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第五章
青春の始まり-04
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試作UIGから、先ほどまでごたごたに巻き込まれていた子供たちが、帰ってゆく。
その姿を見送りながら、霜山睦はフッと息を付いた。
「彼らは、我々の目的に同意してくれますかな?」
睦の副官である遠藤が小さく問いかけると、睦は首を振った。
「分かりません。賢い子供たちではありますが、雷神プロジェクトはまだ、ただの夢物語です。
それに同意するかどうかは、彼らが本当に『この国の平和を願う子供たち』かどうかです」
睦の本心としては、同意してくれると願いたい。しかし、彼女たちが目指す未来はあまりに脆く、そして論理的ではない。
賢い子供達だからこそ、この願いに賛同するかどうかは、分の悪い賭けだった。
せめて祈ろうと、ただ顔を伏せて彼らを見送っていると――雷神の機体前で立ち尽くす、一人の少年が居た。
城坂織姫だ。睦はシェルターから身を出して、彼の元へと駆けていく。
「どうしたのですか? 皆さんとご一緒に帰らないので?」
「ああ。まだ聞きたい事があったんだよ」
織姫は、睦へと視線を向ける事無く、ただ雷神を見ながら、彼女へと問いかける。
「何でアンタは姉ちゃんの願い通り、オレに初期原案の雷神プロジェクトを教えたんだ?
オレを雷神プロジェクトに誘いたかったんなら、姉ちゃんの意向なんか無視して、オレに本当の事を教えればよかっただろ?」
城坂聖奈は彼を守る為に、彼を意図的に傷つけようとして、初期原案の雷神プロジェクトを教えるよう、睦へと進言した。
だが睦としては確かに、織姫が雷神プロジェクトに賛同してくれた方が、都合が良い。
「あなたは、きっと傷付いても立ち直られる筈だと、信じていましたから」
睦は、自身の口からさらりと出た言葉に、自分自身驚きながらも、だがその答えが事実であると認め、微笑んだ。
「……それに! 絶望の後に希望を見せられた方が、人間と言うのは気持ちを揺るがせてくれるんですよ?
事実、あなたは見事立ち直り、こうしてこの機体に乗り込んでくれました」
だがそれだけでは何となく負けた気分になる。少しばかりイジワルな言葉を放つと、織姫もフッと笑みを浮かべた。
「アンタも策士だな」
「ええ。私は城坂修一様の、部下ですから」
「アンタと親父は、どういう関係だったんだ?」
「城坂修一様が、高田重工の役員だった頃、彼の部下として働いていた時期があったのです。
それ以降から私はずっと、あの人に御心を捧げてまいりました」
彼の平和を愛する心に対し、霜山睦は信仰した。その願いを聞き届けた織姫は――しばし何か考える様に、睦へと視線を向けた。
「皆が、どうするかは分からないけれど――オレは、アンタに付いていくよ」
「……いいのですか?」
「ああ。――オレは、親父の願った夢物語を、信じてみたい」
織姫が、睦に対して手を伸ばし、睦は彼の手を恐る恐る、握る。
その手は、その温もりは、彼女が信じた男性――城坂修一と、本当にそっくりだった。
「……雷神はもう、あなたと楠さんの機体です。授業でも模擬戦でも、自由にお使い下さい」
「え。いいのか?」
「はい。既にその存在が新ソ連へ知れてしまったのならば、もう隠す必要はありません。
あなた方が幸せに戦える機体なのです。思うがままに、お使い下さい」
それが、城坂修一の願う夢の第一歩だと。
霜山睦は、城坂織姫に、そう語り掛けた。
**
「へぇ。じゃあ姫ちゃんは、やっぱり四六で働く事にしたんだ」
「学生やりながら、時々色んな演習とか出向いて、雷神プロジェクトの結果を見せる仕事、らしいな」
「大変じゃないの?」
「かもな。でも」
「でも?」
「初めて――戦う事以外の【夢】を、見つけられるかもしれないんだ。初めて自分の力で、何かを成す事が、出来るかもしれないって、思えたから」
「……カッコいいよ、その顔。お姫様じゃなくて、王子様みたい」
「いいね、王子様。姫なんかの百倍良い」
「でも、最近のお姫様って、すごいアグレッシブなんだよ。ボクもそんなお姫様に、なってやるから」
「哨?」
「ボクも付いていく。姫ちゃん王子がどんな事をしようと、付いていくお姫様になるって、今決めた。
――ボクの大好きな姫ちゃんに、何時までも付いていく」
