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第二十二章
力の有無-03
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戦うプリステスと、災いの只中を進んでいく伊吹に驚きつつも、アメリアは彼の背を追いかける。プリステスの背後を抜ける形になってしまったが、少女の美しい背中を見据えながら、やはりリンナに面影を重ねてしまう。
路地裏へと入っていった伊吹を追いかけ、その背に追いつくと、彼はアメリアへ視線を向ける事無く、言葉を連ねた。
「人類と、人類以外の侵略生命体による争いは、遡れば紀元前から存在した」
「それが、災いと言う種であったりする、という訳かの?」
「ああ。そうした歴史の中で各侵略生命体に対処する為、公的な秘密機関が幾つも設立されていたが、今やまともに稼働している機関は、君達のゴルサにも残る【聖堂教会】位さ」
「……各侵略生命体に対処、という事は、災い以外にも、チキューを侵略しようと企む存在が、そんなポンポンいると言うのかえ?」
「全て羅列するととんでもない数がいる。エネミー、ヴァンパイア、災い……それに加えてクアンタの様なフォーリナーもそうであるし、これから見に行くのはレックスと呼ばれる、人を襲う事に特化した異形生命体だ」
路地裏から通りを抜け、人通りの少ないオフィス街と住宅街の境。
今、その通りを歩く伊吹とアメリアの真横を、何か黒い靄のかかった獣のような存在が横切った。
それは犬のようにも、狼のようにも見える獰猛かつ俊敏な肉食動物をイメージして形作られた影だ。
その影がグルルと威嚇するように喉を鳴らしつつ、辺りをキョロキョロと観察している。
「なんじゃ、アレは」
「効率的に人を襲う事をプログラムされた、神造殺戮兵器・レックスさ。アレは俺と君の存在を臭いで感じつつも、しかし姿が見えないから探していると言った様子だね」
「まさか主、先ほど指を鳴らした時に、吾輩も含めて他者から認識されぬようにしたのか?」
「他にもあらゆる干渉行為から逃れるようにしているよ。さっきのプリステスも、これから出会う彼女達も、一般人を巻き込まない為に人払いの術式を有しているからね」
「彼女達……?」
レックスと呼ばれる獣は、四足の足を動かしてその場から立ち去ろうとするものの――しかし突如数発の銃声が響き、銃弾が空から駆け、レックスを貫こうとした所で、それは後ろへ跳び、避けてみせた。
「レックスは厳密に言えば生命じゃない。パラケルススの一人、ドルイド・カルロスが八年前に作り上げた神造殺戮兵器だ。ヤエ(A)は、対フォーリナー用に開発していた魔法少女システムを……そんなレックスに襲われていた彼女達に、興味本位で与えた、というわけだ」
銃声が聞こえた空を見据える。しかし真上ではなく、天井の高い三階建て程度の住居に足を乗せ、ハンドガンを構えた紺色の髪を耳元程まで伸ばした少女が、今また一射。
放たれる銃弾を軽々と避け、その者へ高らかに奇声を発するレックス。
だが少女と、少女の背後から現れた三人の女性が、住居の天井から地上の道路へと降り、レックスと向き合った。
「全く――おちおち学校にも行けやしねェ! ベネット!」
「遥香さん、最近あんまりいなかったレックスですよー、気を付けて下さいねっ!」
「弥生も、他に数体レックスの反応が確認できます。以前のような群れではありませんが、しかし集結すると厄介です。一体一体、確実に仕留めましょう」
「うん。……行くよ、ウェスト」
少女が二人と、その保護者のような形で隣接する女性が二人。
左側頭部で髪の毛を一つに結っている発育の良い金髪の少女は、赤髪ロングヘアでエプロンを着込んだ女性の身体に触れて。
先ほどハンドガンの銃弾をレックスへと撃ち込もうとしていた紺色の少女は、蒼色の髪の毛を後頭部で結い上げる女性の身体に触れた。
すると、少女たちがそれぞれ触れた女性たちが、長方形の板へと姿を変えた。
否、板では無い――アメリアは、その物が何かを知っている。
「マジカリング、デバイス……つまり、あの娘らは……!」
「ああ。――地球の魔法少女さ」
少女達はマジカリング・デバイスをそれぞれ眼前で構えると、画面をタップしつつ、声を放つ。
「変身ッ!」
「変身」
声色も、勢いも、それぞれが異なる言い方で放った変身という言葉。
