魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
267 / 285
第二十五章

侵略-09

しおりを挟む
 フォーリナーの侵攻は、アメリア領首都・ファーフェにのみ集中しているわけではない。

  イルメール領にもフォーリナーの侵攻は及び、その対応に追われている――かと思われていたが、実際には違う。

 イルメール領首都・ラルタの広場に、多くのフォーリナーが現れ、市民が避難を続ける中で、皇国軍の配備に最も力を入れているイルメール領皇国軍人たちが刀を手に、フォーリナーとの戦いに明け暮れていた。


「オラオラオラァンッ!! イルメール様がいねェンだぞッ!! キリキリ働き一体でも敵をブチ殺せクソムシ共がァ!!」


 そんな現場の中で、一本の刀を掲げながら叫び、今フォーリナーの一体に刀を突き刺した、筋肉質の女性がいる。

 髪色は黒だが耳元までしか伸びていないボーイッシュさを感じさせる。イルメール程ではないが、しっかりと身体に付けられた筋肉も印象強い。美人ではあるが、その叫び散らす声と合わせて放たれる罵声が、彼女を屈強な存在であると示している。

  彼女の名はウェスティン・デ・ラルク。長く優秀な皇国軍人を輩出している軍人家系の娘で、彼女も遺伝子に後押しされた屈強な肉体と合わせ、イルメールに教育された戦闘技術を用いて、皇国軍イルメール領政府護衛直轄部隊のエースとして活躍している。

  現在はカルファスの指示で現場を指揮する役割を担っている筈なのだが……現場で思い切り戦う姿は、まさに脳筋と言えるだろう。


「いいかテメェ等! フォーリナーっつー奴らは人間を取り込むらしい! 取り込まれると相手に寝返るらしいから、取り込まれたら親兄弟だろうと殺せェッ! 分かったかァ!?」

『オォッスッ!!』

「おっしゃ突撃ィ――ッ!!」


 突撃と命じたウェスティンが真っ先に敵陣のただ中に駆け出していく様子を、少し遠くで見ていたドルチェ・ド・ラルク……ウェスティンの兄であり、同じくイルメール領政府護衛直轄部隊の隊長が、ため息をついた。


「昔はもっと大人しい子だったんだが……」


 嘆くドルチェが頭を抱えていると、そんな彼の背を物凄い勢いで強く叩く、女性の姿が。


「オォ、ウェスティンのヤツ、やってやがるな」

「、イルメール様」


 女性は、何時帰還したのか分からぬが、イルメールである。敬礼をしつつ、簡易的に状況を尋ねる。


「災いとの戦いが終わったというのは、本当なのですか?」

「あぁ。あー、後オレ、死んで神さまになっちゃったもんで、もうオレはオメェ等の指揮出来ねェから。頑張ってウェスティンの手綱よろしくな」

「はぁッ!?」


 イルメールがなにを言っているのか分からず、声を上げて驚いてしまったドルチェと、そんな兄の姿を見据えて一直線に後退し、兄の頭をぶん殴るウェスティン。


「バカ兄貴! アンタも現場で戦うんだよォッ!」

「ウェスティン、お前はもうちょっと冷静になりなさい……」

「あ、イルメール様じゃないっすか! チッス!」

「オッス、ウェスティン。オメェも元気そうじゃねェか」

「えへへー、アタシってば元気だけが取り柄っすからね!」

「聞け……」


 いきなり妄言を吐き出したイルメールと、大暴れしながら皇族に対する言葉遣いを全然考えもしていないウェスティンに囲まれて胃が痛そうなドルチェ。

  そんな三人の上空から襲い掛かろうとする、空戦型のフォーリナーだったが――しかし三者の振るった刀が上空から迫るフォーリナーへ一閃。一体ずつ切り裂いた事で、全て地に落ちた。


