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最終章
クアンタとリンナ-09
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「オレはこれを食ったって言ったけど、その喰い方ってのは、こうなんだ」
豪鬼が手を餓鬼へ向けると、彼女も懐から残骸を取り出して、それを口にした。
しかしそれを噛み砕くと――餓鬼の身体をすり抜けて、胸元辺りから流体金属の残骸が排出される。
「排便とは違うけど、基本的に虚力がまとわれてるものなら、オレ達は一度口にして、虚力を抜き取ってから、排出する。愚母なんかは食したモノをそのまま取り込めるけど、オレ達は無理だな」
「別に普通の食事も出来るけどね。……アタシなんかは、その分ナルに食べさせてるよ。いっぱい食べて、大きくなって欲しいし」
皆と視線を合わせぬ餓鬼が、僅かに顔を赤くして発した言葉が、今の彼女を物語っているだろう。
「で、試すわけにはいかないけど……オレ達みたいに途中で排出できない人間がコレを食った場合、どうなると思う?」
そう、アメリアの言っていた「仮説」とは、コレだ。
「フォーリナーは元々、あらゆる物質と同化して流体金属へと変質させていく侵略が可能だ。それには虚力が必要だが――人間には大なり小なり虚力が存在し、この残骸には虚力の自己増殖能力があると仮定すれば……」
「食した人間の持つ虚力が動力となり、フォーリナーと同化、擬似的なフォーリナーとなる、という事か?」
「意識が完全にフォーリナーとなるのか、人間の意識を有したままフォーリナーの機能を有するのか、それは不明だが、可能性はある」
もしこの仮定を正しいとした場合、本日リンナが打ち倒したフォーリナーは、人間が残骸を取り込んで、フォーリナー化した姿の可能性もある。
何分感情を強く感じたわけではないので感情の中身が分からず、事故的な要因でそうなったのか、その者がそう願ったのかは不明だが、しかしそれならば、フォーリナーと相対した時に感情を察する事が出来た理由にも説明がつく。
「その仮定が正しいにせよ何にせよ、もしフォーリナーの残骸を違法に回収しているとなれば、放置出来ん。……姉上、その銀の根源主、どこを拠点として活動しているか、等の調査は」
「そこも、少し問題でな」
ため息をついたアメリアが、ワネットに手を伸ばして書類を受け取る。
その書類をシドニアが読むと、彼も確かにと頷いた。
「……シドニア領貧困街、ですか」
「あくまで恐らく……じゃがの。シドニア領貧困街出身の者が多く信者となり、その者たちから繋がって、他の領の者にも伝播しとると思われる」
「政治的にも難しい立ち位置、というわけか。通りで違法性の高いカルト宗教団体が野ざらしにされているわけだ」
と、そこでリンナは首を傾げ、手を上げた。
「あのぉ、シドニア領貧困街って……ウチの坂を昇ってった所にある、あそこ?」
「ああ。とは言っても、あそこも一角に過ぎないが」
リンナの言葉を受け、シドニアは書類を机に置いた。
上空からの写真、それは恐らくカルファス作成の監視魔導機による撮影だろう。
リンナも出向いた事が無いので詳しくは知らなかったが、貧困街はリンナ宅から坂を登っていった場所から、首都・ミルガスの大きさとほぼ変わらない程に、広大な土地が用いられている。
「シドニア領貧困街は、三か月前まではただの貧困街と言っても良かった。地価が安く、あくまで低所得者層が一時的に住まう場所として利用し、職を見つけた者から脱していく場所。……まぁそれは建前で、ほとんど中に入ってしまえば、違法な仕事に在り付き、貧困街から抜け出す者はそうそういない」
「主な仕事としては風俗、薬物流通、後は一部金持ちの荒事担当じゃな」
「あー……」
そこでリンナも思い出した。かつてひと悶着あったヴァルブ・フォン・リエルティックが引き連れ、クアンタに叩き潰されていた私兵も、元々はシドニア領貧困街の人間であった。
「だが、三ヶ月前のフォーリナー侵攻事件から、シドニア領貧困街は、シドニア領からの独立を果たしたと言っても良い」
「独立?」
「簡単に言えば、三ヶ月以上前まで、元々違法性の高い商売を多くしている場所だったから、貧困街の人間が皇国軍人や警兵隊の人間を入れようとしてこなかった。デモ活動や抗議活動が活発化し、シドニア領政府も警兵組織も、国防省も兵を撤退せざるを得なかったんだ」
