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第五章
青春の始まり-03
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その後、テロ組織【ミィリス】の撤退は、非常に早かった。
最初こそ強襲を仕掛けられて出鼻を挫かれたAD学園駐留基地と横須賀基地であったが、AD学園の防衛は武兵隊の面々や、生徒会会計の島根のどかにより行われ、その防衛力によって二つの基地は体制を立て直す事が出来た。
戦況を読んだミィリスの部隊は撤退。AD学園は死傷者ゼロと、奇跡的な結果を残す事となったのだ。
無線より流れる報告を武兵隊の面々から聞き、雷神のコックピットから降りたオレと楠は、皆が待つ試作UIGのシェルターへと駆けこんだ。
「姫ちゃぁ――んっ!!」
駆けつけたオレの身体を力強く抱きしめながら、泣き散らす哨の頭を撫でながら、その場にいる面々を確認する。
哨、梢さん、清水先輩、姉ちゃん、久瀬先輩、村上――
全員がそれぞれ無事である事を確認した上で息を吐くと、姉ちゃんも涙を流しながら、オレの頭を撫でる。
「よく……よく頑張ったわね……姫ちゃん、楠ちゃん……!」
泣きながらだから、少しばかり発音をし難そうに姉ちゃんが言う言葉を噛み締めながら、オレが皆に視線を送ると、久瀬先輩は、一体この事態が何事だったのかと言わんばかりに、無表情で顔面にかける眼鏡を整えた。
「……事情を、説明して頂きたいのですが」
「あー……同じく」
久瀬先輩の言葉と共に、村上も手を上げた。
彼に関してはリントヴルムに殺されかかってる。今も尚地面に尻を付け、恐怖で震えているようだった。
「では私から、説明いたします」
霜山睦さんだ。
彼女は、シェルターへと姿を見せると、一度オレに向けてフフッと笑みを浮かべつつ、まずは自分の正体とこの試作UIGについてを、二人に教えた。
「その試作UIGを持つ、四六という組織が、あの白いAD兵器を作り上げたと? 一体、何のために」
モニターには、未だ雷神の姿が映されている。睦さんは「当然の疑問です」と放ちながらも、語り始める。
――雷神プロジェクトと言うもの。
――考案を行った、城坂修一と言う人間の事を。
だがそれはオレや哨、清水先輩へ語った、初期原案の雷神プロジェクトそのままだった。
「それは、初期原案なんだろ? 親父はその後に雷神を、武器の使えない機体に作り変えたって聞いたぞ」
「その通り。城坂修一様は最終的に雷神の火器管制システムを削除する事によって、あの機体をAD開発史上最高の『最弱機体』として仕上げました。
ですがそれでは、どうやって戦争の無い世界を作り上げようとしたと思いますか?」
雷神プロジェクトは本来、圧倒的戦闘能力を持つAD兵器を国が複数機所有する事で、敵への牽制を目的として考案されたプロジェクトである。
で、あるのならば。確かに武器を持てぬ雷神が複数機製造された所で、防衛力はたかが知れているだろう。
雷神は決して、自らの力で敵を殺すことが出来ぬ機体だ。
先ほど行われた死闘の様に、いちいち敵機を殴り、蹴り、大破させる事など、非効率極まりない。
AD兵器は無敵じゃ無い。銃弾の一発で装甲がイカレてお陀仏の、たった一つの兵器システムだ。
「――お父さんは」
姉ちゃんが、その会話に割って入り、語り始める。
「城坂修一は、このプロジェクトを世界に発信する事自体を、最終目的とした。
人を殺さぬ戦争行為。兵器と言う括りでありながら、人を殺すのではなく、守る事に特化した戦いを行う事で、いずれ日本と言う国は、世界に提唱出来る。
