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第五章
青春の始まり-01
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『隊長は、オレの弟と同い年なんですよ』
オレ――城坂織姫は、自身の隣に陣取りながら座る、部下のマーク・Jrが放った言葉に首を傾げた。
『弟? マークに弟いたのか』
『十五歳の頃に、リンチで殺されちゃいましたけどね』
『黒人差別で?』
『そう。弟はやっても居ない無実の罪を「黒人だからお前がやったんだ」って押し付けられて、同級生にリンチを受けて……病院に搬送された時には、死んでました』
『相変わらず酷いんだな、白人と黒人の確執は』
『オレだって若い頃は散々な目に遭いましたよ。でもいつか変わる、何時か黒人差別はなくなるって――そう泣いている弟に言い聞かせて、生きていました』
『でも、変わらなかった』
『はい。だから弟が死んだ日、弟の墓前で誓ったんです。「オレがこの世にある差別を是正する為に、のし上がってやる」……って』
『黒人差別だけじゃなくて、この世にある差別全部を?』
『現実的に考えて、無理じゃないかなとは思うんです。――でも、人間には心がある。その心が差別を産むけれど、その心があれば、何時か理解して貰えるんじゃないかなって、そう思いました』
『立派だよ。マークは立派だ』
『隊長には、夢は無いんですか?』
『夢? ――いや、無いな。オレはずっと戦い続けるよ。それしか、オレに出来る事なんて無いから』
『日本にご家族は?』
『親父はこのアメリカで死んだし、母親もオレを産んだ後に死んだってさ。姉がいるって話は聞いてるけど、他に家族はいるのかな』
『帰りたいって、思わないんですか?』
『……実は、少しだけ、家族ってものを、知りたいとは思う。……けれど、日本に帰る事は考えてない。平和ボケした日本じゃ、戦い続けるのは難しいから』
『じゃあ、ずっとオレ達の隊長で居てください。オレにとっての隊長は、あなたしかいない』
『ありがとう。なら』
『なんですか?』
『オレが、マークの弟になってやるよ』
『え』
『オレにとって今の家族は、マークやアーミー隊に居る部下たちだ。オレの年齢だと兄貴ってガラじゃないから、弟で手を打ってやるよ』
ニッ、と笑みを浮かべたオレに対して、マークは大粒の涙を流して。
オレの身体を強く強く――抱きしめた。
抱きしめてくる彼の体温を、オレの頭を撫でる大きな手の感触を――これからもずっと、オレは忘れないのだろう。
『……ありがとうございます、隊長。でも、それはダメですよ』
『なんでさ』
『隊長はやっぱり、何時か日本へ帰らないと。あなたの持つ温かさを、あなたの帰りを待つ本当の家族に、与えてあげないと』
『オレの家族は、お前たちだけだよ?』
『嬉しいです。嬉しいですけど、ダメです隊長。
――家族以外の人間に、温かさを届けられるあなたには、血に塗れる戦場なんて、似合わないんだから』
**
ガクンッ、と。全身に衝撃が走った。
眼前にはリントヴルムが駆る秋風の拳。
拳はオレと、妹である城坂楠の二人で駆るAD兵器【雷神】の顔面を、強く殴りつけていた。
『ボーっとしてンじゃねぇぞ、オリヒメ』
叱咤する様に、リントヴルムの声がコックピットまで届く。
楠の、心配そうな視線を一身に受けながら、オレは、吐き捨てる様に、呟く。
「……もう、失って、たまるか……!」
『あぁ?』
「お前なんかの為に、これ以上大切な人たちを、失ってたまるかって、言ってんだよォ――っ!!」
雷神の右膝部を眼前のリントヴルム機に突き出し、腹部に膝蹴りを見舞う。
一瞬機体を浮かせた相手に向けて、雷神の右掌を思い切り突き付けた。
胸部に叩きつけられる掌底。数十メートル後方へと機体を滑らせた秋風は、地面に脚部を押し付けて摩擦音を響かせながら留まり、衝撃を殺すと同時に地を蹴った。
『ひゃは――っ』
右脚部を雷神の脚部に向けて横薙ぎした秋風の動きを、楠の座る管制システムが完全に読み切っている。
「お兄ちゃんっ」
「おうっ!」
回されるデータを元に強く地面を蹴り、雷神を空中で一回転させると同時に、天井へ足を付ける。
電磁誘導装置を稼働させながら、一瞬だけ姿勢を保たせると、今度は天井を蹴りながらリントヴルム機に向けて、その拳を上方から叩き込んだ。
両手を掲げながら、雷神の拳を防ごうとする秋風。だが天井を蹴りながら落ちてくる拳には、運動エネルギーと元々雷神が持つ装甲強度がある。
「う――おおぉっ!」
