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第四章
愛情-08
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フルフレームと秋風の攻防は、どれだけ繰り広げられたか、久瀬良司にはその時間を体感する事も出来ていない。
「これは――死を覚悟する事も、忘れない方がいいな」
小さく呟いた良司は、既に落とされた右腕部の操作を行う事無く、左手に装備された短剣型ユニット『四川』を振り込むと、ダガーナイフがそれを防いだ。
『青いんだよぉ!』
「青くて――結構!」
接触回線で交わる二人の会話。英語と日本語のやり取りの後、二機の斬り合いが終わる。
フルフレームの四川が、空を舞い。
フルフレームの左腕部が、切り裂かれていた。
「く……不覚っ」
嘆きの言葉を放った次の瞬間、リントヴルム機が、右腕の手でフルフレームの首を握り締め、機体をコンクリートの壁に叩きつけた。
『よぉ、オメェは知ってるか? この島にUIGがあるって話し』
「ゆ、UIG……? ある筈が無い。連邦同盟に反する……!」
『あーらら。テストパイロットなら場所知ってるかと思ったんだけどよぉ……まあ、別にいいさ。地図見るのは得意なんだ』
しばし、沈黙の時間。何時まで経っても、リントヴルムはコックピットごと、良司の事を殺しはしない。
「な、なにを――している?」
『なに。こっちのアキカゼにゃ、大した情報入ってなくてなぁ。接触回線で、オメェの機体にクラッキング仕掛けてんだ、っと。……ビンゴだ』
メインモニタ隅に映る、一つの地図データ。それは良司の機体内にある、学園島の断面図である。
学園島には様々な地下施設が存在する事は、良司とて知っている。だが今まで断面図などを見る必要は無いと思っていた。
『ここ。――不自然だと思わねぇか?』
タッチパネルによって付けられる丸が示す場所は――学園島隅、高等部区画の地下。周りの地下施設よりも大きな空洞が存在する。
廃棄物貯蔵庫と書かれてはいるが、それにしては大きすぎる空洞。確かに、言われてみれば不自然だ。
――これほどの空洞があれば、確かにUIGを建造する事は可能だろう。
『サンキュ。礼っちゃなんだが、お前も殺さないでおいてやる』
「ま、待てっ」
『待ちゃしねぇよ』
最後にそう言い放ったリントヴルムは、良司の機体から、弾数が残り一しかない115㎜滑腔砲の砲身を奪って肩に担ぎ、その機体スラスターを吹かしながら、地面を強く蹴り付けて、リントヴルム機はその場から脱兎の如く、走り去っていった。
**
「お兄ちゃんが聞いた雷神プロジェクトは、おそらく初期原案」
「初期原案?」
サブシートに腰かける楠に問いかけながら、オレは神崎機のコックピット隅にある物置に腰を下ろしていた。
「そう。雷神プロジェクト自体は、連邦同盟が生まれる時位から思案されていた。その時の初期原案を、お兄ちゃんは聞いたんだと思う」
「それが『圧倒的戦闘能力を持ち得るAD兵器と、それを操るパイロットを国が複数所有して、新ソ連を牽制する事を目的としたプロジェクト』だっていうのか?」
「うん。でも、今の雷神プロジェクトは違う。後に改訂されて『お兄ちゃんが幸せに戦う事が出来る世界』を生み出す為の計画に生まれ変わったの」
「意味が、分からない。例えほんの少し内容が変わったとしても、『オレの幸せ』が、どうして雷神プロジェクトから生まれる事になる?」
「順に説明していくよ。――神崎さん、この地図に従って移動して」
「分かりました」
操縦席に座りながら、機体を動かしている神崎が楠の携帯端末を手に取った。指示通りに操縦を行う神崎に礼をしつつ、オレは楠と向き合った。
