魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十三章

命の限り-05

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展開が解除されてしまうゴルタナ。倒れた手元に落ちた金色のゴルタナを、血反吐を吐きながらも見据えて、手を伸ばすシドニア。

  だが、そうして伸ばされた手を、マリルリンデが力強く踏みつける。


「あ――ぐぅ、っ!」

「オメェの言う通り、オメェは英雄でも、主人公でもねェよ」


 姫巫女として変身を果たし、既に脚力も人並外れている彼女が草履で踏みつける事により、シドニアの指は、辛うじて骨折を免れている状態だ。

  しかし、痛みは足を動かされる度に走り、その度シドニアは苦しそうな呻き声を上げる。


「女に生まれなかった時点で、オメェは姫巫女としての在り方さえ許されねェし、オメェがこれまでやッてきた親殺しとか、ルワンの誘拐とか、そーいうのひッくるめたら、オメェが英雄だ、主人公だ、なンて口が裂けても言えねェ」


 もう片方の手で、マリルリンデの足を掴んで引きはがそうとするが、それも叶わない。先ほど受けた攻撃でゴルタナをすり抜けた内臓へのダメージがあったからなのか、呼吸も僅かに覚束ない。

  視界すら、霞んできた。


「そうなる為に必要な資格は全部あッた。だがオメェは今こうして地べた這いずッて、オレに良いようにされている、ただの負け犬だ……ッ」


 シドニアの手から足を離すマリルリンデ。しかしそれは追撃の為に必要な振り上げでしかない。

  シドニアの頭上目掛けて振り下ろした脚部。

  頭部を強く蹴りつけられた事で脳を揺らした後に顎を地面で強打し――既にシドニアの意識はそこに無い。


「……ホントに、オメェにはガッカリだよ」


 彼の言う通り、マリルリンデはシドニアとリンナに期待していたのかもしれない。

  シドニアやリンナが、物語の主人公然と、災いという脅威に立ち上がり、手を取り、そしてルワンの死を経て大きく成長し、自分を打倒してくれることを。

  かつてルワンが望んだ未来、ルワンの子が幸せを掴み取る為に、必要な行程を、マリルリンデは作りたかったのかもしれない。


  だが――その願いは、何の因果か、望んだマリルリンデ自身が摘み取ってしまった。


  しかしそれを、彼は悲しいとは思えなかった。

  彼の心中にある感情は――【怒り】だ。

   
  **
  
  
  恐らく数分程度だろうか、リンナとガルラによる睨み合いが行われたのは。

  既にリンナの手にはマジカリング・デバイスが握られ、ガルラも左手で添えた刀の鯉口をカチカチと鳴らし、既に臨戦態勢を整え、挑発に入っている。

  しかしそれでも――戦闘はまだ行われていなければ、会話すらない。


「クアンタ」


 そんな時、ようやくリンナが言葉を発した。


「ゴメン。やっぱアタシ、親父とは一人で戦いたい」

「しかし」

「大丈夫。……アタシは多分、豪鬼にも愚母にも、斬鬼にも、マリルリンデにも、勝てない……けど、親父になら、勝てる」


 ギロリと睨むガルラの眼光。しかし、リンナはその目に対して、微笑みで返した。


「親父、もうアンタは、そうやって強がる必要なんかないよ。……アンタはただ、アタシと全力で、戦えばいい」

「……強がりだ? ナマ言ってんじゃねェぞ小娘。オレァ神さまだぜ? そんなオレが、オメェみたいな乳も育ちきってねェ娘を相手に強がるハズねェだろ」

「そう思うなら――アタシを打ち負かせばいい」


 行って、と。

  強く言葉を放つリンナに、クアンタは何か勝機のようなものがあるのだと仮定し――そして父と娘の戦いに、部外者が口を出すべきではないとした考えが織り交ざって、頷いた。


「よし――じゃあ、景気付けにいっちょ、ここで変身しときますか!」

「了解」


 リンナが大きく体の前へ突き出す、マジカリング・デバイス。

  クアンタが胸元から放出し、眼前で構えるマジカリング・デバイス。

  二者はデバイスの電源を押し、同時に画面上へ表示される〈Magicaring Device MODE〉の表記と〈Magicaring Device Priestess・MODE〉の表記。


〈Devicer・ON〉

〈Devicer・ON〉


 両マジカリング・デバイスから奏でられる機械音声も同様。そしてクアンタとリンナは、それぞれが最も適している声色で、音声認識の起動コードを発音する。


「変身」

「変……身ッ!」

〈HENSHIN〉

〈HENSHIN〉


 起動コード入力を確認、クアンタとリンナはデバイスの画面をタップした。

  すると二者を包むそれぞれの光が、ガルラの目を焼く。


  クアンタは赤を基本色とした戦闘用フォームを展開されると、スカートにフリルとリボンが細やかに追加されていく。

 大きく元のクアンタと変わるわけではないが、しかし元々色気も何もあったものではないジャージ姿の彼女が、膝上のスカートを展開した事で、ガルラも少々そちらに目を向けてしまう。


