魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十三章

命の限り-03

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 それは彼女にとって、遠い日にあった出来事かもしれない。

  しかしマリルリンデは、つい昨日の事のように覚えている。

  二十年前、ルワンやマリルリンデ、ガルラとミクニと言った面々が協力した、長年の間、人類への反感情を抱いて戦力を蓄え続けていた災い達との戦い。

  茨木童子という、子供の容をした災いをルワンが討伐した――星や月すらも見えない、大雨の時だった。


(どうして――どうして、あの子達を、私たちは救えないの……っ)


 地面へ両膝と両手をついて、雨に濡れるルワン・トレーシー……姫巫女・ルワンの姿が、マリルリンデには印象深かった。

 全身を雨で濡らすものだから、頬を伝う水滴が涙なのか雨なのかを判断する事も難しい中、彼女は嘆いたのだ。


(彼女達は、救いを求めてたのよ……ただ、生きていたいって……それは、命ある限り、意思がある限り、当たり前の事じゃない……マリルリンデ、貴方だってそうでしょう……?)


 その時のマリルリンデには、ルワンが何を言っているのか、理解が出来なかった。

  災いは人類という、このゴルサを治める知的生命体の存続を脅かす外敵であり、ルワンは姫巫女として、災いを滅する事こそが使命である。

  そうした彼女が、自らの在り方を否定し、災いの存在を肯定する事は、使命から逸脱した行為だ。


「オレには、分からない」


 当時、ガルラや姫巫女以外の人間と接触がほとんど無く、感情が希薄だった彼の呟いた言葉。

  それがルワンをどれだけ追い詰めていたか、それをこの時のマリルリンデは知らない。

  彼女は、姫巫女としての力に優れ過ぎていたのだ。

  相手の虚力を感じ取り、放出された虚力の基となった感情を読む事の出来る感知能力……それにより、感情を有してしまった名有りの災いと戦う度、ルワンと災いが相対する度、彼女達は言葉ではなく、心でルワンへと向け、叫ぶのだ。


  ――どうして私たちが殺されなければならないの?

  ――俺は存在しちゃいけない存在なのか?

  ――ならなんで、アタシにはこんな感情なんてあるの?

  ――いやだ、死にたくない、殺されたくない、人間が死ね、僕たちは生きるんだ!


 そうした者達の嘆く心を、ルワンはたった一人で、抱えて生きて来た。

  ガルラは、彼女の傷ついた心に気付いていた。だから少しでも彼女の助けになりたくて、災いとの戦いで自分は役に立てないが……と、マリルリンデを彼女の隣に置いた。

  ミクニは、彼女のそうした嘆きをフォローこそしていたが、しかし内心は感心など無かっただろう。彼はただ、ルワンと言う姫巫女の存在を自分の手に収めておきたかっただけだ。


(……そう、ね。貴方には……感情が、無いものね)

「今は、無いわけじゃない。けれど奴らは敵だ。敵を滅ぼさなければ、人間が滅ぼされる。災厄を世界へ放たれる。それは人類として見過ごせるものではない。そうじゃないのか?」

(そう、そうよ。……でも、こんなの理屈じゃないの……理屈じゃないのよ……っ)


 ルワンは今思えば、リンナに似て怒りっぽかったと思う。

  けれどマリルリンデは、彼女が怒りを表現する度に、世界へ理不尽を、不条理を叫ぶ度に、心の奥底が締め付けられるような感覚を覚えていた。

 それはきっと――彼の個性である【怒り】が、彼女への共感を叫んでいたからであるのだろうと、気付いたのは遠い未来の話。


(……マリルリンデ、貴方は、忘れないで)

「何を?」

(貴方もいつか、生き続けていれば……きっと、災い達の感情を、理解できる時が来る……その時に貴方は……貴方だけはせめて……あの子達の想いを、願いを……その先にある、生きたいと願う心を……理解してあげて)


  彼女の言葉を咀嚼しても、何度反芻しても、その時のマリルリンデには、理解こそ出来なかったけれど。

  間違いなく、彼女の言葉は――後々のマリルリンデを、動かしていく事になる。


「ルワン、オレは、お前を守りたい。……守らなきゃいけない。その怒りは、願いは、きっと正しいんだって……オレには分かる」

(マリルリンデ……?)

「お前の事も、お前がこれまでやってきた事も、全て……オレが守る」


  ガルラに彼女を守れと、彼女の支えになれと命令されたという事は間違いないけれど。

  この時マリルリンデは――ルワンという女性を、ただ一つの存在として、愛おしいと考えていた事も、間違いではない。

    
  **
  
  
  姫巫女の変身は、基本的に虚力を用いて行われる。

  聖道衣……緋袴や白衣と言った衣服や、長太刀・滅鬼は虚力によって形作った戦闘用フォームであり、姫巫女の一族でなくとも高純度の虚力を用いれば展開する事は可能である。(そうした姿への変身を行う事が出来る者を姫巫女と呼んでいるわけだが)

 つまりガルラが設計し、マリルリンデが形にした戦闘補助デバイスである指輪は特段、変身用デバイスというわけではない。

  マジカリング・デバイスのように虚力増幅装置が搭載されているわけでも無く、あくまで変身時や戦闘時に使う虚力を事前に貯蔵しておく貯蔵庫としての機能と、戦闘時における虚力の流れを感知する機能を搭載しているだけだ。

