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第六章

記者会見にて-04

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「……ふぅ」


 本日何度目になるか分からぬ溜息をつくと共に、スピーカーから聞こえる、女性の声。


『決着。勝者、三年Aクラス・久瀬良司』


 生徒会の副会長を務める、明宮梢の声だ。恐らく会長補佐である良司の代わりを勤めているのだろうと考えた楠が、応接間を出る。

  校舎から見えるグラウンドには、二機の秋風が立っていた。

 一機は織姫と同じく高機動パックのプラスデータを装備した、一年Bクラスの秋風。パイロットは木藤義彦という男子だった筈だ。

  対して、三年Aクラスの久瀬良司――生徒会の会長補佐を務める、楠の右腕。

 駆る秋風は、秋風の主なバックパックユニット三つの特徴を組み合わせた【フルフレーム】と呼ばれるプラスデータを使用している。

 フルフレームは、高田重工とアストレイド・ブレイン社の二社が共同開発を行った、秋風用の新型プラスデータの試作品である。

 高機動パック、高速戦パック、そして高火力パックの特徴を一つにまとめたばかりか、それによる重量の緩和や、衝撃吸収を行う補助関節を取り付けている画期的なプラスデータで、二社が成績優秀者の良司にテスト運用を願い出たのだ。


「――えーっと」


 ポケットの中に入れていた携帯端末を取り出し、今現在の状況を確認する。今回の交流戦では、トーナメント戦が採用されている。

 本当は総当たり戦が採用される予定であったが、件の襲撃事件が発生した為に日数を調整し、短い日数で終了するトーナメント戦が採用されたのだ。

 楠が応接間を出ると、そこに一人の少年がやってくる。


「おっす、楠」

「あ、おに――城坂さん。お疲れ様です」

「お前もお疲れさん。記者会見だって?」

「ええ。私の様な子供を相手に、大人たちが大勢群がっていました」

「そっか。今日の交流戦だけど」

「はい、今確認しました。既に今日のプログラムは終了しているようですね」


 彼女と、他愛も無い会話を繰り広げる少年は城坂織姫だ。既に敗退してしまったが、今回の交流戦では一年Cクラス代表として戦った一年生であり、楠と同じ生徒会の、書記を担当している。


「じゃ、今日は帰るか。――帰りに、あの店のカスタードプリン、買ってやる」

「え」

「頑張った妹にご褒美だ」


 そう。城坂織姫は、秋沢楠――否、【城坂楠】の兄でもある。

 諸事情により楠は、城坂家の遠い親戚である秋沢家から苗字を借りて、この学園に入学しており、また学園理事長である城坂聖奈の妹でもあり、この辺りは入念に隠し通されている。

  楠が織姫や聖奈の妹であると知っている生徒や教職員は数少ない。先ほど楠が、織姫の事を「お兄ちゃん」と言いかけた理由は、これが主だったものだ。


「……もう。学校で妹って言うの止めてって、何度言ったらわかるの?」

「固い事言うなよ。今は誰もいな――っと」


 織姫が口を閉じる。階段より誰かがこちらに向かっている足音が聞こえたからだ。

 階段を登り切った人物は、応接間に向けて歩を進めている。生徒でも教職員でも無い。先ほどまで楠と質疑応答を行っていた記者の一人――東洋夕刊の藤堂だ。


「あ、秋沢ちゃん。さっきはどうもね」

「いえ、こちらこそ。まだ何か?」

「いやいや、ちょいと聞きたい事があったんだけど、俺が他の生徒に声かけると怪しいじゃん? だから楠ちゃんに聞こうと思ったんだけど――って」


 藤堂は、そこで楠の隣に立つ織姫へ、視線を送った。

  ジッと見つめ合う、織姫と藤堂。二人はしばし口を開いたまま沈黙していたが――


『ああああああああああああ――っ!!』


 校舎全体に響き渡る絶叫を、二人で奏でた。


「な、何!? いえ、何なんですか、二人とも!」

「藤堂、テメェ何でココに!?」

「副業だよ! 姫ちゃんこそどうして――【アーミー隊】辞めたのか!?」

「姫ちゃん言うなっ! ていうかテメェ、戦場カメラマンだろ!?」

「俺は元々東洋夕刊の記者だったんだよっ。今はフリーでやってるけど、興味ある会見にゃ、東洋夕刊の名前で参加させて貰ってんの!」

「お、お知り合い、ですか。お二人とも」


 楠が口を挿むと、二者は一度楠へ視線を向けた。藤堂は「えっと」と言葉を濁したが、織姫は溜息と共に、彼を指さした。


「俺がアーミー隊に居た頃、コイツに二度ほど取材を受けた事があるんだ。藤堂も別に、話す分には構わねぇよ」

「あ、そうなの。じゃあ、話は戻すけどよ。織姫ちゃんは、アーミー隊辞めたのか?」

「辞めた。――理由は」

「あ。何となく想像つく。ワリィ、これ以上は聞かんよ」

「……助かる」


 織姫は幼い頃から米軍に身を置き、兵士として戦ってきた経験を持っており、そして幾多の戦いを乗り越えた先で、彼は人生を見つめ直す時間が与えられ――今では、学生として、子供としての役割を果たしている。


「織姫ちゃん、君は生徒会の役員?」

「ああ。書記をやってる」

「なるほど、ますます都合がいい。……今回の襲撃事件、敵は?」

「藤堂さん、その件は」

「大丈夫だ楠。コイツ、こんなチャラけた態度取ってるけど、口止めした事を記事にする事は絶対にしない」


 織姫は、しばしどこまで話したものかと考える様にしていたが、後に「ミィリスだ」と言葉にした。


「――やっぱりか。TAKADA・UIGを襲撃したのもミィリスって聞いているし、これで合点がいった」

「相変わらず、すげぇ情報網だな」

「今の戦場は情報戦だ。一つでも多くの情報を勝ち取った組織や人材が、生き残る価値を持つ。……それより、リントヴルムも襲撃に?」

「ああ。……オレが討ったよ」

「奴さんはどうした」

「死んだ。間違いなく」


 聞きたい事は、リントヴルムの事だけだろうと、織姫は藤堂に問いかける。そして彼も首を縦に頷かせる。


「これでミィリスも終わりだな」

「終わり、とは」

「非加盟国のバックアップを受けるテログループは、AD兵器の戦闘力がどうしても落ちるもんだ。

 それを支えていたのが、リントヴルムを筆頭にエース級のパイロットであるのなら、ミィリスは求心力を失い、ただ落とされるのを待つだけだ」


 リントヴルムはかつて、ロシア空軍のエースパイロットとして名を上げたが、プロバガンダの意味合いで退役、そのままミィリスに天下りした。

 そして彼が活動の場として戦い続けた戦場では、多くの戦果を生み出してきたのだ。

 それが討たれたとなれば、ミィリスに与えた影響は計り知れないだろう。


「これからの戦場がどう変化するか――それが、俺の撮るべき画だ」

「お前は、変わらないな。リントヴルムと同じだ」

「奴さん、ずっと変わらなく、お前を愛していたか」

「下らない愛情だ」

「奴は、強い奴と戦う以外に、愛を育む方法が無かったんだよ」


 哀しい事だがな、と。藤堂はリントヴルムの半生をその一言で締めくくった。


  そして織姫も――彼の意見には同意見である事は、間違いない。
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