魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十五章

侵略-03

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 リュート山脈を中心としたフォーリナーの侵蝕は、遅々としたものではあったが確かに行われていた。

  その平たい円型に伸ばされた横長の塊から、先端の尖った脚部を幾多にも伸ばし、地面へと突き刺すと、次第にそこから侵蝕が進んでいく。

  最初は地面をゆっくりと金属へと変化させていき、次に地面に繋がる根から木々を巻き込んでいく姿は、まさに侵略としか言いようがない。

  更には円型の塊から、僅かな量の流体金属が、捻られるように小さな塊となり分離して、次々に遠くへと放たれていく様子も見て取れた。


「うっわ、こりゃ酷いね……」


 自身の肉体に操作魔術を付与し、身体をフォーリナーよりも遥か上空へと浮かすカルファスの子機が呟いた言葉。

  彼女は肉眼でしっかりとその様子を捉えて、親機へと視界情報を送信している。


「アルちゃんの言う通り、侵蝕は遅めだけど、このペースだときっちり一日半でイルメール領とアメリア領が完全に同化されちゃう」


 本来ならば、カルファスは先ほどの様に飛ばされていく流体金属の迎撃を行い、警兵隊員や皇国軍人に被害が可能な限り及ばないようにする必要がある。

  しかし――今のカルファスには、というよりカルファスの親機には、それを成すだけの処理能力がない。

  現在、子機の一機がアメリア救出の為に次元移動を行っており、その処理に演算能力を差し引き、さらには他の子機は各地で対フォーリナー対策に動いている。戦闘に回せる余力が無いのだ。


  とはいえ、それはカルファスの都合である。むしろフォーリナーはカルファスの脅威性を認識している。故に――


「っ、やっぱ来ちゃった!」


 カルファスは左手首に装着したリングに二本指を付け、触れる。

  現在彼女の身体を浮かしている操作魔術はカルファスによる操作が行われているが、その操作をリングが代替で行ってくれる迎撃システムを起動。

  次々にカルファスへ向けて、小さな流体金属の塊が射出されていく光景を視界で捉えながら、迎撃システムが稼働する。

  急旋回を行って放たれる砲弾の如き流体金属を避けていくが――しかし、それは砲弾ではない。

  カルファスに対抗する為、空戦機能を取り付けられた、フォーリナーの先兵だ。

  流体金属が簡易的に人間の身体を模しているだけで、誰の容を作っているというわけではないが、しかしそうした存在だからこそ、却って不気味さは増している。


「流石に戦闘能力はクアンタちゃんより低くあって頂戴よ……っ!」


 まるで身体にスラスターでも搭載されているのか、空中でも自由自在に動き回るフォーリナーの先兵、その数は約八体。

  カルファスは追いかけてくる彼らと同等のスピードで空を駆けながら、今王服のポケットから、小さな宝石を五つ取り出した。


「【クンター煌めき】ッ!」


 短く唱えられた詠唱と共に、後方へと投げ放たれる宝石。その光を反射する輝きに充ちた色とりどりの宝石は、詠唱に反応して空を駆けだし、今フォーリナーの先兵たちの身体に次々と埋め込まれていき、内部で四散するように、弾けた。

  宝石の内部にマナを予め貯蔵し、いざという時の予備リソースとして使用する為のものだ。こうしたマナの予備リソースとしては、比較的宝石の様な神秘性を持つものが良いとされている。

  カルファスが使用したのは、その内部リソースをそのまま火力として変換する単純な【変化】魔術だが、貯蔵したマナが多く、十分に威力を発揮できるはずだ。

  爆風と共に、カルファスはそちらへと視線をやり、ホッと一息。


「宝石魔術とか普段全然使わないけど、上手く行った……、っ!?」


 確認するようにスピードを緩めたが――瞬間、爆風の向こう側から、変わらず八体の先兵が、空を駆け抜け、カルファスへと迫る。

  一部の身体個所は破壊できたようだが、それもすぐに再生が行われているように見受けられた。


「やっぱ虚力が伴わなきゃ破壊は無理か――ッ!」


 軌道を変えて急上昇をかけ、何とか接近から逃れようとするも、加速性能はフォーリナーの方が上と感じ取ったカルファスは舌打ちをしながら、カルファス領皇居の警備に備えられていて、一本拝借した脇差を懐から取り出し、鞘を乱雑に抜き放ちながら、自身の身体に急制動をかける。