『世界は、争う必要は無い。人は傷付け合う必要は無い』って。それがお父さんの提唱した願いの為に生まれた新しい【雷神プロジェクト】
――その、叶う事なき、夢」
そう。その願いもまた――ただの夢物語だ。
日本だけが。そして日本の中でも、城坂織姫と城坂楠と雷神だけが、そんな存在になっても、意味など無いのだ。
この三つの存在だけで、世界中にその夢を届ける事など、出来はしないのだから。
「願う事は――素晴らしい事だと思う」
「はい。所詮は綺麗事です」
苦笑を浮かべる、睦さん。
「願う事だけならば容易い。城坂修一様がまだご存命であれば、その夢を叶える事は、出来たかもしれません。
ひょっとすれば、戦争を無くす事が、本当に出来たかもしれません」
だが、もう親父は居ない。この日本の、そして世界の事を誰より愛した父が残した祈りは、もう叶う事は無いのだ。
「……でも、俺はその話を聞けて、良かった」
そう、小さく呟く。
「少なくとも親父は……呪いじゃなくて、人の未来を願って、俺に、楠に、この力を託したんだ。……誰かを守れる、傷つける事の無い、この力を」
オレが言って微笑むと。睦さんはニッコリと笑顔を浮かべながら、その場にいる全員に向けて、言い放つ。
「叶う事なき夢――ですがその夢を現実にするべく、私たち四六は今も【雷神プロジェクト】を推し進めています」
この行動に、もしかしたら意味等ないのかもしれない。
しかし、一人でもこの夢に共感を得てくれる者が居るのならば、世界は変わるかもしれない。
――少なくとも、その夢を聞き、この【雷神】と共になら、幸せに戦い続ける事が出来るかもしれないと、そう感じる事が出来た、オレのように。
「この場に居る皆さんの力を――我々四六に、貸して頂きたいのです」
生徒会の面々と哨、神崎が沈黙する。
……だがその中で、村上だけが未だにキョトンとした面持ちで、再び手を上げた。
「あの、いいっすか?」
「はい、何でしょう。村上明久さん」
村上の問いかけに返した睦さん。村上は恥ずかしそうに頬をかきながらも、正直な思いを口にした。
「今の生徒会が、その雷神プロジェクトって奴を守る為に集められた優秀な面々ってのは、なんとなーく分かるんすよ」
「はい」
「いやあ。なんで俺なんすか?」
オレを除く生徒会の面々が、一斉に『それだ』と言わんばかりに頷いた。何て酷い面々だ生徒会役員。
「いやだって、俺は姫と違って全力出せてCランクだし、正直戦力に数えられるのは億劫と言うか、何というか」
まぁ、確かにそう言われればそうかもしれない。
清水先輩や梢さんはOMS科に所属する天才で、それ以外の面々は全員パイロット科に所属しているが……中でも村上の操縦技術は、下の下と言わざるを得ないだろう。一応Cクラス内ではトップに近いが。
「……えっと、大佐殿。言っていいのですか?」
「はい、許可を出したのは私ですから」
姉ちゃんが、少しだけ言い辛そうに睦さんへ伺いたてると、睦さんは笑みを崩さず頷いた。
「えっとね――願掛け」
『願掛け?』
全員の言葉が見事に重なった。
「村上君が高等部に入ってから、何回死にかけてるか、皆は知ってる?」
「村上であれば、百回はある筈だ」
清水先輩が問いに答え、再び生徒会面々がウンウンと頷いた。どれだけコイツの不運は有名なんだ。
「……実は、平均として一日辺り二十回程度。高等部進学してから今日までの数字になるけど、大体二千四百回弱ね」
――空気が死んだ。
いやー、ははー、恥ずかしいなー、と笑う村上に、誰もが視線を合わせる事が出来ない。コイツそんだけ死にかけてんのかよ……!
