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第四章

愛情-05

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 島音のどかは、高機動パックを装備した秋風の操縦桿、フットペダル、姿勢制御桿を同時に操作し、スラスターを思い切り吹かす。

  トリプルDだ。助走をつけたとシステムが誤認した秋風は、その場で対空を始め、その後背部スラスターを全力で吹かして、上空へ加速を開始する。

  上空でセンサーが捉えた機種は、普段センサーが認識する秋風や、民間船のものでは無い。

 ロシア空軍制式採用AD兵器である【ディエチ】である事を確認したのどかは、その場で機体を滞空させる。

 距離は後数キロ離れている。数は四。小隊編成である事を確認し、声を上げた。


「あー、日本語わかりますか~? こちら、AD学園生徒会役員、島音のどかで~す!」


 国際救難チャンネルで、数十キロ程度の無線受信が可能な場所へ送信をしている。聞こえているはずだ。(日本語がわかるかどうかは疑問だが)


「そちらはアタシたちの国に対して、攻撃行動を仕掛けていますんで、すぐに帰らないとただじゃおきませんよ~っ!」


 四機は停止すらしない。それどころか速度を速めたようだ。武装もこちらを向いているし、敵意が剥き出しだった。


「むー、やっぱ英語かロシア語じゃなきゃダメかな? でもアタシ勉強できないから、ごめんね?」


 謝罪と同時に、のどかは操縦桿を握り直し――素早い手つきで、それを操作し始める。

  急激に動き出した秋風、その動きを認識した瞬間、動作を戸惑わせたディエチ。

  秋風は背部スラスターを吹かしながら、手首部分から一本のレーザーサーベルを取り出し、それを展開して振り切った。


 先頭のディエチが一機、それを寸での所で回避した瞬間、秋風は即座に体を捻らせる。

 先頭の一機の後ろに隠れていた二機目に向けて、上空で回し蹴りをかますと同時に、レーザーサーベルをもう一本取り出し、振り切った事で焼き切られたディエチ。

 直後には既に小隊の進行方向とは逆方向に逃げ切っているのどか機。


  ディエチの小隊は唖然と言わんばかりに、ただ滞空していた。

 今の一瞬で、何が起こったのか、まだ認識が出来ていないらしい。


「出来なくていいよ。だってすぐにみんな、後を追うんだから……♪」


 のどかが舌なめずりをした瞬間、残った三機のディエチは、腕部のサブマシンガンを構えて、乱射していた。


  その姿は、物の怪に遭遇した幼子のように、震えているようにも見えた。

  
  **

  
  神崎紗彩子と城坂楠が、紗彩子の秋風に搭乗しながら、格納庫区画へと走っている。

 既に何機か、ディエチの軍勢がAD学園島に攻め込んでいるようで、対処をしようとする武兵隊の面々から通信が飛び交う。


『隊長! こちら二番機、出撃準備整いました!』

『三番機、同じく!』

『四番機、後五分ほどかかります! 申しわけありません!』


 届く声を聞きつつ、落ち着けと頭の中で唱えていた紗彩子に代わり、楠が通信機を取って声を上げた。


「こちら、生徒会長の秋沢楠です。現在、紗彩子さんの機体に保護されております」

『は――生徒会長!?』

「各員、四機編成で迎撃行動に入って下さい。決して無茶せず、相手のペースに乗らないで。あなた方は、自衛隊が態勢を立て直すまでの時間を稼げばいいのです」

『か、かしこまりました!』


 通信を切った楠。未だに項垂れている紗彩子。そんな彼女に向けて、楠が声を上げた。


「しっかりしなさいよ! アンタの家に居ないんなら、安全を考慮してシェルターに行ったのかもしれない。それなら一先ずは安心だから、アンタはアンタの仕事をすればいい!」

「……申しわけ、ありません」


 織姫の事を考えると、頭を冷静にさせる事が出来ない。

 紗彩子は楠の激励を素直に聞きながら反省し、まずは自らに与えられた仕事をこなそうと前を向いた――その時、今度は、紗彩子の携帯端末へ通信が届いた。今は実戦中だと考え、機体と無線通信で繋ぎ、その通話に出る。

 後にしてくれと言うつもりだったが――その考えも裏切られる。


「こちら神崎、現在立て込んで」

『神崎、オレだ!』

「お……織姫さん!?」

「お兄ちゃん!?」


 紗彩子と同じく、その声に驚く楠。シェルターには、音声通話を可能とする電波は届かない。であるのに、彼が通話を掛けてきた――という事は。


「今、通話が可能なエリアにいるという事ですか? シェルターにはいないと、そう言う事なのですか!?」

『楠もいるのか。なら丁度いい、急いで合流しよう』

「いけません。貴方が戦いに赴く事は」


 そこで、音声通話が強制的に遮断される。妨害電波が発せられており、それが開戦の合図だと、紗彩子はそこで初めて気づいた。


「数――五つ!」


 楠がセンサーの把握した数を口に出し、紗彩子は気を引き締めて、交戦を開始。高火力パックに搭載された外部センサーを活かして、五機を補足した。

  上空。奥に居る五機編成の内、一機は大型のガトリングガンをマウントしているが、それ以外の四機は、腕部のサブマシンガンをこちらに向けて、放ってくる。

 銃弾が弾幕として張られている事に舌打ちをしながら後方に飛び退きつつ、115㎜砲の砲身を向けて、放つ。それが一機の腕部を貫いたが、攻撃の手は緩まない。


「こん――のぉ!」


 上空から接近を仕掛けてきた、先ほど腕部を負傷した機体に向けて、サイドアーマーに搭載されたレーザーサーベルを突き立てると、サーベルはコックピットを直撃し、その動力が失われ、落ちていく。

 爆ぜる機体。その軌跡を見据えながら、紗彩子は後ろめたい気持ちを胸に抱いた。


「――殺してしまった」


 覚悟をしていた事とは言え、少しだけ気分が重くなる。

 その為か一瞬だけ隙が生まれたようで、奥に居た一機がガトリング砲を構え、引き金を引いた。

 先ほどまでの砲身から放たれる銃弾とは比べものにならない破壊力で放たれた銃弾を、秋風の装甲が受け止める。貫きはしないが、確実に届くダメージが、各所に異常を知らせる。


「何やってんの、ちゃんと敵を見て!」

「っ、分かっています――!」


 楠に再び叱咤され、意識を戻した紗彩子が機体を後退をさせつつ、115㎜砲を奥の一機に向けたが、その機体はすぐにその射線上から逃れるばかりか前進を開始し、紗彩子機の眼前へと降り立ったのだ。

  ディエチの単眼が、ギロリと睨んだ気がして、コックピットの中に居た、紗彩子と楠の体が、ブルリと震える。


  手にいつの間にかダガーナイフを構えていたディエチが、切先を、秋風のコックピットへと突き立てようとしていたが――。
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