  急制動をかけたカルファスを追い越して上空へと舞い上がったフォーリナーの先兵たちを視線で追いながら、カルファスはその内の僅かに隊列から外れた一体に向け、脇差を突き付けた。

  突き付けられた瞬間、藻掻く様に身体を動かしていた一体だったが、次第に流体金属を硬く変質させた後、ピシピシと音を立てながら朽ちていく。


「よし、戦力としては、クアンタちゃんより弱い――!」


 共有事項としてまとめた内容を親機に送信しつつ、カルファスは次々に射出されていくフォーリナーの先兵たちに、固唾を飲む。


「こりゃ……子機を何基潰す必要があるかなぁ……っ!」


 戦闘能力はクアンタより劣るが、フォーリナーの戦力はおおよそ八百体前後に及ぶという。

 地上に先兵を多く回さないように、こうしてカルファスが囮になるという方法も無くはないが、そうなると大規模戦闘が不可能なカルファスでは子機を幾つも犠牲にする事も鑑みなければならない。

 その上、カルファスの子機が破損等してしまった場合も、知識や技術がフォーリナーへと渡ってしまう事も避ける為、戦闘不能になった子機は自爆させる必要もある。

 さらに、こちらには、星との同化をせんと企むフォーリナー本体を倒す方法が、今の所見つかっていない。一体一体で勝ったとしても、最終的に星そのものがフォーリナーに同化されてしまえば、それでこの星の文明は終わるのである。


 状況は最悪だが、こちらには人外めいた力が幾つもある。故に、抵抗を最後まで緩める気など、カルファスには毛頭なかった。


「お願いアルちゃん、私たちが時間を稼いでいる間に、何か策を思いついて。じゃないと、カルファス領の財政ヤバイ事になっちゃうよ――ッ!」


 今、数多の宝石がフォーリナーに向けて投げ放たれる。

  その宝石は全て、カルファスの自費ではなく、カルファス領の領土運営経費によって賄われている。

  
  **
  
  
  カルファスが霊子転移にてシドニアとサーニス、ワネットの三人をアメリア領皇居へと送り届けた後の事だ。

  ここからは時間との勝負だと、シドニアはまず自分の身体がどれだけ動くかだけを確かめる為に、その場で軽く身体を動かしたが、激しい戦闘は無理でも簡単な迎撃をこなす程度ならば問題が無い事を確認。


「サーニス、君はどうだい?」

「自分は、問題ありません」


 一目見て、シドニアはサーニスの嘘を見破った。

  サーニスの腹部には裂傷と言うには大きすぎる切り傷があり、少し動いただけで血が溢れている状況だ。ワネットがため息をつきながら傷口に触れると、彼はビクリと震えて汗をダクダクと流したが、しかし耐えるように口を結んだ。


「もっ、……問題、ありません」

「……そうか。その言葉を信じるとしよう」


 アメリア領執務室には、既に黒子たちが集結している。事前にアルハットが手を回していた結果かは分からないが、しかしそうしてピースがすぐ動かせる状況と言うのは、シドニアとしても都合がいい。


「アメリアの影武者はどこに?」

「あ、ここでーす!」


 アメリアと瓜二つの外見をした女性――名をプリストという女性は、歩きにくそうなハイヒールをカツカツと鳴らしながら、シドニアへと近付いた。


「あの、今何が起こってるんですかぁ? わたし、何時までアメリア様の影武者やればいいんですかぁ?」


 プリスト・デビンレットはその外見を整形手術によってアメリアと瓜二つの姿にした女性だ。元々彼女の家系……デビンレット家は皇族家系の影武者を作るという役割に従事している為、プリストも特に疑問を抱く事無く、アメリアの影武者を買って出ている。