「ドルチェも最近訓練で見てなかったケド、腕は鈍っちゃいねェな」

「……ええ、まぁ、自主訓練は欠かさずに行っております」

「アタシが毎日訓練誘っても仕事仕事で全然来ないんすよぉー。イルメール様、兄貴に『メッ』て言ってやってくださいよーっ」

「サーニスさんと同様に、オレも訓練だけが仕事じゃないんだ……主にお前やイルメール様の仕出かした事の後始末とか……!」


 そう軽やかに会話を続けていく三人だったが、しかしその間、何もしていないわけではない。

  むしろ彼女達三人が刀を振るう度に、フォーリナーの先兵たちは次々に体を砕け散らせていき、次第に三人を多く狙うようになっていく。


「ウェスティン、ドルチェにも言っといたけど、オレ神さまになっちまったから、後のイルメール領よろしくな」

「え、イルメール様ってば神さまになっちまったンすか!? ウォーっ! スゲェ、カッケーッ!!」

「いや神さまって何なのですかイルメール様、そしてウェスティンは何故それを簡単に受け入れている……?」


 次々に地へ伏せ、砕け散っていくフォーリナーを踏み潰しながら、進軍していく三者に、多くの皇国軍人達が続いていく。



  そんなイルメール領皇居の屋上に、四基のカルファスが整列していた。その背には重々しい機械のようなものがあり、その装備を確認する四基の内一人が号令を出す。


「空戦装備搭載カルファス、各員装備チェック開始!」

「二番基問題無し!」

「三番基問題無い!」

「四番基お菓子食べたい」

「おっしゃ発進だよーッ!」


 同じ顔、同じ体、同じ声のカルファスが四人並び、それぞれが背負った空戦用スラスターを急速に吹かしながら、上空へと飛び上がっていく。

  その腰に携えた刀を抜き放ちながら、空を駆ける空戦フォーリナーを切り裂いていく四基と、それまで一人で戦う事を余儀なくされていた、展開していたゴルタナが半壊状態のカルファスも合流。


「親機の処理キャパシティ、もう空いてる!?」


 空戦用フォーリナーがその外観を戦闘機形態に変化させていこうとする前に、空戦装備搭載のカルファス一番基が、指先から光弾を放った。マナを収縮して発射する簡易的な弾丸だが、動きを止めるには十分だ。

  一瞬だけ動きが止まった空戦フォーリナーに、一閃の刃を叩き込む二番基。

  三番基、四番基とそれぞれが交戦状態に突入した事で、それまで戦闘に明け暮れていたカルファスがホッと息をついた。


「空いたよー、残り全三十四基のカルファス、全力で応戦しろってさ。空戦用も順次発進するから、アンタも空戦用に換装お願い!」

「分かった。……アメちゃんも無事だったかぁ……良かったぁ」

「データリンクして情報共有しといてね。地球の服でメッチャ可愛いの持って帰ってきてるし、後でリンナちゃんとかクアンタちゃんにも着せるんだから!」

「え、マジで!? データリンク開始……っ」


 と、そうしていると、四基のカルファスから逃れて、カルファス領及びシドニア領方面へと向けて、空戦フォーリナーが駆け出そうとしている光景を目の当たりにしたカルファス達は、一斉にその一機を追いかけようとするが――


