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第二十一章
生きる意味-03
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ゆらりと身体を倒して気絶した餓鬼に駆け寄ろうとするアルハット。だが彼女の動きを制したのはヤエである。
「アルハット、一つ取引をしよう」
「っ、こんな時に何っ!?」
こんな時、というのは今、餓鬼が放出した虚力の効果により、レアルタ皇国とバルトー国の国境に存在するバリス火山が噴火を始めた事を指しての言葉である。
災いの災厄は、放たれた虚力量や、放出を行う災いによって災厄のレベルも、種類も変わる。
餓鬼は【火災を司る災い】で、現在は彼女の有する虚力の八割を用いて引き起こされた災厄によって、ただの火災どころではなく、火山の噴火という大規模災害が発生してしまったのだ。
アルハットが虚力放出の寸前で彼女に刀を刺し込んだ事が要因か、全ての虚力は放出されず、残り二割の虚力を内包したままの餓鬼は弱体化して気絶しているが、目を覚ました時に彼女がまた災厄を振りまかないという保障はない。
「こんな時だからだ。……私はお前が人の世に出る事を、通常許可する事は出来ない」
ぐ、と言葉を堪えながら、アルハットは思考する。
今のアルハットは、人智を大きく超えた力を有してしまっている。
ヤエやパワー等の神霊や神霊の力を有した人間は、ある程度世界のルールによって自由を制限される。例えばヤエは持つ能力に制限があるし、人間に干渉できる範囲も限られてくる。
だが今のアルハットは違う。
世界のルールに縛られる事の無い……否、そもそもルールの存在しない【泉の力を全て取り込んで異常な進化を遂げた元人間】のアルハットが動き回る事は、既にヤエやパワー、他の神霊たちからすれば危険視の対象であるし……アルハット当人も、既に人の世での生活を歩めるとは思っていないし、その気も無い。
「だが、もしこのまま餓鬼を見逃せば、お前が外界に干渉する事を見逃してやってもいい」
「……取引に応じなければ?」
「今のお前は、人類にとってあまりに危険だ。……処分する」
吸っていた煙草を吐き出し、踏みつけたヤエを睨みつけるようにして、しかしアルハットは考える。
ヤエの力量は、神霊の中でもそう高くはない。能力だけで言えばパワーの方が上だ。今のアルハットにとっては、倒す事自体は難しくない。
しかしだからこそ、ヤエを倒して外界に干渉してしまえば、他の神霊や、神霊と同化した元・人間……パラケルススと呼ばれる存在を多く敵に回す事となる。
それこそ最強格となる神霊と同化したパラケルスス――【カオス】と同化した菊谷ヤエ(A)や【シン】と同化した成瀬伊吹は、今のアルハットですら、敵うかどうかが分からない。
「……一つ、聞かせて」
「何だ」
「何故餓鬼を見逃すの?」
「コイツを見逃したいわけじゃない。お前に外界へ干渉してほしいから、取引材料としてコイツを使うだけだ」
ヤエは通常、人類や災い等の存在に干渉する権限がない。
だがここには抜け道が存在する。人類にとっての利益となる場合、互いに利益と不利益を与える干渉を行う事が出来るのだ。
今回、アルハットの干渉行為を見逃す事で、人類に対する利益は「噴火したマグマから人間が守られる」事。
そして不利益は「餓鬼という人類にとっての敵を見逃す」事である。
「それに……さっきのコイツを見てたら、色々と他人事に感じなくてね」
餓鬼の身体を抱えて持ち上げたヤエが、微笑みながら呟く。
僅かに含みを有した、過去を思い出した時の表情である。
「……そうね。貴女は(A)の身勝手で生み出されたもの。利用される彼女は気持ち良くないわよね」
「おい泉のデータベースから個人情報を見るな訴えるぞ」
「……分かった、餓鬼は見逃してあげる」
「だが勘違いはするな。お前が今後も外界へ干渉する事を許可したわけじゃない。……多少融通は利かせるが、度を越した行動はお前の排除に繋がると考えろ」