**
「何それ、なんでそんな面白そーな事態に、アタシはディエチたちの討伐なんてつまんない事してなきゃいけなかったの!?」
「いやそれが生徒会の仕事なんだが」
「久瀬は黙っててよー! ねえねえ姫ちゃんと会長ー、その雷神って奴に乗ってアタシとヤろうよー。すっごく気持ちいい事だよー、いいじゃんいいじゃーん」
「島根さん、変な言い方は止めなさい……!」
「ていうか会長が良い子ぶりっ子してたのはもう知っちゃったんだから、普通に喋ればいいのに」
「あ、う、それは……っ」
「それはいいな。オレも楠がキリッとしてると、なんか落ち着かないから」
「お、お兄ちゃんってば!」
「じゃーアタシ、その雷神プロジェクトって奴にノったげる! そうすればもっと面白い事になるんでしょ!?」
「のどか、あなたはもう少し冷静に物事を考える事を覚えなさいな……」
「そう言う明宮姉は、雷神プロジェクトに賛同するんだろ」
「当たり前です。哨が参加するとなるならば、地獄の果てまで付いていきます。清水はどうするのですか?」
「もちろん参加する。秋風のOMSを弄るよりはるかに面白いからな、雷神のOMSは」
「会長補佐は」
「あぁ。少しばかり考えたが、僕も参加する事にする。言いにくいが、確かに面白そうだとは思う」
「明久も参加するでしょー? するよね!?」
「俺の幸運が願掛けとまで言われちゃ、参加しないわけにゃいかねぇよ!」
「よっしゃーっ! これで生徒会の全員参加決定っ!!」
「……何とも、にぎやかになりそうだな、楠」
「あはは……そうだね」
**
「私は今回の一件で、日本に足りない物は危機感と、実戦経験の皆無さであると言う事を学びました」
「そんなに難しい話だったか?」
「その通りです。確かに雷神プロジェクトと言う計画は、一人の人間として感想を述べるのならば、素晴らしいと称賛したい。
人の中にある心を揺さぶり、人に諍いを嫌う心を持たせる、良い計画であるとは思います。ですが、現実はそう甘くは無いのです。
連邦同盟と新ソ連と言う括りがある以上、人類はまだまだ、戦い続けるでしょう。私は、その根本的な問題を是正したい」
「じゃあ、神崎は」
「ええ。皆さんとは違う道を選ぶ事になる――とは思います。
ですが、だからと言って四六と言う存在を、雷神プロジェクトを否定するわけではありません。
私は違う立場から、皆さんをサポートし続けます。正規軍人となり、皆さんの命を守っていける道を選べれば、幸いです」
「神崎も、自分の道を選んだんだな」
「――これも、貴方と言う存在のおかげです。愛しい織姫さま」
その姿を見送りながら、霜山睦はフッと息を付いた。
「彼らは、我々の目的に同意してくれますかな?」
睦の副官である遠藤が小さく問いかけると、睦は首を振った。
「分かりません。賢い子供たちではありますが、雷神プロジェクトはまだ、ただの夢物語です。
それに同意するかどうかは、彼らが本当に『この国の平和を願う子供たち』かどうかです」
睦の本心としては、同意してくれると願いたい。しかし、彼女たちが目指す未来はあまりに脆く、そして論理的ではない。
賢い子供達だからこそ、この願いに賛同するかどうかは、分の悪い賭けだった。
せめて祈ろうと、ただ顔を伏せて彼らを見送っていると――雷神の機体前で立ち尽くす、一人の少年が居た。
城坂織姫だ。睦はシェルターから身を出して、彼の元へと駆けていく。
「どうしたのですか? 皆さんとご一緒に帰らないので?」
「ああ。まだ聞きたい事があったんだよ」
織姫は、睦へと視線を向ける事無く、ただ雷神を見ながら、彼女へと問いかける。
「何でアンタは姉ちゃんの願い通り、オレに初期原案の雷神プロジェクトを教えたんだ?
オレを雷神プロジェクトに誘いたかったんなら、姉ちゃんの意向なんか無視して、オレに本当の事を教えればよかっただろ?」
城坂聖奈は彼を守る為に、彼を意図的に傷つけようとして、初期原案の雷神プロジェクトを教えるよう、睦へと進言した。
だが睦としては確かに、織姫が雷神プロジェクトに賛同してくれた方が、都合が良い。
「あなたは、きっと傷付いても立ち直られる筈だと、信じていましたから」
睦は、自身の口からさらりと出た言葉に、自分自身驚きながらも、だがその答えが事実であると認め、微笑んだ。
「……それに! 絶望の後に希望を見せられた方が、人間と言うのは気持ちを揺るがせてくれるんですよ?
