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第二十三章
命の限り-04
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迫り合い、互いの鍔で防ぎ、斬り結ぶ事で距離を開き、シドニアが仕掛ける。
横に振るう一刀と縦に振るう一刀、交互に振るいはしたが、彼のスピードによってほぼ同時に振るわれたと言っても過言ではない刃は、通常のマリルリンデでは視界から入る情報を処理し切れずに攻撃を喰らっていただろう。
しかし姫巫女への変身を遂げてる彼女の計算能力は、元々フォーリナーであるマリルリンデをさらに強化させており、同様に振るった刃同士が弾かれ合い、互いの姿勢が崩れる。
荒れる息を抑えながら、シドニアは崩れた姿勢を戻し、刀を構えたが、しかしマリルリンデは、まるで語り足りないと言わんばかりに笑みを浮かべ、その場でゆっくりと立ち上がり、シドニアへ言葉を放っていく。
「オメェは息子としてルワンの愛情を受けておきながら、捻くれ坊ちャんになッてやがッた。オレからしたらなンて贅沢なヤロウだと思ッたモンだ」
「はぁ……はぁ……っ」
僅かな休憩、とも言える時間を、シドニアは思考に回した。
このままではマリルリンデのパワーに押し負ける。故に彼女へ勝る何か一手が欲しいと考えながらも――しかしそれが思いつかないでいる。
「マァ、成長はしたがな。ルワンの死を正しく受け止めてた。ソコは、オレも認めてるゼ」
「……反して貴様は、随分と壊れてしまっているように見受けられる。やる事が支離滅裂だ」
「そォだろォよ。さッきも言ッたが、オレァ自分がなにしたいか、ちャんと理解してねェンだ」
ククク、と自虐するように笑うマリルリンデの言葉。
それは、本当に彼女が、自分のしたい事を理解していない事実に対して、自分自身を嫌悪しているようにも思える。
「ルワンが死ぬまでは、アイツの望む世界を。アイツが死んでからは、アイツが望んだ災いの為になる事や、ガルラやルワンの受けた苦しみを世界に向けて復讐する事ダケを考えてた……オレにはそうやッて、復讐する事しか出来ねェからな」
皇族としてのシドニアだけではなく、個人として、ルワンの子としてのシドニアも、マリルリンデの野望とする事は、望むことは、そして今言った復讐に関して、理解できる事などない。
「……貴様は、気に喰わないと言いながらも、リンナや僕の事を本気で殺す気が無いようとしか思えなかった」
思わず、言葉が出てしまった。
彼女と語る事など多くないと理解している筈なのに、話題がルワンの子である、シドニアやリンナの事だからか、ついマリルリンデの言葉に反応してしまったのだ。
「……マァ、そォだッたカモな」
マリルリンデも僅かに、歯切れが悪い。言われるまでは、そうした考えなど持っていなかったと言わんばかりだ。
「これまで、貴様にはリンナを殺す機会は幾らでもあった筈だ。僕の事も。しかし貴様は……というより貴様も五災刃も、僕の事やリンナの事を警戒すらしていなかった。暗鬼など、僕を殺す事などいつでも出来ると甘く見て、その末に僕が殺したんだぞ」
「事実、オメェは皇族の中じャ何時でも殺れた」
「僕はそうだとしても、リンナの刀が戦局を左右すると知りながら、五災刃へリンナよりも僕以外の皇族を殺す事に執着させる理由はない。……むしろ五災刃がリンナを殺さぬように、誘導していたようにも思える」
「それは――」
マリルリンデ自身、本当に自覚は無かったのかもしれない。シドニアも今の今まで、考えていなかった事でもある。
だが思い起こせば、マリルリンデがこれまで起こしてきた行動と、先ほどの「リンナとシドニアが気に食わねェ」という言葉は、どうにも一致していないように思えるのだ。
確かに初めてマリルリンデとシドニアが相対した時、彼は間違いなくリンナの虚力を狙っていた。
しかしリンナを守る皇族の存在に気付き、さらには同胞であるクアンタの存在を知ってからは、五災刃が事の中心となり、彼は長く姿を現さなかった。
本当は、こんな事を思考している場合じゃない。マリルリンデを……変身して姫巫女としての能力を有している彼女を打倒する手段を考えなければならないと言うのに、そうした疑問が止まらない。
――そしてその時、ふと頭を過った考えに、シドニアは口を開いた。
