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第二十三章
命の限り-02
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(向こうも勝負をかけに来た)
これまでイルメールが行っていた攻撃は、全て人間が受ければ即死する程の威力を孕んでいた。
当然豪鬼にも、そのダメージは蓄積しているが、災いである彼は虚力がある限り、痛みは消えないが肉体の損傷自体を直す事は容易である。
だが、リンナの刀で斬られた場合は別である。
リンナの刀には人間がおおよそ持ち得ない程に膨大な虚力が込められている。虚力で身体を形作る災いにとって、彼女の虚力が込められた刀で斬られるという事は、虚力同士の反発現象により、身体の崩壊を意味する。
(……ホント、気が重い)
イルメールはこれまでの戦いで、多くの状況を生き残っていた。
愚母との戦いにおいても相手の能力を知り得ていない状況にも関わらず、ゴウカという脇差を用いて戦い抜き、腕一本を無くしつつも、しかし愚母へとダメージを与えた。
そんな彼女が、脳を多少揺らされた程度で、豪鬼を切れぬ程に弱体化する筈も無い。
(けど、殺れないわけじゃない。戦えないわけじゃない。……オレも死ぬかもしれないけど)
ただ真っすぐに、イルメールを見据える豪鬼の目。
それは死を覚悟しつつも、しかし相手に勝つ事を諦めぬ者の目だ。
これまでイルメールが打ち倒してきた敵の中でも――最も澄んだ目。
「オイ、最後に一つ聞かせろ」
「……なんだ。戦いの最中に」
「オメェはこの先どうするつもりだ」
「この先、か。生き残れればだけど……まぁ、愚母の野望を止めるよ。人間を滅ぼすなんて無意味で疲れる事なんてやめて、人間の文化に触れるのも良いんじゃないか、って」
彼とてそれが果たせると言っているわけではない。
ただそうなりたいのだ。
家族と呼べる五災刃の皆と、ただ安寧な生活を手し、楽しく笑い合いながら生きていきたい。
思えば、彼のこうした考え方は、カルファスによって恐怖を与えられ、狂ってしまった暗鬼を見てから感じた事だった。
痛々しく狂っていく暗鬼を見ている事が辛かった。
暗鬼が死んだと聞かされた時、もう二度と暗鬼と会う事が出来ないと知り、無性に悲しくなった。
……恐らく、餓鬼も消滅しているのではないかと、豪鬼は心のどこかで受け止めている。
「オレは、心のどこかで、アイツ等とはずっと、一緒にいるんだと……それが当たり前なんだと思ってた」
けれど、それは違った。
永遠なんか無かった。
暗鬼は死に、餓鬼も恐らくは災厄を振りまき、消滅を果たした。
そして斬鬼は、イルメールと戦おうとする豪鬼の背中を押し、イルメール以外は決して近付けまいと約束までしてくれたが――サーニスと言う強敵を相手に、彼が生き残れるかどうかも、豪鬼には分からない。
「当たり前じゃない日常を……ある事を尊ぶべき家族を、これ以上失いたくない……災厄を振りまくなんて、気が重い所じゃない事を成す為に生きるなんかより……オレは、そうして戦わなければ守れない家族の為に、これからも戦っていく。……この命が、ある限り」
家族を守る為に戦い続ける。
イルメールに勝利し、皇族を倒す事が出来たとして、これからも守るべきものを守る戦いを続けると、そう断言した豪鬼の言葉は、イルメールの心にも強く響いた。
「オメェは強ェな、豪鬼」
「強ければアンタをさっさと殺してる」
「いいや、オメェはオレがこれまでに会ってきた誰よりも強ェよ。力じャねェ、能力じャねェ。その心の在り方が、誰よりも強い。……そンなオメェを、力で捻じ伏せなきャならねェなンて、ホントに悲しい事だ」
「力の化身がなにを言ってるんだか」
「力で守れるモンなンざな、たかが知れてるんだ。……だからオレは、オメェに力だけでも勝ッてなきャならねェ」
逆手持ちで掴んでいた刀を握り直し、刃を豪鬼へと向ける。
「オレには学がねェ。戦う以外の頭もねェ。ケドそれでいい。オレが力で家族を、民を、全てを守り、それ以外でしか守れねェモンからは、誰かが皆を守る。そうして人間は他人を信じ、共に居る事で、強くなってきた。……これからもオレは、そうした在り方を続けてく」
