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第二十章
餓鬼とアルハット-03
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五災刃達が根城とするリュート山脈奥地の地下室は、幾つか部屋が点在する。
基本的に災い達はこういった部屋を利用する事は無い。彼ら彼女らにはそもそもプライベートという概念がない為だ。
愚母を除いた三体は、愚母より虚力を分け与えられる為にパスが繋がっている。虚力が形作られて顕現する彼らの五感は全て愚母へ直結している為、そもそも隠し事や個人的な事情等も通用しない。
パスを閉じる方法自体はあり、愚母もそれを特に咎めはしないが、閉じるという行為に意味を見出していなかった。
――だが今は、そうしたパスも閉ざし、埃の溜まり切った部屋の一つに籠城する少女がいた。
彼女はブルブルと身体を震わせながら、顔や手足、お腹や胸などを撫で、自分の身体が現在は再生も終えて、特にこれと言った損傷が無い事を何度も確認している。
何度も確認していても――今もまさに、イルメールが目の前から迫ってくるような感覚が襲い掛かってくる。
以前、カルファスに痛めつけられた時は、まだ怒りを感じる事が出来た。
電気ショックも、苦手な水に包まれた時も、ずっと「コイツは絶対に殺してやる」と恨みを持てた。
であるのに、今イルメールには、恨みや怒りを持つことが出来ない。
「なんなのアイツ……なんなのアイツ……っ」
声を荒げても、恐怖は収まらない。
冷たい目で睨みつけてくるイルメール。
有無を言わさず餓鬼を痛めつけてくるイルメール。
その巨体で、素早く動き、こちらがイルメールに触れる隙すらも作らず、ただこちらを痛めつける事だけに集中する彼女が――無意味に思えて、だからこそ恐ろしい。
怒りという、彼女が最も表現する感情表現を薄れさせるほどに。
『餓鬼』
扉の向こうから声が聞こえた。声が張っておらず低い音程は、恐らく豪鬼であろうことは分かったが、しかし餓鬼は今、彼へ気を回している余裕などない。
「どっか行けっ!!」
近くにあった瓦礫をドアに向けて投げつけ、人間が使っていたと思われるベッドの毛布を被った。
そうしていると豪鬼の声が聞こえなくなり、餓鬼はそうする事で、ようやく落ち着く事が出来た。
――出来た筈なのに。
『ははっ、餓鬼。君はボクがカルファスにビビってた事をバカにしてきた癖に、イルメールにボコボコにされた程度でビビっているのかい?』
頭へ直接響いてくるような声が聞こえて、餓鬼は目を見開きながら、背後を向く。
そこには、少々朧気でありながらも、暗鬼の姿があるように思えた。
「暗鬼……? アンタ、死んで……」
『本当に惨めだね。でも少し聞いてみたいな。あんな脳筋ごり押し女に負ける気分はどう? ボクだったら耐えられないよ。情けなくて自分の持ってる虚力放出して死にたい位さ』
「うるさい……うるさいうるさい……っ、……うるさいぃぃいい……っ!!」
暗鬼のいる場所へと殴りかかるも、靄が散る様にして消えていく。しかし次の瞬間には後ろに立って、餓鬼を罵倒するのだ。
『君は本当にガキだね。少し考えたらガルラやマリルリンデの警告を理解できただろう? そうでなくとも最初の段階でイルメールに自分の技術が通じない事を理解して、引き下がる事も出来ただろうに』
「うるさいうるさいっ!! 死者が出てくんじゃねェよッ!! 大人しく死んでろっ! アタシの目の前から消えろよっ!!」
ドアを叩く音があった事を、この時の餓鬼は聞こえていない。
本来いる筈の無い暗鬼の姿に気が動転し、彼女はそれが幻である事にも気付いていない。
『餓鬼、入るぞ!』
状況を理解できず、扉の向こうから豪鬼がそう声をかけ、餓鬼の立てこもっていた部屋に入る。
彼女は今、近くにあった枕を握り、やたらめったらに振り回しながら、叫び散らす。
「お前は死んでからもアタシをバカにする! アタシはこんなに頑張ってるのに! 認められもしない! 褒めてくれるのは愚母ママだけだッ!!」