  しかし姫巫女への変身は利点が多い。

  変身を果たす事により展開される聖道衣……虚力による外装は非常に強固で、同じ虚力を用いた敵からの攻撃を防ぐ効果がある。

  加えて同時に展開される滅鬼は、虚力総量によって長さや強固さ等が変化し、伝承では昔、大雪による大災害が発生した際、世界にかかる雪雲を滅鬼を一振りしただけで拡散させた存在すらあったのだという。

  マリルリンデが愚母へ注文し、注いで貰っていた虚力総量は、実にマリルリンデが数百年は生きる事の出来る程に膨大な量の虚力がある為、滅鬼も十分に強固となり得る。


「まぁつまり――今のオレァ、それなりにサイキョーな力を持ってるッつーこった」


 ルワンに瓜二つの外観、その目付きと口調しか異ならぬ彼女の姿を見て怒りを覚えたシドニアが、二振りの刀を強く握り締め、叫び散らしながら斬りかかる。


「貴様だけは……貴様だけは許さんッ! 亡き母さんの姿を模し、亡き母さんの最後を侮辱する貴様を、許しておけるものか……!」


 振るわれた刃の動きは実に速い。しかし姫巫女・マリルリンデは装着している補助デバイスから察知できる刃の虚力を辿り、普段よりも圧倒的に素早く動ける身体を動かして滅鬼を抜き放ち、二振りの刃を弾き、返し、その上でシドニアの胸元を強く蹴り付ける。


「侮辱なンざしてねェよ。オレァただ、姫巫女として変身するンなら――愛したルワンのようで在りたいと考えたダケだ」

「っ、……愛、だと……!?」

「アァ。……アイツは、ルワンは、オレに愛情を教えてくれた女だ……痛い位にいつも、世界に向けて怒り、嘆きを叫ンで……でも涙を拭って立ち上がり、戦う姿を……オレは間違いなく、愛してた」


 ゴルタナを展開しているシドニアの動きは速かった。すぐにその場で身体をコマのように回転させながらマリルリンデをけん制しつつ、右手に握る打刀【フジ】に、ゴルタナから放出するマナを込め、強く振り込むことによって衝撃波として、一閃を放った。

  衝撃波は素早く駆け抜け、マリルリンデの身体へと叩きつけられたが、しかし姫巫女として聖道衣を展開している今の彼女は、その程度のマナを拡散する事など容易いと言わんばかりに、ただ受け止め、実際に衝撃波は拡散された。


「な、」

「ヌリィ攻撃してンじャねェシドニア――ッ!!」


 叱咤するように叫んだ彼女の声と共に、再びシドニアの胸元を蹴りつけられる。

  蹴り飛ばされる体、しかし変身して身体能力も普段のマリルリンデより強力となっている為、ゴルタナを展開していなければ衝撃であばら骨が折れていても不思議でない威力がそこにはあった。


「オラオラどォしたァ? そンなモンでオレを殺れると思ッてンのかァ!?」

「っ、バカに、するなッ!」


 姫巫女の聖道衣がゴルタナと近しい外部装甲としての役割を果たしている場合、互いに敵を倒す方法は限られる。

  展開されている外部装甲――この場合はシドニアのゴルタナと、マリルリンデの聖道衣を破壊する事。

  しかし堅牢な防御力を有している互いの装甲を破壊するには、それを上回る破壊力によってクラッシュさせるか、もしくは敵の外装に一定の衝撃を与えて強制的に展開を解除させることである。


 だが――


「行くぜオラッ!!」


 滅鬼を構えるマリルリンデの構えは、サーニスやクアンタという強者と比べても稚拙と言って良い。

 しかし今の彼女は本当に刀と呼んで良いか分からぬ程に重みの感じる刃を振るうもので、フジやヒジリと言ったリンナの刀では、例え切れ味で勝っていたとしても圧し負ける可能性は否めない。

  だが刃を防がない、という選択肢はない。

  彼女の振るう刃を正確に見切り、避けれる刃を避け、避ける事が出来ないと判断した刃だけは受け流し、左手に握る打刀【ヒジリ】の柄底で彼女の頭部を殴打する事で、僅かに動きが止まった彼女へ振るう、直接の剣劇。


「オット、っ」


 直接の攻撃を完全に防ぎきる事が出来ないと判断したか、マリルリンデは後退しながら姿勢を直し、今度は虚空からもう一本、恐らくガルラの打った刀であろう打刀を左手で掴んで構え、突撃する。

  フジとヒジリ、滅鬼と無銘の刀による二対二の刃が織りなす戦いは、剣劇の音が鳴り止まぬ死闘。

  技量で勝るシドニアと、圧倒的暴力によって押し通そうとする姫巫女・マリルリンデによる戦いは、観客こそいないが演舞と言っても違いない。


「オメェはどうして、ルワンが産んだオメェやリンナを、オレが殺そうとしているか分かるかッ!?」

「分かる筈がない、狂人の思考を僕の様な凡人が咀嚼した所で、呑み込める筈も無いッ!」

「ヒャヒャ、正しいぜシドニア! アァ、理屈なンざねェ! ただ単にオメェが、そンでもッてリンナが気に喰わねェダケだ――ッ!」
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