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最終章
クアンタとリンナ-13
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自らの肩に手を乗せる、ガンダルフを払いのけ、リンナはまだ迫ろうとする教皇の背中を、強く踏みつけ、気絶させる。
殺しはしない。だが、そのまま起きて貰っても面倒だ。
「アンタらの願いは分かった。アンタらの望みも分かった。アタシはこの人たちが、銀の根源主に属している人たちが、強要されたり、騙くらかされているからやっている事なんだと思ってた」
だが違った。
彼ら、彼女らは、生きる上で公平な幸せを――根源化という救いを、心から求めたのだ。
求める事は間違いじゃない。
願う事は過ちじゃない。
その願いを、理想を、リンナは理解こそ出来ないけれど――そうした在り方を認める事は出来る。
そうした価値観がある事を、それと異なる価値観を以て否定した所で、その先に何もない事を、リンナは知っている。
この男の言う通り、リンナが銀の根源主を恐れる理由は、異なる価値観を持つからだと、理解できた。
「けれど、それはアンタ達にも言える事だ。異なる価値観を、異なる理想を、異なる願いを持つ人達を否定して、根源化を無理矢理進めようとする事は、侵略と一緒だ……!」
ピクリと、僅かに眉を動かしたガンダルフ。
「ああ、シドニア兄ちゃんが、どうしてさっきあんな事を言ったか分かった。……兄ちゃんは『自殺したいなら自殺したいヤツだけで死んでくれ、心中は困る』って言いたかったんだよ」
「心中だと? 根源化を無理心中と勘違いされては」
「アタシ等の価値観じゃ、根源化は殺される事も一緒だっつってんだよッ! したいならテメェ等で勝手にやってろ、アタシ等を巻き込むんじゃねェよクソ野郎――ッ!!」
強く叫ばれたリンナの言葉と共に。
今、彼女の全身から虚力が大量に噴出された。
彼女の放出した虚力は、むき出しとなっていた大量のフォーリナーの残骸にも届き――今、その残骸がカタカタと音を鳴らしながら、蠢いた。
山となっていたフォーリナーの残骸がいくつか地面へと落ちたが、しかし今の戦闘中に、残骸へ群がる信者もいない。
そうしたリンナへと視線をやり、ただ虚力の渦に本能的な恐怖を感じるだけだ。
「……なるほど。君も私を、私の理想とする根源化を否定するわけか」
「今言った通りだ。やりたいなら勝手にやれ。アタシ等を、罪のない人を……努力して、頑張って、幸せになろうと藻掻いてる人たちを、巻き込むんじゃねェ……ッ!」
「残念だ。かつて皇族や皇国に迫害され、幸を奪われた姫巫女の末裔である君ならば、理解してくれると思ったのだが」
口調こそ穏やかだったが、しかしガンダルフの表情には、先ほどシドニアと話していた時の様な憤怒が浮かび上がっている。
彼は今一度、フォーリナーの残骸を手にしたが――しかし、それを食するわけではない。
「君は、コレが何か分かるか?」
フォーリナーの残骸を掴む手とは、逆の左手。その左手から、僅かに青白い稲妻のような発光が。
リンナは、幾度かそうした反応を見たことがある。
「錬金術を使う時の、バチバチ……」
「錬成反応だよ。私も一応、皇族に連なる家系の子と言う事で、錬金術を学んでいた。……そして、フォーリナーとの同化は、決して食する事だけが正解じゃない」
二階の手すりから身を投げたガンダルフ。
その真下にある、フォーリナーの残骸が詰め込まれたコンテナへ身を投じたガンダルフは、瞬間強い青白い光を放つ。
思わず、動きを止めるシドニア達。
「アレは、錬成反応!?」
ワネットが青白い発光現象を言い当てると、シドニアとサーニスが冷や汗を流す。
「まさかガンダルフは……ッ」
『そのまさかだ』
声が聞こえると共に錬成反応が収まり、今――彼がその姿を現した。