少女達の肉体に、マジカリング・デバイスの画面から放たれる光――アメリアがあまりの眩さに目を一瞬閉じた次の瞬間には、少女達は変貌を遂げていた。
先ほどまで、制服を着こんでいた学生の二人は、今やそれぞれの戦闘服を着こんでいる。
スクール水着のような伸縮性の高い衣服、それに付け加えられたフリルが僅かに揺れ動く。
それぞれ、格好は同じようなものであったが、赤を基本色にしている少女はその両手に剣を一本ずつ構えており、蒼を基本色としている少女は、両手に銃を構え、レックスへ向けて突撃を開始した。
「っ、」
魔法少女二人と、レックス一体が地面を蹴りつけ、動いただけで、暴風がアメリアと伊吹を襲う。
アメリアは暴風に耐えながらも、指を少女二人に向け、問う。
「あの娘らは何じゃ!?」
「金髪で赤い装備を纏うのは【斬撃の魔法少女】、マジカル・カイスター、水瀬遥香。紺髪で青い装備を纏うのは【銃撃の魔法少女】、マジカル・リチャード、如月弥生。どっちも、ヤエ(A)が選んだ魔法少女だ」
銃撃の魔法少女・マジカル・リチャードの放つ銃弾――否、高熱によって形成されたレーザー。しかしレックスはその銃口を見ているかのように、綺麗にその射線上から逸れる様に動き回る。
だがリチャードは慌てる事無く、視線をもう一人の魔法少女……マジカル・カイスターへと向ける。
カイスターは、その両手に構えた二振りの刃を構えながら、レックスへと駆け出し、そのレックスが振るう爪と、自身の刃を迫合わせつつも、左足を振り回して、その獣を蹴りつけた。
僅かに浮くレックスの身体。その隙を見計らって、リチャードとカイスターの両名は、互いの武器をレックスへ向けながら、振り込み、撃ち込んだ。
二振りの刃が自身の身体を切り裂き、そしてその二分した肉体に撃ち込まれる、二撃のレーザー。
それを受けたレックスは、敗北による嬌声を上げる事も無く、肉体を構成する影を消失させていく。
「よし、一体討伐完了! もう何体かいるんだよね?」
「ええ。急ぎましょう、遥香。……今日は少し多いわね」
「しゃーねーって。魔法少女として、アタシ等に出来るをやっていきましょ、ってね」
変身を解除する事なく、どこかへと駆け出していく、カイスターとリチャードの背中を見送る、アメリアと伊吹。
アメリアは息をする事も忘れていて、思わず深い息を吐いてしまったが、伊吹はそうした彼女に気遣う事無く「どうだったかな?」と言葉を投げる。
「君にはこの世界における、プリステスと魔法少女の戦いを見て貰った。この他にも数多の敵が、人類と敵対する為に戦いを仕掛けてくる。故に人類はいつ滅びに向かうかも分からない。俺達は、そうした人類に敵対する異形生命体を総称して【異端】と呼んでいる」
「……そうした異端との戦いを……吾輩に見せて、主は何が目的じゃ……?」
説明されようと、それを信じる気にはならないが、どうにもアメリアには、伊吹の意図が読めない。
人を見る事に特化したアメリアであっても、彼に関する――否、彼が語る言葉の真偽を図る為の判断材料が無い。どうしても、聞く事に甘んじてしまう。
「目的は二つだ。一つは、君達が住まうゴルサという世界に対する警告」
「警告、じゃと?」
「ああ。地球には今見せただけでも、レックスや災いと言った異端が多数存在している。そんな地球をベースにして作り上げた偽りのゴルサにも、そうした存在が現れないと誰が断言できる?」
例えば、今後ゴルサという星には、いずれフォーリナーという存在が現れる事が予想される。
フォーリナーは感情を、意思を持たない。有機生命体の持つ虚力を奪う為に星ごと侵略を行うような存在と相対する時、必ず虚力を用いて敵を打ち倒す事の出来る、姫巫女のような存在が必要となる。
だが、現状そうした力を持つのは、アメリアが知る限りでは三人。
リンナと、クアンタ、そしてマリルリンデだ。
それに加えて災いやフォーリナー以外にも、異端と呼ばれる存在が人類に牙を剥いたとしたら。
――果たしてゴルサの人類は、それに抵抗し、生き残る事が出来るのだろうか。
「もう一つは――その警告に対する解決方法の提示、そして興味本位さ」
伊吹は懐のポケットから、一つのスマートフォン型デバイスを取り出し、それをアメリアへ差し出す。
アメリアは決してそれを手に取りはしないが、視線はどうしても向けてしまう。
「それは……」