「分かっている。……失礼」
霊子端末を取り出したアルハットが、今どこかへと消えていく。彼女の霊子転移を見届けたヤエは、抱えた餓鬼をどうするか考えていた。
そんな彼女へ、パワーは少し心配そうに、言葉をかける。
〈……良かったのかい?〉
「何が」
〈君が人類へ干渉する事は、あまり好ましい事じゃないだろう?〉
「ああ――そうだな。力が弱体化してる」
先ほどアルハットとした人類への干渉行為は、確かに人類への利益と不利益を同時に与えることである程度の干渉が可能になるものであるが、それに加えて『神霊・コスモスの持つ神聖を弱体化させる』という制約も存在する。
今のヤエは、全力の五十パーセント程に弱体化がされている。永続ではないし、あくまでゴルサ世界での弱体化でしかないが、数年はこの状態での活動を余儀なくされるだろう。
「まあ、私が弱体化した所で、特に世界への影響はない。問題は無いだろう」
〈そうじゃなくて……アルハットちゃんがもし、あの力を使って暴走でもしたら……〉
「いや、大丈夫だろう。……アイツはお前が言っていたように、目的を叶える為に正しく力を使おうとする者だ。アイツ以上に泉の管理者と、泉の力を有する者に相応しい奴はいない。今後アイツの話し相手はお前位しかいなくなる。仲良くしてやれ」
餓鬼の身体を抱えながら、どこかへと消えていくヤエの姿を見届けたパワーは、源の泉へと近付き、その水たまりに指を漬ける。
〈……ボクもアルハットちゃんみたいに、誰かを助ける為に、自分の全てを捧げる勇気が、あるのかな……?〉
呟かれた言葉は、誰にも聞こえる事は無い。
ただ、洞窟内に反響するだけである。
**
アルハットは霊子転移によってバリス火山上空に現れた。
火山より吹き出る水蒸気に包まれながらも、彼女は被害状況を目視確認。
バリス火山の観測システムは全て魔導機による無人観測だ。故に研究員などが常駐する事は無いが、登山等でまだ人がいる可能性も鑑みて、マグマに接近しながら背部に光り輝く翼のようなものを形成した。
翼力で飛行するわけではなく、翼のようにも似たスラスターユニットであり、翼自体が熱の塊だ。翼から放出する熱エネルギーを用いて強引な飛行を可能とするもので、この力を用いてマグマ付近を飛行する。
マグマから千数百度近くの熱がアルハットにも肌で感じられるが、しかし熱さは今の彼女にとって問題ではない。
登山道の上方は全て目視を終えた。既に何人か、マグマに呑まれて犠牲になっている者や、精製された火山灰を頭部に受けて死亡している者も確認できた。
「っ、――!」
だが今は、犠牲者ではなく生存者を求めるべきだ。飛行を続けていると、数人の生存者を確認。登山の最中で噴火を確認し、急いで下山している所であろう。
「間に合え――ッ!!」
粘性のマグマは進行速度自体は遅いが、山自体が傾斜になっている事もあり、流れが速くなる。アルハットは確認できた生存者よりも上方に着地し、地面を強く殴りつけた。
バリス火山全体を覆うような錬成反応が引き起こされる。
バチバチと大きな音と青白い光を放ったアルハットは、現在進行しているマグマよりも下方から、大きく土を全長七十メートル程に隆起させ、壁のように作り出し、マグマの進行ルートとなる部分を防ぐように囲んだ。
魔術投影で用意した大量の土砂を積み上げ、固めたもので、マグマに接する部分は厚く固め、そしてマグマが零れださないように僅かだが上蓋も設計されている。
今、土砂の壁にマグマが衝突。僅かに表面から内部までを溶かすが、外気に当たる事で冷え、固まって溶岩へ変化していき。それがまた一種の壁となった。
どんどんと溢れ出すマグマだが、しかしその量は無限ではない。活発な火山活動さえ終了すれば、後は火山灰と火山性地震の被害にだけ気を付ければ問題はないのだろう。
「はぁ……はぁ……っ」
流石に今のアルハットであっても、瞬時に七十メートル弱の壁を、数キロ範囲に亘って作り出す事は疲れるものだと苦笑し、そこで膝をつく。
「間に合った……」
被害者はゼロではない。ないが、少なからず被害を抑える事は出来た。
