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第四章

愛情-11

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 ミィリスが所有する爆撃隊に連絡を取り、とある場所に対して攻撃を仕掛けさせる。

  場所は格納庫区画にある一番古びている格納庫。

  指示された地点を、正確に空襲する爆撃隊。格納庫は四散していき、地に備えられていたシャッターの奥にある空洞が、姿を現した。

  リントヴルムが笑みを浮かべながら、空洞を降下していく。

 ラダーも脚部スラスターも使わない、重力に身を任せた降下だが、しかしリントヴルムは恐怖を感じる事も無く降下していき、地に脚部を付ける寸前だけ、スラスターを吹かして重力に逆らい、ゆっくりと着地した。

 本当はそのまま勢いよく着地をしたかったが、彼も一応AD乗りである。今乗っている機体の脚部が潰れてしまえば歩く事も出来ないので、それを我慢した。


「――っし」


 リントヴルムは、先ほどフルフレームから奪った115㎜滑腔砲の砲身を、眼前にある門へ向けた。放たれる砲弾は真っ直ぐに門へと伸び、轟音と共に破られる。


 奥には、白く輝かしい光を放つ機体が一機、立ち尽くしている。


  まだ動く気配は無い。周りに幾人かいたが、その中の一人が周りを誘導しつつ素早く動き始め、工廠から姿を消していく光景を見据えたリントヴルムは、ただ自身が駆る機体を真っ直ぐ、白い機体へ向けて歩を進めた。


「おめえがライジンか。……ほぉー、美人さんじゃねぇの」


 ククッ、と笑みを浮かべながら、ライジンに向けて手を伸ばす。

  パイロットは居ないのか動かないし、よしんば動いたとしてもリントヴルムにとってはどうでもよかった。


  ――倒し、奪うだけだ。


  その手が、ライジンに触れる直前で、リントヴルム機が、グワンと揺れた。


  背部を蹴られた感覚。リントヴルムはチッと舌打ちをしながら、背後を見据える。

  先ほど倒した筈のフルフレームが、右脚部を振り切って、リントヴルム機の背部を蹴り付けていた。

 工廠の壁に手を付けながら蹴りの衝撃を殺すとともに、今まで持っていた115㎜砲の砲身で、フルフレームを殴打する。


「うっ――とォしいんだよ負け犬がぁっ!」

『ぐぅ――!』


 フルフレームの機体内に走る衝撃。パイロットである良司がうめき声を上げ、機体の背中を地面に預けた事を見届ける事も無く、リントヴルムは苛立ちを隠さずに再び振り返ってライジンに触れようとしたが……そこで再び、邪魔が入った。


 接近警報。門の奥から、背部スラスターを吹かしながら接近するもう一つの機影――それは、秋風では無かった。


「ディエチ――?」


  一瞬、リントヴルムは味方かと考えたが、自分以外の機体は正規軍や学園都市の治安維持部隊を相手にしている筈――と考えて、その機体をしっかりと観察、驚愕した。


  ――オレのディエチだ!


 ディエチは、リントヴルム機へと体当たりを仕掛けると、リントヴルム機は背中から工廠の地面に体を預ける。

 彼の機体を何度も殴りつけてくるディエチから、接触回線で僅かに声が聞こえてくる。


『テロリストに好き勝手――やらせるかよぉ!』


 日本語で、何を言っているかは分からない。しかし、確かにこの秋風を有していた少年の声。

  少年――村上明久は、リントヴルムのディエチを操縦し、追いかけてきたのだ。


「ロックかけとくべきだったわ……!」


 秋風の腕部でディエチの顔面を殴りつけ、一瞬隙が出来たタイミングで、股間部を蹴り付ける。

  離れる機体同士。それと同時にリントヴルム機は背部スラスターを稼働させながら強引に立ち上がり、ディエチに向けて思い切り右脚部を振り込んだ事で腹部に叩き込む。

 リントヴルム機は、右腕部のスリットに収納していたダガーナイフを抜き放ち、それを秋風のコックピットに向けた。


「オレぁ、日本語でちゃーんと言ったよな? ADでしか殺さねぇって」


 刃を見据え、たじろぐ様に機体を動かすディエチ。だが腹部を踏み付けている事もあり、ディエチは逃げる術が無い。


  ダガーナイフが、自身を貫く事を待つ他、するべきことは無いのだ。


「――バカなガキだ。あのまま逃げてりゃ良かったのによ」


  振り上げられたダガーナイフ。刃の軌跡を見据えている間、明久はただ懇願の思考を回す。

  懇願する相手は、敵では無い。今朝、テレビでやっていた占いコーナー【オメザメ占い】にだ。


(今日、乙女座の運勢は二位だった。二位って事はそこそこ幸運値が高い筈だ。

 大丈夫、俺は死なない。そうだろオメザメ占い。きっとあの秋風は、オレを突き刺す寸前で爆発とか、運よく整備不良とか起こるに違いない。

 大丈夫、オレは今日、お前を、オメザメ占いを味方に付けているんだから――!)


 だが、眼前のダガーナイフは迫る。明久は、それが自分に突き刺さる事を無慈悲に知ってしまうと、諦めの様な視線を、眼前の秋風に向けた。


(うんダメだ。今日こそオレの強運は尽きたわ。何も恨まない。ただしオメザメ占い、テメーはダメだ)


 目を閉じ、自らの死を待った――その瞬間。



  轟音と共に、自身のディエチを踏みつける秋風が、吹っ飛ばされた。



  入ってきた門まで吹っ飛ばされる秋風は、綺麗に着地をした上で――自身を吹っ飛ばした、機体を見据える。


  機体の全関節部から、ブシュゥ――と白い粉末を散布させながら、重たそうな右腕部を突きつける、白い機体。


 持ち上げていた右腕部をゆっくりと下した上で、各部スラスターから僅かに噴射剤を吹かした。


 まだ一度も試運転が成されていない機体が、今調整を行っているのだろう。


  双眼式メインセンサーが、朱色に発光を魅せる。


  その姿。見目麗しい純白の機体は。



  ――GIX-P001【雷神】



『おい、リントヴルム。お前、誰を殺そうとしたか、分かってんのか?』

「……やっぱり、オメェか」


 笑いがこみ上げてくる。

 自身が認めたパイロットが、自身の欲する機体に乗り込んで、殺気を、自身に向けている。



 リントヴルムは今――最高に満たされている感覚を持って、膝を折る秋風の身体を、起き上がらせた。



『オレの友達だぞ、糞野郎が――っ!!』

「サイッ、コォだぜ、オリヒメェエエエ――ッ!」



 雷神と秋風は。

 右拳を互いに突き付け、ぶつけ合う。



 ――今、人類最強のパイロット同士による【戦争】が、幕を上げた。
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