「ヤエ(A)の作ったマジカリング・デバイスを基に、俺が作り上げたデバイスさ。試作品だが、スペックはクアンタの持つ試作量産型マジカリング・デバイスと同等に仕上げた。……これを、君が望むのならば、差し上げても良いと考えているのだがね」
伊吹は決して手を降ろさない。
アメリアはこの手に握られている、マジカリング・デバイスを手に取ると確信しているからかもしれない。
アメリアはこれまで、戦う事無く災いへの対処に当たってきた。
その中で彼女には――自分も戦えたらと、考えた事がある筈だろう。
彼女達レアルタ皇族の面々には、守るべきものが多すぎる。そしてアメリアは、その中でも守る為に必要な力を、唯一持たない。
例えばイルメールには、守るべきものの為に戦う事が出来る筋肉がある。
例えばカルファスには、守るべきものの為に戦う魔術師としての力がある。
例えばシドニアには、守るべきものの為に戦う力を幾多にも握っている。
例えばアルハットには、守るべきものの為に戦う錬金術師としての力がある。
だが――アメリアには、そうした戦う為の力は無い。
アメリアがもし、伊吹の持つマジカリング・デバイスを手に取れば、彼女もそうした戦いに身を投じる事が出来る。
「先ほど、災いと戦っていた少女も、レックスと戦っていた少女達も、元々は普通の女の子だった。特に生まれがどうだとか、戦う為の訓練を受けた子供だったというわけでもない。戦う為の力を得てしまったから、戦う。それだけの事で、彼女達は命を懸けた戦いに身を投じている」
アメリアは何も言わない。
ただ息を呑んで、マジカリング・デバイスを見据えるだけだ。
「だが君は、民衆を守る為には命さえも投げ出さなければならない皇族であり、国の危機に立ち上がらなければならない領主だ」
領主でも無く、国を守る立場でもなく、戦いに身を投じていた若き少女達を見て――アメリアは葛藤するだろう。
無垢たる少女達が戦う中で、力を有さない結果として戦う事を逃れて来た彼女が、力を手に入れる事が出来るチャンスを、どうするか。
「これまでは為政だけが君の戦場だったかもしれない。けれど、そうした為政だけでは、解決が出来ない事柄もあって――それに対抗するための力を、君は手にする事が出来るんだ」
力無き者・アメリアが、今まで必要ないと断じ、手にしなかった戦う為の力。
力をチラつかせた時――彼女がどう反応するか。
それを伊吹は、確かめたかった。
路地裏へと入っていった伊吹を追いかけ、その背に追いつくと、彼はアメリアへ視線を向ける事無く、言葉を連ねた。
「人類と、人類以外の侵略生命体による争いは、遡れば紀元前から存在した」
「それが、災いと言う種であったりする、という訳かの?」
「ああ。そうした歴史の中で各侵略生命体に対処する為、公的な秘密機関が幾つも設立されていたが、今やまともに稼働している機関は、君達のゴルサにも残る【聖堂教会】位さ」
「……各侵略生命体に対処、という事は、災い以外にも、チキューを侵略しようと企む存在が、そんなポンポンいると言うのかえ?」
「全て羅列するととんでもない数がいる。エネミー、ヴァンパイア、災い……それに加えてクアンタの様なフォーリナーもそうであるし、これから見に行くのはレックスと呼ばれる、人を襲う事に特化した異形生命体だ」
路地裏から通りを抜け、人通りの少ないオフィス街と住宅街の境。
今、その通りを歩く伊吹とアメリアの真横を、何か黒い靄のかかった獣のような存在が横切った。
それは犬のようにも、狼のようにも見える獰猛かつ俊敏な肉食動物をイメージして形作られた影だ。
その影がグルルと威嚇するように喉を鳴らしつつ、辺りをキョロキョロと観察している。
「なんじゃ、アレは」
「効率的に人を襲う事をプログラムされた、神造殺戮兵器・レックスさ。アレは俺と君の存在を臭いで感じつつも、しかし姿が見えないから探していると言った様子だね」
「まさか主、先ほど指を鳴らした時に、吾輩も含めて他者から認識されぬようにしたのか?」
「他にもあらゆる干渉行為から逃れるようにしているよ。さっきのプリステスも、これから出会う彼女達も、一般人を巻き込まない為に人払いの術式を有しているからね」
「彼女達……?」
レックスと呼ばれる獣は、四足の足を動かしてその場から立ち去ろうとするものの――しかし突如数発の銃声が響き、銃弾が空から駆け、レックスを貫こうとした所で、それは後ろへ跳び、避けてみせた。