 しかし、そこで不意に、フォーリナーは動きを止めた。


「――まさかっ」


 動きが止まった瞬間、何者かが上空からフォーリナーを強く蹴りつけた。

  蹴りつけられたフォーリナーは背中からピシピシと固まっていき、次第に形を崩れさせて、朽ちていく。



「全く……せっかく、人に紛れて生活しようと思ってた時に……気が重い!」



 四基のカルファスへと迫る、五機の空戦フォーリナー。

  しかし、その者が腕を振るうと、一斉にフォーリナーは動きを止め、カルファス各基が動きを止めたフォーリナーに刀で斬り付け、トドメを刺していく。


「豪鬼君……!?」

「よう、カルファス。……同じ顔が並んでると、やっぱ気持ち悪いな……」


 五災刃の一刃であり、名有りの災い・豪鬼。

  上空に浮き上がりながら、大本より射出されるフォーリナーに、次々と重力操作を行っていき、その動きを留めていく。


「……協力、してくれるの?」

「ああ。まぁ、コイツ等の残骸があるおかげで、虚力も補給できたから、ちょっと気は乗らないけどな」


 固まり砕けたフォーリナーの残骸、それを手に取った豪鬼は、固まりを口にして、噛み砕いた。

  フォーリナーの残骸には、流体金属を形作っていた虚力が残留しているらしく、それを食する事で、災いである彼も、対イルメール戦で消耗した虚力を補給したらしい。


「ただ……人間と共存する為には、コイツ等に侵略される事の方が、気が重いし、手伝ってやるよ」

「……イル姉さまを殺したの、アタシは納得してないよ?」

「そんな事言ったら、オレは暗鬼や斬鬼を殺した、シドニアやサーニスにも恨みがある。……でも、そういうのも、気が重いだろ?」


 豪鬼が動きを止める空戦フォーリナーと、カルファス各基による争いの中で、二者は顔を伏せた。


  ――そう、互いに大切な者を失い、互いに恨みはある。


  けれど、そうした恨みだけで戦う事は――カルファスにとっても、気が重い。


「喧嘩だったら、後で買ってやる。だから、今は人間を、世界を、守らないとな」

「……うん、そうだね」


 ニッコリと笑ったカルファスが、その手に持つ宝石を放り投げ、迫り来ていたフォーリナーを貫いていく。

  動きを止めたフォーリナーを殴りつけ、破壊した豪鬼が見据える先は――アルハット領方面である。
  
  
  **
  
  
  アルハット領上空を駆け抜ける、一人の少女がいる。

  薄緑のフォーム衣装を着て、その背から太陽光に反射して輝きを見せる翼で飛ぶ錬成の魔法少女・アルハットは、逃げ惑う領民たちの行方を見据えながら、空戦フォーリナーとの交戦を行っている。


「フォームチェンジ」


 左腕にエクステンデッド・ブーストを顕現させ、マジカリング・デバイスを刺し込む。指紋センサーに触れた後にアタッチメントを回転させ、エクステンデッド・フォームへと変身をし直した。

 アルハットの貯蔵虚力量は多くない。今はリンナの刀でフォーリナーを斬る事で対処していたが、これからは空戦フォーリナー及び地表へと打ち込まれる各種フォーリナーに対抗する為、少ない虚力量でもマナによる延長機能が期待できるエクステンデッド・フォームが最適だ。


  だが――問題はアルハット領の地上だ。


  アルハット領は、その皇居周りも含め、バリス火山噴火があった事により、警兵隊及び皇国軍は災害救助部隊が主となってしまっていて、現場における戦闘を行える者が少ない。

  幸いフォーリナーは戦略を変更したようで、現状脅威度の高いサーニスやシドニア、イルメールやカルファス、さらにはリンナやアルハットを狙っているようだが、少ない数とは言え、アルハット領にもフォーリナーは射出されている。


「チッ……【アンリミテッド・コード】ッ!」


 唱えたのは、地球における熱線魔術だ。炎熱の魔技師と呼ばれる魔術師の使用する魔術で、操作魔術と変化魔術を組み合わせる事により、幾多の熱線が射出されるという仕組みになる攻撃魔術。それがアルハットの背部にある羽から熱量を供給され、次々に射出される。

  空を駆けるフォーリナーを貫いていき、貫かれた者達は次第に形を崩壊させて、砕けていく。

  アンリミテッド・コードの熱線を構成するマナに、虚力を微弱ながら含んだ事により、落とす事が可能であると判断したアルハットは、そのまま熱線を放ち続けていく。

  だがいくら源の泉が持つ高純度のマナを惜しみなく使えるとは言え、アルハットの魔術回路が処理できるのは一度に十二本、そして一射する事に、最低二十秒の冷却時間が必要となる。


「、っ! しまっ――」


 その隙を縫うように、一機の空戦フォーリナーが、バルトー国に向けて駆け出していく。

  バルトー国には当然、刀の配備などは無い。しかもバリス火山噴火によって国内情勢が安定していない状況では、一人でもフォーリナーによる侵蝕を受けてしまえば、ねずみ算式にフォーリナーの浸食が行われてしまう危険性もある。


  そう考えた、次の瞬間。


  バルトー国国境線に建造された国境を隔てる壁を蹴り付け、一人の少女が上空を、跳んだ。

  少女はその肉体に炎を纏わせ、その炎をまとわせた拳を、空戦フォーリナーに向けて、叩き込む。



「可愛い妹を、ナルを、フォーリナーなんぞにやるかってェのォ――ッ!!」

「餓鬼……ッ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ
ファンタジー
 偉大なる魔女の守護者、それが騎士。  大勢の若者たちがその英雄譚に魅了され、その道へと歩み始めていた。  だけど俺、志季春護は騎士を目指しながらも他とは少し違かった。  大勢を護るために戦うのではなく、残された二人の家族を護るために剣を振るう。  妹の夏実と姉の冬華。二人を護るために春護は努力を続けていた。  だけど……二人とも失ってしまった。  死の淵を彷徨った俺は一人の少女と出会い、怪しげな彼女と契約を交わしたんだ。  契約によって得た新たな力を使い俺は進む。騎士の相棒である水花と共に。  好意的だけど底の知れないナニカの助力を受け、少年は強さを求める。  家族の仇を取るために、魔族を討滅するために。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...