魔法少女の異世界刀匠生活

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第十九章

戦う理由-11

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 サーニスの全身に展開されていくゴルタナの行方を、ガルラもマリルリンデもただ見ている事しか出来なかった。

  全身を黒で覆った外部装甲を展開し終えたサーニスは、右手にリュウオウをしっかりと握った上で二者へと牽制をするかのようにゆっくりと、歩を進めていく。


「おい、マリルリンデ。従者さんはオレが足止めする。オメェは餓鬼ちゃんを連れて逃げろ」

「出来ンのか?」

「出来るか出来ねェかじゃねェ。やるんだ」

「そんな事を、この自分がさせると思っているのか」


 二者の言葉は可能な限り小声で行われた。しかしサーニスはその聴覚を最大限稼働させて言葉を聞いた後、マリルリンデとガルラに向けて、地を蹴り迫る。


「マリルリンデ、行けッ!」


 ガルラは自らの遺作を構えると再度サーニスに肉薄する。

 だがしかし、サーニスはそうしたガルラの動きを読むかのように、背後へと回り込み、左足首の筋をリュウオウで切り裂いた後にガルラの首筋に向け、強く左足を振り回して殴打。


「なぁ……ッ!」

「神と言えど、身体があればそうなる」


  結果としてガルラはこの瞬間に数秒間身動きを取れなくなると判断、マリルリンデへと視線を向けたサーニスが、ガルラの首に一撃を叩き込んだ左足を軸に身体を回転させつつ、マリルリンデへと斬りかかる。


「速」

「遅い――ッ!!」


 リュウオウによって斬られてしまえば身体を虚力で形成するフォーリナーであるマリルリンデは消滅する可能性もある。

 急ぎ斬り込まれる刃と合わさるように刀を展開させたが、しかし自前の筋力に加えて回転のエネルギー、さらにはゴルタナ展開による補助パワーも合わさって、マリルリンデは強く後ろへと弾き飛ばされると、近くの畑へと身体を落とした。

  足の筋を斬られ、僅かに姿勢を悪くするガルラ。

  しかし彼の傷は目に見えて早いスピードで修復がされていき、サーニスは吹き飛ばされたマリルリンデを無視し、彼へと向き合った。


「先日言っていたように、貴様は刀を振るう者ではないようだな」

「……振るうモンだったとしても、アンタとイルメール様には、勝てる気がしねェよ。死なねェだけだ」

「そうか。だが今は貴様の殺し方などどうでもいい。――貴様もマリルリンデも、そこを動くな。餓鬼には犯した罪の重さを分からせる」


 サーニスの警告。彼はマリルリンデを見ていないように見えて、状況を俯瞰的に捉えている。マリルリンデが起き上がり、身体を餓鬼の方へと向けようとした瞬間、彼は一瞬で足元にあった小石をマリルリンデの頭部へと当て、警告の意味合いで促す。

 そして頭を引き千切られ、頭部を消された餓鬼であったが、しかし段々と頭部に影のような粒が集結し、形を整えつつある。

  イルメールはそんな餓鬼と一メートルほど距離を開けて待ち、今その頭部が完全に再生を終えた。


「ぷはっ」


 荒れた息と共に、餓鬼は意識を取り戻した。ハッ、ハッ、と呼吸の音が溢していると、イルメールが自分の事を見据えていると気付く。


「よォ。首を引き千切られた気分はどうだ、災い」

「……良くないに、決まってんじゃん……ッ」


 餓鬼は首に手を当てながら立ち上がり、イルメールという自分をコケにした相手を消してやりたいと、立ち上がり、膝を落とす。

  有利なのは圧倒的に自分だと、こちらは触れる事さえ出来れば炎に置換させて勝てる。向こうが触れてきても虚力で満たす事さえ出来れば勝てるのだと、勝利の条件が如何に簡単かとしたが――