「レックスは厳密に言えば生命じゃない。パラケルススの一人、ドルイド・カルロスが八年前に作り上げた神造殺戮兵器だ。ヤエ(A)は、対フォーリナー用に開発していた魔法少女システムを……そんなレックスに襲われていた彼女達に、興味本位で与えた、というわけだ」
銃声が聞こえた空を見据える。しかし真上ではなく、天井の高い三階建て程度の住居に足を乗せ、ハンドガンを構えた紺色の髪を耳元程まで伸ばした少女が、今また一射。
放たれる銃弾を軽々と避け、その者へ高らかに奇声を発するレックス。
だが少女と、少女の背後から現れた三人の女性が、住居の天井から地上の道路へと降り、レックスと向き合った。
「全く――おちおち学校にも行けやしねェ! ベネット!」
「遥香さん、最近あんまりいなかったレックスですよー、気を付けて下さいねっ!」
「弥生も、他に数体レックスの反応が確認できます。以前のような群れではありませんが、しかし集結すると厄介です。一体一体、確実に仕留めましょう」
「うん。……行くよ、ウェスト」
少女が二人と、その保護者のような形で隣接する女性が二人。
左側頭部で髪の毛を一つに結っている発育の良い金髪の少女は、赤髪ロングヘアでエプロンを着込んだ女性の身体に触れて。
先ほどハンドガンの銃弾をレックスへと撃ち込もうとしていた紺色の少女は、蒼色の髪の毛を後頭部で結い上げる女性の身体に触れた。
すると、少女たちがそれぞれ触れた女性たちが、長方形の板へと姿を変えた。
否、板では無い――アメリアは、その物が何かを知っている。
「マジカリング、デバイス……つまり、あの娘らは……!」
「ああ。――地球の魔法少女さ」
少女達はマジカリング・デバイスをそれぞれ眼前で構えると、画面をタップしつつ、声を放つ。
「変身ッ!」
「変身」
声色も、勢いも、それぞれが異なる言い方で放った変身という言葉。
少女達の肉体に、マジカリング・デバイスの画面から放たれる光――アメリアがあまりの眩さに目を一瞬閉じた次の瞬間には、少女達は変貌を遂げていた。
先ほどまで、制服を着こんでいた学生の二人は、今やそれぞれの戦闘服を着こんでいる。
スクール水着のような伸縮性の高い衣服、それに付け加えられたフリルが僅かに揺れ動く。
それぞれ、格好は同じようなものであったが、赤を基本色にしている少女はその両手に剣を一本ずつ構えており、蒼を基本色としている少女は、両手に銃を構え、レックスへ向けて突撃を開始した。
「っ、」
魔法少女二人と、レックス一体が地面を蹴りつけ、動いただけで、暴風がアメリアと伊吹を襲う。
アメリアは暴風に耐えながらも、指を少女二人に向け、問う。
「あの娘らは何じゃ!?」
「金髪で赤い装備を纏うのは【斬撃の魔法少女】、マジカル・カイスター、水瀬遥香。紺髪で青い装備を纏うのは【銃撃の魔法少女】、マジカル・リチャード、如月弥生。どっちも、ヤエ(A)が選んだ魔法少女だ」
銃撃の魔法少女・マジカル・リチャードの放つ銃弾――否、高熱によって形成されたレーザー。しかしレックスはその銃口を見ているかのように、綺麗にその射線上から逸れる様に動き回る。
だがリチャードは慌てる事無く、視線をもう一人の魔法少女……マジカル・カイスターへと向ける。
カイスターは、その両手に構えた二振りの刃を構えながら、レックスへと駆け出し、そのレックスが振るう爪と、自身の刃を迫合わせつつも、左足を振り回して、その獣を蹴りつけた。
僅かに浮くレックスの身体。その隙を見計らって、リチャードとカイスターの両名は、互いの武器をレックスへ向けながら、振り込み、撃ち込んだ。
二振りの刃が自身の身体を切り裂き、そしてその二分した肉体に撃ち込まれる、二撃のレーザー。
それを受けたレックスは、敗北による嬌声を上げる事も無く、肉体を構成する影を消失させていく。
「よし、一体討伐完了! もう何体かいるんだよね?」
「ええ。急ぎましょう、遥香。……今日は少し多いわね」
「しゃーねーって。魔法少女として、アタシ等に出来るをやっていきましょ、ってね」
変身を解除する事なく、どこかへと駆け出していく、カイスターとリチャードの背中を見送る、アメリアと伊吹。
アメリアは息をする事も忘れていて、思わず深い息を吐いてしまったが、伊吹はそうした彼女に気遣う事無く「どうだったかな?」と言葉を投げる。
