魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十章

餓鬼とアルハット-10

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 そんな彼女が、自分の全身から放出する、青白い錬成反応。

  薄緑色の輝きを放つ泉の中で放たれた錬成反応は瞬く間に泉全体を覆い尽くした。

  瞬間、アルハットの脳内へと次々に侵入を始める、星の持つ情報。それはこの星――偽りのゴルサとしての情報ではなく、四十六億年程前に生まれた地球という星から、この偽りのゴルサとして成瀬伊吹によってコピーされた後、書き換えられた世界の歩んできた記録。

  水滴一つで脳震盪を起こすほどの衝撃を受け続けていたのにも関わらず、今こうして体内に泉の原液を取り込んだ事によって脳の処理能力強化が容易である為、意識はハッキリとしている。


『止めろアルハットッ!! 泉の原液を取り込んだ所で、脳に与える影響は変わらない! 星の情報が押し寄せる事によって、脳が焼き切れる所じゃ済まない!』


 ヤエの慌てるような声さえ、沈んでいくアルハットは鮮明に捉えた。


『情報の濁流に呑まれて、お前がお前で居なくなるかもしれないッ!! お前の解析能力をもってしても、泉の持つ情報量はそれだけ莫大なんだぞ――!?』


  それでも、アルハットは解析を止める事は無い。

  むしろ、解析量が増えれば増える程、錬成反応を強めてより多くの情報を脳へと叩き込んでいく。

  ヤエの言う通り、泉の原液を取り込んで認識能力や身体機能向上が図られた筈の脳でも、情報量の膨大さに破裂寸前。

  これから叩き込まれる情報を取り込んでしまえば、それこそ彼女は情報に呑まれて、自分自身の存在さえも一つの情報として認識するようになってしまうかもしれない。

  それは、個を無くす事と同じ――つまり彼女は情報という膨大な存在に自身を溶け合わせる事により、根源化を果たす事と同義になる。


(それでもいい。私の命なんか、意思なんか、欲しいならくれてやる)


 今まで大切な人達が、アルハットを守ってくれたように。

  アルハットも、大切な人を守る為に、出来る事をしたい。

  餓鬼や、災いという存在によって、その大切な人達の命が、二度と脅かされないように。


(大好きな人達を、この手で守る。その為なら、星情報の一つや二つ、呑み込めずにどうする――ッ!!)


 全身に張り巡らされている魔術回路が、薄緑色に発光を始めた。

  彼女の肉体が押し出されるように、水上へと姿を現したアルハットは――餓鬼の立つ陸地の対面に着地。


「……綺麗」


 餓鬼は、そんなアルハットの身体を見て、ただ小さく呟いた。

  狂気に塗れていた彼女の言葉ではなく、ただ一つの個体としての彼女が呟く、本当の気持ちを聞きながら。

  魔術回路を発光させているアルハットは、ゆっくりと膝を上げ、視線を餓鬼へと向ける。


〔餓鬼――良かったわね〕


 薄緑色に光る彼女の姿を見据えた餓鬼が、声も何かくぐもって聞こえるアルハットの言葉に、首を傾げた。


「……良かった、って……何がさ」

〔簡単よ。こんなものを取り込んだら……まともな生命は、内部から放たれる膨大なエネルギーに、肉体を維持、出来なくなる〕

「アンタは、維持できてるじゃん。めっちゃ、光ってて綺麗だけど」

〔肉体変化をしていこうとする身体を、錬金術によって留めただけよ。そう、大した事じゃないけれど、貴女は錬金術を使えないから〕

「――大した事じゃない、わけがあるか!」


 話に割って入るのは、ヤエである。

  彼女は血相を変え、大声でアルハットへと近付こうとしたが、しかしアルハットが視線を彼女へと向けると、足を止めた。


「今、お前の頭の中には、四十六億年以上あるこの星の知識が、全て詰め込まれているんだぞッ!? まともな人間にそんな膨大な情報量を蓄積できる筈がない!」


 この偽りのゴルサという星の原型となった、地球がこれまで歩んできた四十六億年近い年月の情報、加えて成瀬伊吹が作り替えた、二百二十年前から今日までにこの星で起こった出来事、それらが全て――彼女の脳へと蓄積されている筈だと言ったヤエだが、しかしアルハットはそれを否定した。


