魔法少女の異世界刀匠生活

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エピローグ-02

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「ばっ、違う。切っ先を起こす時はもっとおっぱいを揉むように繊細に扱うの! 力を込め過ぎず、でも気持ちよくさせるよう丁寧に、てぇねぇ~に打ち込むの! じゃないと洗練された形にならないでしょうがっ」

「おっぱいとは」

「お前の胸に付いてる二つのお山だよ!!」

「お師匠には無いモノと判断」

「テメェぶっ殺っぞー!? そこにある火床(ほど)で焼き殺っぞー!?」


 銀の根源主との戦いが終わり、既に一月の時が流れていた。

  レアルタ皇国は未だにフォーリナー侵攻事件における爪痕を残していたが、次第に元の生活を取り戻していた。


  ――そして、クアンタとリンナにも、平穏な時が訪れたと言っても良い。


「これでどうだ」

「んー、もう二ミリ程度調整」

「均一ではないが」

「アタシ流としては、棟(むね)と刃(は)は均一じゃない方が焼き入れした時に良い形になる気がすんの。アンタはアタシの弟子なんだから、アタシのやり方を学びなさい!」

「了解」


 幾度も鉄を打つ音が、鍛冶場に響き渡る。しかし二者は火所から放たれる熱さも、音も、何もかも置き去りにし、ただ目の前の鉄を見据え、槌を振り下ろすだけだ。
  

 銀の根源主が横流しを果たしたフォーリナーの残骸をクアンタの容に整え、その中にリンナの虚力とクアンタがマジカリング・デバイスに遺していた虚力、デバイスに備えていたバックアップファイルを加える事により、再生を果たしたクアンタだったが――しかし、一部の記憶や感情に、エラーがあるのだという。幾度もクアンタへ聞かせていた筈の『おっぱい』という単語へ、彼女が首を傾げたように。

 元々クアンタの記憶や感情は、朽ちる前のクアンタに宿っていたものだ。故に、その記憶や感情をデータ化し、新たに形作られたクアンタが復元を行った所で、完全にクアンタが蘇生を果たした事にはならない。

  言ってしまえば、今のクアンタは「以前朽ちたクアンタの必要とした記憶と感情を与えられた新たな命」と言っても良い。
  

 何時の間にか日も落ちてきた。センがけとやすりがけを行い、艶を魅せる鉄を眺めつつ、そこでもリンナがクアンタの作業に口を出す。


「ここ、もうちょい形整えて」

「具体的に」

「わっかんないかなぁ、こう言うの感覚なの感覚」

「了解」


 クアンタは大雑把な指示を出すリンナに疑問を呈しながらも、しかし表情を引き締めて、やすりをかける。


(今のクアンタは、初めて会った時みたいに、無表情だ)


 朽ちる前のクアンタとも少し違って、今のクアンタはよほどの事がない限り、表情を違えない。

  以前のクアンタは、勿論大きく表情を違えることこそなかったけれど、笑みを浮かべる事もあったし、悲しそうな表情を浮かべる事も、多くはないが少なくもなかった。

  けれど、今は違う。きっと今のクアンタは、情報だけは知り得ている感情を、どの表情で表せば良いか理解できていない。

  笑いたいと、怒りたいと、悲しみたいと想う事も無く――あったとしても、その時にどうした表情を浮かべればいいかも、今は理解できていない。


(でも……きっといつか、前のクアンタみたいに、しっかり笑える時が来るよね)


 指示通りに整えられた鉄に砥石を使い、更に洗練された形へと整えていく。

 それまでの荒仕上げを終えた二人が鍛冶場の中に戻り、今度は土置きと言う作業に入る。焼き入れという作業の際に必要な土で刀を覆っていき、冷却させる際に温度調節を行う為だ。

  刃側は薄く、峯側を厚く塗りたくって、所々に刃紋を出す為に土を盛りつけるクアンタの姿を見て、リンナはそれに文句を付けなかった。


「アンタ、土置き得意よね」

「そうだろうか」

「そうよ。まぁ刀ってのは打つ人間一人一人に個性が出るもんだけど、アンタのは本当に正確で、綺麗ね」

「今後も精進する」


 けれど、そんなクアンタも成長した事がある。

 以前までのクアンタであれば、今リンナが言ったように「人間」という言葉に反応し、自らはフォーリナーであると訂正をしただろう。

  今は違う。彼女は、元々自分がどうした存在であろうと、今は人間であるのだとしている。

  それが――リンナにとって、とても嬉しい事で、土置きをしながら、一瞬だけ笑みを浮かべる。


 土置きのされた刀を、火床にて焼いていく。しかしこの時、クアンタは目を光らせ、鉄全体にムラなく熱が通っているかを確認する。

 焼き入れは日が落ちた暗闇の中で行い、目で見て温度を確認する。

 そしてこの作業は、リンナよりもむしろクアンタの方が得意だ。

 八百度近い熱で鉄全体を熱したクアンタは、近くに置かれた焼き入れ用の水槽に、鉄を入れ込む。

 急速に冷却された鋼が組織変化を起こしてより強固となっていく姿に、クアンタもリンナも頷いた。


「――よし、コレでアタシらの仕事は完了」

「梱包する」

「あ、じゃあ五分でやって。ついでに持ってって貰うわ」


 鍛冶場の外、細長い包みを持った運送業を営むトワイスが訪れていた。

 リンナに荷物を渡し、少しの間待っているように言われた為、水を一杯貰い、休憩を兼ねて椅子に腰かけるトワイス。


「リンナは刀鍛冶大変だよなぁ。最近は刀なんて芸術品としてしか売れないってのに」

「アタシからすりゃあ、バスタードソードなんざをありがたがって使ってる奴の気が知れないね。あんなモン、ロマンの欠片もねぇ」

「けどよ、剣匠の作り上げたバスタードソードはどんな敵だって叩き切るって話だぜ」

「あんな不純物の多い鋼で打ったのなんて、中から腐敗して次第に折れる。でもね、刀は違う。不純物の無い玉鋼によって作り上げられ、匠の熱意を打ち込まれた刃は、何百年経とうと腐る事無く、その輝きを持って遺り続ける。それがロマンってモンでしょうが」