「いつかオレも……そうした在り方の中に居られればいいんだがな」
「もう遅ェよ。もし今からそれを果たしたいなら――このオレを殺して見せろ、豪鬼」
「ああ――やってやるよ、イルメールッ!!」
互いに聞きたい事は、語り合った。拳を交えて感じ合えた。
ならばもう、後は決着に至るまでの事だ。
**
混戦、という言葉を表現するには、今のサーニスとワネットの戦いが適しているだろう。
俊敏な四者による足の動きがリュート山脈に生い茂る草木を揺らしながら、その手に握る刀や斬馬刀を振るっていく。
しかし獣道で無く山の中であるからして、リーチの長い刀や斬馬刀は実に扱いづらい状況。
左右に別れた二者の斬鬼が、互いに斬馬刀を放棄したタイミングに合わせ、ワネットがまず動いた。
第四世代型ゴルタナによって後押しを受けているとは言え、常人の目に留まらぬ程の動きで木々を駆け上り、上空へと舞い上がり、神殺短剣と刀を構えた。
空を蹴りつけるようにして、木々へと駆け抜ける彼女の動きを正確に見抜く事が出来ず、ワネットと相対している斬鬼は強く背後へと飛び退き、木々の間を抜けて、ワネットの振るった神殺短剣とエンビの刃を避け切った。
「実に速いッ」
「これでも抑えておりますわよ」
神殺短剣を斬鬼の顔面へと向けて投擲。彼はいつの間にか顕現させていた打刀で短剣を弾き落としたが、しかしそこでワネットから感じる殺気を読み取り、木々の間へと隠れた瞬間、数多の銃弾が木々を抉り、思わず身を伏せてしまう。
「模造魔術であるな」
「正確に言えば魔術投影ですわね」
フリントロック式の拳銃を四丁、連続で撃ち込んだワネット。しかし木々が邪魔だと言わんばかりに右足を軸にその場でターンをする。
「姉さんッ!」
「伏せていなさいサーニス!」
瞬間、彼女の全身程ある巨大な砲塔が姿を現し、先端にある無数の銃口が回転するように動き出し、鼓膜を破壊するには十分な程の爆音を鳴らしながら、鉛玉を次々に射出していく。
銃弾は周りの木々を全て抉り倒していくだけでなく、跡形も無く砕け散らせるほどの高威力。
サーニスだけでなく斬鬼二体も避けると言うよりは退避すると言わんばかりに傾斜へと身を倒し、機関銃が止むのを待っている。
「実に豪傑な事であるなァ!」
「応とも! 果たし合っていて実に愉快であるよっ!」
自分同士でカカ、と笑う斬鬼達は、銃声が止むと同時に起き上がり、再び左右に別れたが、既にその場にほとんど木々は無く、足元に木片が散らばって足場が余計に悪くなっている反面、視界は良好に。
「参るぞ、さぁにす殿――!」
素早く足を動かし、サーニスへと接近する一体の斬鬼は、斬馬刀を再び顕現し直すと、サーニスへとまず切先を突きつける。
突き出された刃を、避ける事は容易い。だが斬鬼はそうして突き出した刃を左方へと避けたサーニスの腹へ打ち込むように、横薙ぎに振るう。
長いリーチを有する武器による殴打、しかしサーニスも予見していなかったわけではない。
地面を蹴りつけて空を舞い、空中で身体を回転させながら斬鬼の顔面へと蹴り込んだ右足。
それを甘んじて受ける斬鬼だったが、しかしゴルタナによって高機動性を有しているサーニスが、その程度で終わる筈もない。
「フ――ッ」
着地と同時に地面を軽く蹴り、跳ぶようにして斬鬼へと迫るサーニスは、柄底で斬馬刀を握る彼の手の甲を殴りつけ、斬馬刀を叩き落し、続けて鞘へと刃を戻しながら豪鬼の顎、額、鳩尾、下腹部と連続して、掌底を放っていく。
「ぐ、ハハッ! 見事であるぞさぁにす殿――ッ!」
殺せぬまでも痛みはある筈だろうに、斬鬼はそうして連撃を叩き込んでいくサーニスの攻撃を受け続け、尚も笑みを絶やさない。
接近したサーニスへ相対するならばコレと言わんばかりに、いつの間にか手にしていた短剣の刃が振り下ろされ、サーニスはバク転しながらその場を退避、再びリュウオウの刃を抜き放ち、短剣を棟で弾き飛ばした。
「お前はその程度が斬鬼!」
「言うたであろう! 己は刃を奪う者であり、使う者では無いと!」
「ならば何故強敵との果し合いに拘る!」
「実に単純明快、個人的趣向というモノだ――ッ!」
両手に刀を顕現させた斬鬼。サーニスも表情を引き締めた上で左手にレイピアを抜いて構え、相手が動くよりも前にと、動いた。