ホッと一息を付いた後、彼女は変身を解除。
高純度のマナが体内を駆け巡る事によって発光する肉体を抑えて、人としての肌を再現したアルハットは、人に見られていない事だけを確認して、霊子端末を操作して転移を開始。
彼女が向かう場所は、彼女が作り出した固定空間。
カルファスが作り上げたような固定空間のような、物理的な出入口は無く、彼女が指定した異次元に作り出したものだ。彼女の指定した霊子転移でしか、侵入方法はない。
〔さて〕
アルハットがそう口にしながら、魔術回路にマナを循環させる。
高純度のマナが魔術投影として生み出すのは、アルハットと同じ姿をした、生態魔導機だ。
それはアルハットの偽物――というよりは子機であり、原理はカルファスの有する【根源化の紛い物】と同じである。
強いて違う所をあげるとすれば、カルファスの【根源化の紛い物】が、彼女の親機を生体計算機として肉体を封印されているが、アルハットの子機は生きているアルハット本体から直接命令を下されて行動をする形という位だ。
〔カルファス姉さまがどれだけバケモノなのか、こうなって初めて分かるわよね〕
苦笑しつつ、子機を起動。すると彼女はびくりと震えながら動きだし、親機へ視線を送る。
〔子機。貴女はこれからアルハット・ヴ・ロ・レアルタとして、かつての私と同等スペックを持ち得、みんなの中に溶け込みなさい〕
「わかってるわ」
〔カルファス姉さまにはすぐバレちゃうかもしれないけれど、イルメール姉さまとシドニア兄さま……後は、生きてたらアメリア姉さまには内緒よ。カルファス姉さまにも、バレたら口留めするようにお願いして〕
「ええ。……あの姉たちは、私がこうなった事を知れば、悲しんでしまうもの」
親機と子機の、擬似的な会話を用いて稼働テストを行ったアルハットは、子機に霊子端末を手渡した。
子機は霊子転移を行い、今後はアルハット・ヴ・ロ・レアルタとして生きる為、今回の事態をシドニアへと報告しに行く。
親機のアルハットは――固定空間で一人、取り残された。
「……さようなら、愛おしい人たち。私は、貴女達を救えて、幸せです」
誰にも聞こえる事の無い、別れの言葉を告げて。
「アルハット、一つ取引をしよう」
「っ、こんな時に何っ!?」
こんな時、というのは今、餓鬼が放出した虚力の効果により、レアルタ皇国とバルトー国の国境に存在するバリス火山が噴火を始めた事を指しての言葉である。
災いの災厄は、放たれた虚力量や、放出を行う災いによって災厄のレベルも、種類も変わる。
餓鬼は【火災を司る災い】で、現在は彼女の有する虚力の八割を用いて引き起こされた災厄によって、ただの火災どころではなく、火山の噴火という大規模災害が発生してしまったのだ。
アルハットが虚力放出の寸前で彼女に刀を刺し込んだ事が要因か、全ての虚力は放出されず、残り二割の虚力を内包したままの餓鬼は弱体化して気絶しているが、目を覚ました時に彼女がまた災厄を振りまかないという保障はない。
「こんな時だからだ。……私はお前が人の世に出る事を、通常許可する事は出来ない」
ぐ、と言葉を堪えながら、アルハットは思考する。
今のアルハットは、人智を大きく超えた力を有してしまっている。
ヤエやパワー等の神霊や神霊の力を有した人間は、ある程度世界のルールによって自由を制限される。例えばヤエは持つ能力に制限があるし、人間に干渉できる範囲も限られてくる。
だが今のアルハットは違う。
世界のルールに縛られる事の無い……否、そもそもルールの存在しない【泉の力を全て取り込んで異常な進化を遂げた元人間】のアルハットが動き回る事は、既にヤエやパワー、他の神霊たちからすれば危険視の対象であるし……アルハット当人も、既に人の世での生活を歩めるとは思っていないし、その気も無い。
「だが、もしこのまま餓鬼を見逃せば、お前が外界に干渉する事を見逃してやってもいい」
「……取引に応じなければ?」
「今のお前は、人類にとってあまりに危険だ。……処分する」
吸っていた煙草を吐き出し、踏みつけたヤエを睨みつけるようにして、しかしアルハットは考える。