事実、あなたは見事立ち直り、こうしてこの機体に乗り込んでくれました」
だがそれだけでは何となく負けた気分になる。少しばかりイジワルな言葉を放つと、織姫もフッと笑みを浮かべた。
「アンタも策士だな」
「ええ。私は城坂修一様の、部下ですから」
「アンタと親父は、どういう関係だったんだ?」
「城坂修一様が、高田重工の役員だった頃、彼の部下として働いていた時期があったのです。
それ以降から私はずっと、あの人に御心を捧げてまいりました」
彼の平和を愛する心に対し、霜山睦は信仰した。その願いを聞き届けた織姫は――しばし何か考える様に、睦へと視線を向けた。
「皆が、どうするかは分からないけれど――オレは、アンタに付いていくよ」
「……いいのですか?」
「ああ。――オレは、親父の願った夢物語を、信じてみたい」
織姫が、睦に対して手を伸ばし、睦は彼の手を恐る恐る、握る。
その手は、その温もりは、彼女が信じた男性――城坂修一と、本当にそっくりだった。
「……雷神はもう、あなたと楠さんの機体です。授業でも模擬戦でも、自由にお使い下さい」
「え。いいのか?」
「はい。既にその存在が新ソ連へ知れてしまったのならば、もう隠す必要はありません。
あなた方が幸せに戦える機体なのです。思うがままに、お使い下さい」
それが、城坂修一の願う夢の第一歩だと。
霜山睦は、城坂織姫に、そう語り掛けた。
**
「へぇ。じゃあ姫ちゃんは、やっぱり四六で働く事にしたんだ」
「学生やりながら、時々色んな演習とか出向いて、雷神プロジェクトの結果を見せる仕事、らしいな」
「大変じゃないの?」
「かもな。でも」
「でも?」
「初めて――戦う事以外の【夢】を、見つけられるかもしれないんだ。初めて自分の力で、何かを成す事が、出来るかもしれないって、思えたから」
「……カッコいいよ、その顔。お姫様じゃなくて、王子様みたい」
「いいね、王子様。姫なんかの百倍良い」
「でも、最近のお姫様って、すごいアグレッシブなんだよ。ボクもそんなお姫様に、なってやるから」
「哨?」
「ボクも付いていく。姫ちゃん王子がどんな事をしようと、付いていくお姫様になるって、今決めた。
――ボクの大好きな姫ちゃんに、何時までも付いていく」
**
「何それ、なんでそんな面白そーな事態に、アタシはディエチたちの討伐なんてつまんない事してなきゃいけなかったの!?」
「いやそれが生徒会の仕事なんだが」
「久瀬は黙っててよー! ねえねえ姫ちゃんと会長ー、その雷神って奴に乗ってアタシとヤろうよー。すっごく気持ちいい事だよー、いいじゃんいいじゃーん」
「島根さん、変な言い方は止めなさい……!」
「ていうか会長が良い子ぶりっ子してたのはもう知っちゃったんだから、普通に喋ればいいのに」
「あ、う、それは……っ」
「それはいいな。オレも楠がキリッとしてると、なんか落ち着かないから」
「お、お兄ちゃんってば!」
「じゃーアタシ、その雷神プロジェクトって奴にノったげる! そうすればもっと面白い事になるんでしょ!?」
「のどか、あなたはもう少し冷静に物事を考える事を覚えなさいな……」
「そう言う明宮姉は、雷神プロジェクトに賛同するんだろ」
「当たり前です。哨が参加するとなるならば、地獄の果てまで付いていきます。清水はどうするのですか?」
「もちろん参加する。秋風のOMSを弄るよりはるかに面白いからな、雷神のOMSは」
「会長補佐は」
「あぁ。少しばかり考えたが、僕も参加する事にする。言いにくいが、確かに面白そうだとは思う」
「明久も参加するでしょー? するよね!?」
「俺の幸運が願掛けとまで言われちゃ、参加しないわけにゃいかねぇよ!」
「よっしゃーっ! これで生徒会の全員参加決定っ!!」
「……何とも、にぎやかになりそうだな、楠」
「あはは……そうだね」
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「私は今回の一件で、日本に足りない物は危機感と、実戦経験の皆無さであると言う事を学びました」
「そんなに難しい話だったか?」
「その通りです。確かに雷神プロジェクトと言う計画は、一人の人間として感想を述べるのならば、素晴らしいと称賛したい。
人の中にある心を揺さぶり、人に諍いを嫌う心を持たせる、良い計画であるとは思います。ですが、現実はそう甘くは無いのです。
連邦同盟と新ソ連と言う括りがある以上、人類はまだまだ、戦い続けるでしょう。私は、その根本的な問題を是正したい」
「じゃあ、神崎は」
「ええ。皆さんとは違う道を選ぶ事になる――とは思います。
ですが、だからと言って四六と言う存在を、雷神プロジェクトを否定するわけではありません。
私は違う立場から、皆さんをサポートし続けます。正規軍人となり、皆さんの命を守っていける道を選べれば、幸いです」
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