魔法少女の異世界刀匠生活

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エピローグ

エピローグ-01

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 銀の根源主との戦いから、既に一月という時間が流れて、フォーリナー侵攻事件からは計四か月以上もの時間が流れていた。

  ガンダルフの率いていた【銀の根源主】はレアルタ皇国内での布教活動を禁じられ、ガンダルフも捕らえられたが、未だ信者達による活動は続けられている。

 多く変わった事があったわけではないけれど――しかし、変わった者たちがいる事も事実である。

  
  餓鬼と豪鬼は、アルハット領皇居の執務室にあるソファに腰かけ、その間に小さな女の子――ナルを座らせている。

 ナルは豪鬼の長い髪の毛を弄り、豪鬼は小さな子供とどう触れ合えば良いのか分かっていない様子であったが――餓鬼の緊張は、誰から見ても明らかだった。


「大丈夫か、餓鬼」

「だ……大丈夫だっての。アタシ、そこまでチキンじゃねェし」

「メチャクチャブルってるんだよなぁ」


 身体を震わせて、閉じられた足に手を乗せている餓鬼だったが――そこで、執務室の扉が開かれる。


「っ、ママッ!」


 開かれた扉の向こう側から、やせ細った一人の女性が姿を現して、ナルは女性を見据えると、すぐに豪鬼の髪から手を離して、駆け出していく。

  豪鬼も餓鬼も立ち上がって、その女性を……ナルの母親を見据える。


「ナル……、ナル……っ」


 ナルの母親は、バルトー国デンタリウス市において違法な労働を強いられていたのだが、フォーリナー侵攻事件の折、アルハットが餓鬼と約束し、彼女を回収できるように手配をしていた。

  だが属領扱いとは言え、紛いなりにも他国の労働問題に関わる事。内政干渉と指摘されぬよう、シドニア領への不法移民対策法案等も織り交ぜて手配を行ったが為に時間がかかり、今日初めて、ナルと母親は再会に至った、というわけだ。


「これで良かったかしら?」

「……うん。ありがとね、アルハット」


 アルハット――正確に言えば、アルハット領の統治や、人間社会が泉の脅威となり得ないように監視する役割の為、作られたアルハットの子機が餓鬼へ言うと、彼女もコクリと頷き、涙を流しつつ笑い合う、ナルと母親に近づいた。