「まず雷神プロジェクトが生まれる前に、連邦同盟と新ソ連って括りが生まれた事自体が問題だった」
「巨大な軍事国家を作らないようにする為に考案された情報開示と規制の条約が、かえってAD兵器製造技術を持たない国を刺激しちまった……って事だよな?」
「そう。新ソ連って呼ばれるに相応しい国々は、連邦加盟国と同じ技術力を有したいと言う以上に、他国を圧倒できる多大な軍事力を求めていた。
だからAD生産総数の上限が定められている連邦同盟を蹴って、更に連邦加盟国の持つ情報を欲しがった。
今回、AD学園へと攻め込んでいるロシア系テロ組織【ミィリス】も、情報を得たいと考えているロシア政府がバックに付いた上で、行動している」
テロ組織を国が運用し、他国の情報をテロ組織が入手。入手された情報を元に国が新技術を開発し、大量生産をする事で強大な軍事力を有する。それが、新ソ連と一括りに呼ばれる国々の目的だ。
「城坂修一――お父さんは、この二つの括りを危険視した結果、初期原案の雷神プロジェクトを企画した。人道と国益を無視した、ある意味では『世界が平和になる為の夢物語』を」
核の保有と同じく、強大な力を用いた新ソ連への牽制――それが雷神プロジェクトであった。
「でも、そこでお父さんは気が付いた」
それではただ、繰り返すだけだと。
新ソ連系国家は、またその情報を得ようとして、テロ組織を戦いに扇動する。
連邦同盟が戦う為の力を強めれば――火種はまた大きくなるだけ。
争いは終わらない。世界はまとまることは無い。
城坂修一は、そう思い知らされてしまったのだ。
「だからお父さんは、計画そのものを作り変えた。
――強大な力を持つ事が出来る兵器をあえて【最弱】とする、新たな【雷神プロジェクト】を」
「あえて、最弱に? 一体、どういう事なのですか」
神崎の手が、一旦止まる。操縦を緩めたわけでは無い。楠が指定した地点へ到着したと言う意味だ。
格納庫区画の中で、一番古い格納庫――そこはオレが姉ちゃんに連れてこられた、四六が所有する試作UIGへと繋がるシャッターがある格納庫だ。
楠がコックピットを開け放ち、ハッチに足を付けると、神崎から返却された携帯端末を、格納庫へと向けた。
無線通信で開け放たれる格納庫の外壁。そして中へと入ると、今度は姉ちゃんが操作していた認証キィへ向けて、端末を向ける。
それも恐らく、無線通信でロックを解除したのだろう。大きな音を轟かせながら、地底を隠すシャッターが開け放たれていき、道を覗かせた。
先日と同じく、AD兵器三機分の道が確保された大きな空洞を見据えて、楠が「降りて」と神崎へと指示を出す。
機体を空洞へと向けると、ADが降下する為に用意されたラダーがある事を知る神崎。神崎機はそれを掴んだ上で、機体を少しずつ降下させていく。
「最弱の機体って言うのは、その通りの意味だよ。機体スペックはそのままに、火器管制システムを排除。
つまり雷神は――火器を用いて相手を殺す事が出来ない兵器に生まれ変わった」
神崎の操る秋風が、降下をし終えて着地する。
眼前には大きな門。楠はオレの手を握り、機体コックピットからラダーを射出した。
ラダーを掴んだ楠に連れられて、神崎機から降りたオレ達。楠は、門の眼前に立ちながら、携帯端末を最後に一回だけ、操作した。
突如、開かれる門。その奥に見えるのは、ただっ広い工廠。
工廠の奥に、一つのAD兵器。それは自動整備装置に身体を預け、出撃を今か今かと、待っている状態だ。
白く、美しい機体だと思った。
双眼式メインセンサ、秋風よりも細く、しかし四肢は肥大化して、やはり肩部に身に付けられた電磁誘導装置が印象強い全身。
背部には秋風の高機動パックに似たフライトユニットを身に着けて、各部スラスターは大型化を施されている。