元々のガンダルフは、身長が百八十センチ程度の大柄な男性ではあったが――今の彼は、その身体をコンテナに収めきる事が出来ない、全長二メートル半程の、巨大な体躯となり、まだ残っていたフォーリナーの残骸を転がしながら地面へ足を付けた。
その全身は流体金属の破片を錬成させた事、その肉体と同化をさせた事による、金属の隆起現象が起き、通常のフォーリナーが見せるのっぺらぼうとは異なって、節々に突起のある刺々しい印象の身体に。
彼が地面へ足を付けると、その足を付けた部分か同化を始めていく。
同化のスピードは早くない。そして、あくまでリュート山脈と同様に表面的な同化だけに留まっていると思われるが、しかしそれでも、放置していればどれだけ被害が広がるかも分からない。
「ガンダルフ……貴様、自らと残骸を錬成して組み合わせる事で、合成生命として作り替えたな……っ」
『その通りですよシドニア陛下! そして、単純に食して同化するよりも同化率が高く、また自己も確立した上で変化が可能だ!』
あくまでフォーリナーに侵蝕されたわけではなく、フォーリナーと自分の肉体の合成に留める事で、フォーリナーの機能を有したまま、人間としての自我を有する存在――それが今のガンダルフの力である。
振り上げられる巨大な腕、シドニアへと向けて振り込まれた腕を、ゴルタナで強化した腕力と皇族用の刀で受けるシドニアだったが、しかし侵蝕は防げても、その圧倒的暴力を防ぎきる事が出来ず、吹き飛ばされてしまう。
「シドニア様ッ!」
サーニスが声を上げ、彼の無事を確認しようとするも、しかし追撃としてガンダルフの腕が、今度はサーニスへと延びる。
汗を流しながら、リンナが二階から飛び降り、ガンダルフの頭部を強く蹴りつける。
それにより一瞬だけ動きが慢性になった瞬間を見計らい、サーニスがその場から離脱、信者達の同化したフォーリナー体を切りつけつつ、シドニアの身体を起こした。
「大丈夫ですか、シドニア様!」
「っ、問題……無い……っ」
吹き飛ばされた時、残されていた鋳造所の機材に身体をぶつけたようで、僅かに痛みで表情を歪ませるシドニア。
リンナは蹴り付けた頭部から飛び退きながら、リュウセイを振り込んで、ガンダルフの剛腕を切り裂いたが――しかし、フォーリナーの再生能力まで復活しているのか、すぐに腕が生えてきてしまう。
『無駄だ無駄だ! 今私の身体には、フォーリナー十数機分の質量が存在する! 愚かにもフォーリナーから離反したクアンタの様に、自己の崩壊を招くという愚行を犯す事もあり得ないッ!』
「っ……!」
再生を果たした剛腕が、真っすぐにリンナの顔面へと迫る。
だがリンナは、今ガンダルフが叫んだ言葉を聞いて、溢れ出る虚力を放出しながら、同様に拳で彼の腕を受け切った。
「……撤回しろ……っ」
『何?』
「クアンタが、愚かだって、言った事を……撤回しろっつってんだァ……ッ!!」
ガンダルフの拳を押し返しながら、リンナがリュウセイの刃を上段から強く振り込んだが――しかし、僅かに浅い。
『愚かな者に愚かと事実を言って――何が悪い!』
あくまで表面を切り裂いただけに終わった、リュウセイの一閃。虚力を含んだ攻撃故か再生は遅いが、しかし攻撃には支障が無いと言わんばかりに、リンナの腹部をガンダルフが蹴り付ける。
「ぐほ……っ」
寸での所で虚力をまとった事が幸いし、侵蝕現象を防ぐ事は出来たが、しかし質量に任せた暴力がリンナを蹴り飛ばす。
フォーリナーの残骸が、多く転がる地面へと蹴り飛ばされたリンナ。
その暴力によって意識を失いかけたリンナは、変身が強制的に解除されて、今その眼前に、クアンタのマジカリング・デバイスが転がった。
何とか、震える手でマジカリング・デバイスを手に取りながら――顔を上げると。
すぐ近くに、ガンダルフが迫っていた。
「リンナ様ッ」
「リンナさん!」
「リンナ……ッ」
ほぼ同時に、今現場にいる三人が、リンナへ逃げろと言うべく声を上げ、名を叫ぶが。
しかし、ガンダルフはそんなリンナを始末する為に、その腕を振り上げる。
「さようなら刀匠。そして姫巫女。これでもう、我々の理想とする世界を阻める者は、どこにもいなくなる」
