私たちの試作機は最弱です

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第六章

尋問中にて-03

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 リントヴルムは、自身が今どこにいるかも定かではない状況で、ただ森の中に身を置いて、咳き込んでいた。

 高高度飛行を楽しんだADの手にずっと捕まっており、身体は悲鳴を上げている上、酸素不足で脳がグワングワンと揺れていたからだ。


「死ぬかと思ったぜ……」


 脳に酸素が足りていなければ、その苦痛を快楽として認識する事も難しい。

 素直な感想を口にした彼は、紺色のAD――【アルトアリス】より身を出した少女に向けて、視線をやる。


「一応、礼を言うぜ。気持ち悪いか」

「気持ち悪いわ。アンタみたいなドエム、アタシが助ける価値も無い筈なのに、こんな命令をした【お父様】には、疑問しかないわね」


 リントヴルムと一定の距離を取っていた少女。彼女に向けて、リントヴルムは僅かに歩み、そして彼女へ手を伸ばした。


「……何、握手?」

「アァ、オレのフルネーム知ってる、数少ねぇ女のコだ。これ位は構わねぇだろ?」

「アタシに触れようだなんて無礼ね。けれど敬意を払う事はいい事だわ。特別に、アンタの無礼を受け入れてあげる」


 フンと鼻を鳴らしながら、しかし差し伸べられた手へ、自身の手を向けた少女。


  ――しかし、少女の手は握られず、代わりに手首を強くひねられ、幼い体は背中から地面へ押し付けられた。


「ぎっ」


 勢いよく地面へ身体を落とし、衝撃で表情を歪める少女。リントヴルムは彼女の首を、指の折られていない左手で掴むと、ググッと力を込めた。


「が、ぁ……っ!」


 口を大きく開き、呼吸を求める様に声を発する少女だが、強く握られた成人男性の力に、成す術も無い。

 自然と溢れ出る涙が、リントヴルムを慰めた。


「すまねぇな、カワイコちゃん。オレぁそのチグハグフルネームがキライでね。

 ……次呼んだら殺すぞ」


 コクコクと、大振りに頷いて助けを乞う少女の姿に、ニンマリ笑ったリントヴルム。

 手を離し、少女の身体を優しく持ち上げた後、背中に付いた草埃を払って、頭を撫でた。


「ごふっ、ごほ、がはっ!」

「すまんすまん、なんせ感覚がしっかりしてねぇからさ。つい強くやっちまった」

「殺す……アンタ、何時か……殺す……っ」

「オ、イイね、カワイコちゃん。アンタの殺意、気持ちイイ」


 さて、と。リントヴルムが自身を運んできた機体――アルトアリスを眺めた。


「アレなんだ? 見たとこ日本の機体にも似てるが、スラスターとかはディエチと共用の奴だな」

「けほっ……アルトアリス試作二号機。アタシの、専用機体よ!」

「試作二号機。ツー事はどっかが開発したテスト機体か。どこ?」

「【レイス】よ。……聞いた事くらいあるでしょ」

「あー、スポンサーね」


 レイスは、元々リントヴルムが所属していたロシア系テロ組織【ミィリス】が支援を受けていた組織だ。

 正式名称は不明で、正体の掴めぬ事から【幽霊(レイス)】と呼ばれている。

  主に新ソ連系テロ組織を運用する国々と深いパイプを持ち得、それぞれのスポンサーとして資金援助を行い、代わりに【冷戦機構】を用いた技術奪取が成功した際に情報を受け取り、新技術を開発している。

  そして開発した技術情報は、全て新ソ連系の各国軍事企業へと流され、その報酬を受け取る――

 つまり、新ソ連国家・新ソ連系軍事企業・レイスという三つの組織による協力関係が組まれている、という事だ。

  現在活発になっている冷戦機構は、総てこの【レイス】が暗躍する事によって持続しており、元凶と言える組織である事は間違いない。


「何で助けた」

「【お父様】からの命令。――アンタの技能は捨てがたい、アンタをレイスの構成員として迎え入れる、ってね」

「はっ。天下りして死にかけて、今度は天下り先のスポンサーからスカウトかい。オレも捨てたもんじゃねぇな」


 リントヴルムは、見える範囲からアルトアリス試作二号機を観察する。

  八頭身のスラリとした体形と両肩に搭載された電磁誘導装置の小型化から見える結論は「日本製AD兵器技術の流用である」という事。

 しかし先ほどリントヴルムが言ったように、スラスター等はディエチのブースターユニットが流用され、日米が使用するバックパックユニット【プラスデータ】を装備する事を想定していないと見える。