秋風の右掌が砕け、頭部に拳を叩きつける。
機体を地面に預けた秋風は、素早く機体を転がしながら立ち上がり、地面に着地したばかりの雷神へ、回し蹴りを放ってきた。
「ちぃ――!」
流石に避ける事は出来ない。機体右側部を蹴り付けられ、左面にあった工廠の壁に機体を叩きつけられた雷神のコックピット内部はシェイクされる。
いや、それまでに行っていた雷神の動きにより、既に内臓は散々圧迫されている。
短く息を吐きながら、オレは隣に座りながらデータ処理を引き受けている楠へ叫んだ。
「っ、楠!」
「大丈夫っ!」
だから操縦に集中して、と。
視線で訴えてくる妹の想いを受け取りながら、再び送られてきたデータを元に、いつの間にか放たれていた秋風の拳を、しゃがみつつ避ける。
工廠の壁にめり込む秋風の左腕部。
がら空きの身体に向けて左肘を力強く打ち付けて、秋風と再び距離を取る。
雷神と秋風の機体関節部から、再び冷却材が工廠内を舞う光景。
それだけを、オレも、楠も、リントヴルムも、ただ静かに見据えていた。
**
――彼らの行った攻防が、僅か十秒弱の間に成された事を、三人は気付いていないのだろう。
AD総合学園の地下に設けられた、試作UIGの非戦闘員用シェルターに逃げ込んでいた面々は、康彦が持ち込んだ量子PCから見れる戦闘を見据え、息を呑んだ。
「化け物ですか、あの二機は」
紗彩子の言葉に、康彦が首を振る。
「雷神は当然の結果だ。何せ明宮妹が整備し、オレと明宮姉が作ったOMSを搭載した機体だからな」
だが、と。彼は言う。
「本当の化け物は、あのリントヴルムと呼ばれるパイロットだ。――秋風で、雷神と同等の動きを見せている」
リントヴルムは、秋風の機体性能を百パーセント以上に引き出している。
なまじ恐怖心が無いものだから、無理な機体操縦を平気でこなしてしまうのだ。
普通のパイロットならば、狭い工廠内であれだけ動き回ろうとはしない。
「おまけに雷神の強みは、高出力に身を任せた機動性だ。狭い工廠内だと、真価を発揮する事は出来ない」
このままでは、雷神を駆る二人は、負ける。
誰もが、絶望を胸に抱いていた。
――彼女以外は。
「大丈夫。……姫ちゃんたちは、負けない」
明宮哨だ。彼女は、胸元でギュッと両手を握りながら、祈るように目をつむる。
――その姿は、絶望の淵に居ながらも尚、希望を抱く聖女のように、強かだった。
オレ――城坂織姫は、自身の隣に陣取りながら座る、部下のマーク・Jrが放った言葉に首を傾げた。
『弟? マークに弟いたのか』
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『そう。弟はやっても居ない無実の罪を「黒人だからお前がやったんだ」って押し付けられて、同級生にリンチを受けて……病院に搬送された時には、死んでました』
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『オレだって若い頃は散々な目に遭いましたよ。でもいつか変わる、何時か黒人差別はなくなるって――そう泣いている弟に言い聞かせて、生きていました』
『でも、変わらなかった』
『はい。だから弟が死んだ日、弟の墓前で誓ったんです。「オレがこの世にある差別を是正する為に、のし上がってやる」……って』
『黒人差別だけじゃなくて、この世にある差別全部を?』
『現実的に考えて、無理じゃないかなとは思うんです。――でも、人間には心がある。その心が差別を産むけれど、その心があれば、何時か理解して貰えるんじゃないかなって、そう思いました』
『立派だよ。マークは立派だ』
『隊長には、夢は無いんですか?』
『夢? ――いや、無いな。オレはずっと戦い続けるよ。それしか、オレに出来る事なんて無いから』
『日本にご家族は?』
『親父はこのアメリカで死んだし、母親もオレを産んだ後に死んだってさ。姉がいるって話は聞いてるけど、他に家族はいるのかな』
『帰りたいって、思わないんですか?』
『……実は、少しだけ、家族ってものを、知りたいとは思う。……けれど、日本に帰る事は考えてない。平和ボケした日本じゃ、戦い続けるのは難しいから』
『じゃあ、ずっとオレ達の隊長で居てください。オレにとっての隊長は、あなたしかいない』
『ありがとう。なら』
『なんですか?』
『オレが、マークの弟になってやるよ』
『え』
『オレにとって今の家族は、マークやアーミー隊に居る部下たちだ。オレの年齢だと兄貴ってガラじゃないから、弟で手を打ってやるよ』
ニッ、と笑みを浮かべたオレに対して、マークは大粒の涙を流して。