「もしや貴様は……人類や災いが、こうした危機に直面する事によって……進化に値する存在かどうかを、選別しようとしていた……いや、進化を促していたのか……?」
ピクリと、彼女の表情筋が僅かに動いた――気がする。
しかし同じフォーリナーであるクアンタに比べ、マリルリンデは非常に人間と近しい表現方法を確立している。アメリア程では無くとも、シドニアの外交能力で真偽判定は十分に可能だろうと、そのまま続けた。
「母さんは僕やリンナが、対災いという点において、このレアルタ皇国を守る為に必要な人材になると考えていた」
それは以前、収容施設でマリルリンデと共にルワンの口から聞かされた言葉にもあった。
『最初は確かに「シドニアが皇族として大成し、リンナが姫巫女の力を語り継いでいく事で、何時の日か現れる災いに対抗する為の力を、勢力的にも政治的にも遺して行く」事が、私の【夢】だった』と。
「最終的に母さんはその考えを改めた。そんな使命などではなく、僕とリンナが幸せに暮らしていける世界を作りたいと願ってくれた。……だが、貴様にとっては、元々母さんが考えていた願いこそが、理想の世界だったんじゃないのか?」
「……どォしてそう思う?」
「殆ど妄想に近い。しかしそれなら、色々と説明がつくと思ってな……アメリア程の思考能力は無いが」
まず前提として、マリルリンデはそうした計画を想定しているわけではない。
あくまで彼の計画は『人類の粛清・淘汰』という当初の目的に加えて『ルワンの望む世界を作る』という根底があり、最終的には『人類の八割を粛正した選民思想の実現』に終始する事は間違いない。
だがガルラもマリルリンデも、最終的に辿り着きたい場所としている『残る二割の人類』をどうしていくか、明確なビジョンを持っていないように、前々から感じていた。
ただの侵略者、革命家ならばそんなものかと、これまでは考えていた事は確かだが、今思えば人間の悪性や醜悪さに心を壊した二者が、最後に残る二割の人類へ全てを丸投げする事は想像し辛い。
ならば何故、人類選別の後を二者が考えていないか、それを想像する。
「刀匠・ガルラの事は、僕には分からない。だがマリルリンデ、お前は人類選別に至るまでの道はこうして辿っていても、その後人間を率いる事の出来る人材を私たち皇族に委ねようとしていた」
リンナ宅へとガルラを引き連れて現れ、マリルリンデの口からあった勧誘を思い出す。
「お前は元々母さんが考えていた、僕とリンナが対災いに必要な力を遺して行く、という理想を叶えようとしていた。言ってしまえば、僕とリンナが最終的な目的だったんだ。つまり――人類が如何に僕とリンナを殺さないように動けるか、動けないならば、滅びも止むなし……と」
災いが人類を滅ぼしきってしまった場合。もっと言ってしまえば、災い達がシドニアとリンナと言う、ルワンが幸せに生きる事を望んだ存在を淘汰する事が出来れば、人類は進化に値する存在ではなかった事の証明になる。
反対に、人類が五災刃を討伐しきり、リンナとシドニアが生き残れば……そして対災いという点で次世代に技能や知識、経験を遺して行く事が出来れば、人類はどんな形であれ、対災いという点であったり、過去に皇族が犯した罪を乗り越えた点であったりで、進化した事の証明になる。
「お前は、何がしたいか理解していなかった。けれどそれで良かったんだ。何せお前にとっての望みは、殆ど叶っているにも等しい」
シドニアの仮説が正しければ、既にこの状況を作り出せている事が、マリルリンデにとっての勝利である。
人類が災いを乗り越えようと、災いが人類を滅ぼそうと、どちらにせよマリルリンデの目的は完遂されるのである。
――シドニア達人類側は、戦いに応じた時点で、既に勝利する事などなかった、という事だ。
「けっこー、納得いく仮説だッたぜシドニア。……なァるほど。オレァ、生き残るのが人類か災いか、そうした状況を作りだせりャ、それで良かッた、ッてワケ」
腑に落ちた、と言わんばかりに頷いたマリルリンデ。そしてシドニアもやはりか、と言わんばかりにため息をつき、しかしこれが無駄な思考である事を後悔する。
「だが――そンなコトを今知ってどうなるッてンだッ!!」
疾く、強く振るわれた二撃の刃を、シドニアは受ける事に成功した。というより、こうなる事は予想がついていた。