  主な武装は三つ。


  一つは掌二つに搭載された砲撃武装。

 腕部に連結された弾倉から装填される銃弾を射出する事によって、一撃で敵を撃ち落とす事を想定した武装と思われる。

  一つは腰部サイドアーマーに備えられた二つ折りの砲塔。

 後部に冷却機構が設けられている事を鑑みると、恐らく電磁投射砲――つまりレールガンだ。

 速射と破壊力には優れているだろうが、連射性能は低いと見受けられるし、弾数もそほど多くは無いだろう。

 現在主流となっているハイブリットデュアルエンジン【ディアス】ですら、一度に供給できる電力は、主にADの稼働に使用されている。レールガンへ回す余力が多いと思えない。

 最後に脚部の土踏まずに搭載されたパイルバンカー――杭打機だろう。

 金属製の杭を火薬か電磁力によって高速で打ち込み、敵を踏みつぶし、殺す為に開発されているようだった。


「……面白れぇ。受けるぜ、そのお誘い。どうせもうミィリスはねぇんだろ?」

「ええ。アンタの居ないミィリスに、アタシたちレイスが資金援助をする必要も無いもの。

 もちろんロシアのスポンサーは続けるけれど、このまま新しい組織も生まれず、数年結果が残せなければ――」

「さっさと切るってか? 手厳しいねぇ」

「アタシたちもビジネスでやってんのよ。慈善事業じゃないもの」

「ヒャハッ、気に入ったよ。マジでイイ。情け容赦ねぇ考え方。

 オマケにお前らと一緒に戦ってれば――何時かは、アイツと戦えるだろうさ」

「……シロサカ・オリヒメ?」

「アァ。……オレの、愛しい、ハニィだよ」


 リントヴルムの身体には、傷が絶えない。今も痛みが彼を襲っている筈であろう。


  しかし――彼の眼光は、決して衰えない。


  それは、愛おしい一人の少年と、再び相対する事が出来る、生への悦びである。


 **


 現地時間、2089年7月22日、1035時。

  日本AD総合学園諸島。

  AD総合学園高等部・三年OMS科教室兼生徒会室。

  
  本日は交流戦の二日目・最終日である。その為の準備として、俺と楠は先んじて生徒会室でプログラムの見直していた。

  既に校庭でADの整備を行う生徒達の状態を確認している他の役員達から電子メッセージでの連絡が届く。


「今日のプログラムは」

「島根と天城幸恵さんの二回戦と、久瀬先輩対あの女……神崎紗彩子の二回戦だね」

「神崎、勝ちあがってきたな」


 二年Aクラス代表・神崎紗彩子。彼女は学園の治安維持を目的として設立された部兵隊の隊長を務める女で、オレが一目置いている生徒でもある。

 彼女の操縦能力は一流の兵士と呼んでも良く、何度か背中を預けた事もある。


 ……まぁ、一回戦で負けてるオレが言うのもなんだけどさ。


「ただ三つの対戦だけだと時間余っちゃうなぁ……授業を潰して交流戦を行うわけだし、中等部の見学と外部からの取材もある。何か余興も考えておかなきゃね」


 この交流戦は、生徒同士の交流や力量差を計る為という目的も勿論だが、下種ではあるが「AD総合学園に入学希望をする生徒を増やす宣伝」としての目的もある。

 あまり簡単に頂点が決まってハイ終了ではつまらない。


「敗者復活戦でもやるか?」

「お兄ちゃん、出たいだけだよね?」

「そうとも言う」


 何たって天城さんに負けた事、未だに納得してないからな。


「でもいいかもね。勝ちあがった二人と敗者復活戦を勝ち抜いた一人での総当たり戦だったら多くの時間も取れるし」

「予め時間が取れてたら、この辺もちゃんと調整出来たんだけどな」


 元々総当たり戦を予定していた今回の交流戦は、基本的に行き当たりばったりで構成されている。

 実は交流戦の前日までテロ事件に関する業務を行っていたので、仕方ないと言えば仕方ない。


「じゃあ敗者復活戦にしようか。村上さんに連絡取って、一回戦敗退組を準備させておいて。お兄ちゃんも準備してね」

「はいよ」


 ちなみに村上とは生徒会会計の一人で、オレと同じクラスの村上明久だ。運が悪すぎて逆に運がいいと、トラブルメーカー兼願掛けとして有名だ。

  携帯端末を取り出して、村上に電話をかける。数コールの後に電話が取られた事を確認し「村上か?」と声をかける。


『お、おう……姫……』

「どうした村上。何時もの元気が無いぞ」


 いつも「俺は超運が良いぜ!」と言いながら死にかけてるのに。


『……あのさ、姫』

「ああ」

『助けて』

「何があった」

『爆弾見つけた』

「へぇ。どんなの?」

『一年Cクラスの格納庫で見た事無い段ボール見つけたから、開けてみたら時限爆弾入ってた……』

「大変だな。まるで」


 …………あれ?


  何時も村上は何かしら死にかけてるので、爆弾程度ではあまり驚かなかったが……よく考えると、ソレって……。


「……テロじゃん」

『今気付いたのかよ――ォッ!!』

「ホントゴメン。お前なら何起こってもおかしくないと思ってた」


  オレと楠は、急いで現場へと向かうのだった。
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