私たちの試作機は最弱です

ミュート

文字の大きさ
36 / 191
第四章

愛情-10

しおりを挟む
 コックピットには、二つのメインシート。隣り合って座り合うタイプのシートに、まず楠が左方シートに腰かける。


「お兄ちゃんはこっち」


 指示通り、オレは彼女の隣、つまり右方シートに腰かけた。オレと楠がマニピュレーターに触れた瞬間、手に少しだけ痺れるような感覚が。


「生体認証システムか」

「そう。私とお兄ちゃんの二人がコックピットに乗らないと、この機体は戦えない」

「……今まで、あえて聞かなかったけど」

「うん」

「楠は一体、何者なんだ」


「雷神プロジェクトナンバーゼロスリー【城坂楠】――それが、私の正体」

「わざわざナンバーを分けてるって事は、ただ遺伝子操作をされた子供ってわけじゃ無いんだな」

「そうだね。私の頭の中には雷神とリンクを行い、機体の管制システムを制御させる為の、ナノチップコンピュータが埋め込まれている。

 お父さん――城坂修一が、私の脳にナノチップを埋め込む事によって、私自身を制御PCとして仕上げたんだ」

「それも、雷神プロジェクトの為に」

「それは、祈りだった。お兄ちゃんはいずれ、戦争の無い世界を作る為に必要な力として、コックピットパーツの遺伝子操作を行われた。

 私はその手助けが出来る様に、雷神のコックピット内で耐えられる様に肉体強化の遺伝子操作を受け、ナノチップを埋め込まれた。


 ――全部、私たちがいずれ、幸せに暮らせる世界を作る為に、必要な事だった」


「楠はどうして、そんな自分を受け止められたんだよ。

 オレは、耐えられなかった。自分の正体が遺伝子操作されたコックピットパーツだって聞いて、自分の全てを……裏切られたと思ったのに」

「じゃあお兄ちゃんも、この映像見ようか」


 楠が、笑いながら言うと、コックピット内部にある映像ファイルに、触れた。

  コックピットが閉じられて、メインモニター前面に映し出される、一つの映像。


  ファイル名は――【プロジェクト記録・024】


  誰が撮影をしているのかは分からない。映像に映るのは、一人の男性と、一人の女の子。

  男性は四十代の男性と考えられる。表情に少しだけ浮かぶ皺、しかしまだ若々しい姿は、ちょっとだけオレに似ているかもしれない。

  女の子は幼い。小学生高学年から中学生辺りと言った所だろうか。

 無邪気そうな顔立ちと白色のワンピースが非常にマッチしていて、可愛らしい印象を受ける。

  一つの写真を見ながら、喜んでいる女の子。彼女は隣に座る男性に問いかけるのだ。


『これが私の、妹と弟?』

『そうだよ。もしかしたら、弟と弟、妹と妹になるかもしれないけれど、きっとそうなると思う。お父さんの勘は鋭いんだ』

『小っちゃい。卵みたいだね』

『そりゃあ今はまだ卵だからね。でも、後一年もしない内に、もっと大きくなって、聖奈のきょうだいとして、生まれてくる』

『私、ちゃんとお姉ちゃん、出来るかな』

『出来るさ。聖奈は良い子だからな』

『えへへ。ねぇお父さん、この子たちの名前はなんていうの?』

『こっちの女の子になりそうな子に【織姫】、こっちの男の子になりそうな子に【楠】って名前を付けるんだ』

『楠? 女の子みたいな名前だね』

『そうかな? 楠男とか多いし、大丈夫だと思ったんだけど……でも、そう決めたんだ』

『なんで?』

『きっとこの子たちには、いっぱい苦労を掛ける事になる。もしかしたらお父さんは、すっごく嫌われちゃうかもしれない。

  でもね、そんな時でも気高く綺麗に生きていて欲しいから【織姫】。

  しっかりと根強く、大きく育ってほしいから【楠】。……そう名前を付けるって、決めたんだ。

  聖奈も、この子たちの事を、可愛がってくれるかい?』

『うんっ! 絶対、優しいお姉ちゃんになるっ』

『そうか。じゃあ生まれてくるのを楽しみにしていなきゃな。――聖奈が、ちゃんとお姉ちゃん出来るかどうか、見届けないと』


 ――そこで、映像は終わった。


「親父……外してんじゃねぇよ、バカ」

「ふふっ。まずそこなんだ」

「何が『勘は鋭い』だよ。確かに男の子と女の子は外してねぇけど、肝心の所を外してんじゃねぇか。

 しかも勘を外したなら名前も入れ替えろよ、何で男のオレに織姫って名前続投してんだよ、意味わかんねぇ」



 でも――何でだろう。

 涙が止まらない。溢れ出る涙を抑える事が出来ないのだ。



「親父は、オレ達の事を、ただの道具にする為に、産んだわけじゃ、なかった」

「私だってね、最初はすごく傷付いた。

『私はどうせ、兵器を操る為だけに生み出された、道具でしかないんだ』って。

 ――でも、この映像をお姉ちゃんに見せられて、お父さんがきちんと、私たちに愛情を注いでくれていたって……そう、分かったんだ」


  そして、姉ちゃんも、この映像の言葉通り、優しい『お姉ちゃん』として育つ事が出来たのだ。


  今この世界に、親父はもういないけれど――親父の抱いた想いは、きちんとオレ達【家族】に、届いたのだ。


「――楠、確認する」

「うん」

「オレは雷神プロジェクトの為に遺伝子操作された子供で、この機体はオレと楠が操縦する為に生み出された。

 楠がこの機体とリンクする事で、オレは機体性能を十二分に発揮できる」

「そう。その通り」

「この機体は火器を装備できない。

 そのシステムが存在しない。

 きっと武装を手に持っても、火器管制システムが無いから、認識すらしない」

「そうだよ、お兄ちゃん」

「この機体で、オレは、楠は――何をすればいい?」


「お兄ちゃんが、そして私が、大切に思う人を守る為に、戦えばいい。

 必要以上に相手を殺す必要も、殺される必要も無い。相手をただ――ぶちのめす事だけを考えて、戦えばいい」

「オーケー。分かりやすい、最高の答えだ」


 機体を起動させる。システムプログラムを再起動。先ほどまで調整されていたOMSを機体に反映させるために必要な時間はあと五分。


  その間、オレ達はただ、操縦桿を握り続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...