嫌悪感を示した。淘汰を果たした後の世界についてを、貴様は深く思考しておらんという事に他ならんじゃろう」
「……理に適った方法……?」
「言うたろう。人の信仰は心が弱まっとる時に定まりやすい。故に残り二割となった人類にとって、本物の神である主が人類を導いていくというのは、支配欲があるか否かは別としても合理的じゃ。それを『理に適った方法』だと考えんという事は、主にそもそも人類選別をするつもりが毛頭ないという事であろう」
ガルラはどうやら『そうした怒りを引き出す事でガルラの真意を測る』事がアメリアの目的だと思っていたようだが、それでは足りない。アメリアは『怒りを引き出すと同時に真偽の多角的検証要素を集めていた』わけだ。
アメリアが言葉を絶えさずに語った事で、ガルラの態度は流れるように早く切り替わる。態度を隠す事など思考する事が出来ぬ程に。
であればそうした態度による真偽を見極め、さらに深く情報を探る事等、アメリアにとっては赤子の手を捻る事よりも、容易い。
「リンナの為にある世界、という言葉に随分反応しておった所から察するに、主の狙いはソレ、もしくは近しい願いで決まりじゃろうな。流石に詳細までは読めんが、しかし概要程度の推察ならば、これまで出た情報で可能じゃ」
ガルラはマリルリンデや災いと共に、人類選別を推し進めている。
皇族、クアンタやリンナという敵である者達も引き入れようとしていた。
だがこれまでの流れを見ている限り、皇族達やリンナ達を本気で仲間に引き入れる事が出来ると考えているわけではないだろうし……どうにもアメリアには「皇族達やリンナ達を試している」としか思えない。
「主の目的は――リンナを守る事の出来る世界を構築する事じゃ。それも、ただ人々からリンナを守れる世にするだけではない」
「……おい、ホントに口を閉じろ」
「最優先は、吾輩ら皇族がリンナを守る為に動く事。その為には災いという脅威がリンナに迫る必要がある。マリルリンデと五災刃が人類の脅威となる事で、そうした脅威を――ッ」
今、イルメールが抱き寄せていたアメリアの身体を含めて地面に転がった。
どこかから飛来した一本の短剣が、アメリアの頬を横切ったのだ。
「アメリアちゃんはホント、賢い子だねェ……若干、ウゼェ位になァ」
「オメェが、マリルリンデか?」
「オォ。久しぶりだなイルメール。……つッても、オメェはオレの事を覚えてねェだろォが」
青々とした畑の中から姿を現したマリルリンデ。彼は神殺短剣を二本ほど掴みながら、それを今アメリアへ向けて振り込んだが、しかしイルメールが拳で殴り、弾く。
サーニスとイルメールは視線を合わせ、この場から後退する事も思考するが、しかしアメリアの口は止まらない。
「マリルリンデも来おったか、丁度良いわ。吾輩の口を閉ざさせようとする理由は分かっておる」
イルメールから離れ、ガルラとマリルリンデ双方の前へと足を動かしていく彼女に、皆の視線が集中する。
「主らが望む【リンナの為にある世界】は、この星の生命が進化を果たす為の土壌を――」
――だがアメリアは、ここで言葉を途絶えさせて堪るかと、この事実を付きつけなければ気が済まないと、叫ぼうとした、その瞬間だった。
サーニスやイルメールから距離をおいたアメリアが口を開くタイミングに合わせ、何かがイルメールの背後を横切ったのである。
「――ッ!!」
イルメールはゾワリとした感覚と共に、自分の身体を僅かに捻らせると、腰に携えていた脇差【ゴウカ】を括りつけていた紐を乱雑に切り、その場から退避。
ゴウカが地へ落ちようとした瞬間、その鞘ごと掴み、炎へと置換した者がそこに現れたのだ。
「――餓鬼ッ!!」
イルメールが餓鬼の姿を確認し、叫んだ瞬間、餓鬼はニヤリと笑いながらアメリアに向けて、イルメールの放棄したゴウカを置換した炎を投げた。
剛速球と言わんばかりの速さで駆け抜ける炎の球を、しかし寸での所で気付いたサーニスが、痛む体に鞭を打ちながら、身体で受け止める。
結果として彼の執事服が発火、サーニスは苦痛の表情を浮かべた。
「あ――ッぅうう、っ!!」
急ぎ、燃える執事服を乱雑に破りながら脱ぎ捨てたサーニス。だが現れた餓鬼、ガルラ、マリルリンデからアメリアを守らねばならないと、肌を焼く痛みを堪えつつ前を向いた瞬間――既に、餓鬼がサーニスの顔に手を付けようとしていた。
「ばいばぁい、サーニス」
そう口にして、サーニスの顔面に手を付け、彼ごと彼が身に着けている刀をも消滅させてしまおうと企む餓鬼へ。
――アメリアが、サーニスの身体を突き飛ばし、代わりに餓鬼の手に掴まれ、炎へと置換されてしまうのだった。
先ほどまで、アメリアがいた場所に、燃え盛る炎の渦。沈黙した、サーニスとイルメール。