レイピアの切っ先を斬鬼の喉元に向けて突き付け、彼は僅かに身体を動かす事でそれを避けた。
しかし続けて振るう刀の刃が彼に迫り、斬鬼は二本の刀で挟むようにしてそれを受け、弾き合い、互いの目を見据える。
「力が及ぼうが及ぶまいが、強大なる敵との果たし合いは何時の世も心躍るものよ! 故に己は死する事自体に恐怖は無い、強敵と果たし合えぬ事こそが、己にとっての絶望であるからしてな――ッ」
「……本当に好ましい、好ましいぞ斬鬼……口惜しい程に、貴様は自分好みの男だッ!」
恐らく斬鬼の刀はリンナの量産品を模造したものであろう。以前まではリンナの刀全てが名刀に見えていたサーニスであるが、しかしリュウオウという刃と出会う事により、量産品の僅かに粗雑な部分が見えるようになっていた。
僅かに欠ける刃に打ち込むようにして振るわれたリュウオウの棟が、斬鬼の握っていた二本の刃を左右順番に砕いた。
「貴様との戦いがこうした場でなければと心から悔やむ……何のしがらみも、何の気負いも無く、貴様とは果し合いたかった……!」
「それは己も同じ想いよ。……しかしながら、己らは既に戦を始め、互いに後戻りできぬ場所へと辿り着いてしまっているのでな――!」
僅かに剣筋がブレたサーニスの胸元を強く蹴りつけ、距離を取った斬鬼。
身体を転がしたサーニスを支えたのは、丁度近くでエンビを構えていたワネットで、彼女はサーニスの手を取り、起き上がらせると「大丈夫かしら」と問う。
「問題ない。斬鬼との決着を付けなければ、自分も死に切れん」
「そう、よかったわ。……それよりサーニス、貴方ってもしかしてああいう男性が好きだったの? どおりでアメリア様じゃダメな筈ね。安心して、お姉ちゃんは応援するわ」
「違うからな!? ――行くぞッ!」
ゴルタナを展開した事により、普段よりも瞬発力や加速性能を増したワネットが先んじて駆け出し、その背後へ隠れるようにしながら風圧より逃れるサーニス。
姉の背後から彼女の背中を足場にして跳び、一体の斬鬼へと斬りかかるサーニスと、もう一体の斬鬼へと神殺短剣を四本抜き、投げ放つワネット。
四人の戦いは、長く続いていく。
これまでイルメールが行っていた攻撃は、全て人間が受ければ即死する程の威力を孕んでいた。
当然豪鬼にも、そのダメージは蓄積しているが、災いである彼は虚力がある限り、痛みは消えないが肉体の損傷自体を直す事は容易である。
だが、リンナの刀で斬られた場合は別である。
リンナの刀には人間がおおよそ持ち得ない程に膨大な虚力が込められている。虚力で身体を形作る災いにとって、彼女の虚力が込められた刀で斬られるという事は、虚力同士の反発現象により、身体の崩壊を意味する。
(……ホント、気が重い)
イルメールはこれまでの戦いで、多くの状況を生き残っていた。
愚母との戦いにおいても相手の能力を知り得ていない状況にも関わらず、ゴウカという脇差を用いて戦い抜き、腕一本を無くしつつも、しかし愚母へとダメージを与えた。
そんな彼女が、脳を多少揺らされた程度で、豪鬼を切れぬ程に弱体化する筈も無い。
(けど、殺れないわけじゃない。戦えないわけじゃない。……オレも死ぬかもしれないけど)
ただ真っすぐに、イルメールを見据える豪鬼の目。
それは死を覚悟しつつも、しかし相手に勝つ事を諦めぬ者の目だ。
これまでイルメールが打ち倒してきた敵の中でも――最も澄んだ目。
「オイ、最後に一つ聞かせろ」
「……なんだ。戦いの最中に」
「オメェはこの先どうするつもりだ」
「この先、か。生き残れればだけど……まぁ、愚母の野望を止めるよ。人間を滅ぼすなんて無意味で疲れる事なんてやめて、人間の文化に触れるのも良いんじゃないか、って」
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ただそうなりたいのだ。
家族と呼べる五災刃の皆と、ただ安寧な生活を手し、楽しく笑い合いながら生きていきたい。
思えば、彼のこうした考え方は、カルファスによって恐怖を与えられ、狂ってしまった暗鬼を見てから感じた事だった。
痛々しく狂っていく暗鬼を見ている事が辛かった。