シドニアとて理解している。今この場で、そうしたマリルリンデの考えに気付いた所で意味などない。
ひょっとしたらそうした根底にある願いや理想に気付く事で、彼女を妥当する方法が見つかるかもしれないという淡い考えを持って思考を回しただけだ。
「アァ、そう考えれば、オレがお前とリンナに苛立つのも分かるぜ!? なンせ、オレが注目してるハズの、ルワンの子であるオメェ等がなかなか活躍しねェで、クアンタやサーニス、イルメールが活躍してバッカだッたモンなァ!」
「否定は出来ない……僕は自分で自分の力を過小評価し過ぎて卑屈になり、リンナはそもそも自分が蚊帳の外にあると考えていた。そんな僕たちが、貴様の望むような英雄然とした行動など出来る筈も無い……!」
「だが今はオレとオメェがガチで殺り合ッてる状況だぜ!? オメェはオレに殺されかかッてて、そンなどーでもいい事に頭回転させてる余裕があるッてか? 随分舐めてやがンなオメェは……ッ!」
刀に込められた感情は、明らかに怒りだった。
先ほどまでよりも強く感じる圧倒的な暴力、その腕力……というより姫巫女の有する身体能力によって幾度となく振り込まれる刀は、振り込まれる度に勢いを増し、四撃目を受け流した所で、シドニアは突き飛ばされ、木に背中を預けてしまう。
「オラ、食らいやがれ――ッ!!」
木へ背中を預けざるを得なくなった事で、上手く刀を構える事が出来ないシドニアの身体へと、二撃の刃が振り下ろされた。
装甲で覆っていない胸へと刃を叩き込まれるが、しかしゴルタナは装甲で覆っていない部分にも魔術外装としての防御力を有する。
故に斬られた事による痛みは減らす事が出来たが――続けてマリルリンデは振り下ろした刀から手を離し、腰を捻りながら拳を強く振り切った。
振り込まれた拳自体に威力はそう多くあるわけではない。
拳が腹部へと叩き込まれた次の瞬間、何か衝撃波のようなものが腹部から背中へとかけて放出されて、それがゴルタナの外装をすり抜け、シドニアの体内を揺らした。
「ごふぅ……ッ!」
衝撃波は、シドニアが背を預けざるを得なかった木を薙ぎ倒す程の威力を内包していた。
一瞬意識を飛ばしかけていたシドニアだったが、続けてマリルリンデが左足の回し蹴りをシドニアの首元へ向けて叩き込んだ事で、彼は吐血しながら、地面へと身体を倒した。
横に振るう一刀と縦に振るう一刀、交互に振るいはしたが、彼のスピードによってほぼ同時に振るわれたと言っても過言ではない刃は、通常のマリルリンデでは視界から入る情報を処理し切れずに攻撃を喰らっていただろう。
しかし姫巫女への変身を遂げてる彼女の計算能力は、元々フォーリナーであるマリルリンデをさらに強化させており、同様に振るった刃同士が弾かれ合い、互いの姿勢が崩れる。
荒れる息を抑えながら、シドニアは崩れた姿勢を戻し、刀を構えたが、しかしマリルリンデは、まるで語り足りないと言わんばかりに笑みを浮かべ、その場でゆっくりと立ち上がり、シドニアへ言葉を放っていく。
「オメェは息子としてルワンの愛情を受けておきながら、捻くれ坊ちャんになッてやがッた。オレからしたらなンて贅沢なヤロウだと思ッたモンだ」
「はぁ……はぁ……っ」
僅かな休憩、とも言える時間を、シドニアは思考に回した。
このままではマリルリンデのパワーに押し負ける。故に彼女へ勝る何か一手が欲しいと考えながらも――しかしそれが思いつかないでいる。
「マァ、成長はしたがな。ルワンの死を正しく受け止めてた。ソコは、オレも認めてるゼ」
「……反して貴様は、随分と壊れてしまっているように見受けられる。やる事が支離滅裂だ」
「そォだろォよ。さッきも言ッたが、オレァ自分がなにしたいか、ちャんと理解してねェンだ」
ククク、と自虐するように笑うマリルリンデの言葉。
それは、本当に彼女が、自分のしたい事を理解していない事実に対して、自分自身を嫌悪しているようにも思える。
「ルワンが死ぬまでは、アイツの望む世界を。アイツが死んでからは、アイツが望んだ災いの為になる事や、ガルラやルワンの受けた苦しみを世界に向けて復讐する事ダケを考えてた……オレにはそうやッて、復讐する事しか出来ねェからな」
皇族としてのシドニアだけではなく、個人として、ルワンの子としてのシドニアも、マリルリンデの野望とする事は、望むことは、そして今言った復讐に関して、理解できる事などない。