二人は先ほどまで、声高らかに、そして意気揚々とガルラとマリルリンデを相手に頭脳戦を仕掛けていたアメリアの姿を探すが。
「……アメリア、様……?」
「……おい、餓鬼。オメェ……アメリアを、どこやった……?」
震える声で、問う二人の声に。
餓鬼も少々不完全燃焼と言わんばかりの声で、無邪気に返答をする。
「あ? 見てわかんない? サーニスの身代わりになって、炎になっちゃったよ」
地面から生えるようにして燃え盛る炎。畑に隣接した場所とは言え、燃え移るには少し風が足りない。
だからだろうか。餓鬼はその炎に触れると球体状に変化させ、それをイルメールへ投げつけた。
「ホラ――その炎が、アメリア。受け止めなよイルメール」
球体上にまとめられた炎はイルメールの腹部へと当たり、そこから彼女の纏うパンツや胸のマイクロビキニに燃え移った。
彼女の全身を燃やす炎。
イルメールはその炎によって焼かれる熱を何とも感じていなさそうに――だが、大きく見開かれた目に浮かぶ水分を、蒸発させていく。
そこで餓鬼は、先ほどゴウカを炎へと置換したつもりだったが――しかし刃の部分はリンナの虚力が込められている故に置換能力で消滅させる事が出来ず、鞘やハバキ、セッパといった部位だけが置換し、炎となり、地面に刀の刃部分だけが落ちていると気付いた。
強く踏みつけて、折る事で、少し気を紛らわせる。
「ありがとね、ボスとオッサン! アンタらのオカゲでチョー邪魔なアメリア、処分できたねっ」
「……餓鬼、オメェどうして」
マリルリンデが問う。ガルラも彼も、餓鬼の動向は把握していなかったのだ。
正確に言えば、ガルラは彼女に命令を下していた。彼女はシドニア領における警兵隊を中心に刀の排除、もしくは刀を持つ警兵隊員や皇国軍人ごとの始末を命じてあるはずで、この場所にいる筈がない。
「愚母ママからさぁ、ボスとオッサンが動いているって情報貰って、監視を命じられたの。んで、いい感じにイルメールとサーニスがバラけてくれたから、両方とも始末しようとしたってワケ」
そうした際の殺気をイルメールに感じ取られた結果として彼女の排除には失敗、だが彼女の脇差は消滅させることが出来た。
次いでサーニスに関しては、怪我でもしていたのか動きが僅かに遅く、隙を生み出す事が出来たので彼ごと皇族用の刀を始末しようとしていた所を、アメリアに邪魔をされた形である。
だがアメリアの排除が可能ならば優先するべきはアメリアの方だろうと判断、そのまま炎へと置換させた――という流れだ。
「後はサーニスか、サーニスの刀さえ炎にしちゃえば万事解決っつー事だよねぇ?」
嬉々として自分の立てた手柄を褒めて欲しいように言葉にする餓鬼。
だが、反してマリルリンデとガルラは、笑顔を無くすと同時に、構えた。
「おい、餓鬼ちゃん……今は何も考えず、ただ逃げろ。今すぐだ……ッ!」
「? 何言ってんのオッサン」
「言うとォりにしろ餓鬼ッ!! 死にてェのか――ッ!?」
とても普通の状態じゃないマリルリンデとガルラが何を言っているのかイマイチ理解できず、首を傾げながら振り返り、サーニスとイルメールの様子を見据えようとした瞬間。
――イルメールの顔が、目の前にあった。
餓鬼がギョッと驚きながら、イルメールに向けてその手を伸ばそうとするが、しかしその前に餓鬼の頭と顎を同時にイルメールの両腕が捻り、首を引き千切った。
彼女の移動も、彼女が餓鬼の首を引き千切る時も、あまりに一瞬の出来事過ぎて、ガルラもマリルリンデも反応など出来る筈もない。
だが、餓鬼は刀によって首を斬られたわけではなく、あくまでイルメールの圧倒的な暴力によって首を引き千切られただけだ。
刀を持つサーニスに一瞬で隣接したマリルリンデとガルラが、その手に掴む刀を振りこみ、まずは急ぎサーニスを無力化しようとする。
が、寸前にサーニスはレイピアとリュウオウの柄を握って抜き、二者の振るった刃を受け流すと、イルメールによって引き千切られて空中へと投げられた餓鬼の頭にレイピアを投げつけ、突き刺し、頭部は影が拡散する様に消えていった。
「オイ、サーニス。そこの邪魔な二人、任せた。……餓鬼に、刀じゃなきゃ死ねねェ事を、後悔させてやるからよ」
首を引き千切られた餓鬼は今、頭部を無くした身体を地面へと仰向けに倒れさせ、沈黙している。
だが刀で斬られたわけではない故に、まだ彼女を助ける事が出来ると判断したガルラとマリルリンデが彼女の身体を回収しようとするが。
餓鬼と二者の間に立ち、懐からゴルタナを取り出したサーニスが、瞳に涙を浮かべながら、小さく呟いた。
「イルメール様の、邪魔をするな。……ゴルタナ、起動」
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