  リンナは元々銀色の髪の毛を黒へ染めるだけでなく、長さを変えていく。元々ベリーショートの髪の毛を腰ほどまでの長さに変化させつつ、後頭部で長丈でまとめた状態だ。

  姫巫女特有の聖道衣に身を包み、大太刀と言ってもよい長さの長太刀・滅鬼を腰に携えた彼女の周囲を、爆風が襲う。


  光と爆風が収まると、二者の姿は既に変化を遂げ終えており、ガルラはそれまで左手の親指で鯉口を鳴らしていただけの刀へ右手をやり、何時でも抜ける居合の型を作る。


「それがオメェ等のヘンシンか。遠目で何度か見た事はあるがこうじっくりとは初めてだな」

「ああ、そうだよ。これがアタシの、そしてクアンタの変身だ」


 一瞬で刃を抜き放つリンナの滅鬼は、ガルラが冷や汗をかく程に長く、鋭く、そして強固であると認識した。

  滅鬼の強度や長さは基本的に、変身者の虚力量に比例する。

  つまり滅鬼は心を映す鏡と言ってもよく――リンナは今、怒りも悲しみも喜びも、全ての感情を虚力にして刃へと注ぎ込んでいるが故に、その刃は何者の邪魔も許さず、叩き切る事の出来る刃となっている。

  全盛期のルワン……否、これまで多くガルラが見て来た姫巫女よりも遥かに強力な姫巫女である事を証明するのに、今の滅鬼を見るだけで十分すぎる。


「アタシは、災滅の魔法少女として、アンタを止めなきゃならない。アンタのバカげた野望、バカげた願いを切り伏せ、皆を守る――それが、アタシの望んだ、違うアタシへの【変身】だ」

「……違う自分に変わらなくても、勝ち取れる幸せってモンもある。オレは、オメェにそうした幸せを辿って欲しかったンだがな」

「それは、エゴと言うものだ。刀匠・ガルラ」


 つい、堪える事が出来なかったと言わんばかりに、クアンタが口を開いた。

  彼女は刀を抜かない。クアンタが戦うべきは愚母であり、ガルラではないから。

  だがしかし、クアンタはガルラへ、言わなければならない。


「貴方が娘にどうした願いを抱くかは、個々の自由だ。しかしそれを押し付けては、ただのエゴでしかない」

「お前さんらフォーリナーは、星々を渡って他所を侵略する。根源化こそが正しく、個々の存在を良しとしねェと、他所への侵略を正当化してやがる。それだってトンデモねェ程のエゴだろ」

「そうだ。私はこの星に来て、この星の真実を知り、私が、フォーリナーが信じていた根源化が、どれだけ恐ろしく、エゴに塗れたものかを知ったんだ。……私はそれを知り、初めて本当の【変身】を果たしたのかもしれない」


 手に持つマジカリング・デバイスへ、一瞬だけ視界を向けたクアンタが「これはただの力でしかない」と、皮肉めいた言葉を呟く。


「最初は私達にとっての変身など、力をまとった姿の事だけでしかなかった。しかし、やがて私たちは、なりたい自分の姿を思い描き、そしてそうなった。……皮肉にも私たちにとって、そうした変身とは、想いを形にする為の力が無ければ、果たせなかった」

「その変身が、その力が、こっから先の未来で、誰かを傷つけるかもしれねェ。それは考えねぇのか?」

「どう足掻いても、意図せず他者を傷つけてしまう事となるのなら、自分の心のままに行動をするべきだ。……これも、この星で私が変わったが故の学びだ」


 これまでのクアンタやリンナは、力をただ力としか認識せず、戦ってきた。

  そうした戦いは、無意味に誰かを傷つける事となる。

  だが力の在り方を、力の存在をしっかりと認識し、人は変わっていく事が出来る。


「私はこの力で、守りたいモノを、守りたい世界を守る魔法少女へと変身できた。お師匠もそうだ。その在り方は、父であろうと誰であろうと、否定は出来ない。――してはならないんだ」


 リンナの背中を、クアンタは軽く押した。

  もうクアンタが言うべきことは無いと、後はリンナの戦いだと言わんばかりに。


「では、私は行く。健闘を祈る」

「うん、いってらっしゃい」


 強く地面を蹴り、ガルラの隣を横切って駆け出していくクアンタを、ガルラは決して追わなかった。

  ただ視線はリンナへと向けられて、リンナもガルラへと、刃を突き付ける。

 互いに足を地面へこする様に動かした、次の瞬間。

  二者は刃を振り切った。


  互いの刃同士が擦れ合い、火花を散らす。しかし刀匠二人にとっては、その程度の火花は見慣れている。


「オレのやろうとしてる事は確かにエゴかもしれんっ」

「そう思い始めたんなら、それが正しい答えなんじゃないの!?」

「ああ、だがエゴで何が悪い。お前がルワンと同じ苦しみを負うくらいなら――オレはこんな悪性に充ちた世界、ブッ壊しても良いッ!」

「それをアタシ自身が望んでなくても!? そりゃあちょっと過保護すぎだっつの父ちゃんっ!」

「過保護にもなってやるさ、可愛い娘守れるなら、ガンコ親父と呼ばれようが何だろうがな……ッ!!」


 体の芯を崩す事の無い、鋭くも速い一撃一撃を、互いに打ち込み合い、結果として全てをはじき返す。

  短期間とは言え、クアンタやサーニスと言った強敵を相手に『基礎だけで渡り合う』練習をしてきたリンナの腕前は、ガルラが驚くほどに繊細な剣裁き。


「腕を上げたな、昔はそんな真面目に剣技学ぼうとしなかったのによッ」

「アタシは必要ならやる娘なんだよ……ッ!」
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