 ――そう、今ではリンナも、力強くそう断言できる。

  以前から刀という存在の在り方を好んできたリンナだったが、災いとの戦いやフォーリナーとの戦い、そして人間の持つ欲望を知った時から、ずっと考えていた。

  刀は、ただ人を斬ったりする為に存在する武器じゃない。

  刀匠としての在り方を、心を映す鏡であり、その込めた想いの強さが、振るう者を引き立てる。

  その刀匠の込めた熱意は――幾百の時にも負ける事無く残り続ける。

  
  会話をする二者の元へ、梱包した荷物を持ってくるクアンタの姿が。彼女はトワイスにそれを渡し、運送料と共にチップを多めに渡した。


 トワイスが去り、既に二人しか残っていない鍛冶場。

 リンナは持ってこられた荷を解き、中にある刀を取り出した。

 二人が打った刀は、後に研磨師に渡って研がれた後、金具屋によってハバキやセッパ等を取り付けられ、専用の鞘を作る鞘師が彩り、再びこの鍛冶場に戻る。

 そうして戻って来た刀は、一から十までクアンタが打った刀だ。

  リンナはクアンタへとそれを放り、受け取った彼女が、胸元の開いた作業着をさらに開き、膨らんだ二つの胸元を露出させる。

 すると、彼女の中から、何か一枚の薄い長方形の形をした板が飛び出した。

 空中に浮くそれを右手でキャッチしたクアンタは、板の先にあるボタンを一回押し、板の面が八割バックライトによって照らされ、光ると共に、音声を放つ。


〈Devicer・ON〉

「変身」

〈HENSHIN〉


 クアンタが変身と言葉を放つと共に、板を一度空中に放ると、それが地面に落ちて自身の眼前にある瞬間、狙う様に左手で触れる。

 瞬間、彼女は板から発する光に全身を包んだ。

 先ほどまでは首元から足元までを覆う様にしていた灰色の作業着だったが、胸元と腰回りだけを覆う布地が展開され、そこからレースやフリル等が装飾された、朱色の可愛らしい衣装へと変化していく。

 肩まで伸びるだけで、何の髪飾りも無かった黒髪も、真ん中分けしてピンで留め、さらに僅かだが伸びた髪の毛を頭頂部でまとめ、小さなポニーテールとした彼女が、今リンナから受け取った刀を、鞘から引き抜き、空を斬る。


「――」


 振り切った刀を鞘へ戻し、チンと金属同士の合わさる音だけが響く。風で揺らめく髪の毛を決して気にすることなく、クアンタは刀をリンナへ投げる。


「どう?」

「五十二点」

「そっか。じゃあコレ、売りに出そうか」

「そうしよう」


 クアンタの打った刀には、対災いや対フォーリナーに使える程の虚力が込められていない。

  故に彼女が打った刀は、クアンタが品定めを行い、実戦に耐え得るものでないと判断した場合には美術商へ流すようにしている。


「アンタ、満足出来る刀、作れそう?」

「分からない。――けれど、何時かは作りたい。少なくともお師匠が老衰によって死に絶えるまでには、少しでも良いと言える刀を」


 クアンタもリンナも、知っている。

  人にはいつか別れの時があって――フォーリナーであるクアンタも、何時朽ちるかは分からない。

 リンナも生きている限りは年を重ね、やがて若さは失われていく。

  そして――その先には、抗い様の無い死が、待っている事だろう。


 それでもいいと、言わんばかりに、リンナは頷くのである。


「……そ。じゃあ、アタシがおバアちゃんになっても、一緒にいて頂戴よ?」

「了解した」


 クアンタは、笑みを浮かべない。

  浮かべる理由も無いから。

  
  ――それでも。


 リンナがクアンタの細い指に触れ、手を繋ぐ。

 そしてちょっとだけ背伸びをして、クアンタの唇に、自分の唇を重ね合わせる。


 唇と唇の触れ合い、なんてことはない、肌同士の接触。


  けれど、その触れ合いを終わらせて、目と目を合わせると――クアンタはそこで、笑みを浮かべるのだ。


  クアンタ自身も、きっと気付いていない事。

  リンナだけが知っている事。

  それが、なんだかとても嬉しかった。


「ね、クアンタ」

「何だろうか、お師匠」

「明日からもよろしくね」

「ああ」


 こんな何気ない日々が、一日でも長く続けることが出来ますように、と。

  リンナとクアンタは、手を繋ぎながら願い続ける。

  
  
 魔法少女達は、これからも刀匠として生を続けていく。

  この場所に至るまでも多くの困難が訪れて、これからもそうした困難は降り注ぐかもしれないけれど――


  二人は、共にあればどんな困難も乗り越えられると、信じている。


 ――魔法少女達の異世界刀匠生活は、まだまだ続いていく。


 Fin
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