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第六章
尋問中にて-01
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そこは名も無き、小さな無人島である。
日本海と東シナ海の境に位置するこの無人島に、防衛省情報局第四班六課・通称【四六】が所有する作戦司令部が存在する。
四六の部隊長である霜山睦が乗船する強襲母艦【ひとひら】も、この島に着港している。
彼女は艦を降りた後、この島の中心部に位置する尋問室への道のりを歩いていた。
「これからお見せする光景は、一佐殿には少々ショッキングかもしれませんが」
「ショッキングな光景は見飽きています。今の私がどのようにして生まれたか、それをご存じない遠藤二佐では無いでしょう?」
「それは――そうですが」
「……いえ、今のは失言でしたね。申し訳ありません」
彼女の隣を歩く、遠藤義明二佐。
彼は睦の発言を聞いて少々しどろもどろとしつつも、尋問室の隣にある一室へ入り、マジックミラー越しに、彼の様子を伺った。
鋭い三白眼、所々に酷く爛れた火傷の痕、しかし五体は満足に動き、今も尚全身の神経は痛みを訴えている筈。
彼――リントヴルムは、不敵な笑みを浮かべながら、尋問室の椅子に拘束具を着せられつつ、座っていた。
『では、尋問に移る』
彼と同席する大柄な男が二人。一人がロシア語で口を開くと、リントヴルムは退屈そうに欠伸を溢した。
『なンでもいいけどよぉ。こちとら、ついこないだまで死にかけてた人間だぜ? ちったぁその辺考えて尋問してくれよ』
彼の言葉を聞いて、男の一人はもう一人に向けて顎で指示をしつつ、日本語で命令を下す。
『やれ』
『ハッ』
先ほどまでロシア語で話していた男とは別の男が、強く握り拳を振り込んで、リントヴルムの左頬に叩き込んだ。
勢いよく床に転げ落ちたリントヴルムの髪を無理矢理掴み、椅子に押し戻すと、再び男が『君の要求には従えない』とロシア語で彼に語り掛けた。
『君は記録上、生きていてはいけない人間だ。尋問とは名ばかりで、君の態度次第では拷問となり得る可能性もある』
そこは留意しなさい、と男が言うので、リントヴルムは口に溜まった内出血を吐き出し、再び不敵な笑みを浮かべた。
『オレからなに聞こうってンだ』
『まず、ミィリスがどこからバックアップを受けているか。これはロシア政府及びロシア空軍からで間違いはないか』
『オレの古巣? 有り得ねぇよ。アイツらナマケモノばっかだからよ』
『おい』
『ハッ』
先ほどリントヴルムを殴った男が、今度はスーツのポケットからペンチのような物を取り出し、彼の手を掴んだ上で――右手の中指にある爪を、剥ぎ取った。
「っ、……」
睦の肩がブルリと震えた。今見た光景を、自身が経験したらと思えばの苦痛である。
『正直に言え』
『ぃ、っぅ……アァ、ショージキ。ショージキだよオレぁ』
『もう一枚だ』
今度は薬指だった。リントヴルムは爪を剥がされる度に表情を軋ませ、声にならぬ叫びを上げている。
人差し指、小指、そして親指――右手は全て剥ぎ取ってしまったので、今度は左手を強引に掴んだ所で、男は『どうだね』と再び問い直した。
『知らねぇって、言ってンだろ……ッ』
『強情だな』
そして左手の爪が剥がされていく。睦はやがて見ている事も困難となり、近くのソファに腰かけて、彼らの声だけを聴いていく。
リントヴルムの絶叫は、しばしの間、止む事は無かった。
**
東シナ海、上空。
一つの中型輸送機がそこにはあった。
雲の中を泳ぎ、僅かな気流によって揺れる機内には、もう一つ機体が横たわっていた。
それは紺色の八頭身。肩部に取り付けられた電磁誘導装置と、腰部のサイドアーマーに取り付けられた二門の砲塔が目を引くAD兵器だった。
『目標地点に到達』
「上出来よ豚共。なら機体投下と共に、アンタらは帰投なさい。経由ポイントはG3からG6」
『かしこまりました』
幼い少女の声が聞こえた。少女の声は、正体不明のAD兵器のコックピット内部より聞こえた。
薄いピンク色のパイロットスーツに身を包む少女は、白銀の髪をカールさせたロングヘア。
そして幼いだろうと想定する事が出来る小さな背が印象強かった。
事実、彼女の声は非常に幼げで、少々舌足らずさを感じさせた。