ヤエの力量は、神霊の中でもそう高くはない。能力だけで言えばパワーの方が上だ。今のアルハットにとっては、倒す事自体は難しくない。
しかしだからこそ、ヤエを倒して外界に干渉してしまえば、他の神霊や、神霊と同化した元・人間……パラケルススと呼ばれる存在を多く敵に回す事となる。
それこそ最強格となる神霊と同化したパラケルスス――【カオス】と同化した菊谷ヤエ(A)や【シン】と同化した成瀬伊吹は、今のアルハットですら、敵うかどうかが分からない。
「……一つ、聞かせて」
「何だ」
「何故餓鬼を見逃すの?」
「コイツを見逃したいわけじゃない。お前に外界へ干渉してほしいから、取引材料としてコイツを使うだけだ」
ヤエは通常、人類や災い等の存在に干渉する権限がない。
だがここには抜け道が存在する。人類にとっての利益となる場合、互いに利益と不利益を与える干渉を行う事が出来るのだ。
今回、アルハットの干渉行為を見逃す事で、人類に対する利益は「噴火したマグマから人間が守られる」事。
そして不利益は「餓鬼という人類にとっての敵を見逃す」事である。
「それに……さっきのコイツを見てたら、色々と他人事に感じなくてね」
餓鬼の身体を抱えて持ち上げたヤエが、微笑みながら呟く。
僅かに含みを有した、過去を思い出した時の表情である。
「……そうね。貴女は(A)の身勝手で生み出されたもの。利用される彼女は気持ち良くないわよね」
「おい泉のデータベースから個人情報を見るな訴えるぞ」
「……分かった、餓鬼は見逃してあげる」
「だが勘違いはするな。お前が今後も外界へ干渉する事を許可したわけじゃない。……多少融通は利かせるが、度を越した行動はお前の排除に繋がると考えろ」
「分かっている。……失礼」
霊子端末を取り出したアルハットが、今どこかへと消えていく。彼女の霊子転移を見届けたヤエは、抱えた餓鬼をどうするか考えていた。
そんな彼女へ、パワーは少し心配そうに、言葉をかける。
〈……良かったのかい?〉
「何が」
〈君が人類へ干渉する事は、あまり好ましい事じゃないだろう?〉
「ああ――そうだな。力が弱体化してる」
先ほどアルハットとした人類への干渉行為は、確かに人類への利益と不利益を同時に与えることである程度の干渉が可能になるものであるが、それに加えて『神霊・コスモスの持つ神聖を弱体化させる』という制約も存在する。
今のヤエは、全力の五十パーセント程に弱体化がされている。永続ではないし、あくまでゴルサ世界での弱体化でしかないが、数年はこの状態での活動を余儀なくされるだろう。
「まあ、私が弱体化した所で、特に世界への影響はない。問題は無いだろう」
〈そうじゃなくて……アルハットちゃんがもし、あの力を使って暴走でもしたら……〉
「いや、大丈夫だろう。……アイツはお前が言っていたように、目的を叶える為に正しく力を使おうとする者だ。アイツ以上に泉の管理者と、泉の力を有する者に相応しい奴はいない。今後アイツの話し相手はお前位しかいなくなる。仲良くしてやれ」
餓鬼の身体を抱えながら、どこかへと消えていくヤエの姿を見届けたパワーは、源の泉へと近付き、その水たまりに指を漬ける。
〈……ボクもアルハットちゃんみたいに、誰かを助ける為に、自分の全てを捧げる勇気が、あるのかな……?〉
呟かれた言葉は、誰にも聞こえる事は無い。
ただ、洞窟内に反響するだけである。
**
アルハットは霊子転移によってバリス火山上空に現れた。
火山より吹き出る水蒸気に包まれながらも、彼女は被害状況を目視確認。
バリス火山の観測システムは全て魔導機による無人観測だ。故に研究員などが常駐する事は無いが、登山等でまだ人がいる可能性も鑑みて、マグマに接近しながら背部に光り輝く翼のようなものを形成した。
翼力で飛行するわけではなく、翼のようにも似たスラスターユニットであり、翼自体が熱の塊だ。翼から放出する熱エネルギーを用いて強引な飛行を可能とするもので、この力を用いてマグマ付近を飛行する。