「で、ですがそれでは、願掛けにならないのでは? 私はそんなオカルトを信じませんが、お聞きした所だと、ただのトラブルメーカーにしか聞こえません」
神崎がようやく言葉を発すると、姉ちゃんが首を振る。
「ううん。良く考えて。それだけの回数死にかけてるのに、彼はその度に『生き残っている』の」
トラブルに巻き込まれる数こそ、確かに尋常ではない数だ。だがトラブルから生き残る、驚愕な【悪運】こそ、願掛けとする意味があると言う。
村上ではないけれど、確かにそう考えれば、彼はある意味【強運】なのかもしれない。
「生徒会は表向き、生徒の代表となる子供たちを集めなければならない。であるならば、低ランクの生徒も受け入れる必要がある。
中でも村上君なら、きっと私たちにも【悪運】を授けてくれるんじゃないか……そう思って推薦したの」
雷神プロジェクトよりも驚愕の事実を聞かされて、この場に居るオレ達はただ、呆然とする他無かった。
最初こそ強襲を仕掛けられて出鼻を挫かれたAD学園駐留基地と横須賀基地であったが、AD学園の防衛は武兵隊の面々や、生徒会会計の島根のどかにより行われ、その防衛力によって二つの基地は体制を立て直す事が出来た。
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無線より流れる報告を武兵隊の面々から聞き、雷神のコックピットから降りたオレと楠は、皆が待つ試作UIGのシェルターへと駆けこんだ。
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駆けつけたオレの身体を力強く抱きしめながら、泣き散らす哨の頭を撫でながら、その場にいる面々を確認する。
哨、梢さん、清水先輩、姉ちゃん、久瀬先輩、村上――
全員がそれぞれ無事である事を確認した上で息を吐くと、姉ちゃんも涙を流しながら、オレの頭を撫でる。
「よく……よく頑張ったわね……姫ちゃん、楠ちゃん……!」
泣きながらだから、少しばかり発音をし難そうに姉ちゃんが言う言葉を噛み締めながら、オレが皆に視線を送ると、久瀬先輩は、一体この事態が何事だったのかと言わんばかりに、無表情で顔面にかける眼鏡を整えた。
「……事情を、説明して頂きたいのですが」
「あー……同じく」
久瀬先輩の言葉と共に、村上も手を上げた。
彼に関してはリントヴルムに殺されかかってる。今も尚地面に尻を付け、恐怖で震えているようだった。
「では私から、説明いたします」
霜山睦さんだ。
彼女は、シェルターへと姿を見せると、一度オレに向けてフフッと笑みを浮かべつつ、まずは自分の正体とこの試作UIGについてを、二人に教えた。
「その試作UIGを持つ、四六という組織が、あの白いAD兵器を作り上げたと? 一体、何のために」
モニターには、未だ雷神の姿が映されている。睦さんは「当然の疑問です」と放ちながらも、語り始める。
――雷神プロジェクトと言うもの。
――考案を行った、城坂修一と言う人間の事を。
だがそれはオレや哨、清水先輩へ語った、初期原案の雷神プロジェクトそのままだった。
「それは、初期原案なんだろ? 親父はその後に雷神を、武器の使えない機体に作り変えたって聞いたぞ」
「その通り。城坂修一様は最終的に雷神の火器管制システムを削除する事によって、あの機体をAD開発史上最高の『最弱機体』として仕上げました。
ですがそれでは、どうやって戦争の無い世界を作り上げようとしたと思いますか?」
雷神プロジェクトは本来、圧倒的戦闘能力を持つAD兵器を国が複数機所有する事で、敵への牽制を目的として考案されたプロジェクトである。
で、あるのならば。確かに武器を持てぬ雷神が複数機製造された所で、防衛力はたかが知れているだろう。
雷神は決して、自らの力で敵を殺すことが出来ぬ機体だ。
先ほど行われた死闘の様に、いちいち敵機を殴り、蹴り、大破させる事など、非効率極まりない。
AD兵器は無敵じゃ無い。銃弾の一発で装甲がイカレてお陀仏の、たった一つの兵器システムだ。
「――お父さんは」
姉ちゃんが、その会話に割って入り、語り始める。
「城坂修一は、このプロジェクトを世界に発信する事自体を、最終目的とした。
人を殺さぬ戦争行為。兵器と言う括りでありながら、人を殺すのではなく、守る事に特化した戦いを行う事で、いずれ日本と言う国は、世界に提唱出来る。
『世界は、争う必要は無い。人は傷付け合う必要は無い』って。それがお父さんの提唱した願いの為に生まれた新しい【雷神プロジェクト】