「……貴様は、気に喰わないと言いながらも、リンナや僕の事を本気で殺す気が無いようとしか思えなかった」
思わず、言葉が出てしまった。
彼女と語る事など多くないと理解している筈なのに、話題がルワンの子である、シドニアやリンナの事だからか、ついマリルリンデの言葉に反応してしまったのだ。
「……マァ、そォだッたカモな」
マリルリンデも僅かに、歯切れが悪い。言われるまでは、そうした考えなど持っていなかったと言わんばかりだ。
「これまで、貴様にはリンナを殺す機会は幾らでもあった筈だ。僕の事も。しかし貴様は……というより貴様も五災刃も、僕の事やリンナの事を警戒すらしていなかった。暗鬼など、僕を殺す事などいつでも出来ると甘く見て、その末に僕が殺したんだぞ」
「事実、オメェは皇族の中じャ何時でも殺れた」
「僕はそうだとしても、リンナの刀が戦局を左右すると知りながら、五災刃へリンナよりも僕以外の皇族を殺す事に執着させる理由はない。……むしろ五災刃がリンナを殺さぬように、誘導していたようにも思える」
「それは――」
マリルリンデ自身、本当に自覚は無かったのかもしれない。シドニアも今の今まで、考えていなかった事でもある。
だが思い起こせば、マリルリンデがこれまで起こしてきた行動と、先ほどの「リンナとシドニアが気に食わねェ」という言葉は、どうにも一致していないように思えるのだ。
確かに初めてマリルリンデとシドニアが相対した時、彼は間違いなくリンナの虚力を狙っていた。
しかしリンナを守る皇族の存在に気付き、さらには同胞であるクアンタの存在を知ってからは、五災刃が事の中心となり、彼は長く姿を現さなかった。
本当は、こんな事を思考している場合じゃない。マリルリンデを……変身して姫巫女としての能力を有している彼女を打倒する手段を考えなければならないと言うのに、そうした疑問が止まらない。
――そしてその時、ふと頭を過った考えに、シドニアは口を開いた。
「もしや貴様は……人類や災いが、こうした危機に直面する事によって……進化に値する存在かどうかを、選別しようとしていた……いや、進化を促していたのか……?」
ピクリと、彼女の表情筋が僅かに動いた――気がする。
しかし同じフォーリナーであるクアンタに比べ、マリルリンデは非常に人間と近しい表現方法を確立している。アメリア程では無くとも、シドニアの外交能力で真偽判定は十分に可能だろうと、そのまま続けた。
「母さんは僕やリンナが、対災いという点において、このレアルタ皇国を守る為に必要な人材になると考えていた」
それは以前、収容施設でマリルリンデと共にルワンの口から聞かされた言葉にもあった。
『最初は確かに「シドニアが皇族として大成し、リンナが姫巫女の力を語り継いでいく事で、何時の日か現れる災いに対抗する為の力を、勢力的にも政治的にも遺して行く」事が、私の【夢】だった』と。
「最終的に母さんはその考えを改めた。そんな使命などではなく、僕とリンナが幸せに暮らしていける世界を作りたいと願ってくれた。……だが、貴様にとっては、元々母さんが考えていた願いこそが、理想の世界だったんじゃないのか?」
「……どォしてそう思う?」
「殆ど妄想に近い。しかしそれなら、色々と説明がつくと思ってな……アメリア程の思考能力は無いが」
まず前提として、マリルリンデはそうした計画を想定しているわけではない。
あくまで彼の計画は『人類の粛清・淘汰』という当初の目的に加えて『ルワンの望む世界を作る』という根底があり、最終的には『人類の八割を粛正した選民思想の実現』に終始する事は間違いない。
だがガルラもマリルリンデも、最終的に辿り着きたい場所としている『残る二割の人類』をどうしていくか、明確なビジョンを持っていないように、前々から感じていた。
ただの侵略者、革命家ならばそんなものかと、これまでは考えていた事は確かだが、今思えば人間の悪性や醜悪さに心を壊した二者が、最後に残る二割の人類へ全てを丸投げする事は想像し辛い。
ならば何故、人類選別の後を二者が考えていないか、それを想像する。
「刀匠・ガルラの事は、僕には分からない。だがマリルリンデ、お前は人類選別に至るまでの道はこうして辿っていても、その後人間を率いる事の出来る人材を私たち皇族に委ねようとしていた」
リンナ宅へとガルラを引き連れて現れ、マリルリンデの口からあった勧誘を思い出す。