強く、振り込まれようとする剛腕。
ワネットが駆け出そうとしても、信者達の変化したフォーリナーに阻まれて、向かえない。
シドニアもサーニスも同様だ。
もう、リンナには成す術がないと思われた――その時である。
空から天井を突き破り、巨大な剣が落ちてきて、ガンダルフの腕を切り裂いた。
刀による攻撃じゃない。あくまで質量兵器としての重量を用いた、強引な切断ではあるが――しかし、その巨大な剣に身を乗せ、ガンダルフと剣が接触するタイミングで柄を蹴りつけ、空を舞った少女が一人いる。
その全身に巡らされた魔術回路を、薄緑色に発光させている泉の守護者――アルハット・ヴ・ロ・レアルタだ。
〔間に合ったようね〕
その巨大な剣――本来はイルメール・ヴ・ラ・レアルタの愛用武器でもある豪剣に乗って突如現れた彼女に、フォーリナーも含めて唖然とする他無い状況で、リンナだけが、顔を上げながら声を出す。
「あ……アルハット……?」
〔ええ。もう人類が根源化する、程度のピンチ程度じゃ手を出せないのだけれど――彼は、星そのものを飲み込める根源化を果たそうとしている。これ以上は見過ごせない〕
ガンダルフの腕は叩き切られてしまったが、しかし地に落ちた腕を拾い上げ、接続するようにして、ガンダルフは再生を開始。
そして、腕を切り落とす時にガンダルフに触れてしまった豪剣も、その質量を次第にフォーリナー化、侵食していってしまう。
『貴様……アルハット・ヴ・ロ・レアルタ……っ』
〔こんにちわ、ガンダルフ・ラウンズさん。アルハット領の技術管理事務局で好き勝手してくれたようね〕
接続を終わらせた腕を今一度振り上げ、怒りのままアルハットとリンナを殴りつけようとするガンダルフ。
だが、先ほど豪剣が振ってきた時の開いた穴から、一撃の熱射が落ち、一瞬だけガンダルフの動きを抑える。
そして、彼女にとっては動きが一瞬でも抑える事が出来れば十分。
空を駆け、豪剣の開けた穴を抜け、ガンダルフの顔面を強く殴りつける、剛腕があった。
殴りつけられた衝撃によって強く吹き飛ばされ、信者のフォーリナーを幾体か巻き込みながら転がるガンダルフが顔を上げる。
先ほどまでガンダルフが立っていた場所には、二人の女性が立っている。
「アルハット、オメェ姉ちゃんの剣パクるンじゃねェよ!」
ガンダルフと同様に巨大な体躯を持ち、その全身を筋肉によって彩る豪傑な女性――イルメール・ヴ・ラ・レアルタ。
「まーまーイル姉さま。おかげでリンナちゃんも助かったし、良かったじゃん?」
『SUGOI DEKAI』と文字のプリントされた薄手のシャツと紺色のハーフパンツを着込んだ、ラフな格好の女性――カルファス・ヴ・リ・レアルタ。
〔ええ、お二人とも助かりました――これで、彼女を蘇らすに相応しい場となりましたね〕
人ならざる力を持つからこそ、表舞台から姿を消した筈の三人が、ここに現れたのだ。
未だ、困惑するしかない、リンナやシドニア、サーニスやワネット。
だが、フォーリナー達はそんな彼らを見逃しはしない。
呆然としているサーニス達に襲い掛かろうとするフォーリナーの軍勢、しかしそれを阻む者が、また二人。
「全く――酷使され過ぎて気が重いとかのレベルじゃないぞマジでッ!?」
サーニスとシドニアのもとへ突如として現れ、数体のフォーリナーを謎の衝撃波で吹き飛ばす、長身だが細身の青年――豪鬼と。
「そろそろ労基訴えるかンね!? 聞いてるアメリア!?」
ワネットのもとへ現れ、その炎を纏わせた腕を振るう事で、フォーリナーを殴り飛ばす小さな少女――餓鬼。
「あーあー聞こえない聞こえないー吾輩は何も聞こえないんじゃー」
そして、鋳造所の奥で身を隠すように縮こまりつつ、耳を塞いで聞こえないふりをする女性――アメリア・ヴ・ル・レアルタである。
突然の大集合、自らを守る様にして立ち塞がる皆の事を見据えながら、リンナはアルハットの伸ばした手を取り、身体を起こす。