「すまない、今は君にも手伝って貰わねばならない」

「あのぉ、事態が良く分かってないんですよぉ、わたし、バカなのでぇ」

「……アメリアと同じ外見と声でそんな事を言われると、脳が混乱するな」


 しかし混乱している時間も惜しい。

  シドニアはアメリア皇居からリュート山脈方面を見据え、肉眼で浮遊するフォーリナーを視認した。確かに、次々と小さな塊が射出されている光景も視えたし、今疾く上空へと舞う、カルファスにも似た女性の姿も見えた。


「プリスト、アレが何か分かるか?」


 プリストにフォーリナーを見せる様に指を向けると、彼女はポカンとした表情で白銀の塊を見据えて「うわぁー、綺麗ですねェ」と感想を述べたが、シドニアが聞きたい事はそういう事ではない。


「え、わかんないですぅ。わたし、バカなのでぇ」

「……アレは、外宇宙から現れた侵略生命体だ。この星そのものを飲み込むつもりらしい」

「えぇ~、ヤバいじゃないですかぁ。わたし、逃げられますぅ?」

「逃げるのは領民の避難が終わった後だ。君には領民への避難指示をして欲しい」


 既にワネットが黒子たちへの報告を既に終わらせていたようで、黒子たちは小さなメモ用紙のような紙をプリストに渡し、彼女もそれを見据える。


「ワネット」

「はい。アメリア領に現在配備されている刀の数は、皇居防衛に回されていた十五本がここに。そして皇国軍アメリア領支部に、十本程残された刀があるようですね」


 全体的な数としては少なめだが、元々五災刃はガルラの指示でリンナの刀を排除する為に動いていた。結果として刀の本数が少ないのは想定内だ。


「皇居防衛に回されている刀の二本を私に、一本は君が使いなさい」


 そう指示される事が分かっていたかのように、黒子たちはすぐに打刀を二本用意し、シドニアへと献上。

  そしてもう一本、ワネットは彼女自身の希望で脇差を受け取り、懐に備えるように仕舞い込んだ。


「サーニス、君も一本だ。そしてプリストの護衛を頼みたい」

「かしこまりました!」


 サーニスも打刀を一本受け取り、備えた所で、プリストが彼の近くへと駆け寄った。


「えーっと、サーニスさんですよねぇ? 一緒にお仕事ってした事ないなぁ。うふふ、よろしくお願いしますぅ」

「脳が混乱する……!」


 アメリアが自分に向けて満面の笑みを向ける筈が無いと理解している筈なのに、目の前のプリストは「うふふ」等と言って柔らかな笑みを浮かべてサーニスに近づき、あまつさえ手を握ってくるのだ。アメリアと同じ声で。同じ姿で。混乱するに決まってる。


「プリストは皇居から領営警報設備を使って、全領民への避難指示と共に、警兵隊員や皇国軍人への集合指示を出してくれ。サーニスはその護衛だ」

「あ、わかりましたぁ~。サーニスさん、護衛お願いしますねぇ~」

「……よ、よろしく」


 未だにプリストに混乱しているサーニスだったが、しかし慣れてもらうしかないと、シドニアは次にワネットへと視線をやる。


「ワネットは私と来てくれ」

「かしこまりました」


 短かな返答は現状のシドニアを最も安心させてくれる。彼は皇居のエントランスへと向かいながら、ついてくる黒子たちに指示をしていく。


「各黒子たちは各市へと向かい、市民の避難誘導といざという時の戦闘を頼みたい。基本的にフォーリナーとの戦闘は刀を装備した戦闘員によって行う事を徹底しろ!」


 指示に頷き、颯爽と消えていく黒子たちにも安心感がある。シドニアは皇居の端にある馬小屋へと向かい、足の速い馬に手綱を取りつけ、ワネットへ先に乗馬させる。

 しかしシドニアには、その後ろに掛ける前に、一つ彼女へ尋ねる事がある。


「ワネット、君の意見を一つ伺いたい」

「はい、何でございましょうか?」

「カルファスは、アレで全力か?」

「いいえ。全力には程遠いですね。いくら別の子機が各領で動いているとは言え、簡単な宝石魔術と操作魔術で手一杯になる程、カルファス様は人じゃありません」

「仮にも人の姉に向けて、酷い言い様だな」

「シドニア様もカルファス様の人外めいた力はご存じでしょう?」

「まぁ、そうだが」
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