『目標降下までのカウントダウン、開始。五、四、三――』
奏でられるカウントダウン。少女は二本の操縦桿をしっかりと小さい手で握りしめ、そして――
『ゼロ。降下開始』
輸送機の下方ハッチが解放され、機体を固定していた接続が解除される。
落ち行く紺色の機体。しかし空中でクルリと一回転したADは、背部スラスターを吹かして、さらに降下速度を早めた。
――少女の駆る機体が、東シナ海に浮かぶ無人島へ落下するまで、二十秒と時間は掛からなかった。
**
『……強情にも程がある』
霜山睦の耳に届いた声。それはリントヴルムへ尋問する男の声。
思わず日本語で放たれた言葉を聞いて、彼女は伏せていた目を開き、その様子を見届けた。
体中は殴られ続けた結果の痣だらけ。爪は全て剥ぎ取られ、中には折られた指も見受けられた。
『ァア……? もう、終わりか……?』
血反吐を吐きながら、尚も笑みを崩さぬリントヴルム。
そんな彼にブルリと身を震わせた尋問官二人は、目を合わせ『本当に何も知らないのだろうか』と考えたが――
そこで、リントヴルムの思わぬ言葉に、耳を疑った。
『んじゃァ、何が聞きたいンだっけか。ミィリスのバックアップ元?』
『な』
『ロシア空軍で間違いねェぜ。ただし、正確に言うとロシア空軍第四機動大隊から派生した特殊コマンド部隊を元にして、少しずーつ機体が横流しされてる。
あぁ、第一と第二がやってるように見えるのはフェイクだ。あれは最終的に自警団に流されるようになってッからな』
『なぜ――なぜ話す? ここまで耐えきれば、後はそのまま知らぬ存ぜぬを貫くだけではないか』
息を呑みながら、しかしロシア語で問いかけた男の言葉に、リントヴルムはきょとんとした表情で、首を傾げた。
『聞きたいんじゃなかったのか? まぁ、何つーか……俺の快楽にここまで付き合ってくれた礼っつーか、何つーか?』
『快楽、だと?』
『アァ。……今まで誰にも言ってなかったがよ、オレぁドエムなんでな。苦痛がカイカン、っつーかな』
何度達したかわかンねぇぜ、と。
リントヴルムの下腹部が僅かに濡れている事に気付いた睦は、そのまま化粧室へと走り、喉元まで込み上げていた吐瀉物を、ただ洗面器へとぶちまけた。
日本海と東シナ海の境に位置するこの無人島に、防衛省情報局第四班六課・通称【四六】が所有する作戦司令部が存在する。
四六の部隊長である霜山睦が乗船する強襲母艦【ひとひら】も、この島に着港している。
彼女は艦を降りた後、この島の中心部に位置する尋問室への道のりを歩いていた。
「これからお見せする光景は、一佐殿には少々ショッキングかもしれませんが」
「ショッキングな光景は見飽きています。今の私がどのようにして生まれたか、それをご存じない遠藤二佐では無いでしょう?」
「それは――そうですが」
「……いえ、今のは失言でしたね。申し訳ありません」
彼女の隣を歩く、遠藤義明二佐。
彼は睦の発言を聞いて少々しどろもどろとしつつも、尋問室の隣にある一室へ入り、マジックミラー越しに、彼の様子を伺った。
鋭い三白眼、所々に酷く爛れた火傷の痕、しかし五体は満足に動き、今も尚全身の神経は痛みを訴えている筈。
彼――リントヴルムは、不敵な笑みを浮かべながら、尋問室の椅子に拘束具を着せられつつ、座っていた。
『では、尋問に移る』
彼と同席する大柄な男が二人。一人がロシア語で口を開くと、リントヴルムは退屈そうに欠伸を溢した。
『なンでもいいけどよぉ。こちとら、ついこないだまで死にかけてた人間だぜ? ちったぁその辺考えて尋問してくれよ』
彼の言葉を聞いて、男の一人はもう一人に向けて顎で指示をしつつ、日本語で命令を下す。
『やれ』
『ハッ』
先ほどまでロシア語で話していた男とは別の男が、強く握り拳を振り込んで、リントヴルムの左頬に叩き込んだ。
勢いよく床に転げ落ちたリントヴルムの髪を無理矢理掴み、椅子に押し戻すと、再び男が『君の要求には従えない』とロシア語で彼に語り掛けた。
『君は記録上、生きていてはいけない人間だ。尋問とは名ばかりで、君の態度次第では拷問となり得る可能性もある』
そこは留意しなさい、と男が言うので、リントヴルムは口に溜まった内出血を吐き出し、再び不敵な笑みを浮かべた。
『オレからなに聞こうってンだ』