「お前は元々母さんが考えていた、僕とリンナが対災いに必要な力を遺して行く、という理想を叶えようとしていた。言ってしまえば、僕とリンナが最終的な目的だったんだ。つまり――人類が如何に僕とリンナを殺さないように動けるか、動けないならば、滅びも止むなし……と」
災いが人類を滅ぼしきってしまった場合。もっと言ってしまえば、災い達がシドニアとリンナと言う、ルワンが幸せに生きる事を望んだ存在を淘汰する事が出来れば、人類は進化に値する存在ではなかった事の証明になる。
反対に、人類が五災刃を討伐しきり、リンナとシドニアが生き残れば……そして対災いという点で次世代に技能や知識、経験を遺して行く事が出来れば、人類はどんな形であれ、対災いという点であったり、過去に皇族が犯した罪を乗り越えた点であったりで、進化した事の証明になる。
「お前は、何がしたいか理解していなかった。けれどそれで良かったんだ。何せお前にとっての望みは、殆ど叶っているにも等しい」
シドニアの仮説が正しければ、既にこの状況を作り出せている事が、マリルリンデにとっての勝利である。
人類が災いを乗り越えようと、災いが人類を滅ぼそうと、どちらにせよマリルリンデの目的は完遂されるのである。
――シドニア達人類側は、戦いに応じた時点で、既に勝利する事などなかった、という事だ。
「けっこー、納得いく仮説だッたぜシドニア。……なァるほど。オレァ、生き残るのが人類か災いか、そうした状況を作りだせりャ、それで良かッた、ッてワケ」
腑に落ちた、と言わんばかりに頷いたマリルリンデ。そしてシドニアもやはりか、と言わんばかりにため息をつき、しかしこれが無駄な思考である事を後悔する。
「だが――そンなコトを今知ってどうなるッてンだッ!!」
疾く、強く振るわれた二撃の刃を、シドニアは受ける事に成功した。というより、こうなる事は予想がついていた。
シドニアとて理解している。今この場で、そうしたマリルリンデの考えに気付いた所で意味などない。
ひょっとしたらそうした根底にある願いや理想に気付く事で、彼女を妥当する方法が見つかるかもしれないという淡い考えを持って思考を回しただけだ。
「アァ、そう考えれば、オレがお前とリンナに苛立つのも分かるぜ!? なンせ、オレが注目してるハズの、ルワンの子であるオメェ等がなかなか活躍しねェで、クアンタやサーニス、イルメールが活躍してバッカだッたモンなァ!」
「否定は出来ない……僕は自分で自分の力を過小評価し過ぎて卑屈になり、リンナはそもそも自分が蚊帳の外にあると考えていた。そんな僕たちが、貴様の望むような英雄然とした行動など出来る筈も無い……!」
「だが今はオレとオメェがガチで殺り合ッてる状況だぜ!? オメェはオレに殺されかかッてて、そンなどーでもいい事に頭回転させてる余裕があるッてか? 随分舐めてやがンなオメェは……ッ!」
刀に込められた感情は、明らかに怒りだった。
先ほどまでよりも強く感じる圧倒的な暴力、その腕力……というより姫巫女の有する身体能力によって幾度となく振り込まれる刀は、振り込まれる度に勢いを増し、四撃目を受け流した所で、シドニアは突き飛ばされ、木に背中を預けてしまう。
「オラ、食らいやがれ――ッ!!」
木へ背中を預けざるを得なくなった事で、上手く刀を構える事が出来ないシドニアの身体へと、二撃の刃が振り下ろされた。
装甲で覆っていない胸へと刃を叩き込まれるが、しかしゴルタナは装甲で覆っていない部分にも魔術外装としての防御力を有する。
故に斬られた事による痛みは減らす事が出来たが――続けてマリルリンデは振り下ろした刀から手を離し、腰を捻りながら拳を強く振り切った。
振り込まれた拳自体に威力はそう多くあるわけではない。
拳が腹部へと叩き込まれた次の瞬間、何か衝撃波のようなものが腹部から背中へとかけて放出されて、それがゴルタナの外装をすり抜け、シドニアの体内を揺らした。
「ごふぅ……ッ!」
衝撃波は、シドニアが背を預けざるを得なかった木を薙ぎ倒す程の威力を内包していた。
一瞬意識を飛ばしかけていたシドニアだったが、続けてマリルリンデが左足の回し蹴りをシドニアの首元へ向けて叩き込んだ事で、彼は吐血しながら、地面へと身体を倒した。
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