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第五章
青春の始まり-02
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沈黙する、オレ達の雷神と、リントヴルムの秋風。僅かに訪れた静寂の時を――オレは気になった事を聞く為だけに、使おうと思う。
「リントヴルム、一つ聞きたい」
『あぁ? 何だよオリヒメ』
「何でお前は、ダガーナイフも何も使わない。それだけ動けるなら、それでこの機体を一突きする事なんて、簡単だろうに」
『あー、理由は二つだな。一つはテメェが乗るライジンを回収するように命令を受けてっから。――で、もう一つは』
リントヴルムは、オレと哨の駆る雷神の眼前で、機体の両腕を力強く、広げた。
『オメェが武器を使わねぇっつうなら、そっちのがフェアって奴だろ』
だからオレは武器を使わねぇ、と。
リントヴルムは確かにそう言い放ち、その言葉を聞いて、オレは――微笑んだ。
「……何も変わらないんだな、お前は。最初に戦った時から、何にも変わらない」
『オメェと初めて殺り合ったのは、何時だったかね』
「オレは覚えてる。オレが十二歳で、まだアーミー隊の副隊長だった頃に、お前らミィリスの前身組織がワシントン基地を襲撃してきた時だ」
『あぁー、あン時か』
「正直、死ぬかと思った。お前みたいな化け物がこの世にいるんだって、戦い終わるまでは恐怖心が消えなくて、戦いが終わっても、何て恐ろしいんだって震えてた」
『ソレはこっちのセリフだぜ。ADで殺り合うなんざタイクツだと思ってたオレの価値観を、オメェが変えたンだ。
オメェが居たから、オレは今まで、こうして戦ってこれた』
「ああ。……オレ達は、多分似てるんだ」
――オレは今、このリントヴルムと言う男を、確かに一人の【兵士】として、認めていたのだと、気が付いた。
「でもな、リントヴルム」
『あぁ』
「オレはもう、お前とは違う。戦う事しか出来ない、お前とは違うんだ」
『オメェは変わらねぇよ。オメェはただ一人、オレの愛しいハニーさ』
「いいや違うよ。オレはもう、一人なんかじゃない」
自身の左手を、少しだけ浮かして、隣のシートに座る、楠の掌に、重ねる。
彼女の手から伝わってくる、ほんのりとした温もりを感じながら、楠も、一度だけ目を閉じて、オレの掌を、感じる様にした。
僅か、数秒の時間。だが、この時間をまるで永遠の事の様に、楽しんだ後。
狭い決戦場に居る二機が膝を落とし、最後の交わりに、備えた。
「――決着、付けるぞ。リントヴルム」
『おう。――コイツが最後だ』
沈黙を破り。今、二機が動いた。
リントヴルムの駆る秋風が素早く眼前へと駆けてきて、左掌から放つ掌底を、雷神の顎へ。
叩き込まれる掌底。だが一撃は僅かに逸れ、カメラを揺らすだけに留まった。
一瞬早く脚部キャタピラを用いて後方へと下がっていた雷神は、そのまま後方の壁へ足を付けながら、壁走りを披露した。
電子誘導装置が成せる姿勢制御は今、楠の手に委ねられている。
楠の手腕を信じながら、オレはただ壁を沿って走り続けた。
動きを視線で捉えているリントヴルムだったが、右側面から放たれる雷神の回し蹴りを胸部に受け、背中から地面に倒れる。
「楠と――!」
「お兄ちゃんと――!」
『この機体なら、何でも出来る――!』
楠の管轄する姿勢制御幹と、オレが管轄する操縦桿とフットペダルを同時に操り、雷神の機体が、全身のスラスターを吹かしながら、空を舞う。
AD兵器二機分ほどの天井へ両腕を付けながら、両腕を軸にして背部スラスターを吹かす。
得られる出力に身を任せたまま、雷神は、右足をリントヴルムの搭乗する秋風の胸部に向けて、確かな一撃を、腹部に叩き込む――ッ!