〔リンナ。クアンタのマジカリング・デバイスを貸して〕
「え、え、え? あの、どうなってんの!? なんでみんなここに来てんのっ!?」
〔それはそうよ。なんて言ったって、長き眠りに就いていた、私たちのお姫様を起こすなんて大イベント、家族みんなで楽しまなきゃ……ね?〕
殺しはしない。だが、そのまま起きて貰っても面倒だ。
「アンタらの願いは分かった。アンタらの望みも分かった。アタシはこの人たちが、銀の根源主に属している人たちが、強要されたり、騙くらかされているからやっている事なんだと思ってた」
だが違った。
彼ら、彼女らは、生きる上で公平な幸せを――根源化という救いを、心から求めたのだ。
求める事は間違いじゃない。
願う事は過ちじゃない。
その願いを、理想を、リンナは理解こそ出来ないけれど――そうした在り方を認める事は出来る。
そうした価値観がある事を、それと異なる価値観を以て否定した所で、その先に何もない事を、リンナは知っている。
この男の言う通り、リンナが銀の根源主を恐れる理由は、異なる価値観を持つからだと、理解できた。
「けれど、それはアンタ達にも言える事だ。異なる価値観を、異なる理想を、異なる願いを持つ人達を否定して、根源化を無理矢理進めようとする事は、侵略と一緒だ……!」
ピクリと、僅かに眉を動かしたガンダルフ。
「ああ、シドニア兄ちゃんが、どうしてさっきあんな事を言ったか分かった。……兄ちゃんは『自殺したいなら自殺したいヤツだけで死んでくれ、心中は困る』って言いたかったんだよ」
「心中だと? 根源化を無理心中と勘違いされては」
「アタシ等の価値観じゃ、根源化は殺される事も一緒だっつってんだよッ! したいならテメェ等で勝手にやってろ、アタシ等を巻き込むんじゃねェよクソ野郎――ッ!!」
強く叫ばれたリンナの言葉と共に。
今、彼女の全身から虚力が大量に噴出された。
彼女の放出した虚力は、むき出しとなっていた大量のフォーリナーの残骸にも届き――今、その残骸がカタカタと音を鳴らしながら、蠢いた。
山となっていたフォーリナーの残骸がいくつか地面へと落ちたが、しかし今の戦闘中に、残骸へ群がる信者もいない。
そうしたリンナへと視線をやり、ただ虚力の渦に本能的な恐怖を感じるだけだ。
「……なるほど。君も私を、私の理想とする根源化を否定するわけか」
「今言った通りだ。やりたいなら勝手にやれ。アタシ等を、罪のない人を……努力して、頑張って、幸せになろうと藻掻いてる人たちを、巻き込むんじゃねェ……ッ!」
「残念だ。かつて皇族や皇国に迫害され、幸を奪われた姫巫女の末裔である君ならば、理解してくれると思ったのだが」
口調こそ穏やかだったが、しかしガンダルフの表情には、先ほどシドニアと話していた時の様な憤怒が浮かび上がっている。
彼は今一度、フォーリナーの残骸を手にしたが――しかし、それを食するわけではない。
「君は、コレが何か分かるか?」
フォーリナーの残骸を掴む手とは、逆の左手。その左手から、僅かに青白い稲妻のような発光が。
リンナは、幾度かそうした反応を見たことがある。
「錬金術を使う時の、バチバチ……」
「錬成反応だよ。私も一応、皇族に連なる家系の子と言う事で、錬金術を学んでいた。……そして、フォーリナーとの同化は、決して食する事だけが正解じゃない」
二階の手すりから身を投げたガンダルフ。
その真下にある、フォーリナーの残骸が詰め込まれたコンテナへ身を投じたガンダルフは、瞬間強い青白い光を放つ。
思わず、動きを止めるシドニア達。
「アレは、錬成反応!?」
ワネットが青白い発光現象を言い当てると、シドニアとサーニスが冷や汗を流す。
「まさかガンダルフは……ッ」
『そのまさかだ』
声が聞こえると共に錬成反応が収まり、今――彼がその姿を現した。
元々のガンダルフは、身長が百八十センチ程度の大柄な男性ではあったが――今の彼は、その身体をコンテナに収めきる事が出来ない、全長二メートル半程の、巨大な体躯となり、まだ残っていたフォーリナーの残骸を転がしながら地面へ足を付けた。