「GIX-P001【雷神】――お兄ちゃんと『私』が、乗るべき機体」
「オレと、楠が?」
コクンと頷いた楠と共に、機体に向けて歩き出す。
「これは――死を覚悟する事も、忘れない方がいいな」
小さく呟いた良司は、既に落とされた右腕部の操作を行う事無く、左手に装備された短剣型ユニット『四川』を振り込むと、ダガーナイフがそれを防いだ。
『青いんだよぉ!』
「青くて――結構!」
接触回線で交わる二人の会話。英語と日本語のやり取りの後、二機の斬り合いが終わる。
フルフレームの四川が、空を舞い。
フルフレームの左腕部が、切り裂かれていた。
「く……不覚っ」
嘆きの言葉を放った次の瞬間、リントヴルム機が、右腕の手でフルフレームの首を握り締め、機体をコンクリートの壁に叩きつけた。
『よぉ、オメェは知ってるか? この島にUIGがあるって話し』
「ゆ、UIG……? ある筈が無い。連邦同盟に反する……!」
『あーらら。テストパイロットなら場所知ってるかと思ったんだけどよぉ……まあ、別にいいさ。地図見るのは得意なんだ』
しばし、沈黙の時間。何時まで経っても、リントヴルムはコックピットごと、良司の事を殺しはしない。
「な、なにを――している?」
『なに。こっちのアキカゼにゃ、大した情報入ってなくてなぁ。接触回線で、オメェの機体にクラッキング仕掛けてんだ、っと。……ビンゴだ』
メインモニタ隅に映る、一つの地図データ。それは良司の機体内にある、学園島の断面図である。
学園島には様々な地下施設が存在する事は、良司とて知っている。だが今まで断面図などを見る必要は無いと思っていた。
『ここ。――不自然だと思わねぇか?』
タッチパネルによって付けられる丸が示す場所は――学園島隅、高等部区画の地下。周りの地下施設よりも大きな空洞が存在する。
廃棄物貯蔵庫と書かれてはいるが、それにしては大きすぎる空洞。確かに、言われてみれば不自然だ。
――これほどの空洞があれば、確かにUIGを建造する事は可能だろう。
『サンキュ。礼っちゃなんだが、お前も殺さないでおいてやる』
「ま、待てっ」
『待ちゃしねぇよ』
最後にそう言い放ったリントヴルムは、良司の機体から、弾数が残り一しかない115㎜滑腔砲の砲身を奪って肩に担ぎ、その機体スラスターを吹かしながら、地面を強く蹴り付けて、リントヴルム機はその場から脱兎の如く、走り去っていった。
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「お兄ちゃんが聞いた雷神プロジェクトは、おそらく初期原案」
「初期原案?」
サブシートに腰かける楠に問いかけながら、オレは神崎機のコックピット隅にある物置に腰を下ろしていた。
「そう。雷神プロジェクト自体は、連邦同盟が生まれる時位から思案されていた。その時の初期原案を、お兄ちゃんは聞いたんだと思う」
「それが『圧倒的戦闘能力を持ち得るAD兵器と、それを操るパイロットを国が複数所有して、新ソ連を牽制する事を目的としたプロジェクト』だっていうのか?」
「うん。でも、今の雷神プロジェクトは違う。後に改訂されて『お兄ちゃんが幸せに戦う事が出来る世界』を生み出す為の計画に生まれ変わったの」
「意味が、分からない。例えほんの少し内容が変わったとしても、『オレの幸せ』が、どうして雷神プロジェクトから生まれる事になる?」
「順に説明していくよ。――神崎さん、この地図に従って移動して」
「分かりました」
操縦席に座りながら、機体を動かしている神崎が楠の携帯端末を手に取った。指示通りに操縦を行う神崎に礼をしつつ、オレは楠と向き合った。
「まず雷神プロジェクトが生まれる前に、連邦同盟と新ソ連って括りが生まれた事自体が問題だった」