蹴られながら、壁に衝突するまで、リントヴルムのうめき声が聞こえた。
『が――ああああああっ、!!』
蹴り付けながら、勝敗が決するまで、咆哮を轟かす、オレと楠。
『はああああああ――っ!!』
声は重なりながら、オレ達の聴覚を痺れさせていたが。
最後の最後に、オレの言葉と、リントヴルムの呟きが、重なって、掻き消えた。
「――さよならだ。リントヴルム」
『――あァ。気持ちよかったぜ、オリヒメ』
リントヴルムが駆る秋風が工廠の壁へと背中をぶつけると同時に、機体全身を巡る火花が、機体内のエンジンオイルに引火。
――結果、爆散していく秋風。爆風に包まれながら、雷神が今、全関節部から、三度目の冷却材噴出を行った。
戦いは、終わった。
それと共に、オレの全身を巡っていく虚無感。
敵とはいえ、長らく戦い続けてきたリントヴルムを殺した……ある意味の達成感が、オレの心を締め付けたが。
「お疲れさま。お兄ちゃん」
最後に。楠がオレの手をギュッ――と握りしめながら、涙を流す光景を見据えて。
「楠も、よく頑張ったな」
オレはただ静かに、新たに得る事が出来た――【仲間】と言う力を、誇る事にした。
「リントヴルム、一つ聞きたい」
『あぁ? 何だよオリヒメ』
「何でお前は、ダガーナイフも何も使わない。それだけ動けるなら、それでこの機体を一突きする事なんて、簡単だろうに」
『あー、理由は二つだな。一つはテメェが乗るライジンを回収するように命令を受けてっから。――で、もう一つは』
リントヴルムは、オレと哨の駆る雷神の眼前で、機体の両腕を力強く、広げた。
『オメェが武器を使わねぇっつうなら、そっちのがフェアって奴だろ』
だからオレは武器を使わねぇ、と。
リントヴルムは確かにそう言い放ち、その言葉を聞いて、オレは――微笑んだ。
「……何も変わらないんだな、お前は。最初に戦った時から、何にも変わらない」
『オメェと初めて殺り合ったのは、何時だったかね』
「オレは覚えてる。オレが十二歳で、まだアーミー隊の副隊長だった頃に、お前らミィリスの前身組織がワシントン基地を襲撃してきた時だ」
『あぁー、あン時か』
「正直、死ぬかと思った。お前みたいな化け物がこの世にいるんだって、戦い終わるまでは恐怖心が消えなくて、戦いが終わっても、何て恐ろしいんだって震えてた」
『ソレはこっちのセリフだぜ。ADで殺り合うなんざタイクツだと思ってたオレの価値観を、オメェが変えたンだ。
オメェが居たから、オレは今まで、こうして戦ってこれた』
「ああ。……オレ達は、多分似てるんだ」
――オレは今、このリントヴルムと言う男を、確かに一人の【兵士】として、認めていたのだと、気が付いた。
「でもな、リントヴルム」
『あぁ』
「オレはもう、お前とは違う。戦う事しか出来ない、お前とは違うんだ」
『オメェは変わらねぇよ。オメェはただ一人、オレの愛しいハニーさ』
「いいや違うよ。オレはもう、一人なんかじゃない」
自身の左手を、少しだけ浮かして、隣のシートに座る、楠の掌に、重ねる。
彼女の手から伝わってくる、ほんのりとした温もりを感じながら、楠も、一度だけ目を閉じて、オレの掌を、感じる様にした。
僅か、数秒の時間。だが、この時間をまるで永遠の事の様に、楽しんだ後。
狭い決戦場に居る二機が膝を落とし、最後の交わりに、備えた。
「――決着、付けるぞ。リントヴルム」
『おう。――コイツが最後だ』
沈黙を破り。今、二機が動いた。
リントヴルムの駆る秋風が素早く眼前へと駆けてきて、左掌から放つ掌底を、雷神の顎へ。
叩き込まれる掌底。だが一撃は僅かに逸れ、カメラを揺らすだけに留まった。
一瞬早く脚部キャタピラを用いて後方へと下がっていた雷神は、そのまま後方の壁へ足を付けながら、壁走りを披露した。
電子誘導装置が成せる姿勢制御は今、楠の手に委ねられている。
楠の手腕を信じながら、オレはただ壁を沿って走り続けた。
動きを視線で捉えているリントヴルムだったが、右側面から放たれる雷神の回し蹴りを胸部に受け、背中から地面に倒れる。
「楠と――!」
「お兄ちゃんと――!」
『この機体なら、何でも出来る――!』
楠の管轄する姿勢制御幹と、オレが管轄する操縦桿とフットペダルを同時に操り、雷神の機体が、全身のスラスターを吹かしながら、空を舞う。
AD兵器二機分ほどの天井へ両腕を付けながら、両腕を軸にして背部スラスターを吹かす。
得られる出力に身を任せたまま、雷神は、右足をリントヴルムの搭乗する秋風の胸部に向けて、確かな一撃を、腹部に叩き込む――ッ!
蹴られながら、壁に衝突するまで、リントヴルムのうめき声が聞こえた。
『が――ああああああっ、!!』
蹴り付けながら、勝敗が決するまで、咆哮を轟かす、オレと楠。
『はああああああ――っ!!』
声は重なりながら、オレ達の聴覚を痺れさせていたが。
最後の最後に、オレの言葉と、リントヴルムの呟きが、重なって、掻き消えた。
「――さよならだ。リントヴルム」
『――あァ。気持ちよかったぜ、オリヒメ』
リントヴルムが駆る秋風が工廠の壁へと背中をぶつけると同時に、機体全身を巡る火花が、機体内のエンジンオイルに引火。
――結果、爆散していく秋風。爆風に包まれながら、雷神が今、全関節部から、三度目の冷却材噴出を行った。
戦いは、終わった。
それと共に、オレの全身を巡っていく虚無感。
敵とはいえ、長らく戦い続けてきたリントヴルムを殺した……ある意味の達成感が、オレの心を締め付けたが。
「お疲れさま。お兄ちゃん」
最後に。楠がオレの手をギュッ――と握りしめながら、涙を流す光景を見据えて。
「楠も、よく頑張ったな」
オレはただ静かに、新たに得る事が出来た――【仲間】と言う力を、誇る事にした。
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