〔それも、大した事じゃないわ。脳の総容量はどう足掻いても変更できず、膨大な量を補完できる筈がない。ならば、脳以外の部分に情報を蓄積できる保存領域を作り出して保存し、必要な情報をダウンロードできるようにすればいいだけ〕


 自分の頭に指を当て、ここに全ての情報などは無いと示すアルハットの言葉に、困惑するのはヤエである。


「では、どこに情報をアップロードしてあると……!?」

〔カルファス姉さまや、あの成瀬伊吹という男なら、もっと上手く出来たのかもしれないけれど〕


 右手を掲げるアルハット。彼女の手にバチバチと錬成反応が灯ると、そこに周囲の大気が密集するように空間がねじ曲がる。

  しかし、空間の捻じれが解き放たれると、そこにはそれまでなかった、霊子端末にも似た一つのデバイスが。

  大体6.2インチ、縦長ワイドのデバイスを示して、彼女は微笑む。


〔カルファス姉さまのモノと同じ固定空間に、私の脳とリンクする一ゼタバイト分のクラウドドライブサーバーを作り出したわ。これでもかなり容量が危なかったから、その内増設も行うべきね〕

「それら、一ゼタバイトのドライブを作り出し、クラウド環境を瞬時に整えるには、魔術行使が必ず必要だろう!? カルファスの魔術回路でも焼き切れるほどの大魔術だ!」

〔それも簡単な事よ。私の肉体にある魔術回路を、およそ十二世代魔術回路に匹敵するであろう擬似魔術回路に作り替えただけ。地球の歴史があって良かったわ。地球には紀元前の古代バビロニア時代から魔法技術が存在したから、魔術回路の情報も質も、ゴルサの人間より圧倒的に高かったもの〕


 魔術回路は、例外を除けば基本的には世代を重ねるごとに強固で、強力なものとなる。

  現在、このゴルサという星に存在する魔術回路で、一番優秀な魔術回路を持つのはカルファス・ヴ・リ・レアルタの有する七世代型魔術回路であり、故に彼女はこれまで、多くの魔術師に命を狙われてきた。

  しかしそんな彼女にも行えぬ程の大魔術行使を行うとしたら――それこそ彼女よりも強力な魔術回路にするしかない。

  故に、アルハットが引き出せる地球の情報から、一番強力な魔術回路を持つ人間のデータを引用、その人物と同様の魔術回路に、自分の魔術回路を作り替えたのだ。


  ――今のアルハットは、アルハット・ヴ・ロ・レアルタ等という一個人であるべきではない。


  彼女は既に――源の泉が持つ力を全て、その小さな体で受け止め、制御し、星の持つエネルギーと知識を全て使役できる、偉業なる存在。


  そう。それこそ本物の【神】と言っても、差し支えないのかもしれない。


 強大な知識と、強大な能力。

  その二つを兼ね備えたアルハットが、悠然と足を前に出し、餓鬼へと向けて歩いていく。


〔待たせたわね、餓鬼。続きをしましょう〕


 全身の魔術回路から薄緑色の発光が成され、神々しいまでの輝きと、美しさを持つアルハットが、微笑みながらアルハットへ手を広げた。

  身体から溢れる膨大なマナは、これまで出会ってきた、それこそカルファスを超える程に強大な力があるのだと、餓鬼の肌がピリピリとした空気を感じ取って、理解する。


 ――だが、まだ餓鬼には、勝利の道が残されている。


  相手が強大で、強力で、偉大な存在に変化したという事は感覚だけで理解できた。

  だがそれでも、彼女の持つ虚力量が変わったわけではない。彼女の肉体自体が、大きく進化を遂げたわけではない。

  あくまで彼女は、知識を身に着け、その知識を何時でも扱う事が出来るようになった、神の如き強力な錬金術師であり、魔術師であるというだけ。


  そして彼女が如何に知識を蓄え、その知識から虚力の用い方を理解できるようになったとしても、彼女の持つ虚力量に違いがなければ、餓鬼が触れる事で相手の身体に虚力を纏わせ、置換能力を働かせることもできる。