この動きはシドニア領の貧困街だけでなく、アルハット領貧困街にもあった動きだが、アルハット領貧困街は以前餓鬼の起こした大火災によってほぼ全焼し、何の因果か現在は存在しない。
「そうした背景から、フォーリナー侵攻時にも警兵隊や皇国軍人も、あそこの防衛には出向けなかった。たまたま侵攻したフォーリナーの数が少なかった事に合わせ、アルハットのアンリミテッド・コードによって焼き払う事が出来たのが幸いだったが」
「それにより、貧困街の者から不満が続出しての。――結果としてこの男が、貧困街の者共を取りまとめ、シドニア領からの自治独立を宣言した」
アメリアが立ち上がり、棚から一つのファイルを取り出した。
ファイルを開き、指で示された場所には、一人の男が映っている。
黒髪と、頭髪に付けられた幾つかの装飾品が目を引くが――リンナには、その鋭く厳つい目が、少し恐ろしく感じた。
「ガンダルフ・ラウンズ、元皇族に連なる家系の子息じゃ」
「皇族関係の人が、貧困街のリーダーやってるって事ですか?」
「ガンダルフは少し特殊でね……私の政策による被害者と言っても良い」
ガンダルフ・ラウンズ……というよりガンダルフの父親であるシルヴァ・ラウンズは、元々ヴィンセント・ヴ・レアルタの部下だった。
そしてシドニアは、十七歳の誕生祭時、ヴィンセントを殺害、さらにヴィンセントの部下であったシルヴァ・ラウンズも含め、多くの人間を磔にし、罰した。
ガンダルフは、そうして磔にされたシルヴァの子であるとして領民から排斥され、貧困街へと身を隠す他無かった、という事だ。
「ガンダルフ本人も当時は皇国政府の監察官……いわゆる政治的不正を監視する部署に務めていた。私が彼が罰しなかったのは、彼が真面目に仕事へ取り組んでいたからだね」
「じゃが、シドニアの意図を知らず、領民は『シルヴァの子だ』という事だけで、ヤツを排斥してしまった、という訳じゃな」
「そういう過去があるからこそ、ガンダルフは皇国政府の表も裏も知っているし、法律も知り尽くしている。自治独立も、あくまでシドニア領からの脱却と言うだけならば、法的に問題ない。つまり、貧困街は既にレアルタ皇国ガンダルフ領……とでも言えばいいか」
「元々皇族によって排斥された者、という過去があるからこそ、貧困街の者共もガンダルフを支持する。ガンダルフはシドニア領からの脱却を果たせ地位も手にする事が出来る。win-winの関係、というワケじゃな」
そうした背景があるからこそ、公的機関が何の証拠も無しに貧困街を調査する事は難しい。
故にシドニアも頭を抱えるほかない、というワケだ。
「と、言う所で本題じゃ」
アメリアが手を叩きながら、皆の視線を集める。
「何故この場に、豪鬼と餓鬼を呼んだか、というとじゃなぁ」
「……既に調べてある」
「マジでアメリアってば災い使い荒い……」
深く、深くため息をついた豪鬼と餓鬼。二者の反応に、アメリア以外は苦笑する他無かった。
「いや何、こういう時は何時も黒子共を変装させて侵入させるんじゃが、何分ガンダルフには吾輩の黒子共も顔が割れている可能性もある故なぁ。影化して侵入できる災いが何より隠密向きというワケじゃ」
「もー、報酬は弾んで貰うんだからね? ナルに勉強させるために、教師付けようとしてんだから」
パサリ、と置かれた紙束。そこにはいくつかの写真が添付されていて、シドニア達は目を通していく。
「とは言っても、証拠と言う証拠は無いに等しかった。あくまで貧困街の調査だけだな」
「ただ、気になる所が一つあってね」
貧困街の外れ、リンナ宅からそう離れていない位置に、今は使われていない廃工場のようなものを映した写真が。
「元々は鋳造所だったみたいなんだけど、今は撤退してて本来はもぬけの殻……のハズなのに」
「人が出入りしている形跡があった。調べてみたが、形跡は真新しいもので昨日のものから、古くて二ヶ月ほど前と推察できる」
「何かが行われてるとしたらここ……というワケか」
もし公的に調査を行うとしたら、人材と人件費の捻出、それに加え時間が発生する。
その間にもし、仮定が正しくてフォーリナー化する民が多く出現してしまった場合――リンナや今の対フォーリナー隊では対処が出来ない状況になってしまう可能性も否定できない。早々に動く必要がある、というわけでもある。
「サーニス、一番隊で動ける人材は?」