「……餓鬼? 誰に、誰に向かって、話して……」
声がしたからか、豪鬼の方へ餓鬼は向いた。
視線はもはや定まって等いない。虚ろな瞳をぎょろりと向け、口からは叫び過ぎた結果か唾液 (状に形成した影)がポタポタと落ち、息を荒げている様子が、傷ましく思えた。
「……豪鬼、お前もアタシを……バカにすんだね……っ!?」
「何を」
「どいつもこいつも……なんで、何でみんな……っ」
「お……落ち着け、餓鬼。オレは」
何とか彼女を落ち着かせるために、優し気な声をかける豪鬼だったが、しかし餓鬼の目には、その豪鬼の背に隠れるようにして、幻影の暗鬼が姿を現す。
『今度は豪鬼に八つ当たり――本当にみっともないね』
「口を閉ざじてろ死者が……ッ!!」
『所で君は、愚母ママは褒めてくれるって言ってたけど、本当に今の君を褒めてくれるの?』
「褒めてくれるよッ!! 愚母ママはアタシを一番理解してくれてるんだッ! アタシが頑張ってる事も、ちゃんとできる事も……ッ!!」
『へぇ。じゃあ聞くけど、これまで君がやってきた事って、それこそ戦闘能力の無いアメリアを殺せただけじゃない? これからの戦い、君って役に立つ?』
ぐ、と息を詰まらせる。そんな餓鬼を心配そうに見据える豪鬼から目を逸らす。
それは彼の事など見ていないからであり――今は幻影の暗鬼が、自分の背後へと回ってきた事が原因である。
『戦闘初心者のリンナには君の能力が通じない。カルファスは君を痛めつけた、イルメールは君をボコボコにした。加えて唯一まともに戦えた筈のアルハットも、ちょっとお腹を焼く程度にしか役立ってないよね?』
「黙れ……っ」
『クアンタはマリルリンデと同じフォーリナーだから君の能力は通じない。サーニスとシドニアはアルハットよりも動くよ? アルハットにも勝てなかった君が、あの二人に触れて燃やせるの?』
「黙れっつってんじゃん……!」
『はは。本当に君って――役立たずだよね』
「死んだ奴が何を偉そうにッ!!」
『ボクはルワンを殺したよ。シドニアにもダメージは負わせた。まぁ、アメリアを殺した功績は称えてあげるべきかもだけれど、どうせ短期決戦になれば敵の中で一番優先度が低いのは彼女だ。にも関わらず、君はその程度の功績を褒めて欲しいって?』
「消えろッ!! 消えろ消えろ消えろォオオ――ッ!!」
周りにあるモノを、全て腕を振るって払う彼女の姿を、それ以上見ていられないと言わんばかりに豪鬼が部屋を出る。
そんな彼女の様子とは裏腹に、落ち着いた様子で椅子に腰かけている愚母へと近付き、声をかける。
「愚母、餓鬼のアレは……流石にヤバいだろ?」
「そうかしら? わたくしとしては、良い傾向だと思いますわ」
「どこが。餓鬼は今、多分だけど幻覚も見てるんだぞ? まともな精神状態じゃない。あんな状態で皇族やクアンタと殺り合っても戦いになんかならない。未熟なリンナを相手にしても負けるぞ?」
「随分と豪鬼は、餓鬼の事を気にするのね。……餓鬼とは違い、貴方はあまり良い傾向にないと思えます」
ゆっくりと立ち上がり、豪鬼へと向き直る愚母の表情は、恐ろしい程に冷たく感じた。
しかし豪鬼は慌てず、ただ彼女と繋がる虚力のパス接続を解除した。パスが繋がったままでは、彼女の持つ能力の一つにより、子宮へと取り込まれてしまう。
「……愚母。アンタは、災いという存在を、何だと考えている?」
「人類社会に災厄を振りまくもの。それだけですわ」
「オレ達名有りは、どうして人と同じ体を、感情を有し、名を得た?」
「人類社会へ効率的に災厄を振りまく為。そしてその感情は、貴方のように悩む事の為なんかに用意されたものではない。目的を達成するために、時として思考する事が必要であるからこそ、感情を有するべきなのよ」
「オレは……感情というのが、生きる為に必要だから……災厄を振りまくなんて無意味な事から脱する事の出来た……進化した存在こそが……名有りっていう存在なんじゃないかと……そう思う」
豪鬼が何を言っているのか、その真意が分からない――否、分かろうとしていない愚母が、彼の言葉を嘲笑うかのように、微笑みを溢す。