「餓鬼ちゃん逃げるんだッ!! オメェじゃイルメール様には勝てねェッ!!」

「餓鬼、ガルラの言う通り逃げろッ! イルメールはオメェが考えてる以上の事をやッてくるッ!」

「うっせェっ! オッサンたちは黙ってろッ!」


 イルメールとの距離は一メートル弱。小柄な餓鬼ならば先ほどイルメールのゴウカを消滅させたように、イルメールに触れる事など造作もない事だ。


「餓鬼」

「……何さ、イルメール」

「オメェは相手に0.5秒弱触れる事で虚力を相手にまとわせ、炎にするみてェだ。気付いてるか?」

「それがなに?」

「二十三発」

「は?」

「オレが0.5秒の間に最大打ち込める――拳の数だ」


 頭部に十一発、胸部に三発、腹部に三発、両腕両足にそれぞれ一発ずつ。

  計二十一発の拳が、彼女の言う通り0.5秒の間に餓鬼へと打ち込まれた。

  打ち込まれた餓鬼は、一瞬の内に自分の身体が衝撃によって吹き飛ばされていった為、何が起こったかを理解できなかった。

  だが、吹き飛ばされる餓鬼の小さな、自分の三分の二程度しかない小柄な彼女の身体に向けて駆け、イルメールは右足を頭上よりも高く振り上げた後、振り下ろす。


  ブチュ、と。木から落ちた果実の様に潰れる、餓鬼の頭。

  その光景を、ガルラもマリルリンデも、ただ見ている事しか出来なかった。

  サーニスはそちらを、向いてすらいない。


「起きろ」


 頭が潰され、ビクビクと震わせる餓鬼の身体。

  しかしそうして休む事は許されないと言わんばかりに、イルメールは餓鬼の鳩尾に、右腕の拳を叩きつけて身体を貫いた後、すぐ引き抜いた。


「なァ、起きろッて」


 左足で、餓鬼の小さな手、、その五本指を一本一本、丁寧に踏み潰していく。

  災いは血など流さない。だが身体を構成する影のような黒い靄がどんどんと形を崩していき、消えていく姿は、何とも傷ましくも思える。


「悪かッたよ。次は頭を一番最後にしてやる」


 今、再び再生を終えた頭を戻し、意識を戻した筈の餓鬼だったが。


「起きたか」


 意識を戻した瞬間、餓鬼の恥骨付近をイルメールが踏みつけ、人間ならば恥骨が完全に砕けている威力で、潰した。


「あがあ、――アアアアッ、アアアアッ!!」


 喉を震わせながら放たれる絶叫。股間を押さえ、痛みに耐える餓鬼だったが、イルメールは止まらない。


「痛いか」

「痛い、痛い痛い痛いぃいいいぃ……ッ!!」

「良かったな。痛いっつー事は、生きてるっつー事だもんな」


 次にイルメールが破壊したのは、人間でいえば肋骨の辺り。大きく胸に凹凸を作り出された餓鬼は、口から「ごぼほぉっ」と汚い声を上げつつ、悶え苦しむ。

  決してイルメールは、0.5秒以上餓鬼に触れる事は無い。

  相手が触れて来てもすぐに対処できるようにしている。

  そうした中でも、イルメールは最大に相手を痛めつける方法を瞬時に頭で模索し、それを実行する。


  ――普段の彼女が決して行わぬ、人道に外れた行為だ。


「餓鬼、オメェは何回殺してほしい?」

「ひ……っ」

「アメリアを殺す事が出来たオメェに、出血大サービスッて奴だ。その五倍は殺してやる。計算苦手だから、それ以上殺しちまッても、恨まねェでくれ」


 そこからしばらくは、餓鬼の絶叫が途絶えなかった。

  振るわれるイルメールの拳と脚。

  それらが的確に、餓鬼の身体を貫いていき、餓鬼は既に瞳からボロボロと涙を流している。

 ただ見ている事しか出来ないガルラとマリルリンデは、あまりの傷ましさに目を逸らしそうになる。


「おい、目を逸らすな。しっかりと、餓鬼の痛みと向き合ってやれ」


 そんな二者に向けてそう言い放ったのは、サーニスである。