「ママ、お姉ちゃんがナルのことを守ってくれたんだよっ」

「そうだったのね……本当に、本当にありがとうございます。何と、何とお礼を言えばいいか……っ」

「えっと……べ、別に大した事してないし……いえ、無いので……」


 そうして人間から礼をされた覚えも多くなく、気恥ずかしくなりつつも、謙遜をする餓鬼は、そこでナルと視線を合わせるようにしゃがみ込んで、笑みを浮かべた。


「……良かったね、ナル。お母さん見つかって」

「うんっ! ぜんぶお姉ちゃんのおかげ! ありがとうっ」

「どういたしまして」


 ナルの頭を撫でて、その身体をナルの母親へ譲るように、優しく押す。

  少しだけ困惑しているナルとは異なり――餓鬼は、覚悟を決めたように、ナルの母親へ頭を下げる。


「ナルと一緒に居られて、アタシも楽しかったです」

「アルハット様から、こうして手配に動けたのは、餓鬼さんのおかげでもあると伺っています……本当に、どれだけお礼をしても、しきれません」

「ホントに、アタシは何も……困った時はお互い様、って奴です」


 餓鬼はナルに、沢山の感情を――虚力を貰う事が出来た。

  でもだからこそ、これからは、多く殺めて来た命へ償う為に、その虚力を使うつもりだ。

 本当の母親が見つかった今こそ、餓鬼とナルは別れるべきなのだと……そう決意して、執務室から出ていこうとする餓鬼を。


  ナルの小さな手が、彼女の服を掴んで、離さない。


「お姉ちゃん、どこかいっちゃうの?」

「……アタシは、ナルの本当のお姉ちゃんじゃ、無いから……ママが見つかったなら、お別れしなきゃ」


 ナルと餓鬼は、顔を合わせない。

  きっと餓鬼は、ナルと顔を合わせて話をすれば、泣いてしまうから。

  別れに涙を見せてしまえば、ナルをずっと悲しませてしまうから。

  そう考えて、ただお別れをしようと。

  ただ、困った子供を助けただけで、本来は何も関係のない二人に戻ろうとする餓鬼の想いを――ナルは幾度も首を振って、否定する。


「ヤダ……ナル、お姉ちゃんとずっと一緒にいたいっ!」

「……ナル、ワガママ言っちゃ、ママが困っちゃうよ?」

「ヤダヤダ! ナル、お姉ちゃんもママも大好きだもんっ! だからぜったいぜったいはなれないっ!」


  子供らしく、駄々をこねるナルの言葉を受けても、餓鬼は必死に涙を堪え続けるけれど――何時までも溜めておける筈も無い。


「……アタシだって、ナルと一緒にいたいよ……? でも、アタシは……ホントのお姉ちゃんじゃ、ないし……ずっと一緒に、なんて出来ないよ……っ」


 溢れる涙を拭って、ナルへ見せぬようにする餓鬼。

  けれど、溜め込んだ涙は拭うだけでは抑えきれず――ナルの頭を撫でる手をも、濡らした。


「あの、餓鬼さん。少しいいでしょうか?」

「……え?」


 そんなナルと餓鬼の間に、ナルの母親が割って入り、ナルを抱き寄せながら、餓鬼へ微笑んだ。


「アルハット様と、少しお話をさせて頂いて……これから私、アルハット領の外国人就労支援事業所の事務員として働く事になりまして……」

「……えっと、はい」

「でも、一人だとどうしても、ナルを育てるのが難しくて……その、不躾というか、変なお願いをする事になるのですが……もし、餓鬼さんがよろしければ、これからもナルのお姉ちゃんとして、傍にいてあげて下さいませんか……?」