その全身は流体金属の破片を錬成させた事、その肉体と同化をさせた事による、金属の隆起現象が起き、通常のフォーリナーが見せるのっぺらぼうとは異なって、節々に突起のある刺々しい印象の身体に。
彼が地面へ足を付けると、その足を付けた部分か同化を始めていく。
同化のスピードは早くない。そして、あくまでリュート山脈と同様に表面的な同化だけに留まっていると思われるが、しかしそれでも、放置していればどれだけ被害が広がるかも分からない。
「ガンダルフ……貴様、自らと残骸を錬成して組み合わせる事で、合成生命として作り替えたな……っ」
『その通りですよシドニア陛下! そして、単純に食して同化するよりも同化率が高く、また自己も確立した上で変化が可能だ!』
あくまでフォーリナーに侵蝕されたわけではなく、フォーリナーと自分の肉体の合成に留める事で、フォーリナーの機能を有したまま、人間としての自我を有する存在――それが今のガンダルフの力である。
振り上げられる巨大な腕、シドニアへと向けて振り込まれた腕を、ゴルタナで強化した腕力と皇族用の刀で受けるシドニアだったが、しかし侵蝕は防げても、その圧倒的暴力を防ぎきる事が出来ず、吹き飛ばされてしまう。
「シドニア様ッ!」
サーニスが声を上げ、彼の無事を確認しようとするも、しかし追撃としてガンダルフの腕が、今度はサーニスへと延びる。
汗を流しながら、リンナが二階から飛び降り、ガンダルフの頭部を強く蹴りつける。
それにより一瞬だけ動きが慢性になった瞬間を見計らい、サーニスがその場から離脱、信者達の同化したフォーリナー体を切りつけつつ、シドニアの身体を起こした。
「大丈夫ですか、シドニア様!」
「っ、問題……無い……っ」
吹き飛ばされた時、残されていた鋳造所の機材に身体をぶつけたようで、僅かに痛みで表情を歪ませるシドニア。
リンナは蹴り付けた頭部から飛び退きながら、リュウセイを振り込んで、ガンダルフの剛腕を切り裂いたが――しかし、フォーリナーの再生能力まで復活しているのか、すぐに腕が生えてきてしまう。
『無駄だ無駄だ! 今私の身体には、フォーリナー十数機分の質量が存在する! 愚かにもフォーリナーから離反したクアンタの様に、自己の崩壊を招くという愚行を犯す事もあり得ないッ!』
「っ……!」
再生を果たした剛腕が、真っすぐにリンナの顔面へと迫る。
だがリンナは、今ガンダルフが叫んだ言葉を聞いて、溢れ出る虚力を放出しながら、同様に拳で彼の腕を受け切った。
「……撤回しろ……っ」
『何?』
「クアンタが、愚かだって、言った事を……撤回しろっつってんだァ……ッ!!」
ガンダルフの拳を押し返しながら、リンナがリュウセイの刃を上段から強く振り込んだが――しかし、僅かに浅い。
『愚かな者に愚かと事実を言って――何が悪い!』
あくまで表面を切り裂いただけに終わった、リュウセイの一閃。虚力を含んだ攻撃故か再生は遅いが、しかし攻撃には支障が無いと言わんばかりに、リンナの腹部をガンダルフが蹴り付ける。
「ぐほ……っ」
寸での所で虚力をまとった事が幸いし、侵蝕現象を防ぐ事は出来たが、しかし質量に任せた暴力がリンナを蹴り飛ばす。
フォーリナーの残骸が、多く転がる地面へと蹴り飛ばされたリンナ。
その暴力によって意識を失いかけたリンナは、変身が強制的に解除されて、今その眼前に、クアンタのマジカリング・デバイスが転がった。
何とか、震える手でマジカリング・デバイスを手に取りながら――顔を上げると。
すぐ近くに、ガンダルフが迫っていた。
「リンナ様ッ」
「リンナさん!」
「リンナ……ッ」
ほぼ同時に、今現場にいる三人が、リンナへ逃げろと言うべく声を上げ、名を叫ぶが。
しかし、ガンダルフはそんなリンナを始末する為に、その腕を振り上げる。
「さようなら刀匠。そして姫巫女。これでもう、我々の理想とする世界を阻める者は、どこにもいなくなる」
強く、振り込まれようとする剛腕。