オレの身体を強く強く――抱きしめた。
抱きしめてくる彼の体温を、オレの頭を撫でる大きな手の感触を――これからもずっと、オレは忘れないのだろう。
『……ありがとうございます、隊長。でも、それはダメですよ』
『なんでさ』
『隊長はやっぱり、何時か日本へ帰らないと。あなたの持つ温かさを、あなたの帰りを待つ本当の家族に、与えてあげないと』
『オレの家族は、お前たちだけだよ?』
『嬉しいです。嬉しいですけど、ダメです隊長。
――家族以外の人間に、温かさを届けられるあなたには、血に塗れる戦場なんて、似合わないんだから』
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ガクンッ、と。全身に衝撃が走った。
眼前にはリントヴルムが駆る秋風の拳。
拳はオレと、妹である城坂楠の二人で駆るAD兵器【雷神】の顔面を、強く殴りつけていた。
『ボーっとしてンじゃねぇぞ、オリヒメ』
叱咤する様に、リントヴルムの声がコックピットまで届く。
楠の、心配そうな視線を一身に受けながら、オレは、吐き捨てる様に、呟く。
「……もう、失って、たまるか……!」
『あぁ?』
「お前なんかの為に、これ以上大切な人たちを、失ってたまるかって、言ってんだよォ――っ!!」
雷神の右膝部を眼前のリントヴルム機に突き出し、腹部に膝蹴りを見舞う。
一瞬機体を浮かせた相手に向けて、雷神の右掌を思い切り突き付けた。
胸部に叩きつけられる掌底。数十メートル後方へと機体を滑らせた秋風は、地面に脚部を押し付けて摩擦音を響かせながら留まり、衝撃を殺すと同時に地を蹴った。
『ひゃは――っ』
右脚部を雷神の脚部に向けて横薙ぎした秋風の動きを、楠の座る管制システムが完全に読み切っている。
「お兄ちゃんっ」
「おうっ!」
回されるデータを元に強く地面を蹴り、雷神を空中で一回転させると同時に、天井へ足を付ける。
電磁誘導装置を稼働させながら、一瞬だけ姿勢を保たせると、今度は天井を蹴りながらリントヴルム機に向けて、その拳を上方から叩き込んだ。
両手を掲げながら、雷神の拳を防ごうとする秋風。だが天井を蹴りながら落ちてくる拳には、運動エネルギーと元々雷神が持つ装甲強度がある。
「う――おおぉっ!」
秋風の右掌が砕け、頭部に拳を叩きつける。
機体を地面に預けた秋風は、素早く機体を転がしながら立ち上がり、地面に着地したばかりの雷神へ、回し蹴りを放ってきた。
「ちぃ――!」
流石に避ける事は出来ない。機体右側部を蹴り付けられ、左面にあった工廠の壁に機体を叩きつけられた雷神のコックピット内部はシェイクされる。
いや、それまでに行っていた雷神の動きにより、既に内臓は散々圧迫されている。
短く息を吐きながら、オレは隣に座りながらデータ処理を引き受けている楠へ叫んだ。
「っ、楠!」
「大丈夫っ!」
だから操縦に集中して、と。
視線で訴えてくる妹の想いを受け取りながら、再び送られてきたデータを元に、いつの間にか放たれていた秋風の拳を、しゃがみつつ避ける。
工廠の壁にめり込む秋風の左腕部。
がら空きの身体に向けて左肘を力強く打ち付けて、秋風と再び距離を取る。
雷神と秋風の機体関節部から、再び冷却材が工廠内を舞う光景。
それだけを、オレも、楠も、リントヴルムも、ただ静かに見据えていた。
**
――彼らの行った攻防が、僅か十秒弱の間に成された事を、三人は気付いていないのだろう。
AD総合学園の地下に設けられた、試作UIGの非戦闘員用シェルターに逃げ込んでいた面々は、康彦が持ち込んだ量子PCから見れる戦闘を見据え、息を呑んだ。
「化け物ですか、あの二機は」
紗彩子の言葉に、康彦が首を振る。
「雷神は当然の結果だ。何せ明宮妹が整備し、オレと明宮姉が作ったOMSを搭載した機体だからな」
だが、と。彼は言う。
「本当の化け物は、あのリントヴルムと呼ばれるパイロットだ。――秋風で、雷神と同等の動きを見せている」
リントヴルムは、秋風の機体性能を百パーセント以上に引き出している。
なまじ恐怖心が無いものだから、無理な機体操縦を平気でこなしてしまうのだ。
普通のパイロットならば、狭い工廠内であれだけ動き回ろうとはしない。
「おまけに雷神の強みは、高出力に身を任せた機動性だ。狭い工廠内だと、真価を発揮する事は出来ない」
このままでは、雷神を駆る二人は、負ける。
誰もが、絶望を胸に抱いていた。
――彼女以外は。
「大丈夫。……姫ちゃんたちは、負けない」
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