「君にはこの世界における、プリステスと魔法少女の戦いを見て貰った。この他にも数多の敵が、人類と敵対する為に戦いを仕掛けてくる。故に人類はいつ滅びに向かうかも分からない。俺達は、そうした人類に敵対する異形生命体を総称して【異端】と呼んでいる」
「……そうした異端との戦いを……吾輩に見せて、主は何が目的じゃ……?」
説明されようと、それを信じる気にはならないが、どうにもアメリアには、伊吹の意図が読めない。
人を見る事に特化したアメリアであっても、彼に関する――否、彼が語る言葉の真偽を図る為の判断材料が無い。どうしても、聞く事に甘んじてしまう。
「目的は二つだ。一つは、君達が住まうゴルサという世界に対する警告」
「警告、じゃと?」
「ああ。地球には今見せただけでも、レックスや災いと言った異端が多数存在している。そんな地球をベースにして作り上げた偽りのゴルサにも、そうした存在が現れないと誰が断言できる?」
例えば、今後ゴルサという星には、いずれフォーリナーという存在が現れる事が予想される。
フォーリナーは感情を、意思を持たない。有機生命体の持つ虚力を奪う為に星ごと侵略を行うような存在と相対する時、必ず虚力を用いて敵を打ち倒す事の出来る、姫巫女のような存在が必要となる。
だが、現状そうした力を持つのは、アメリアが知る限りでは三人。
リンナと、クアンタ、そしてマリルリンデだ。
それに加えて災いやフォーリナー以外にも、異端と呼ばれる存在が人類に牙を剥いたとしたら。
――果たしてゴルサの人類は、それに抵抗し、生き残る事が出来るのだろうか。
「もう一つは――その警告に対する解決方法の提示、そして興味本位さ」
伊吹は懐のポケットから、一つのスマートフォン型デバイスを取り出し、それをアメリアへ差し出す。
アメリアは決してそれを手に取りはしないが、視線はどうしても向けてしまう。
「それは……」
「ヤエ(A)の作ったマジカリング・デバイスを基に、俺が作り上げたデバイスさ。試作品だが、スペックはクアンタの持つ試作量産型マジカリング・デバイスと同等に仕上げた。……これを、君が望むのならば、差し上げても良いと考えているのだがね」
伊吹は決して手を降ろさない。
アメリアはこの手に握られている、マジカリング・デバイスを手に取ると確信しているからかもしれない。
アメリアはこれまで、戦う事無く災いへの対処に当たってきた。
その中で彼女には――自分も戦えたらと、考えた事がある筈だろう。
彼女達レアルタ皇族の面々には、守るべきものが多すぎる。そしてアメリアは、その中でも守る為に必要な力を、唯一持たない。
例えばイルメールには、守るべきものの為に戦う事が出来る筋肉がある。
例えばカルファスには、守るべきものの為に戦う魔術師としての力がある。
例えばシドニアには、守るべきものの為に戦う力を幾多にも握っている。
例えばアルハットには、守るべきものの為に戦う錬金術師としての力がある。
だが――アメリアには、そうした戦う為の力は無い。
アメリアがもし、伊吹の持つマジカリング・デバイスを手に取れば、彼女もそうした戦いに身を投じる事が出来る。
「先ほど、災いと戦っていた少女も、レックスと戦っていた少女達も、元々は普通の女の子だった。特に生まれがどうだとか、戦う為の訓練を受けた子供だったというわけでもない。戦う為の力を得てしまったから、戦う。それだけの事で、彼女達は命を懸けた戦いに身を投じている」
アメリアは何も言わない。
ただ息を呑んで、マジカリング・デバイスを見据えるだけだ。
「だが君は、民衆を守る為には命さえも投げ出さなければならない皇族であり、国の危機に立ち上がらなければならない領主だ」
領主でも無く、国を守る立場でもなく、戦いに身を投じていた若き少女達を見て――アメリアは葛藤するだろう。
無垢たる少女達が戦う中で、力を有さない結果として戦う事を逃れて来た彼女が、力を手に入れる事が出来るチャンスを、どうするか。
「これまでは為政だけが君の戦場だったかもしれない。けれど、そうした為政だけでは、解決が出来ない事柄もあって――それに対抗するための力を、君は手にする事が出来るんだ」
力無き者・アメリアが、今まで必要ないと断じ、手にしなかった戦う為の力。
力をチラつかせた時――彼女がどう反応するか。
それを伊吹は、確かめたかった。
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