「申し訳ありません。現在は隊の人間を割ける程、人的余裕はありません」
「まぁ、そうだな」
シドニアも聞いてみただけだ。何分フォーリナー対策は現在仮法案をそのまま適用しているような状況だ。リンナの手助けすら咎める事が出来ないような立場の隊に、これ以上仕事を押し付けるわけにはいかない。
「……ですが、自分が動く分には、残業代さえ頂ければ構いません」
冗談を交えて、サーニスがシドニアへ笑いながらそう言うと、シドニアもクククと笑いながら、彼の肩を軽く小突いた。
「本当に、何時も助かっているよ。サーニス」
「いえ、自分とシドニア様の仲ですから」
「アタシも手伝います!」
立ち上がり、手を上げたリンナ。
彼女の言葉に、シドニアもアメリアも息を吐きつつ、やはりなと言わんばかりの表情を浮かべる。
「だと思ったよ。我が妹らしい」
「まぁ、それを期待してリンナに声をかけたと言っても過言じゃないでの。……ワネット」
「ええ」
アメリアの言葉に、ワネットも頷き、サーニスとリンナの手を握る。
「わたくしも今回の調査に加わります」
「だが、ワネットはアメリア様の護衛が」
「何の為に吾輩がシドニア皇居に来たと思うとるんじゃ? 安全の為じゃ」
「……姉上の護衛は、弟であり皇帝の私がする、という事だ」
何とも不思議な感覚だ、と笑うシドニアに釣られ、サーニスもワネットも、リンナも笑みを浮かべた。
何にせよ、これからリンナとサーニス、ワネットがしなければならない事は、大きく分けて三つ。
一つは貧困街での【銀の根源主】が活動している証拠を収める事。
一つは貧困街にてフォーリナーの残骸が取引されている、もしくは横流しが行われている証拠を収める事。
残る一つは、可能ならば上記二つを行った上で【銀の根源主】を率いている者を捕らえる事。
どれか一つだけでも行う事が出来れば良いし、可能ならば三つ全てが出来れば上出来だとして、ワネットは霊子端末を取り出し、豪鬼と餓鬼に視線を送る。
「シドニア様とアメリア様の護衛、任せましたわよ。お二人とも」
「まだ酷使する気かオレ等を……」
「ホントもォー……報酬期待してるからね……」
ぐったりとソファに倒れる二者に礼を言いながら、三人は霊子転移を行う。
転移先は、先ほど写真にあった鋳造工場の裏手――その裏山である。
豪鬼が手を餓鬼へ向けると、彼女も懐から残骸を取り出して、それを口にした。
しかしそれを噛み砕くと――餓鬼の身体をすり抜けて、胸元辺りから流体金属の残骸が排出される。
「排便とは違うけど、基本的に虚力がまとわれてるものなら、オレ達は一度口にして、虚力を抜き取ってから、排出する。愚母なんかは食したモノをそのまま取り込めるけど、オレ達は無理だな」
「別に普通の食事も出来るけどね。……アタシなんかは、その分ナルに食べさせてるよ。いっぱい食べて、大きくなって欲しいし」
皆と視線を合わせぬ餓鬼が、僅かに顔を赤くして発した言葉が、今の彼女を物語っているだろう。
「で、試すわけにはいかないけど……オレ達みたいに途中で排出できない人間がコレを食った場合、どうなると思う?」
そう、アメリアの言っていた「仮説」とは、コレだ。
「フォーリナーは元々、あらゆる物質と同化して流体金属へと変質させていく侵略が可能だ。それには虚力が必要だが――人間には大なり小なり虚力が存在し、この残骸には虚力の自己増殖能力があると仮定すれば……」
「食した人間の持つ虚力が動力となり、フォーリナーと同化、擬似的なフォーリナーとなる、という事か?」
「意識が完全にフォーリナーとなるのか、人間の意識を有したままフォーリナーの機能を有するのか、それは不明だが、可能性はある」
もしこの仮定を正しいとした場合、本日リンナが打ち倒したフォーリナーは、人間が残骸を取り込んで、フォーリナー化した姿の可能性もある。
何分感情を強く感じたわけではないので感情の中身が分からず、事故的な要因でそうなったのか、その者がそう願ったのかは不明だが、しかしそれならば、フォーリナーと相対した時に感情を察する事が出来た理由にも説明がつく。
「その仮定が正しいにせよ何にせよ、もしフォーリナーの残骸を違法に回収しているとなれば、放置出来ん。……姉上、その銀の根源主、どこを拠点として活動しているか、等の調査は」
「そこも、少し問題でな」
ため息をついたアメリアが、ワネットに手を伸ばして書類を受け取る。