 彼女の言葉を受けて、呆然とする餓鬼に――アルハットがポンと手を肩に乗せ、耳元で語り掛ける。


「コレが、貴女の罪を償う方法よ。……これからも、この子のお姉ちゃんとして、立派な大人に育ててあげなさい」

「……いいの?」

「ええ、良いのよ。確かに貴女は沢山の罪を犯したけれど、それはこれから償っていけばいい」


 よくわかっていないけれど、餓鬼とまだ一緒にいられるという意味だけは理解したらしいナルが、餓鬼の身体に抱きついて、その幼くも強い力で、ギュッと抱きしめてくる。


「やったやった! これからもナルは、お姉ちゃんとママと、ずーっと一緒っ!」


  少しだけ痛いし、重いけれど――その重たさが、命の在り方が、餓鬼には愛おしいと思えた。


「子供は国の宝だもの。変な風に育てたら、今度こそ大罪よ。覚悟なさい」

「うん……うん……っ! アタシ……アタシ、ずっと……ナルのお姉ちゃんでいたい……っ! いさせて欲しい……っ!」


 ナルの身体を抱き返しながら、溜めていた涙をもう拭う事無く流す餓鬼を見据えて……豪鬼が、安堵の息をつきながら、退室する。


「豪鬼君は良いの?」


 その様子を窺っていたらしい、カルファスにそう言葉を投げかけられて……豪鬼も頷いた。


「あの家族たちには、もうこれ以上必要ないだろうし、オレにもオレなりの償い方が無いかどうか、探してみるよ」

「気が重い?」

「……いいや。使命とか、役割とか、そういうのから離れて……ただ誰かの為にって働けるのは、結構、気が楽だよ」


  餓鬼は、人間と共存していく方法を見つけた。

  豪鬼もいずれ、共に過ごしたいと願える人間に出会えるだろう。

  そう希望を持たせてくれた餓鬼に――豪鬼は心で礼を言い、その場から立ち去ろうとしたが、カルファスが声をかけ、再び足を止めさせる。


「じゃあ、餓鬼ちゃんに頼めないお仕事を、豪鬼君に振っちゃおうかなぁ」

「何だよ一体、これ以上オレ等災いをどう酷使するってんだ?」

「この人と一緒に、今後は聖堂教会の事を監視しておいてほしいの」


 この人、とカルファスが手で示す人物は――無精髭と逆上げられた白髪混じりの髪の毛、小袖の和装を着込んだ男性だった。


「ガルラ、アンタどうしてここに」

「流浪の旅をしていた所を、カルファス様に捕まっちまってな。……ま、簡単に言えば聖堂教会の監視を命じられたってワケさ」


 ため息をつく男性――ガルラは、その腰に刀を一本添えた状態で豪鬼へと近付き、肩を抱く。


「オメェさんや餓鬼ちゃんを、まだ聖堂教会は狙ってる」

「……まぁ、聖堂教会は元々、それが仕事だしな」


 聖堂教会は姫巫女の管理組織だが、聖堂教会が現在有している姫巫女はおらず、彼らは豪鬼や餓鬼という目に見える脅威を排除するために、リンナの身柄を確保したいと考えている。

 だがガルラとしては――聖堂教会という存在から、リンナを守りたい。

  愛したルワンの形見を、小さな時から成長を見守ってきた、大切な娘を守りたいとする彼の願いに、豪鬼もため息をつきながら、頷いた。


「……分かったよ。それがオレに出来る罪滅ぼしなんだろ?」

「話が分かるじゃねぇの」


  まだ豪鬼には、人類への愛情という感情を抱けない。

  それでも――今、小さな女の子を抱きしめて、輝かしい程の笑顔を浮かべる餓鬼の姿を見ていたら。

  そうした生き方を、何時の日か歩んでみたいと思える。


  それがいつの日になるかは分からないけれど――見つけられたら良いと、豪鬼は微笑むのである。
  
  
  **
  
  
 煙草を吸いながら源の泉を見据える一人の女性――菊谷ヤエ(B)。

  彼女は少し寂しそうな表情を浮かべながら、パチンと指を鳴らし、漆黒の穴とも形容すべき、地球と繋がる次元移動門を顕現させ、今その中へと身をくぐらせようとした――が。


〔ヤエさん〕

「げ。留守中に失礼をと思ったのになぁ」

〔……パワーさんへのお別れ?〕

「ああ、まぁな。アイツとは何だかんだ、付き合いもあったし」


 泉の守護を主な仕事とするアルハットに見つかった彼女は、苦笑と共に一度門を閉じて、彼女と向き合いながら、煙草の火を消した。


〔……もう、この世界で貴女がする事は無いの?〕

「ああ。お前やイルメール、クアンタがいる限り、このゴルサは安泰だろうよ。シドニアが後継者を遺せば、姫巫女も自然と生まれてくる。私は地球がフォーリナーに侵蝕されないよう、色んな組織にちょっかいをかけに行く」

〔そう……少し、寂しいわね〕

「そう寂しがってくれる奴がいるだけでも、それなりに私がいた意味があるというものだろう」


 ゴルサという世界にクアンタを送り込み、これまで幾度も手をこまねいてきたヤエの仕事は終わり、彼女が本来守るべき地球へと戻る。

  残された者たちは、ヤエがこれまで残してきたものを頼りに、秩序を安定させ、文明を発達させ続けていく。

  そうした在り方へ人類を導く役割を持つ者こそヤエ(B)であり、秩序を司る神霊の仕事である。


「私も、この世界では色々と楽しい事を経験させて貰った。長く生きてきたが、ここまでハチャメチャな世界は生まれて初めてだった。……それなりに、幸せだったよ」


 手を掲げ、アルハットにそう礼を言いながら指を鳴らし、再び次元移動門を作り出したヤエが、心残り等無いように、笑みを浮かべて消えていく。

  その姿を目に焼き付けながら――アルハットは心の中で小さく礼を返すのだが。



「やっべ忘れ物しちゃった。ねぇアルハット、この辺でさっき高いジッポ使ったんだけど、どこにあるか知らね? いやぁ、気まぐれで普段使わないのを使うと失くすよなぁ」

〔……知らない〕


 最後までこの神さまは、空気を色々と壊していくのだと、アルハットは小さくため息をついた。
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