  ――つまり、アルハットに0.5秒以上、触れる事さえ出来れば、餓鬼は勝てる。


 餓鬼は、災いの中でも唯一、神さえも屠る事が出来る能力を持つのだ。


〔ええ、そうよ。自前の虚力を扱う方法は分かった。そして自分の虚力総容量もね。単位はまだ決められていないのだけれど、平均的な女性の虚力容量を計算すると12.475。それに対して私の虚力量は、少し低めの11.759。これも感情の流動によって変わるけれど、貴女の置換能力をかき消すには、20.812以上の虚力を常時放出しなければならない〕


 如何にアルハットが虚力を扱う方法が分かったとしても、攻撃に転用できる虚力量が無ければ餓鬼を滅ぼし得ない。加えて今アルハットが言ったように、餓鬼の置換能力を防ぐための虚力量も無ければ、状況は先ほどまでと、そう大きく変わったわけではないという。

 つまり、餓鬼にもまだ勝機はあると、アルハットも保障するように、頷いた。


〔そして貴女の持つ置換能力は、別の次元に対象を送り、その送り込んだ対象の質量分、炎と置き換えるというモノ。この別次元が地球次元やゴルサ次元であれば、私も帰還する方法はあるけれど、そうじゃないから、貴女は置換能力で私を消せれば、間違いなく勝利には違いないわ〕


 アルハットが持つ知識は、あくまで地球とゴルサにおける知識だけ。このゴルサという星で生み出された固定空間等に送り込まれる場合は別だが、完全に別次元へ送り込まれたとなれば、今のアルハットにも帰還する方法はない。


〔だけど私は――貴女に勝つ方法を、既に手にしているわ〕


 先ほどどこかから作り上げたデバイスを、再び見せびらかすようにしたアルハット。

  側面に存在する指紋センサー付きの電源に触れると、その画面が綺麗な発色の光を放ち、画面に〈Magicaring Device MODE〉と表示させた。

 そのデバイスは――菊谷ヤエ(A)の作り出した、クアンタのマジカリング・デバイスを基にした、新型マジカリング・デバイスと言って差し支えないモノ。

  そして彼女の左手首に展開される、別のデバイスは、クアンタの持つエクステンデッド・ブーストと同等の拡張デバイスだ。

  エクステンデッド・ブーストに、新型マジカリング・デバイスを挿入。認識すると同時に、エクステンデッド・ブーストとマジカリング・デバイスが、機械音声を放つ。


「お前……まさか!」

〔ええ、そのまさかよ。……既にこの星には、貴女を倒す為の知識が、地球から送られてきているのだもの〕


 エクステンデッド・ブーストのアタッチメントを九十度回転させ、指紋センサーに触れる。


〈Devicer-Extended・ON〉


 放たれる機械音声。それと同時に、音声認識も出来るようになる。

  アルハットは長く、多く聞いていたけれど――まさか自分がこの言葉を告げる時が来るとは思ってもおらず、微笑みながら両腕を前面に押し出し、唱えた。


〔――変身っ〕

〈HENSHIN〉


 左手首のエクステンデッド・ブーストより放たれた光は、アルハットの全身を包み込んだ。

  彼女の綺麗な肉体に展開される、ティファニーブルーを主体とした色合いの衣装は、全体的にスカートが長く、リボンやフリルの多い可愛らしい姿である。

  彼女が有する紺色の頭髪は藍色に変化し、ティファニーブルーの衣服と合わせると互いの色を引き立て合っており、彼女の魅力をより引き立てさせた。

  先ほどまで全身にある魔術回路が発光していた筈の身体は薄い肌色へと戻り、神々しさは減ってしまったかもしれないが――今の彼女の方が、元のアルハットにより近い印象がある。


  ――光が拡散すると、その場にいた筈のアルハットは、微笑みながら、名乗りを上げる。


「私は【錬成の魔法少女】・アルハット-エクステンデッド・フォーム――貴女を、倒し得る存在よ」
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