「オレ達は、そんな役割から脱するべきなんだよ……っ。人と同じ体を、人と同じ思考を、人と同じ名を持つようになったのは、きっと人の世で生きていけるように、オレ達はそうなるべきと、進化した結果なんだ……!」
以前、マリルリンデから「オメェはその『何で』を大切にしろ」と言われた時から、ずっと考えていた。
進化という言葉の意味、災いという存在が、名有りという存在がどうして人の世にあるのか。
――人から虚力を奪わなければ生きていけぬ彼ら災いが、何故人を滅ぼそうという思考にまでたどり着いてしまうのかは、結局分からない。
けれど、名有りがそうして感情を有した意味を、自分なりに求めた理想と合わせて考えるのならば、この答えしか浮かばなかった。
「オレは……愚母や、餓鬼や、斬鬼と、これからも一緒に……家族として、生きていきたい。暗鬼は、一緒に生きる事が、出来なくなってしまったけど……でも、ここから始める事で、アイツの犠牲を無駄にしない事は出来る……!」
人間を滅ぼすなんて、気が滅入り、途方もない野望を掲げるなんて間違っている、と。
豪鬼はそう訴える。
「では――貴方はわたくし達の敵となる、という事でよろしいので?」
「……いいや、敵になるつもりはない。何にせよ、戦いを始めてしまったんだ。皇族達を倒すしか、オレ達に明日は無い。それは、理解してるし、それを咎める気は、オレにもない」
殺されたいと思っているわけではない。彼女達を見捨てたいと、敵になると言いたいわけじゃない。
ただ、明日が欲しいんだと。
明日生きる為に必要な事を、一つ一つ、ただそれだけをこなして良ければ、それはとても幸せな事だと、主張する。
――だが、愚母は彼の考えを聞いても尚、首を横に振った。
「貴方も、わたくしの理想とする世界を、何ひとつ理解していないようね」
「……ああ、分かんないよ。アンタが何を理想とするのか、それをアンタは何も、オレ達に言う事も無く、ただ『人類を滅ぼす』という目的しか喋らないもんだからな」
「ふふ、何せ簡単な事ですもの。本当に、わたくし達災いにとっての理想郷、人類にとっての絶望を具現化した世界――
『わたくし達災いが、人の代わりに世界を統べる』という世界なんてね」
基本的に災い達はこういった部屋を利用する事は無い。彼ら彼女らにはそもそもプライベートという概念がない為だ。
愚母を除いた三体は、愚母より虚力を分け与えられる為にパスが繋がっている。虚力が形作られて顕現する彼らの五感は全て愚母へ直結している為、そもそも隠し事や個人的な事情等も通用しない。
パスを閉じる方法自体はあり、愚母もそれを特に咎めはしないが、閉じるという行為に意味を見出していなかった。
――だが今は、そうしたパスも閉ざし、埃の溜まり切った部屋の一つに籠城する少女がいた。
彼女はブルブルと身体を震わせながら、顔や手足、お腹や胸などを撫で、自分の身体が現在は再生も終えて、特にこれと言った損傷が無い事を何度も確認している。
何度も確認していても――今もまさに、イルメールが目の前から迫ってくるような感覚が襲い掛かってくる。
以前、カルファスに痛めつけられた時は、まだ怒りを感じる事が出来た。
電気ショックも、苦手な水に包まれた時も、ずっと「コイツは絶対に殺してやる」と恨みを持てた。
であるのに、今イルメールには、恨みや怒りを持つことが出来ない。
「なんなのアイツ……なんなのアイツ……っ」
声を荒げても、恐怖は収まらない。
冷たい目で睨みつけてくるイルメール。
有無を言わさず餓鬼を痛めつけてくるイルメール。
その巨体で、素早く動き、こちらがイルメールに触れる隙すらも作らず、ただこちらを痛めつける事だけに集中する彼女が――無意味に思えて、だからこそ恐ろしい。
怒りという、彼女が最も表現する感情表現を薄れさせるほどに。
『餓鬼』
扉の向こうから声が聞こえた。声が張っておらず低い音程は、恐らく豪鬼であろうことは分かったが、しかし餓鬼は今、彼へ気を回している余裕などない。
「どっか行けっ!!」