暗鬼が死んだと聞かされた時、もう二度と暗鬼と会う事が出来ないと知り、無性に悲しくなった。
……恐らく、餓鬼も消滅しているのではないかと、豪鬼は心のどこかで受け止めている。
「オレは、心のどこかで、アイツ等とはずっと、一緒にいるんだと……それが当たり前なんだと思ってた」
けれど、それは違った。
永遠なんか無かった。
暗鬼は死に、餓鬼も恐らくは災厄を振りまき、消滅を果たした。
そして斬鬼は、イルメールと戦おうとする豪鬼の背中を押し、イルメール以外は決して近付けまいと約束までしてくれたが――サーニスと言う強敵を相手に、彼が生き残れるかどうかも、豪鬼には分からない。
「当たり前じゃない日常を……ある事を尊ぶべき家族を、これ以上失いたくない……災厄を振りまくなんて、気が重い所じゃない事を成す為に生きるなんかより……オレは、そうして戦わなければ守れない家族の為に、これからも戦っていく。……この命が、ある限り」
家族を守る為に戦い続ける。
イルメールに勝利し、皇族を倒す事が出来たとして、これからも守るべきものを守る戦いを続けると、そう断言した豪鬼の言葉は、イルメールの心にも強く響いた。
「オメェは強ェな、豪鬼」
「強ければアンタをさっさと殺してる」
「いいや、オメェはオレがこれまでに会ってきた誰よりも強ェよ。力じャねェ、能力じャねェ。その心の在り方が、誰よりも強い。……そンなオメェを、力で捻じ伏せなきャならねェなンて、ホントに悲しい事だ」
「力の化身がなにを言ってるんだか」
「力で守れるモンなンざな、たかが知れてるんだ。……だからオレは、オメェに力だけでも勝ッてなきャならねェ」
逆手持ちで掴んでいた刀を握り直し、刃を豪鬼へと向ける。
「オレには学がねェ。戦う以外の頭もねェ。ケドそれでいい。オレが力で家族を、民を、全てを守り、それ以外でしか守れねェモンからは、誰かが皆を守る。そうして人間は他人を信じ、共に居る事で、強くなってきた。……これからもオレは、そうした在り方を続けてく」
「いつかオレも……そうした在り方の中に居られればいいんだがな」
「もう遅ェよ。もし今からそれを果たしたいなら――このオレを殺して見せろ、豪鬼」
「ああ――やってやるよ、イルメールッ!!」
互いに聞きたい事は、語り合った。拳を交えて感じ合えた。
ならばもう、後は決着に至るまでの事だ。
**
混戦、という言葉を表現するには、今のサーニスとワネットの戦いが適しているだろう。
俊敏な四者による足の動きがリュート山脈に生い茂る草木を揺らしながら、その手に握る刀や斬馬刀を振るっていく。
しかし獣道で無く山の中であるからして、リーチの長い刀や斬馬刀は実に扱いづらい状況。
左右に別れた二者の斬鬼が、互いに斬馬刀を放棄したタイミングに合わせ、ワネットがまず動いた。
第四世代型ゴルタナによって後押しを受けているとは言え、常人の目に留まらぬ程の動きで木々を駆け上り、上空へと舞い上がり、神殺短剣と刀を構えた。
空を蹴りつけるようにして、木々へと駆け抜ける彼女の動きを正確に見抜く事が出来ず、ワネットと相対している斬鬼は強く背後へと飛び退き、木々の間を抜けて、ワネットの振るった神殺短剣とエンビの刃を避け切った。
「実に速いッ」
「これでも抑えておりますわよ」
神殺短剣を斬鬼の顔面へと向けて投擲。彼はいつの間にか顕現させていた打刀で短剣を弾き落としたが、しかしそこでワネットから感じる殺気を読み取り、木々の間へと隠れた瞬間、数多の銃弾が木々を抉り、思わず身を伏せてしまう。
「模造魔術であるな」
「正確に言えば魔術投影ですわね」
フリントロック式の拳銃を四丁、連続で撃ち込んだワネット。しかし木々が邪魔だと言わんばかりに右足を軸にその場でターンをする。
「姉さんッ!」
「伏せていなさいサーニス!」
瞬間、彼女の全身程ある巨大な砲塔が姿を現し、先端にある無数の銃口が回転するように動き出し、鼓膜を破壊するには十分な程の爆音を鳴らしながら、鉛玉を次々に射出していく。
銃弾は周りの木々を全て抉り倒していくだけでなく、跡形も無く砕け散らせるほどの高威力。
サーニスだけでなく斬鬼二体も避けると言うよりは退避すると言わんばかりに傾斜へと身を倒し、機関銃が止むのを待っている。
「実に豪傑な事であるなァ!」