『まず、ミィリスがどこからバックアップを受けているか。これはロシア政府及びロシア空軍からで間違いはないか』
『オレの古巣? 有り得ねぇよ。アイツらナマケモノばっかだからよ』
『おい』
『ハッ』
先ほどリントヴルムを殴った男が、今度はスーツのポケットからペンチのような物を取り出し、彼の手を掴んだ上で――右手の中指にある爪を、剥ぎ取った。
「っ、……」
睦の肩がブルリと震えた。今見た光景を、自身が経験したらと思えばの苦痛である。
『正直に言え』
『ぃ、っぅ……アァ、ショージキ。ショージキだよオレぁ』
『もう一枚だ』
今度は薬指だった。リントヴルムは爪を剥がされる度に表情を軋ませ、声にならぬ叫びを上げている。
人差し指、小指、そして親指――右手は全て剥ぎ取ってしまったので、今度は左手を強引に掴んだ所で、男は『どうだね』と再び問い直した。
『知らねぇって、言ってンだろ……ッ』
『強情だな』
そして左手の爪が剥がされていく。睦はやがて見ている事も困難となり、近くのソファに腰かけて、彼らの声だけを聴いていく。
リントヴルムの絶叫は、しばしの間、止む事は無かった。
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東シナ海、上空。
一つの中型輸送機がそこにはあった。
雲の中を泳ぎ、僅かな気流によって揺れる機内には、もう一つ機体が横たわっていた。
それは紺色の八頭身。肩部に取り付けられた電磁誘導装置と、腰部のサイドアーマーに取り付けられた二門の砲塔が目を引くAD兵器だった。
『目標地点に到達』
「上出来よ豚共。なら機体投下と共に、アンタらは帰投なさい。経由ポイントはG3からG6」
『かしこまりました』
幼い少女の声が聞こえた。少女の声は、正体不明のAD兵器のコックピット内部より聞こえた。
薄いピンク色のパイロットスーツに身を包む少女は、白銀の髪をカールさせたロングヘア。
そして幼いだろうと想定する事が出来る小さな背が印象強かった。
事実、彼女の声は非常に幼げで、少々舌足らずさを感じさせた。
『目標降下までのカウントダウン、開始。五、四、三――』
奏でられるカウントダウン。少女は二本の操縦桿をしっかりと小さい手で握りしめ、そして――
『ゼロ。降下開始』
輸送機の下方ハッチが解放され、機体を固定していた接続が解除される。
落ち行く紺色の機体。しかし空中でクルリと一回転したADは、背部スラスターを吹かして、さらに降下速度を早めた。
――少女の駆る機体が、東シナ海に浮かぶ無人島へ落下するまで、二十秒と時間は掛からなかった。
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『……強情にも程がある』
霜山睦の耳に届いた声。それはリントヴルムへ尋問する男の声。
思わず日本語で放たれた言葉を聞いて、彼女は伏せていた目を開き、その様子を見届けた。
体中は殴られ続けた結果の痣だらけ。爪は全て剥ぎ取られ、中には折られた指も見受けられた。
『ァア……? もう、終わりか……?』
血反吐を吐きながら、尚も笑みを崩さぬリントヴルム。
そんな彼にブルリと身を震わせた尋問官二人は、目を合わせ『本当に何も知らないのだろうか』と考えたが――
そこで、リントヴルムの思わぬ言葉に、耳を疑った。
『んじゃァ、何が聞きたいンだっけか。ミィリスのバックアップ元?』
『な』
『ロシア空軍で間違いねェぜ。ただし、正確に言うとロシア空軍第四機動大隊から派生した特殊コマンド部隊を元にして、少しずーつ機体が横流しされてる。
あぁ、第一と第二がやってるように見えるのはフェイクだ。あれは最終的に自警団に流されるようになってッからな』
『なぜ――なぜ話す? ここまで耐えきれば、後はそのまま知らぬ存ぜぬを貫くだけではないか』
息を呑みながら、しかしロシア語で問いかけた男の言葉に、リントヴルムはきょとんとした表情で、首を傾げた。
『聞きたいんじゃなかったのか? まぁ、何つーか……俺の快楽にここまで付き合ってくれた礼っつーか、何つーか?』
『快楽、だと?』
『アァ。……今まで誰にも言ってなかったがよ、オレぁドエムなんでな。苦痛がカイカン、っつーかな』
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