近くにあった瓦礫をドアに向けて投げつけ、人間が使っていたと思われるベッドの毛布を被った。
そうしていると豪鬼の声が聞こえなくなり、餓鬼はそうする事で、ようやく落ち着く事が出来た。
――出来た筈なのに。
『ははっ、餓鬼。君はボクがカルファスにビビってた事をバカにしてきた癖に、イルメールにボコボコにされた程度でビビっているのかい?』
頭へ直接響いてくるような声が聞こえて、餓鬼は目を見開きながら、背後を向く。
そこには、少々朧気でありながらも、暗鬼の姿があるように思えた。
「暗鬼……? アンタ、死んで……」
『本当に惨めだね。でも少し聞いてみたいな。あんな脳筋ごり押し女に負ける気分はどう? ボクだったら耐えられないよ。情けなくて自分の持ってる虚力放出して死にたい位さ』
「うるさい……うるさいうるさい……っ、……うるさいぃぃいい……っ!!」
暗鬼のいる場所へと殴りかかるも、靄が散る様にして消えていく。しかし次の瞬間には後ろに立って、餓鬼を罵倒するのだ。
『君は本当にガキだね。少し考えたらガルラやマリルリンデの警告を理解できただろう? そうでなくとも最初の段階でイルメールに自分の技術が通じない事を理解して、引き下がる事も出来ただろうに』
「うるさいうるさいっ!! 死者が出てくんじゃねェよッ!! 大人しく死んでろっ! アタシの目の前から消えろよっ!!」
ドアを叩く音があった事を、この時の餓鬼は聞こえていない。
本来いる筈の無い暗鬼の姿に気が動転し、彼女はそれが幻である事にも気付いていない。
『餓鬼、入るぞ!』
状況を理解できず、扉の向こうから豪鬼がそう声をかけ、餓鬼の立てこもっていた部屋に入る。
彼女は今、近くにあった枕を握り、やたらめったらに振り回しながら、叫び散らす。
「お前は死んでからもアタシをバカにする! アタシはこんなに頑張ってるのに! 認められもしない! 褒めてくれるのは愚母ママだけだッ!!」
「……餓鬼? 誰に、誰に向かって、話して……」
声がしたからか、豪鬼の方へ餓鬼は向いた。
視線はもはや定まって等いない。虚ろな瞳をぎょろりと向け、口からは叫び過ぎた結果か唾液 (状に形成した影)がポタポタと落ち、息を荒げている様子が、傷ましく思えた。
「……豪鬼、お前もアタシを……バカにすんだね……っ!?」
「何を」
「どいつもこいつも……なんで、何でみんな……っ」
「お……落ち着け、餓鬼。オレは」
何とか彼女を落ち着かせるために、優し気な声をかける豪鬼だったが、しかし餓鬼の目には、その豪鬼の背に隠れるようにして、幻影の暗鬼が姿を現す。
『今度は豪鬼に八つ当たり――本当にみっともないね』
「口を閉ざじてろ死者が……ッ!!」
『所で君は、愚母ママは褒めてくれるって言ってたけど、本当に今の君を褒めてくれるの?』
「褒めてくれるよッ!! 愚母ママはアタシを一番理解してくれてるんだッ! アタシが頑張ってる事も、ちゃんとできる事も……ッ!!」
『へぇ。じゃあ聞くけど、これまで君がやってきた事って、それこそ戦闘能力の無いアメリアを殺せただけじゃない? これからの戦い、君って役に立つ?』
ぐ、と息を詰まらせる。そんな餓鬼を心配そうに見据える豪鬼から目を逸らす。
それは彼の事など見ていないからであり――今は幻影の暗鬼が、自分の背後へと回ってきた事が原因である。
『戦闘初心者のリンナには君の能力が通じない。カルファスは君を痛めつけた、イルメールは君をボコボコにした。加えて唯一まともに戦えた筈のアルハットも、ちょっとお腹を焼く程度にしか役立ってないよね?』
「黙れ……っ」
『クアンタはマリルリンデと同じフォーリナーだから君の能力は通じない。サーニスとシドニアはアルハットよりも動くよ? アルハットにも勝てなかった君が、あの二人に触れて燃やせるの?』
「黙れっつってんじゃん……!」
『はは。本当に君って――役立たずだよね』
「死んだ奴が何を偉そうにッ!!」
『ボクはルワンを殺したよ。シドニアにもダメージは負わせた。まぁ、アメリアを殺した功績は称えてあげるべきかもだけれど、どうせ短期決戦になれば敵の中で一番優先度が低いのは彼女だ。にも関わらず、君はその程度の功績を褒めて欲しいって?』