「応とも! 果たし合っていて実に愉快であるよっ!」
自分同士でカカ、と笑う斬鬼達は、銃声が止むと同時に起き上がり、再び左右に別れたが、既にその場にほとんど木々は無く、足元に木片が散らばって足場が余計に悪くなっている反面、視界は良好に。
「参るぞ、さぁにす殿――!」
素早く足を動かし、サーニスへと接近する一体の斬鬼は、斬馬刀を再び顕現し直すと、サーニスへとまず切先を突きつける。
突き出された刃を、避ける事は容易い。だが斬鬼はそうして突き出した刃を左方へと避けたサーニスの腹へ打ち込むように、横薙ぎに振るう。
長いリーチを有する武器による殴打、しかしサーニスも予見していなかったわけではない。
地面を蹴りつけて空を舞い、空中で身体を回転させながら斬鬼の顔面へと蹴り込んだ右足。
それを甘んじて受ける斬鬼だったが、しかしゴルタナによって高機動性を有しているサーニスが、その程度で終わる筈もない。
「フ――ッ」
着地と同時に地面を軽く蹴り、跳ぶようにして斬鬼へと迫るサーニスは、柄底で斬馬刀を握る彼の手の甲を殴りつけ、斬馬刀を叩き落し、続けて鞘へと刃を戻しながら豪鬼の顎、額、鳩尾、下腹部と連続して、掌底を放っていく。
「ぐ、ハハッ! 見事であるぞさぁにす殿――ッ!」
殺せぬまでも痛みはある筈だろうに、斬鬼はそうして連撃を叩き込んでいくサーニスの攻撃を受け続け、尚も笑みを絶やさない。
接近したサーニスへ相対するならばコレと言わんばかりに、いつの間にか手にしていた短剣の刃が振り下ろされ、サーニスはバク転しながらその場を退避、再びリュウオウの刃を抜き放ち、短剣を棟で弾き飛ばした。
「お前はその程度が斬鬼!」
「言うたであろう! 己は刃を奪う者であり、使う者では無いと!」
「ならば何故強敵との果し合いに拘る!」
「実に単純明快、個人的趣向というモノだ――ッ!」
両手に刀を顕現させた斬鬼。サーニスも表情を引き締めた上で左手にレイピアを抜いて構え、相手が動くよりも前にと、動いた。
レイピアの切っ先を斬鬼の喉元に向けて突き付け、彼は僅かに身体を動かす事でそれを避けた。
しかし続けて振るう刀の刃が彼に迫り、斬鬼は二本の刀で挟むようにしてそれを受け、弾き合い、互いの目を見据える。
「力が及ぼうが及ぶまいが、強大なる敵との果たし合いは何時の世も心躍るものよ! 故に己は死する事自体に恐怖は無い、強敵と果たし合えぬ事こそが、己にとっての絶望であるからしてな――ッ」
「……本当に好ましい、好ましいぞ斬鬼……口惜しい程に、貴様は自分好みの男だッ!」
恐らく斬鬼の刀はリンナの量産品を模造したものであろう。以前まではリンナの刀全てが名刀に見えていたサーニスであるが、しかしリュウオウという刃と出会う事により、量産品の僅かに粗雑な部分が見えるようになっていた。
僅かに欠ける刃に打ち込むようにして振るわれたリュウオウの棟が、斬鬼の握っていた二本の刃を左右順番に砕いた。
「貴様との戦いがこうした場でなければと心から悔やむ……何のしがらみも、何の気負いも無く、貴様とは果し合いたかった……!」
「それは己も同じ想いよ。……しかしながら、己らは既に戦を始め、互いに後戻りできぬ場所へと辿り着いてしまっているのでな――!」
僅かに剣筋がブレたサーニスの胸元を強く蹴りつけ、距離を取った斬鬼。
身体を転がしたサーニスを支えたのは、丁度近くでエンビを構えていたワネットで、彼女はサーニスの手を取り、起き上がらせると「大丈夫かしら」と問う。
「問題ない。斬鬼との決着を付けなければ、自分も死に切れん」
「そう、よかったわ。……それよりサーニス、貴方ってもしかしてああいう男性が好きだったの? どおりでアメリア様じゃダメな筈ね。安心して、お姉ちゃんは応援するわ」
「違うからな!? ――行くぞッ!」
ゴルタナを展開した事により、普段よりも瞬発力や加速性能を増したワネットが先んじて駆け出し、その背後へ隠れるようにしながら風圧より逃れるサーニス。
姉の背後から彼女の背中を足場にして跳び、一体の斬鬼へと斬りかかるサーニスと、もう一体の斬鬼へと神殺短剣を四本抜き、投げ放つワネット。
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