ワネットが駆け出そうとしても、信者達の変化したフォーリナーに阻まれて、向かえない。
シドニアもサーニスも同様だ。
もう、リンナには成す術がないと思われた――その時である。
空から天井を突き破り、巨大な剣が落ちてきて、ガンダルフの腕を切り裂いた。
刀による攻撃じゃない。あくまで質量兵器としての重量を用いた、強引な切断ではあるが――しかし、その巨大な剣に身を乗せ、ガンダルフと剣が接触するタイミングで柄を蹴りつけ、空を舞った少女が一人いる。
その全身に巡らされた魔術回路を、薄緑色に発光させている泉の守護者――アルハット・ヴ・ロ・レアルタだ。
〔間に合ったようね〕
その巨大な剣――本来はイルメール・ヴ・ラ・レアルタの愛用武器でもある豪剣に乗って突如現れた彼女に、フォーリナーも含めて唖然とする他無い状況で、リンナだけが、顔を上げながら声を出す。
「あ……アルハット……?」
〔ええ。もう人類が根源化する、程度のピンチ程度じゃ手を出せないのだけれど――彼は、星そのものを飲み込める根源化を果たそうとしている。これ以上は見過ごせない〕
ガンダルフの腕は叩き切られてしまったが、しかし地に落ちた腕を拾い上げ、接続するようにして、ガンダルフは再生を開始。
そして、腕を切り落とす時にガンダルフに触れてしまった豪剣も、その質量を次第にフォーリナー化、侵食していってしまう。
『貴様……アルハット・ヴ・ロ・レアルタ……っ』
〔こんにちわ、ガンダルフ・ラウンズさん。アルハット領の技術管理事務局で好き勝手してくれたようね〕
接続を終わらせた腕を今一度振り上げ、怒りのままアルハットとリンナを殴りつけようとするガンダルフ。
だが、先ほど豪剣が振ってきた時の開いた穴から、一撃の熱射が落ち、一瞬だけガンダルフの動きを抑える。
そして、彼女にとっては動きが一瞬でも抑える事が出来れば十分。
空を駆け、豪剣の開けた穴を抜け、ガンダルフの顔面を強く殴りつける、剛腕があった。
殴りつけられた衝撃によって強く吹き飛ばされ、信者のフォーリナーを幾体か巻き込みながら転がるガンダルフが顔を上げる。
先ほどまでガンダルフが立っていた場所には、二人の女性が立っている。
「アルハット、オメェ姉ちゃんの剣パクるンじゃねェよ!」
ガンダルフと同様に巨大な体躯を持ち、その全身を筋肉によって彩る豪傑な女性――イルメール・ヴ・ラ・レアルタ。
「まーまーイル姉さま。おかげでリンナちゃんも助かったし、良かったじゃん?」
『SUGOI DEKAI』と文字のプリントされた薄手のシャツと紺色のハーフパンツを着込んだ、ラフな格好の女性――カルファス・ヴ・リ・レアルタ。
〔ええ、お二人とも助かりました――これで、彼女を蘇らすに相応しい場となりましたね〕
人ならざる力を持つからこそ、表舞台から姿を消した筈の三人が、ここに現れたのだ。
未だ、困惑するしかない、リンナやシドニア、サーニスやワネット。
だが、フォーリナー達はそんな彼らを見逃しはしない。
呆然としているサーニス達に襲い掛かろうとするフォーリナーの軍勢、しかしそれを阻む者が、また二人。
「全く――酷使され過ぎて気が重いとかのレベルじゃないぞマジでッ!?」
サーニスとシドニアのもとへ突如として現れ、数体のフォーリナーを謎の衝撃波で吹き飛ばす、長身だが細身の青年――豪鬼と。
「そろそろ労基訴えるかンね!? 聞いてるアメリア!?」
ワネットのもとへ現れ、その炎を纏わせた腕を振るう事で、フォーリナーを殴り飛ばす小さな少女――餓鬼。
「あーあー聞こえない聞こえないー吾輩は何も聞こえないんじゃー」
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突然の大集合、自らを守る様にして立ち塞がる皆の事を見据えながら、リンナはアルハットの伸ばした手を取り、身体を起こす。
〔リンナ。クアンタのマジカリング・デバイスを貸して〕
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