「消えろッ!! 消えろ消えろ消えろォオオ――ッ!!」
周りにあるモノを、全て腕を振るって払う彼女の姿を、それ以上見ていられないと言わんばかりに豪鬼が部屋を出る。
そんな彼女の様子とは裏腹に、落ち着いた様子で椅子に腰かけている愚母へと近付き、声をかける。
「愚母、餓鬼のアレは……流石にヤバいだろ?」
「そうかしら? わたくしとしては、良い傾向だと思いますわ」
「どこが。餓鬼は今、多分だけど幻覚も見てるんだぞ? まともな精神状態じゃない。あんな状態で皇族やクアンタと殺り合っても戦いになんかならない。未熟なリンナを相手にしても負けるぞ?」
「随分と豪鬼は、餓鬼の事を気にするのね。……餓鬼とは違い、貴方はあまり良い傾向にないと思えます」
ゆっくりと立ち上がり、豪鬼へと向き直る愚母の表情は、恐ろしい程に冷たく感じた。
しかし豪鬼は慌てず、ただ彼女と繋がる虚力のパス接続を解除した。パスが繋がったままでは、彼女の持つ能力の一つにより、子宮へと取り込まれてしまう。
「……愚母。アンタは、災いという存在を、何だと考えている?」
「人類社会に災厄を振りまくもの。それだけですわ」
「オレ達名有りは、どうして人と同じ体を、感情を有し、名を得た?」
「人類社会へ効率的に災厄を振りまく為。そしてその感情は、貴方のように悩む事の為なんかに用意されたものではない。目的を達成するために、時として思考する事が必要であるからこそ、感情を有するべきなのよ」
「オレは……感情というのが、生きる為に必要だから……災厄を振りまくなんて無意味な事から脱する事の出来た……進化した存在こそが……名有りっていう存在なんじゃないかと……そう思う」
豪鬼が何を言っているのか、その真意が分からない――否、分かろうとしていない愚母が、彼の言葉を嘲笑うかのように、微笑みを溢す。
「オレ達は、そんな役割から脱するべきなんだよ……っ。人と同じ体を、人と同じ思考を、人と同じ名を持つようになったのは、きっと人の世で生きていけるように、オレ達はそうなるべきと、進化した結果なんだ……!」
以前、マリルリンデから「オメェはその『何で』を大切にしろ」と言われた時から、ずっと考えていた。
進化という言葉の意味、災いという存在が、名有りという存在がどうして人の世にあるのか。
――人から虚力を奪わなければ生きていけぬ彼ら災いが、何故人を滅ぼそうという思考にまでたどり着いてしまうのかは、結局分からない。
けれど、名有りがそうして感情を有した意味を、自分なりに求めた理想と合わせて考えるのならば、この答えしか浮かばなかった。
「オレは……愚母や、餓鬼や、斬鬼と、これからも一緒に……家族として、生きていきたい。暗鬼は、一緒に生きる事が、出来なくなってしまったけど……でも、ここから始める事で、アイツの犠牲を無駄にしない事は出来る……!」
人間を滅ぼすなんて、気が滅入り、途方もない野望を掲げるなんて間違っている、と。
豪鬼はそう訴える。
「では――貴方はわたくし達の敵となる、という事でよろしいので?」
「……いいや、敵になるつもりはない。何にせよ、戦いを始めてしまったんだ。皇族達を倒すしか、オレ達に明日は無い。それは、理解してるし、それを咎める気は、オレにもない」
殺されたいと思っているわけではない。彼女達を見捨てたいと、敵になると言いたいわけじゃない。
ただ、明日が欲しいんだと。
明日生きる為に必要な事を、一つ一つ、ただそれだけをこなして良ければ、それはとても幸せな事だと、主張する。
――だが、愚母は彼の考えを聞いても尚、首を横に振った。
「貴方も、わたくしの理想とする世界を、何ひとつ理解していないようね」
「……ああ、分かんないよ。アンタが何を理想とするのか、それをアンタは何も、オレ達に言う事も無く、ただ『人類を滅ぼす』という目的しか喋らないもんだからな」
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