「巨大な軍事国家を作らないようにする為に考案された情報開示と規制の条約が、かえってAD兵器製造技術を持たない国を刺激しちまった……って事だよな?」
「そう。新ソ連って呼ばれるに相応しい国々は、連邦加盟国と同じ技術力を有したいと言う以上に、他国を圧倒できる多大な軍事力を求めていた。
だからAD生産総数の上限が定められている連邦同盟を蹴って、更に連邦加盟国の持つ情報を欲しがった。
今回、AD学園へと攻め込んでいるロシア系テロ組織【ミィリス】も、情報を得たいと考えているロシア政府がバックに付いた上で、行動している」
テロ組織を国が運用し、他国の情報をテロ組織が入手。入手された情報を元に国が新技術を開発し、大量生産をする事で強大な軍事力を有する。それが、新ソ連と一括りに呼ばれる国々の目的だ。
「城坂修一――お父さんは、この二つの括りを危険視した結果、初期原案の雷神プロジェクトを企画した。人道と国益を無視した、ある意味では『世界が平和になる為の夢物語』を」
核の保有と同じく、強大な力を用いた新ソ連への牽制――それが雷神プロジェクトであった。
「でも、そこでお父さんは気が付いた」
それではただ、繰り返すだけだと。
新ソ連系国家は、またその情報を得ようとして、テロ組織を戦いに扇動する。
連邦同盟が戦う為の力を強めれば――火種はまた大きくなるだけ。
争いは終わらない。世界はまとまることは無い。
城坂修一は、そう思い知らされてしまったのだ。
「だからお父さんは、計画そのものを作り変えた。
――強大な力を持つ事が出来る兵器をあえて【最弱】とする、新たな【雷神プロジェクト】を」
「あえて、最弱に? 一体、どういう事なのですか」
神崎の手が、一旦止まる。操縦を緩めたわけでは無い。楠が指定した地点へ到着したと言う意味だ。
格納庫区画の中で、一番古い格納庫――そこはオレが姉ちゃんに連れてこられた、四六が所有する試作UIGへと繋がるシャッターがある格納庫だ。
楠がコックピットを開け放ち、ハッチに足を付けると、神崎から返却された携帯端末を、格納庫へと向けた。
無線通信で開け放たれる格納庫の外壁。そして中へと入ると、今度は姉ちゃんが操作していた認証キィへ向けて、端末を向ける。
それも恐らく、無線通信でロックを解除したのだろう。大きな音を轟かせながら、地底を隠すシャッターが開け放たれていき、道を覗かせた。
先日と同じく、AD兵器三機分の道が確保された大きな空洞を見据えて、楠が「降りて」と神崎へと指示を出す。
機体を空洞へと向けると、ADが降下する為に用意されたラダーがある事を知る神崎。神崎機はそれを掴んだ上で、機体を少しずつ降下させていく。
「最弱の機体って言うのは、その通りの意味だよ。機体スペックはそのままに、火器管制システムを排除。
つまり雷神は――火器を用いて相手を殺す事が出来ない兵器に生まれ変わった」
神崎の操る秋風が、降下をし終えて着地する。
眼前には大きな門。楠はオレの手を握り、機体コックピットからラダーを射出した。
ラダーを掴んだ楠に連れられて、神崎機から降りたオレ達。楠は、門の眼前に立ちながら、携帯端末を最後に一回だけ、操作した。
突如、開かれる門。その奥に見えるのは、ただっ広い工廠。
工廠の奥に、一つのAD兵器。それは自動整備装置に身体を預け、出撃を今か今かと、待っている状態だ。
白く、美しい機体だと思った。
双眼式メインセンサ、秋風よりも細く、しかし四肢は肥大化して、やはり肩部に身に付けられた電磁誘導装置が印象強い全身。
背部には秋風の高機動パックに似たフライトユニットを身に着けて、各部スラスターは大型化を施されている。
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