「……何が楽しい? オメェさんらは、あんな小さい子を虐めて、何が楽しいっつーんだ……!?」

「楽しい? そんな感慨はない」


 今、餓鬼の口元に向けて振り下ろされたイルメールの右足が、餓鬼の歯を叩き折る。

  それだけでは飽き足らず、イルメールは餓鬼の顎を掴むと、そのまま骨ごと砕きつつ、剥がした。

  喋る事もままならない彼女の、声にならない叫びが、まさに夜の空に響いた。


「これは復讐であり、見せしめだ。大人も子供も、男も女も、人間か非人間かも関係ない。もし貴様らがこれ以上人類に仇成すと言うのならば、人間が負った苦しみを何倍にも増幅させた上で、貴様らにも経験してもらうと、お前たちには理解して貰わねばな」


 まだ殺し足りないと。

  イルメールは殺意の視線を餓鬼の身体へと向けている。

  そんな彼女の眼はひどく冷たくて、餓鬼は人間ならば何度死んだか分からない痛みに耐えながらも、首を横に振った。


「も、……許し、許して……っ」

「許すワケねェだろ。いいか餓鬼、オメェ等のやってる事は戦争じゃねェ、人類に対するテロ行為、反逆だ。恨まれる事が、復讐される事が怖い奴がテロに参加するのは、見通しが甘いッてヤツだ――ッ!!」


 今、イルメールが振り上げた両足。

  だが彼女とサーニスは、全身に感じる強い重圧に、思わず動きを竦ませた。


「これは……っ」

「重力操作……豪鬼かッ!」


 上空を見据えると、空から落ちてくる豪鬼の姿を捉えた。

  イルメールは重力操作によって重たい体を制御しながら、こちらへ愚直に向かってくる豪鬼へと拳を振り込もうとする。

  だが、寸での所で重力操作が解除されたのか、急激に軽く感じる身体を制御する事が難しく、振るった拳は空を切り、その時には既に豪鬼が餓鬼の身体を回収、その場を離れていた。


「――豪鬼、テメェ邪魔すンなッ!!」

「……気は重いけど、妹を放っておける、そんな兄であるつもりも、無くてね」


 何とか立てるまでに再生した餓鬼を背中で隠しながら、豪鬼とイルメールが向かい合う。

  だが豪鬼はガルラとマリルリンデへ視線を向け、彼らもそれに頷いた。


「イルメール。アンタの相手はオレがする。……だがそれは、今じゃない」

「オイ、勝手な事をぬかすなよ。今すぐだ。今すぐそこの餓鬼をこっちに寄越せ。後十回くらい殺さなきャならねェ」

「悪い。……それは出来ない」


 震えながら、泣きながら身を翻し、どこかへと消えていく餓鬼の姿を見て、イルメールはわなわなと湧き出る怒りを豪鬼へとぶつけようとするが、しかし両腕を前面に押し出した豪鬼が、触れる事も無くイルメールの身体を、吹き飛ばした。


「重力操作は、こういう使い方もある……っ」


 急ぎ、サーニスへと視線を向けた豪鬼に、サーニスも刃を彼へと向けようとしたが、しかしその瞬間、ガルラとマリルリンデがその場から去り、豪鬼もそれを確認してから、宙へ浮いた。


「……本当に、ゴメン。お前たちが、アメリアを失った悲しみは……オレにも分かる」

「勝手な事をぬかすな、って……何度言えば分かンだ豪鬼っ!」

「けど、イルメールが言うように……これは反逆なんだ。……オレ達はもしかしたら、ボスやガルラに利用されているだけなのかもしれないけど……人類と敵対しなきゃ、生きていけないオレ達災いは……邪魔立てする人間を、殺していくしか、生きていく事が出来ないんだ……。


 だからオレは……餓鬼のした事を、咎める事は出来ない」


 言うだけ言って、どこかへと去っていく豪鬼の姿を、飛行能力を持たないサーニスも、イルメールも、見ている事しか出来なかった。


  二人はただ――ラフェエルタ高原の只中で、取り残されたのだ。
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