マグマから千数百度近くの熱がアルハットにも肌で感じられるが、しかし熱さは今の彼女にとって問題ではない。
登山道の上方は全て目視を終えた。既に何人か、マグマに呑まれて犠牲になっている者や、精製された火山灰を頭部に受けて死亡している者も確認できた。
「っ、――!」
だが今は、犠牲者ではなく生存者を求めるべきだ。飛行を続けていると、数人の生存者を確認。登山の最中で噴火を確認し、急いで下山している所であろう。
「間に合え――ッ!!」
粘性のマグマは進行速度自体は遅いが、山自体が傾斜になっている事もあり、流れが速くなる。アルハットは確認できた生存者よりも上方に着地し、地面を強く殴りつけた。
バリス火山全体を覆うような錬成反応が引き起こされる。
バチバチと大きな音と青白い光を放ったアルハットは、現在進行しているマグマよりも下方から、大きく土を全長七十メートル程に隆起させ、壁のように作り出し、マグマの進行ルートとなる部分を防ぐように囲んだ。
魔術投影で用意した大量の土砂を積み上げ、固めたもので、マグマに接する部分は厚く固め、そしてマグマが零れださないように僅かだが上蓋も設計されている。
今、土砂の壁にマグマが衝突。僅かに表面から内部までを溶かすが、外気に当たる事で冷え、固まって溶岩へ変化していき。それがまた一種の壁となった。
どんどんと溢れ出すマグマだが、しかしその量は無限ではない。活発な火山活動さえ終了すれば、後は火山灰と火山性地震の被害にだけ気を付ければ問題はないのだろう。
「はぁ……はぁ……っ」
流石に今のアルハットであっても、瞬時に七十メートル弱の壁を、数キロ範囲に亘って作り出す事は疲れるものだと苦笑し、そこで膝をつく。
「間に合った……」
被害者はゼロではない。ないが、少なからず被害を抑える事は出来た。
ホッと一息を付いた後、彼女は変身を解除。
高純度のマナが体内を駆け巡る事によって発光する肉体を抑えて、人としての肌を再現したアルハットは、人に見られていない事だけを確認して、霊子端末を操作して転移を開始。
彼女が向かう場所は、彼女が作り出した固定空間。
カルファスが作り上げたような固定空間のような、物理的な出入口は無く、彼女が指定した異次元に作り出したものだ。彼女の指定した霊子転移でしか、侵入方法はない。
〔さて〕
アルハットがそう口にしながら、魔術回路にマナを循環させる。
高純度のマナが魔術投影として生み出すのは、アルハットと同じ姿をした、生態魔導機だ。
それはアルハットの偽物――というよりは子機であり、原理はカルファスの有する【根源化の紛い物】と同じである。
強いて違う所をあげるとすれば、カルファスの【根源化の紛い物】が、彼女の親機を生体計算機として肉体を封印されているが、アルハットの子機は生きているアルハット本体から直接命令を下されて行動をする形という位だ。
〔カルファス姉さまがどれだけバケモノなのか、こうなって初めて分かるわよね〕
苦笑しつつ、子機を起動。すると彼女はびくりと震えながら動きだし、親機へ視線を送る。
〔子機。貴女はこれからアルハット・ヴ・ロ・レアルタとして、かつての私と同等スペックを持ち得、みんなの中に溶け込みなさい〕
「わかってるわ」
〔カルファス姉さまにはすぐバレちゃうかもしれないけれど、イルメール姉さまとシドニア兄さま……後は、生きてたらアメリア姉さまには内緒よ。カルファス姉さまにも、バレたら口留めするようにお願いして〕
「ええ。……あの姉たちは、私がこうなった事を知れば、悲しんでしまうもの」
親機と子機の、擬似的な会話を用いて稼働テストを行ったアルハットは、子機に霊子端末を手渡した。
子機は霊子転移を行い、今後はアルハット・ヴ・ロ・レアルタとして生きる為、今回の事態をシドニアへと報告しに行く。
親機のアルハットは――固定空間で一人、取り残された。
「……さようなら、愛おしい人たち。私は、貴女達を救えて、幸せです」
誰にも聞こえる事の無い、別れの言葉を告げて。
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