その書類をシドニアが読むと、彼も確かにと頷いた。
「……シドニア領貧困街、ですか」
「あくまで恐らく……じゃがの。シドニア領貧困街出身の者が多く信者となり、その者たちから繋がって、他の領の者にも伝播しとると思われる」
「政治的にも難しい立ち位置、というわけか。通りで違法性の高いカルト宗教団体が野ざらしにされているわけだ」
と、そこでリンナは首を傾げ、手を上げた。
「あのぉ、シドニア領貧困街って……ウチの坂を昇ってった所にある、あそこ?」
「ああ。とは言っても、あそこも一角に過ぎないが」
リンナの言葉を受け、シドニアは書類を机に置いた。
上空からの写真、それは恐らくカルファス作成の監視魔導機による撮影だろう。
リンナも出向いた事が無いので詳しくは知らなかったが、貧困街はリンナ宅から坂を登っていった場所から、首都・ミルガスの大きさとほぼ変わらない程に、広大な土地が用いられている。
「シドニア領貧困街は、三か月前まではただの貧困街と言っても良かった。地価が安く、あくまで低所得者層が一時的に住まう場所として利用し、職を見つけた者から脱していく場所。……まぁそれは建前で、ほとんど中に入ってしまえば、違法な仕事に在り付き、貧困街から抜け出す者はそうそういない」
「主な仕事としては風俗、薬物流通、後は一部金持ちの荒事担当じゃな」
「あー……」
そこでリンナも思い出した。かつてひと悶着あったヴァルブ・フォン・リエルティックが引き連れ、クアンタに叩き潰されていた私兵も、元々はシドニア領貧困街の人間であった。
「だが、三ヶ月前のフォーリナー侵攻事件から、シドニア領貧困街は、シドニア領からの独立を果たしたと言っても良い」
「独立?」
「簡単に言えば、三ヶ月以上前まで、元々違法性の高い商売を多くしている場所だったから、貧困街の人間が皇国軍人や警兵隊の人間を入れようとしてこなかった。デモ活動や抗議活動が活発化し、シドニア領政府も警兵組織も、国防省も兵を撤退せざるを得なかったんだ」
この動きはシドニア領の貧困街だけでなく、アルハット領貧困街にもあった動きだが、アルハット領貧困街は以前餓鬼の起こした大火災によってほぼ全焼し、何の因果か現在は存在しない。
「そうした背景から、フォーリナー侵攻時にも警兵隊や皇国軍人も、あそこの防衛には出向けなかった。たまたま侵攻したフォーリナーの数が少なかった事に合わせ、アルハットのアンリミテッド・コードによって焼き払う事が出来たのが幸いだったが」
「それにより、貧困街の者から不満が続出しての。――結果としてこの男が、貧困街の者共を取りまとめ、シドニア領からの自治独立を宣言した」
アメリアが立ち上がり、棚から一つのファイルを取り出した。
ファイルを開き、指で示された場所には、一人の男が映っている。
黒髪と、頭髪に付けられた幾つかの装飾品が目を引くが――リンナには、その鋭く厳つい目が、少し恐ろしく感じた。
「ガンダルフ・ラウンズ、元皇族に連なる家系の子息じゃ」
「皇族関係の人が、貧困街のリーダーやってるって事ですか?」
「ガンダルフは少し特殊でね……私の政策による被害者と言っても良い」
ガンダルフ・ラウンズ……というよりガンダルフの父親であるシルヴァ・ラウンズは、元々ヴィンセント・ヴ・レアルタの部下だった。
そしてシドニアは、十七歳の誕生祭時、ヴィンセントを殺害、さらにヴィンセントの部下であったシルヴァ・ラウンズも含め、多くの人間を磔にし、罰した。
ガンダルフは、そうして磔にされたシルヴァの子であるとして領民から排斥され、貧困街へと身を隠す他無かった、という事だ。
「ガンダルフ本人も当時は皇国政府の監察官……いわゆる政治的不正を監視する部署に務めていた。私が彼が罰しなかったのは、彼が真面目に仕事へ取り組んでいたからだね」
「じゃが、シドニアの意図を知らず、領民は『シルヴァの子だ』という事だけで、ヤツを排斥してしまった、という訳じゃな」
「そういう過去があるからこそ、ガンダルフは皇国政府の表も裏も知っているし、法律も知り尽くしている。自治独立も、あくまでシドニア領からの脱却と言うだけならば、法的に問題ない。つまり、貧困街は既にレアルタ皇国ガンダルフ領……とでも言えばいいか」
「元々皇族によって排斥された者、という過去があるからこそ、貧困街の者共もガンダルフを支持する。ガンダルフはシドニア領からの脱却を果たせ地位も手にする事が出来る。win-winの関係、というワケじゃな」