――その、叶う事なき、夢」
そう。その願いもまた――ただの夢物語だ。
日本だけが。そして日本の中でも、城坂織姫と城坂楠と雷神だけが、そんな存在になっても、意味など無いのだ。
この三つの存在だけで、世界中にその夢を届ける事など、出来はしないのだから。
「願う事は――素晴らしい事だと思う」
「はい。所詮は綺麗事です」
苦笑を浮かべる、睦さん。
「願う事だけならば容易い。城坂修一様がまだご存命であれば、その夢を叶える事は、出来たかもしれません。
ひょっとすれば、戦争を無くす事が、本当に出来たかもしれません」
だが、もう親父は居ない。この日本の、そして世界の事を誰より愛した父が残した祈りは、もう叶う事は無いのだ。
「……でも、俺はその話を聞けて、良かった」
そう、小さく呟く。
「少なくとも親父は……呪いじゃなくて、人の未来を願って、俺に、楠に、この力を託したんだ。……誰かを守れる、傷つける事の無い、この力を」
オレが言って微笑むと。睦さんはニッコリと笑顔を浮かべながら、その場にいる全員に向けて、言い放つ。
「叶う事なき夢――ですがその夢を現実にするべく、私たち四六は今も【雷神プロジェクト】を推し進めています」
この行動に、もしかしたら意味等ないのかもしれない。
しかし、一人でもこの夢に共感を得てくれる者が居るのならば、世界は変わるかもしれない。
――少なくとも、その夢を聞き、この【雷神】と共になら、幸せに戦い続ける事が出来るかもしれないと、そう感じる事が出来た、オレのように。
「この場に居る皆さんの力を――我々四六に、貸して頂きたいのです」
生徒会の面々と哨、神崎が沈黙する。
……だがその中で、村上だけが未だにキョトンとした面持ちで、再び手を上げた。
「あの、いいっすか?」
「はい、何でしょう。村上明久さん」
村上の問いかけに返した睦さん。村上は恥ずかしそうに頬をかきながらも、正直な思いを口にした。
「今の生徒会が、その雷神プロジェクトって奴を守る為に集められた優秀な面々ってのは、なんとなーく分かるんすよ」
「はい」
「いやあ。なんで俺なんすか?」
オレを除く生徒会の面々が、一斉に『それだ』と言わんばかりに頷いた。何て酷い面々だ生徒会役員。
「いやだって、俺は姫と違って全力出せてCランクだし、正直戦力に数えられるのは億劫と言うか、何というか」
まぁ、確かにそう言われればそうかもしれない。
清水先輩や梢さんはOMS科に所属する天才で、それ以外の面々は全員パイロット科に所属しているが……中でも村上の操縦技術は、下の下と言わざるを得ないだろう。一応Cクラス内ではトップに近いが。
「……えっと、大佐殿。言っていいのですか?」
「はい、許可を出したのは私ですから」
姉ちゃんが、少しだけ言い辛そうに睦さんへ伺いたてると、睦さんは笑みを崩さず頷いた。
「えっとね――願掛け」
『願掛け?』
全員の言葉が見事に重なった。
「村上君が高等部に入ってから、何回死にかけてるか、皆は知ってる?」
「村上であれば、百回はある筈だ」
清水先輩が問いに答え、再び生徒会面々がウンウンと頷いた。どれだけコイツの不運は有名なんだ。
「……実は、平均として一日辺り二十回程度。高等部進学してから今日までの数字になるけど、大体二千四百回弱ね」
――空気が死んだ。
いやー、ははー、恥ずかしいなー、と笑う村上に、誰もが視線を合わせる事が出来ない。コイツそんだけ死にかけてんのかよ……!
「で、ですがそれでは、願掛けにならないのでは? 私はそんなオカルトを信じませんが、お聞きした所だと、ただのトラブルメーカーにしか聞こえません」
神崎がようやく言葉を発すると、姉ちゃんが首を振る。
「ううん。良く考えて。それだけの回数死にかけてるのに、彼はその度に『生き残っている』の」
トラブルに巻き込まれる数こそ、確かに尋常ではない数だ。だがトラブルから生き残る、驚愕な【悪運】こそ、願掛けとする意味があると言う。
村上ではないけれど、確かにそう考えれば、彼はある意味【強運】なのかもしれない。
「生徒会は表向き、生徒の代表となる子供たちを集めなければならない。であるならば、低ランクの生徒も受け入れる必要がある。
中でも村上君なら、きっと私たちにも【悪運】を授けてくれるんじゃないか……そう思って推薦したの」
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