私たちの試作機は最弱です

ミュート

文字の大きさ
30 / 191
第四章

愛情-04

しおりを挟む
 オレ――城坂織姫は、敵襲警報が鳴ると同時に起き上がり、神崎の家を走り去っていた。

  向かった場所は、格納庫区画。それも自身の秋風がある筈の、Cランク格納庫だ。

  格納庫を開け放ち、自身に与えられた授業用秋風の眼前に立ったオレは――迷いの表情を浮かべながらも、機体の装甲に触れ、よじ登ろうとした。


「止まって、姫ちゃん」

「哨、か」


 力ない声で、彼女の名を呼ぶ。

 明宮哨は、最初こそ悩むような顔で格納庫の入り口前で数秒立ち尽くしていたが、表情を引き締めて歩き出し、オレの手を掴んだ。


「どこに行こうって言うのさ」

「どこ……だろうな。多分、戦おうとしてるんだ」

「姫ちゃん、良く考えて。君は引き金を引く事が出来ないんだよ。

  そんな状態で、テロリストの所なんて行っても、やられるだけ。分かるでしょ?」

「だけどオレには――ADに乗る以外、出来る事なんて、無い」

「関係無い。姫ちゃんが出来る事とか、姫ちゃんの出生とか、そんな事はどうだっていい。どうだっていいんだよ」

「でも、敵はきっとミィリスだ。となれば――アイツがいる」


 リントヴルム。今まで戦った敵の中で、最強最悪のテロリスト。

 恐怖心も無く、信念も無く、ただ強い者と戦う事を……ただ殺し合う事を目的とし、敵を蹂躙する事しか考えぬ男。

 この学園の生徒が奴と戦っても、ただ死ぬだけだ。


「もし敵が、そのミィリスってテロ組織だったとしても、もう姫ちゃんはアーミー隊って所に居た姫ちゃんじゃない。その人と戦ったって、無駄死にするだけだよ」

「でも、放っておくことなんてできないだろうがっ!!」


 論理的に言い返す言葉が思い浮かばず、ただ叫び散らしてしまった。

 哨はオレの叫びに、ビクリと身体を震わせて、俯き――静かに涙を流した。


「……ボク、嫌だよ。今までは姫ちゃんが引き金を引けなかったのは、優しい子だからって思ってた。

 でも、違った。姫ちゃんが引き金を引けないのは、姫ちゃん自身が傷付いているからなんだ。

 姫ちゃんのお父さんが何を思って、姫ちゃんが生まれる前から遺伝子を弄繰り回したかなんて。

 何て想いを込めて作り上げたかなんて、ボクみたいな落ちこぼれにはわかんない。

 わかんないけど……だけど、死んじゃったら、嫌だもん……」


  ボロボロ零れる涙と、何時もの面影を無くし、小さく消えるような声を出す哨に、オレはただ、自分の仕出かした事に、後悔していた。


  ああ、ごめんよ。オレはお前に、笑っていてほしいんだよ。

  いつも笑顔の、お前が好きだよ。

  いつも楽しげなお前の事が、オレは大好きだよ。

  だから笑ってほしかった。笑ってほしいのに。


  ――オレは傷つけた。一人の女の子を。オレがADに乗ろうとする事で、この純粋無垢な女の子を。


  いいのか? この機体に乗る事で、また誰かを傷つける事になるんじゃないのか?

 その可能性を鑑みて、オレ自身が取らなければならない選択肢はどれだ?

 自問自答してみる。


 だが、答えなんか見つかるはずない。オレはただ押し黙り、哨から目を逸らしながら立ち尽くしていた。


  そんな時間が、どれだけ経過したのだろうか。


  哨はやがて、流していた涙を拭い、オレに向けて言い放つ。


「姫ちゃん、緊急用シェルターに行こう」


 哨の声は、まだ少し弱弱しかったが、それでもハッキリ言った声は、覚悟をまとっている。


「もう姫ちゃんに辛い思いはさせたくない。姫ちゃんが傷付かないためなら、ボクが睦さんやお姉さんに直談判する。

『姫ちゃんを巻き込まないでください』って。その後は整備科に来て、ボクと一緒に学ぼうよ。

 姫ちゃん、整備の事よく分かってるし、資格なんて簡単に取れちゃうよ」

「哨」

「そうだ。姫ちゃんがよかったらさ、ボクたち付き合おうよ。

 そうすれば青春エンジョイできるし、姫ちゃんが資格をすぐに取得してくれれば、平日でもデートが出来るよ」

「哨、聞いてくれ」

「嫌なんだ。姫ちゃんが目の前から居なくなるみたいで、嫌なんだよ。

 姫ちゃんがどこかのパイロットになったら、それに付いていくつもりだったんだ。

 ……だって、ボクの整備を見て、初めて認めてくれた男の子なんだもん。居なくなったら、嫌なんだ。

 ……大好き。大好きだもん……」


  沈黙。哨は、言いたい事を全て言い切ったのだろう。短くとも、心に響く言葉に違いはなかった。


  だったらオレも――たった今芽生えた、自分の思いを、気持ちを、全てぶつけるしかないのだ。


 ここに嘘は、絶対に許されない。


「オレはずっと、自分がしたいって思った事を、見つける事が出来なかった。

 軍に居た事だって、それしかする事がなかったからで……正直、バカみたいな理由だって思う」

「だったら」

「だけどオレは――今ハッキリと、理解した。

 オレは、オレに与えられたこの力で、誰かを守りたい。

 ちっぽけな人間で、武器もろくに持てなくて、何が出来るんだって、後ろ指を指されてもいい。

 この、ちっぽけなオレの力で、少しでも誰かが笑顔になるなら……オレはこの力を信じたい」


  目を見て、哨に思いの丈をぶつける。

  もうオレには、こうするしかない。何を考え込んでいたんだ、馬鹿の癖に。


  オレはそこまで頭が良くない。

 自身の事を良く知る事も無く、ただAD兵器に乗り続けて、いざその道が閉ざされそうになっても、それ以外する事がないからって、この機械に乗り続けようとしたバカが、じっと考え込んだ所で、本当に自分が認める無難な答えなんかに、辿り着けるもんか。


  だから、オレは哨の体を、ギュッと抱きしめた。


「オレも、哨が好きだよ。でも、オレは行かなきゃ」

「……バカだよ、姫ちゃん。やっぱバカだ」

「バカでいい――それで哨や、誰かを守れるんだったら」


  名残惜しさを残しながら、哨の体を離す。


 哨は「あ――」と声を漏らしながらオレに手を伸ばすが、彼女の手をすり抜け、秋風のコックピットから飛び出ていた、ラダーを掴んだ。


  オレと哨は、もう視線を交わらせる事は、なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...