そうした背景があるからこそ、公的機関が何の証拠も無しに貧困街を調査する事は難しい。
故にシドニアも頭を抱えるほかない、というワケだ。
「と、言う所で本題じゃ」
アメリアが手を叩きながら、皆の視線を集める。
「何故この場に、豪鬼と餓鬼を呼んだか、というとじゃなぁ」
「……既に調べてある」
「マジでアメリアってば災い使い荒い……」
深く、深くため息をついた豪鬼と餓鬼。二者の反応に、アメリア以外は苦笑する他無かった。
「いや何、こういう時は何時も黒子共を変装させて侵入させるんじゃが、何分ガンダルフには吾輩の黒子共も顔が割れている可能性もある故なぁ。影化して侵入できる災いが何より隠密向きというワケじゃ」
「もー、報酬は弾んで貰うんだからね? ナルに勉強させるために、教師付けようとしてんだから」
パサリ、と置かれた紙束。そこにはいくつかの写真が添付されていて、シドニア達は目を通していく。
「とは言っても、証拠と言う証拠は無いに等しかった。あくまで貧困街の調査だけだな」
「ただ、気になる所が一つあってね」
貧困街の外れ、リンナ宅からそう離れていない位置に、今は使われていない廃工場のようなものを映した写真が。
「元々は鋳造所だったみたいなんだけど、今は撤退してて本来はもぬけの殻……のハズなのに」
「人が出入りしている形跡があった。調べてみたが、形跡は真新しいもので昨日のものから、古くて二ヶ月ほど前と推察できる」
「何かが行われてるとしたらここ……というワケか」
もし公的に調査を行うとしたら、人材と人件費の捻出、それに加え時間が発生する。
その間にもし、仮定が正しくてフォーリナー化する民が多く出現してしまった場合――リンナや今の対フォーリナー隊では対処が出来ない状況になってしまう可能性も否定できない。早々に動く必要がある、というわけでもある。
「サーニス、一番隊で動ける人材は?」
「申し訳ありません。現在は隊の人間を割ける程、人的余裕はありません」
「まぁ、そうだな」
シドニアも聞いてみただけだ。何分フォーリナー対策は現在仮法案をそのまま適用しているような状況だ。リンナの手助けすら咎める事が出来ないような立場の隊に、これ以上仕事を押し付けるわけにはいかない。
「……ですが、自分が動く分には、残業代さえ頂ければ構いません」
冗談を交えて、サーニスがシドニアへ笑いながらそう言うと、シドニアもクククと笑いながら、彼の肩を軽く小突いた。
「本当に、何時も助かっているよ。サーニス」
「いえ、自分とシドニア様の仲ですから」
「アタシも手伝います!」
立ち上がり、手を上げたリンナ。
彼女の言葉に、シドニアもアメリアも息を吐きつつ、やはりなと言わんばかりの表情を浮かべる。
「だと思ったよ。我が妹らしい」
「まぁ、それを期待してリンナに声をかけたと言っても過言じゃないでの。……ワネット」
「ええ」
アメリアの言葉に、ワネットも頷き、サーニスとリンナの手を握る。
「わたくしも今回の調査に加わります」
「だが、ワネットはアメリア様の護衛が」
「何の為に吾輩がシドニア皇居に来たと思うとるんじゃ? 安全の為じゃ」
「……姉上の護衛は、弟であり皇帝の私がする、という事だ」
何とも不思議な感覚だ、と笑うシドニアに釣られ、サーニスもワネットも、リンナも笑みを浮かべた。
何にせよ、これからリンナとサーニス、ワネットがしなければならない事は、大きく分けて三つ。
一つは貧困街での【銀の根源主】が活動している証拠を収める事。
一つは貧困街にてフォーリナーの残骸が取引されている、もしくは横流しが行われている証拠を収める事。
残る一つは、可能ならば上記二つを行った上で【銀の根源主】を率いている者を捕らえる事。
どれか一つだけでも行う事が出来れば良いし、可能ならば三つ全てが出来れば上出来だとして、ワネットは霊子端末を取り出し、豪鬼と餓鬼に視線を送る。
「シドニア様とアメリア様の護衛、任せましたわよ。お二人とも」
「まだ酷使する気かオレ等を……」
「ホントもォー……報酬期待してるからね……」
ぐったりとソファに倒れる二者に礼を言いながら、三人は霊子転移を行う。
転移先は、先ほど写真にあった鋳造工場の裏手――その裏山である。
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